本連載「モーションキャプチャ 成功のための判断」は、長年現場でコーディネーターとしても活躍してきた谷山尚未氏が、モーションキャプチャを実際に扱う職業の方々に現場でのノウハウをインタビュー。

第2回目となる今回は、前後篇にわけてソレイユのアニメーション部 部長として第一線で活躍している下倉啓太郎氏に、アニメーターがモーションキャプチャデータについて何を考えるのかを聞いていきます。後篇では、データ収録周りの実際のマインドセットや、アクター・谷山氏とアニメーター・下倉氏が語る「良いデータ」について、詳しく聞きました。

記事の目次

    関連記事第2回:アニメーターの考える「使いやすいデータの収録」 (前篇〜ノウハウの継承について考える)

    はじめに

    モーションキャプチャとは、現実の人間や物体の「動き」をデジタルデータとして記録し、コンピュータ上のキャラクターやCGモデルに反映させる技術です。主に映画やゲーム制作などのエンタメ利用で知られていますが、現在ではVRや医療など様々な分野にも活用が広がっています。

    そこで、本連載ではモーションキャプチャコーディネーターの谷山尚未氏が、モーションキャプチャを実際に扱う職業の方々に現場でのノウハウをインタビュー。撮影からデータ利用まで、現場では何を基準に考え判断していくべきか、ノウハウをご紹介していきます。

    「繋いでほしい」「ミラーしてほしい」 アクター側のリクエストも技術の進歩で補完可能に 

    谷山尚未氏(以下、谷山)前篇から続きまして、「このデータは使いにくい」、と思うデータはどんなデータですか?

    モーションキャプチャコーディネーター/CGプロデューサー:谷山尚未氏

    1999年にスーツアクターとしてキャリアをスタート。その後、スタントマンとしてテーマパーク、映画、ゲームなど幅広い作品に参加。2007年にクアックラックを設立、15年間代表を務める。モーションキャプチャの代表作は『ドラゴンクエストX 目覚めし五つの種族』(2012)、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』(2017)、『SAND LAND』(2023)など。

    下倉啓太郎氏(以下、下倉):最近キャプチャの精度が上がっているので、どうしたって綺麗なデータが収録できるようにはなっています。でも、市販品で販売されてるようなモーションキャプチャツールってノイズがあるだけではなく、きちんと収録されていない場合が多いので、そういう精度が低いデータはどうしても使いづらいです。

    商品名は出せないけど「簡単に撮れますよ」というウリの商品が複数出ているんです。それを使ってみた結果、少しお高くても光学式のキャプチャできちんと収録したものを使う方が、結果として費用対効果が良いと思いました。

    リードアニメーター・下倉啓太郎氏(ソレイユ)

    大学卒業後、映像製作会社に入社。その後、遊技機の映像制作を経て2010年ソレイユに入社。アニメーションチームに配属され『Devil's Third』(2015)ではアニメーターとして、『NARUTO TO BORUTO シノビストライカー』(2018)、『SAMURAI JACK: BATTLE THROUGH TIME』(2020)ではリードアニメーターとして開発に従事。そのほかの経歴としては『VALKYRIE ELYSIUM』(2022)のアニメーション統括、カットシーンリード、『Wanted: Dead』(2023)のインゲーム、カットシーンサポート、など。

    ・Instagram:@soleilgamestudios
    ・Facebook:ソレイユ株式会社

    谷山:なるほど。

    下倉:「もう動きがわかれば良いよ」という場合は市販品で撮影もアリだと思いますが、本番仕様でアニメーターさんにそれを渡したら嫌がられますよね。あくまでリファレンスムービー用だと思いますし、参考データなので本番データとはちがいます。

    谷山:現場では「すごく良い!」「バッチリだ!」と思ったら、納品されてみたら思っていたのと違った……、という経験はありますか?

    下倉:あります。思ってたよりも尺が短かったとか、もっと長く撮っておいた方が良かったのに、というような尺違いのズレも多いですね。後は分割して収録する場合、繋がりが綺麗ではない場合は大変です。

    谷山:やっぱりこれだけ技術が発達して様々なソフトも出ていても、未だにモーションを繋ぐのは大変なんですね。

    下倉:大変ですね。綺麗に計画を立てて、考えて収録いればしっかり繋がりますけど、全く考えずに収録していた場合はすごく大変です。弊社ではモーションキャプチャを収録する際、大体計画を立てて収録するのであまりそういうことはありませんけど。

    谷山:アクター視点だと、簡単に「ここで割らせてください」「繋げるでしょ?」「ミラーできますよね?」というわがままを言いがちで。現場のアニメーターは断りづらかったり「簡単に言ってくれるなよ」と思いますか?

    下倉:それはどちらかというと、聞いたほうが良いわがままですね。僕らは生っぽい演技というか、真に迫った演技がほしいので、そうなるとアクターの要望は聞いた方が良いんです。振りが逆で頼りない感じで動くよりは、全然ミラー大歓迎です。ただ、アニメーターさんにもよると思うので「ダメです!」という場合もあるかもしれない。

    谷山:ダメと言われた場合は、管理が難しくなる、工程が多くなるなどの理由ですか?

    下倉:ミラーを断られる可能性があるとすれば、右左で重心がちょっとおかしくなりそう、という懸念はあるかもしれない。例えば、アイドルで立ってる姿勢があって、前を向いてる状態なら良いけれど、相手が後ろに行った際、アイドル姿勢のバランスがおかしく見えることもあります。

    重心のバランスを立って説明

    下倉:そういう場合は、ミラーすると重心が変に見える可能性もある、と。そういう理由だと思います。

    谷山:なるほど。よくわかりました。次に聞きたいのは、「良い演技=使いやすいデータ」かどうか?

    下倉「良い演技」「使いやすいデータ」は別ですね。良い演技というのは、先ほど言ったように真に迫った、アクターさんがもてるポテンシャルを全て出せている演技のことだと考えています。もちろんキャラクターとのマッチングもありますけど。

    良いデータとは仕様に則った窮屈なデータのことだと思うんです。例えば、パンチを打ってパンチを外します。力んだ末に、身体は中心から1マス分ズレる。「正しいデータ」としては戻るときにズレる前の位置にサーッと戻ってほしいわけです。でも、現実ではそんなことしないですよね。その現実のニュアンスが“真に迫った演技”だと思うんですよ。それを動きに落とし込むのが、アクターさんの腕の見せどころだと思います。

    谷山:過去に格闘ゲームのお仕事をしたときには、アイドル姿勢にピタッと戻らないとリテイクになることが多くて。でも、最近は許してもらえることが多くなってきた感覚があります。それは補完技術が優れてきたのか「言ってもしゃあない」と諦められるようになったのか、アニメーターさんのモーションキャプデータの扱いノウハウが溜まってきたからなのか、どれでしょうか?

    下倉:個人的には技術の進化だと思いますね。最近はMayaの「アニメーションレイヤ」機能や「MotionBuilder」など、便利なツールがたくさん出ているんです。なので、最後のアイドル姿勢さえバチッと決めておいてくれたら多少足位置がズレても、「アニメーションレイヤで被せてしまえば大丈夫」、という安心感はあると思います。足位置を気にするくらいなら、アクターさんには自然な演技を収録さてもらいたい、と考えています。

    谷山:アクター側は技術の進化に対して正直ついていけてない部分はあるんです。なので、何が今一番正しいデータになるんだろう、というのが知りたくて。現場ごとに都度確認するのもなんだし、難しいですよね。

    下倉:作品やアニメーターの技量にもよりますし、前篇で谷山さんがおっしゃっていた通り、モーションキャプチャの現場ってクローズドなことが多いですよね。アニメーションの開発に関してもCGWORLDなどの媒体が情報発信はしてくれてるものの、本当のコアな技術部分は各社伝えていない秘密があると思うんです。各社ごとにノウハウがあると思うので、そこは現場で都度アニメーターさんに確認するのが僕は最適だと思います。

    谷山:「この現場ではこれが正しかったから、これが良いはず」と思って次の現場に行ったら「こいつ変な知識でやりやがって」と思われてたら嫌だなぁと……。

    下倉:逆に僕らが知らないノウハウをアクターさんが知っているパターンもあると思うので、そういう意味で、現場ごとに都度確認した方が良いと思いますね。

    日常芝居から攻撃モーションまで、アニメーターとアクターが語るデータ活用の方法論

    谷山連載の第1回でプロデューサーお2人にお話を聞いた際に、歩くだけ、立ってるだけで「このキャラクターだ!」って思える、感じる動きが素敵だ、という話がありました。そうしたモーションデータは、何が決め手なんでしょうか?

    下倉:やはり、女性の立ち姿と男性の立ち姿って、一発で見分けられますよね。陽キャなのか陰キャなのか、キャラクターの性格も立ち姿でわかると思いますし、感情も立ち姿だけで表現できると思います。アクターを生業とする谷山さんからすると、そうしたちがいを表現できてこそ、という部分はありませんか?

    谷山:ありますねぇ。でも、立ち姿を最初に「どういう立ち姿かな?」と決めるのも難しいし、“普通に歩くだけ”が結構難しいんだな、と自分がコーディネートの現場ですごく感じるんですよね。普通に生きてきて、意識して“歩く”ことってあまりないから。自分がアクターで演じるときは無意識にできていたことを、ディレクションで修正するのってすごく難しい。

    下倉:それは谷山さんが天才だからだと思いますよ(笑)。

    谷山:もち上げられてる(笑)! でも、私がディレクションする場合は「なんかもっと陽気な感じで歩いて!」とか、抽象的なディレクションになりがちで。単純な動きの方が修正しづらいなと感じています。

    下倉:おっしゃる通りで、アニメーションでも攻撃などの特殊なアクションは、大衆が日常的に見るわけではないので、違和感って感じづらいんですよ。歩き、走り、食べる、座る、立つ、階段を登る……。そういう誰もが見るようなアニメーションは、違和感を感じやすいですよね。だからこそディレクションも難しいわけで。なので、手付けで全てやるよりは、とモーションキャプチャに頼ってしまう。

    谷山:そうですよね。そのほうが費用対効果も良いでしょうし、せっかくの技術を使った方が良いという共通認識はありますよね。ただ「モーキャプっぽすぎる」「生っぽすぎる」という問題も随所で聞こえてきます。実際、「モーキャプっぽい動き」って、どんなものですか?

    下倉:物理的に物が停止するときって、余韻がある。その余韻が強すぎる=「モーキャプっぽい」だと思っています。アニメーションでそういう余韻を表現したいけれども、表現を細かくやるとコストがかかるじゃないですか。コストがかかった割にはメリハリが効いてなく、ヌルヌルした感じになる。

    アニメーターの方でメリハリを効かせてスナッピーなアニメーションにするわけですが、アニメーター次第でキャプチャーデータを活かすときもあり、省くときもある。それが全部そのまま使われている場合、モーキャプっぽさを助長させてしまうかもと感じます。

    谷山:それこそマンガらしい表現をモーションキャプチャデータからつくることがあると思うんですけど、具体的にどこを加工したらアニメっぽく、というノウハウは下倉さんの秘伝の書に書いてあるんですか(笑)?

    下倉:書いてありますよ(笑)。例えば攻撃にメリハリを付けたいとすると、やはりポーズ感が重要だと思います。例えば、刀で斬りつけるモーションで、片足を出して、バサっと斬る。実際の刀を握っていたら嘘になるポーズなんだけど、それをあえてアニメーションでポーズ感を調整することで綺麗にアニメっぽくできると感じています。

    谷山:モーションを収録するときは普通に動きやすく動いてもらい、後でポーズを調整していくということですか?

    下倉:そうです。フレーム数も120fpsで撮れちゃうので、そうした動きがすごくヌルッと収録できるわけです。「ここでヒットする」というシーンで、ヒットするまでの「タメ」の部分をヌルッと撮影しておく。タメてタメて、ヒットの瞬間を「バチン!」とスナップを効かせて表現する。そのフォロースルーはあえて生っぽいデータを使う、という。ポーズを整えて、フォロースルーの部分でキャプチャデータを使わせてもらったりすると、だいぶ変わりますよね。

    谷山:なるほど〜。作品によるとは思いますが、モーションキャプチャの人間っぽい、ヌルヌルした生々しさは残したいですか? 個人的な好みでも良いので、教えてください。

    下倉:作品によりますね。例えば『グランド・セフト・オート』シリーズとか、ああいうリアルなゲームだったら残さなければいけないですよね。現実の人間が歩いてて、できるだけ現実に寄せようとしてるから。その辺は作風次第ですね。

    でも、アニメっぽい案件でもいわゆる“神回”と呼ばれるアニメーションは、物理的にしっかり作画されていると思うんです。コストをかけてしっかりつくられているので、物理的にも説得力がある。説得力や解像度と言われるものですね。

    谷山:「そうはならんだろう!」みたいなことを、わざとやるのは良いとして。確かに解像度、説得力はアニメにおいて大切ですよね。

    アニメーターの撮影準備で重要なのは必要な情報を集約して開示する「マインドセット」

    谷山前篇では、仕様まわりをアニメーターがしっかり把握できると良いという話もありました。撮影前にここは決まっていてくれると助かる、という具体例はありますか?

    下倉:まずは何はなくとも「ネタ」ですよね。「どんなものを収録するのか」は100%決まっていないと。ディレクションする側がマインドセットをちゃんとしておかないといけない。

    谷山:マインドセットとは?

    下倉:伝えたいことがアクターさんに上手に伝わらないだろうと思ったら、ムービーを用意しておく。それをフレームで送れるようにしておく。後は「このキャラクターはこういう状況にいます。だからあなたはこういう状況での自然な演技をしてください」と伝えるだけで、アクターさんは理解が上がってやりやすくなります。何も状況を伝えずに、何をしてほしいのか動きだけを伝えたってやりにくいんですよ。

    谷山:状況説明は大事ですね。

    下倉:必要な情報を開示しないといけないんだ、というのがディレクション側の準備としての“マインドセット”です。「この撮影で本当に何が収録したい?」「ここで自分がほしいアニメーションは何だ?」ということを事前にしっかり考えておくと良いですね。ディレクターだけでなく、企画やプログラマー、エフェクトのスタッフも一緒に。関わる人たちと「これで良いか?」「私はこう思ってる」という事前準備をしっかりしないまま収録に臨むのは、それこそ無駄だと思っています。

    谷山:確かに! ただ「手のひらを上に向けてまっすぐ手を出してください」って言われても「舞台はどこ? 何用のモーションですか?」ってなっちゃう……。

    下倉:それこそアクターさんの無駄遣いなんですよ! そこで「ここでは魔法を詠唱してるんで、この人は初めて使う魔法を怖がっておっかなびっくり使ってるんです」と説明できないと。

    白熱してアクションを交えながら対談する2人

    下倉それを伝えることでアクターさんから「だったらこういう演技はどうですか?」というネタが生まれるんですよ。その説明や意思疎通ができる準備をしておきましょう、というのが僕の言いたいことです。

    谷山:アクター側としてはそうしていただくと大変助かります。下倉さんが「これは準備完璧だ!」と思った現場はありますか?

    下倉:難しいですね……。完璧は存在しないから。大体弊社の場合は、契約やアクターさんへの連絡も含めて2ヶ月ほど時間をとるように教えていますが、その時間をフルに取れることは少ないです。通常の業務もありますし、どうしても1ヶ月くらいに短縮してしまいます。だからこそ、収録帰りには「あそこはこうしとけば良かったな〜」と、毎回反省会しています。

    谷山:ビールでも飲みながら反省会しましょう(笑)。

    下倉:業界の未来が明るいのか暗いのかは僕にはわかりませんが、若いアニメーターがたくさん出てきて、AIも使えて、確実に新しい芽は育っていると感じます。なので今回お話ししたような、でき得る限りの情報を開示して、世代交代に貢献していきたいです。老害って言われないように……(笑)。

    谷山:ありがとうございました!

    【次回予告】

    次回は、実際にモーションキャプチャ撮影をする際の準備・手順を谷山尚未氏、自らが解説します。

    TEXT_戸崎友莉 / Yuri Tozaki
    PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
    EDIT_海老原朱里 / Ebihara Akari(CGWORLD)