>   >  ファッションと3DCG技術が交差する――文化ファッション大学院大学の学生によるフォトグラメタリー専用スタジオAVATTA見学ツアー
ファッションと3DCG技術が交差する――文化ファッション大学院大学の学生によるフォトグラメタリー専用スタジオAVATTA見学ツアー

ファッションと3DCG技術が交差する――文化ファッション大学院大学の学生によるフォトグラメタリー専用スタジオAVATTA見学ツアー

<3>Marvelous Designerの使い手、ファッションデザイナー長見桂祐氏

ここからは、Marvelous Designerを使うファッションデザイナー長見桂祐氏(HATRA)のお話を紹介していこう。

HATRA / ハトラ
「部屋」を主題としたウィメンズ・メンズウェアブランド。衣服をポータブルな最小の部屋として捉え直し、衣と身体のあたらしい関係を模索する
hatroid.com
長見佳祐
デザイナー。2010年HATRA設立。「居心地のよい服」としてスウェットパーカを中心としたコレクションを発表。2018SSよりウィメンズラインを本格化
おもな出展:「Future Beauty -日本ファッションの未来性-」(2012 東京都現代美術館)、「JAPANORAMA」(2017-18 ポンピドゥ・センター・メッス)など


学生達に自身の作品を紹介するHATRAの長見氏

3DCGソフトであるMarvelous Designerをファッション分野で使ってみた感想は?

長見桂祐氏(以下、長見):Marvelous Designerは去年から触っていましたが、ここ最近で実用レベルになったと感じています。最初、使ってみてビックリしたのは、よくある3DCGソフトのように彫刻的ではなく、布の二次元データを扱うため設計図が実際の服と同じ......つまり実際に使った型紙を流用してPC上で同じ服がつくれる点が革新的でした。

さらにPCの画面の中で触って、布に癖づけができるのには驚きました。布を折ることもできますし、摩擦係数も素材によって設定できます。素材の項目もたくさんあって、プリセットを選びつつ、調整も可能です。あらかじめ50種類ほどのプリセットが用意されており、曲げ強度、せん断強度など、繊維の検査機関が使うような専門領域、パタンナーがあまり触れ合わない単語まで網羅されています。

一番役に立っているのは、生地をパターンの上にもち込むと配色のちがいなどを試すことができ、いままでデザイン画でいちいち確認していたことが、立体的に触れる状態でシミューレーションできる点です。Marvelous Designerの使いこなしとしては、ここ1ヶ月でかなり習熟度が上がり、もうこのツールを使っていなかった1年前には戻れないなと感じています。


Marvelous Designerを使いながらデザインのながれを解説

Marvelous Designeを活用し始め、制作フローに変化はあったのか?

長見:プリント生地をつくり、ボディ(実寸大の人体模型)に着せてみてからやり直す作業がゼロにはならないものの、限りなく少なくなる。デザイン工程の時間短縮よりも、あとあとの工程の修正や変更が減らしていけるというのが、すぐにでも始められる有効なMarvelous Designeの使い方だなと思います。

今回、紹介した生地のデータもスキャナで取り込んだだけなのですが、質感もよく出ていて、便利に使っています。

ツールとしての使い勝手について、不満などは?

長見:専門家ではない初心者がどれぐらいのスピードで習熟できるかわかりませんが、Marvelous Designeは5年前よりも確実に洗練されてきて、使いやすくなっています。服飾CADがつかえる人は、ベジェで線をひくことが難しくないので、すぐ使えるようになると思います。

Marvelous Designeを導入してみて良かったと感じるのは?

長見:例えば、丈を伸ばしたり、長さを調整したいとします。今までは実際に布でやっていたので、もし布を切りすぎると1からやり直さなければいけない。しかしMarvelous Designeなら、何度でもやり直すことができる。それだけでも大きな成果です。

私は服飾デザインと服飾のパターンづくりと両方やっているわけではなく別にパタンナーがいるのですが、その方とのコミュニケーションのすれちがいもなくなりました。Marvelous Designerの画面を見ながらブラッシュアップしていってもらえ、デザインの仕事とパターンの仕事の距離が随分縮められたと感じています。

それに、襟ぐりに線をいれた方が可愛いかもしれないと思ったときに、Marvelous Designerがあれば1分で確認できてしまう。Marvelous Designerは今までは面倒だと思って試してみない、めんどくさいことを理由に失われていったこと、床にちらばってしまって拾い上げられなかったアイデアなど、それらを全部ひろい直すようなソフトだなと思います。

新しいソフトは難しいとか、ずっと紙と鉛筆でデザインしてきた人は「CGに頼ると自分のやり方がかわってしまう」とアレルギーをもつ人もいますが、このツールを使うことで、あきらめていたことをより効率よく何度も試してみることができます。自分の考えているアイデアをツールの上に反映し、お互いに良い影響を与えながら使えています。

これからMarvelous Designeを使ってみたいと考えている学生へのメッセージ

長見:Marvelous Designerは僕に特に向いているツールだと思っていて、だからこそ「あんなこともできるかも、こんなことも!」と前向きに取り組めています。けれどもそうでない人にも誤解しないでほしいのは、今までのやり方がツールに置き換わるという大げさな話ではなく、今までのデザインのバリエーションのひとつとして役立つというだけです。僕達の仕事が脅かされるんじゃないか......と深刻に考える必要はありません。ただただ便利で、日常が楽になるツールだと考えると良いのです。ツールがあれば布を触らなくなってしまうとか、そういうことは全くありません。そこのはきちがいはなくしていきたいと考えています。

本来、ゲームなどに使われていたツールにファッションデザイナーの知見がまざっていくことでより面白いことできるようになる。皆がもっている知見や経験を、存分に発揮していける時代になってきたのです。ファッション系の学校には、ぜひMarvelous Designerのチュートリアルをカリキュラムに入れて学んで欲しいと思います。ツールの勉強だけではなく、立体裁断など型紙とは何かを学ぶにも役立ちます。単純に、とても便利な情報源なのです。

オートクチュールが現代のテクノロジーによって置き換わるのでは? という考えもありますが、そもそもオートクチュールも、その当時の最新のテクノロジーだったというのが最大のポイントです。なんでも新しいものを使うというファッションの挑戦にとって、テクノロジーも1つのツールに過ぎないのです。

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