for Makeup
メイク&ヘアスタイルについて、こだわりを見てみよう。
フェイシャルの高精度3Dスキャン
本作では、メイクやヘアスタイルに関しても、プロのスタイリストがモデルへ実際に施した状態をCHPで3Dスキャンし、フォトグラメトリーを行い、それをリファレンスにCGで再現している。画像はCHPで作成されたフォトグラメトリーの一部。様々な表情が撮影された
本格的なメイクの表現
現実世界では服装が替わればメイクや髪型が変わるように、リアルを追求する本作でも、服装に合わせてメイクや髪型を変えている。メイクの表現に関しては、現実の人のように、すっぴん状態のフェイスモデルに対してメイクを施していく。しかし単に色を乗せるだけでは上手く再現できなかったという。特にグロスなどの潤い感やラメの光沢感などには苦戦したそうだが、SPを用いて丁寧にテクスチャを描き、再現した
テクスチャ素材。左からカラー、ノーマルマップ、AO・ラフネス・メタリック。また、今回はスタイリストが用意したアクセサリ類も膨大な数があった。それも現実世界では当然のことで、衣服のちがいはもちろん、そのときの気分や行き先によって身に着けるアクセサリは変わってくる。これらは柳島秀行氏を中心としたスタッフが写真をリファレンスに作成した
リアルタイムレンダー向けのヘアメイク
3Dモデル
レンダリング結果。ヘアメイクに関しては、UEによる処理負荷の関係上、板ポリゴンを用いてゲーム的な造形で作成されている。形状に関しては実際の髪型に合わせて何度も調整をくり返したという。ヘアメイクを担当したABE氏は「本作は未来の物語ではありますが、そんなに遠い未来ではなく、近い将来ありえることのような気がして、ヘアスタイルも突拍子もないスタイルではなく、将来あり得るものを考えました。登場する実像とバーチャルのふたりをどう表現していくか、ふたりの性格のちがいを洋服に合わせてヘアスタイルでも表現したつもりです。フルCG作品に携わるのは初めてだったので、写真の撮影とはちがい、髪の毛の動きやツヤ等がCGになったときにどう見えるのかを考えるのが面白かったです」と話す。髪の毛はゲーム案件の経験も豊かな柳島氏がモデリングを担当。「普段のゲーム制作では髪の毛もそこまで細かく気にしないのですが、今回は"このキャラクターの"ちがう髪型だからこうなる、というリアルな考証を経てつくってもらっています。それだけに調整作業はかなりの回数になりました」と、DHP・中野江美氏はふり返る。「プリレンダー系の映像だけをやっていた方にとっても、リアルタイムは面白いと思いますので、挑戦してほしいですね。リアルタイムで形状も位置・配置もマテリアルも変えられるので、シェーディングしながらトライ&エラーできることに感動しますし、映像に限らず新しいことに興味がある方には、ぜひ画づくりでリアルタイムレンダーを活用してほしいです」と柳島氏も語る。なお、髪の毛のシミュレーションもKawaii Physicsが用いられている
VRで観られることを意識したまつ毛のクオリティアップ
当初、まつ毛はテクスチャで表現していたそうだが、作品の特性上、寄って見ることになるので、ポリゴンで1本1本作成している。また「目や歯茎の間は、立体視だと違和感があるとわかってしまいます」(東監督)とのことで、ゲームであれ映像であれ、普段は省略する部分も形状を正しくつくり込んでいるとのこと
初期メッシュと【左】レンダリング結果【右】
【左】修正後のメッシュと【右】レンダリング結果。本作の制作を通して「最初からCG作品用にデザイナーがつくった衣服の再現ではなく、衣服をリアルに綺麗にかわいく見せたいという想い、衣服やアクセサリ、メイクをCGでここまで丁寧に見せることに注力した作品は初めてではないでしょうか。それができるとわかったら、ファッションが好きな人が映像制作に入ってこられるチャンスが増えるかもしれません。そうするともっとCGのカルチャーとしての幅が広がっていくと考えています。そういう変化や新しい表現が、映像業界でもっとあっても良いと思います」と中野氏は語る。たしかに現在のCG業界は広く一般に対して浸透しているわけではない。こういった意図をもった作品が生まれることで、新たな変化につながってほしいと筆者も願う