Point2:力を抜くべき部分を、冷静に見極める
C:ストーリーや尺は譲歩しなかった一方で、断念した要素はありましたか?
平松:断念と言うほどではないですが、おばあちゃん、おじいちゃんのCGモデルは、フリーモデルをちょっと改造してつくりました。「こういう造形にしたい」というイメージスケッチは描きましたが、キャラクターをゼロからモデリングするのは時間がかかりそうだと思ったので、その作業時間は削りました。
C:意外なほど冷静な見極めですね。メインキャラクターはモデリングしたくなる人が多いと思いますが、どちらかというと、アニメーションに注力したかったということでしょうか?
平松:そういうわけでもなくて、背景は全部自分でモデリングしています。背景のモデリングは、すごく好きで楽しかったです。ただ、スケジュールを考えるとキャラクターまでモデリングするのは無理があると思いました。
C:最終的に、最初に構想した内容の何割くらいまで実現できましたか?
平松:7〜8割くらいでしょうか。当初はおばあちゃん、おじいちゃんに加え、犬のキャラクターも出す予定だったのですが、作業を進めていく中で、このままだと間に合わないことに気付き、犬が消えてしまった事件がありました。
C:4本足のアニメーションはハードルが高いと聞きますからね。
平松:そうなんですよ。なので、ちょっとだけ写真で特別出演させました。「入れるつもりだったんだよ」という意味を込めて。
▲消えてしまった犬が、写真で特別出演しているカット
C:そういう風に、譲歩できない部分は守る一方で、力を抜くべき部分を冷静に見極めていったわけですね。
平松:はい。ただ、たとえ時間があったとしても、当時の自分の実力では、全ての構想を実現できなかったと思います。本当はもっと背景を充実させたかったし、木の葉のゆらめきも表現したかったです。
C:プロのアニメーターとして仕事を任されるようになり、それに比例して目も肥えてきたからこそ、当時のご自分の状況をさらに冷静に分析できるのでしょうね。
Point3:崖っぷちまでねばる
C:『レター(LETTER)』が完成したのは、いつ頃ですか?
平松:実はデジタルフロンティアグランプリ2018(以下、DF2018)の学内審査の時点では完成しておらず、無音の状態で提出したのです。それでも作品の出来を評価いただき、最終審査までに音を入れることを条件に学内審査を通過したので、何とか間に合わせました。CG制作の作業期間は4ヶ月くらいで、映像は3月頭に完成していたのですが、その後の音付けに時間がかかりました。
C:崖っぷちまでねばりましたね。
平松:ほんとに崖っぷちでしたね(苦笑)。
C:納得のいくクオリティまでもっていくのに、それだけの時間がかかってしまったわけですね。そこまでねばることを手放しで推奨するわけにはいきませんが、その姿勢があったから、DF2018でのCGアニメーション賞の受賞と、SSFF & ASIA 2018 CGアニメーション部門での上映という結果につながったのでしょうね。『レター(LETTER)』をつくっているとき、やめたくなったり、心が折れそうになったりしたことはありましたか?
▲【上】【左下】DF2018の授賞式/【右下】SSFF & ASIA 2018のアワードセレモニーに参加した、CGアニメーション部門上映作品のアーティストやプロデューサーたち。「SSFF & ASIA 2018の会期中に作品が上映されたときには、地元の愛知県から親が駆けつけてくれたのです。原宿の映画祭会場で作品を一緒に見て、すごく感動して、つくって良かったなと思いました」(平松氏)
写真提供:デジタルハリウッド/ショートショート実行委員会
平松:最後の追い込みの2月頃は、心が折れそうになっていましたね。その頃にはもう通常の授業は終了しており、同期の中には就職先が決まる人もいて、精神的にすごく追い込まれました。「間に合わないんじゃないか」と毎日思いながら、先生の作品チェックを受けつつ、学校に泊まって制作に打ち込みました。
C:当時の睡眠時間はどのくらいですか?
平松:2月頃には少し短くなりましたが、それ以前は7〜8時間くらいは寝ていたと思います。寝るのは大好きなんで(笑)。
C:これまた意外なほどしっかり寝ていますね。寝ることで、集中力が高まり、記憶の定着も良くなるという研究結果もありますからね。
平松:そのようですね。
デモリールはつくらず、オムニバス・ジャパンに就職
C:平松さんの場合は、Mayaの勉強と並行して、キャラクターアニメーションの勉強にも力を入れたんだろうなと思うのですが、アニメーションはどうやって勉強しましたか?
平松:古岩先生の専門はアニメーションだったので、先生からいろいろと教えてもらいました。後は、インターネットでアニメーターさんたちのブログを見たり、毎日帰宅後にディズニーやピクサー作品をコマ送りで見たりしましたね。
C:気に入った作品を、繰り返し見ていたのでしょうか?
平松:ディズニーとピクサーのCGアニメーション作品は、全部見ました。その中から、特に気になったショットはコマ送りをして、動きやポーズを確認していきました。それから同期の人たちと集まって、お互いを描き合うジェスチャードローイングをやったりもしました。北米で活躍しているアニメーターさんたちが勧めていたので、とりあえずやってみたら、徐々に人体の構造や重心の取り方がわかってきたりして、これは続けた方が良いなと思いました。
C:ちなみに就職用のデモリールはつくりましたか?
平松:一切つくってないです。デジタルハリウッドのクリエイターズオーディションという卒業制作発表会で『レター(LETTER)』を見た企業の方々が名刺をくださったので、それらの企業を中心に就職活動をしました。自分のできることは『レター(LETTER)』を通して理解してもらえたので、デモリールをつくらなくても面接に進めましたね。
- オムニバス・ジャパンもその中のひとつで、社内を見学させてもらったとき、プロダクション(実制作)に入る前のR&Dをしっかりやっている点が印象に残ったのです。例えばカラスの羽を表現するために、実際にカラスの剥製を借りてきて、本物の羽を見ながらテスト映像をつくったりしていました。ディズニーやピクサー作品のメイキング映像でも、作品をつくるときにはテストや検証にすごく時間をかけていたので、そうやってクオリティを追求するところが良いなと思いました。オムニバス・ジャパンには6月に入社したのですが、あと1ヶ月入社が遅れたら家賃が払えないくらい追い込まれていたので、本当にぎりぎりでした。
C:いろんな面で崖っぷちだったわけですね。2016年の4月に『ズートピア』をご覧になってから今日までの間に、ご自身が追い求めた世界に近付けている実感はありますか?
平松:あります。今はキャラクターアニメーターとして、アニメ『モンスターストライク』やCM案件などのアニメーションを担当しています。 アニメーションの技術はまだまだなので、当面は技術力を高めていきたいです。アニメーションのスーパーバイザーの中には、ディズニースタイルのアニメーションの仕事をしてきた方もいるので、いろいろと教えてもらっています。
それから、またオリジナルのショートフィルムをつくりたいとも思っています。ちょっと気恥ずかしい話ではありますが、ショートフィルムをつくることは、その世界をイチからつくることなので、神様のような気持ちになれてすごく楽しいです。ただ、SSFF & ASIAの受賞作品を見ていると、個人でつくっている人は少数で、中には100人以上のチームでつくっているところもあります。1人で全部をつくるのは難しいだろうから、一緒にやっていける仲間が見つかれば良いなとも思っていますね。
C:当初の目標は、今も揺るぎがない点がすごいですね。お話いただき、ありがとうございました。
info.
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ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2019
映画祭代表:別所 哲也
フェスティバルアンバサダー:LiLiCo(映画コメンテーター)
開催期間:5月29日(水)~6月16日(日)
上映会場:都内複数の会場、およびオンライン会場にて
※開催期間は各会場によって異なります
料金:無料上映
※事前予約は下記Webサイトにて受付中。一部、有料イベントあり。
お問い合わせ先:03‐5474‐8844 / look@shortshorts.org
主催:ショートショート実行委員会 / ショートショート アジア実行委員会
https://www.shortshorts.org/2019