>   >  AEでお手軽に高品質! イラスト制作で使えるAfter Effectsテクニック
AEでお手軽に高品質! イラスト制作で使えるAfter Effectsテクニック

AEでお手軽に高品質! イラスト制作で使えるAfter Effectsテクニック

<4>あれも描きたいしこれも描きたい...そんなときのAfter Effects!

「これでイラストの完成!」と見返していたところ、どうにももうひと味、なにかほしいなと思いました。もう少しこのイラストの物語性、あるいは世界観を想像できるような要素があればなと、漫画のコマ割り風に【下の画像】のような構成に仕上げてみようと思います。

全体の構成を大きく変更したラフイメージ

しかし、ビルの街並みだとか雨や雪、燃え盛る炎の戦場など、「ちょっと足そう」というレベルでは済みません。そこで極力筆で手描きする部分は少なく済ませ、残りはAEでお手軽に足してしまいましょう。【下の画像】は3枚は手描きで新たに用意したイラスト素材。ここからは様々な手法で、イラストを少ない手数で見映えする仕上がりにクオリティアップする手法を紹介していきます。

追加した手描きのイラスト素材3点

1.エフェクトと言えばこれ! ~Trapcode Particular

これもまたド定番のプラグインです。多種多様なパーティクルを様々なかたちで放出できるプラグインで、例えば光の魔法っぽい粒子や、もっと現実的な炎や煙、とにかくありとあらゆる格好良いエフェクトはこれでつくられていると見て概ね間違いではありません。今回は雨と雪、炎が立ち上る際に放出される小さな火の粉をこのプラグインで足していきます。

専用UIとエフェクトの例。ほかにも桜を舞わせたり、泡をたゆたわせたり、可能性は無限大です

追加イラスト用の火の粉と雨と雪のエフェクト

2.動画素材をイラストに使うという発想

イラストに素材集から何かを足すことは多々あることですが、その素材は疑うこともなく静止画の素材を使うかと思います。動画素材という存在は知っていても、それは映像作品用のもので、イラストに使うものではない。そうごく自然に考えてしまってはいないでしょうか。AEは基本的に動画作品のソフトウェアです。そのAEにイラストを取り込んで編集できるのなら、そこに動画素材を足し、瞬間を切り取ることも当然できるわけです。静止画素材をがんばって探してきたものの、いまいちイラストに合わず、結局ほぼ手描きになってしまったということもあるのではないでしょうか。動画素材は静止画素材とちがい、刻一刻とそのビジュアルを変化させます。メインとなるイラストにピッタリ合う瞬間があるにちがいありません。また動画素材を使えばイラストをそのまま動画作品として仕上げることも容易です。





  • 爆発

ガラスの割れる動画素材。好きなタイミングで切り抜いて便利に使えます


このカットで最終的に加えた動画素材が細い枠で表示されていて、いくつも重ねて構成されていることがわかると思います

加えた動画素材の一例。それぞれに明るさや色合いなどの調整を施してから使用しています

3.手描きでは難しい描写も、After Effectsなら楽々できるかも......!

例えば、熱された空気の中では、風景がゆらめいて見えることがあります。あるいは水の波紋で水中が歪んで見えることもあります。そういった自然現象は手描きするのは中々骨が折れますが、熱波による歪み特化のプラグインであるHeat Distortion(VideoCopilot)や、デフォルトエフェクトであるディスプレイスメントマップなどを活用すれば、非常に簡単に描画することができます。

文字を置いただけのもの



  • Heat Distortionによって熱波を再現したもの



  • より強い数値でエフェクトをかけたもの

エフェクトをかけていない状態

Heat Distortionによって熱波を再現したもの


上段は加工前で、下段はここまで紹介してきたエフェクトや動画素材を足し、カラーグレーディングを施した状態。少ない手数で手間暇をかけたような、凝ったイラストを仕上げることができました

4.チョイ足しにも圧倒的クオリティをほんのひと手間で!

世界観をイメージさせる街並みを細いコマで追加するのですが、描いていてはそれだけで何日もかかってしまうため、先述のElement 3Dで追加しています。この街並みはプリセットをそのまま利用しており、ほんの1~2分程度で用意することができました。ご覧の通り様々な情景の街並みが用意されています。

<5>最終仕上げももちろんAfter Effectsで!

ここまでの作業でつくり上げたものを、最後にひとまとめに配置していきますが、そういった作業もAE内で終わらせる利点は数多くあります。例ば「降らせた雨や雪がなんだか物足りない。もっと多く目立つ感じにしたいなぁ」というときは、ペイントソフトで描いた場合、純粋に描き足しの作業が必要になります。しかし、AEであれば「発生するパーティクルの数」の数値を増やすだけで一瞬で完了してしまいます。AEは基本的に非破壊編集、可逆性が高いので、あとから大幅な変更を加えるのが非常に簡単なのです。さて、そんなわけで全てを配置し色合いや各コマの見映えを整えた完成品が出来上がりました。

試しに降雪量をぐっと増やし、薄暗い場所っぽくカラーグレーディングを変更したもの。わずか1分程度の作業で済んでしまいます

3階調化し、特徴あるイラスト風にしてみたもの。これも細かな調整を入れても数分でできてしまいます

最初のラフから完成まで半日程度で出来上がりました。あっという間です!

アイデア次第で楽して上出来! 使えるものはどんどん使おう!

いかがでしたでしょうか? 「この人、自分で全然描いてないじゃないか!」と憤慨なさった方もいらっしゃるかもしれません。しかし、クライアントやユーザーからすればその絵が100%手描きか、素材やエフェクトプラグインが使われているかなど往々にして眼中にありません。「出来上がった絵が高品質か」、ただその1点のみで評価されてしまうことが大多数です。趣味の絵や 1点物の絵として潤沢な時間を与えられた場合でもない限り、限られた時間で見映えする絵を用意しなければなりません。であればこそ、AEに限らず様々な便利なソフトがある今の時代、率先して使わない手はありません。もちろん最初から楽ばかりしていると、どうしてもこれは手描きでないと表現できないとなった場合に困ってしまうので、スキルの基本として自力を高めることは必要になりますが、「これはあれが使えるんじゃないか」「ここはこうしたほうが簡単な上に質が高いんじゃないか」、そんなことを常々考えることが、クリエイターに限らず大事なのではないでしょうか。ぜひ皆さんもこれを機に、様々な可能性を模索してみてください。



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