>   >  セガ岩出 敬氏・特別追悼企画〜故人の足跡を辿りながら日本のゲームグラフィックスをふり返る(3)
セガ岩出 敬氏・特別追悼企画〜故人の足跡を辿りながら日本のゲームグラフィックスをふり返る(3)

セガ岩出 敬氏・特別追悼企画〜故人の足跡を辿りながら日本のゲームグラフィックスをふり返る(3)

『龍が如く』以降、エフェクトリーダーとしての岩出氏

さて、これまで長々と岩出氏のキャリアの前半戦について紹介してきた。ここまでのインタビュイーは、全てセガから離れた人ばかりだ。

それでは近年の岩出氏については、どうだったのだろうか。岩出氏が開発に参加した最新作『龍が如く7 光と闇の行方』(2020)の開発が一段落したところで、岩出氏と親交の深かったクリエイターにメールインタビューを行なった。

『龍が如く7 光と闇の行方』 ©SEGA

『龍が如く7 光と闇の行方』記者発表会(2019年8月29日)

まず、『龍が如く』シリーズでモーションデザイン統括をしている反町孝之氏のコメントを紹介しよう。

シリーズには当初より関わり、岩出氏とは殴る、蹴るといった『龍が如く』シリーズの戦闘パートを中心に、モーションとエフェクトというデザイン面から、シリーズを共に支え合ってきた。

「2004年頃に同じ部署となりました。岩出さんはセガの社員としても、デザイナーとしても大先輩です。私がプレイヤーのモーションを担当し、岩出さんがエフェクトリーダーを担当されていたころ、戦闘アクションのダイナミックな魅せ方などに関して、よく相談させてもらいながら仕事をしていた記憶があります。直近ではプロジェクトにおけるエフェクトチームリーダーとして、またプロフェッショナル職という立場から、デザインセクション全体の管理・運営面についてもサポートしていただきました」。

「セガの開発全体にも顔が広く、部を超えたデザイン交流に際しては先頭に立って行動していただきました。セガグループ内での技術交流会、CEDEC、GDCなどゲーム開発における技術情報に加えて、アニメや映像業界におけるCG技術などの豊富な知識やトレンドをデザインセクション全体に展開していただきました。若手のデザイナーが成長に結びつけられるような社外技術セミナー情報をいち早くキャッチするなど、人材育成に対しても非常に積極的でした」。

GDC 2013にて(写真提供:多喜建一氏)

「岩出さんが闘病中、何度かメールや電話でやりとりをさせていただきました。2019年8月2日に連絡を取ったのが最後になってしまいましたが、その際も元気なご様子でお話しいただきました。常に開発現場のことを気にされ、プロジェクトを途中で抜けてしまったことに対しての責任と、後輩デザイナーたちを気にかけられておられました」。

「ゲーム開発という仕事に誇りをもち、後進の若手スタッフが活き活きと活躍できる環境づくりにより、ゲーム業界を盛り上げるように努めておられた方だと改めて感じております。また、後輩の私から言うのはおこがましいですが、愛嬌のある笑顔と人間味あるリアクションが周囲を和ませるキャラクターでもあり、社内外問わずお知り合いが非常に多い、愛されるキャラクターであったと感じております」。

同じエフェクトチームから、伊地知正治氏からもコメントが寄せられた。アーケードゲーム開発7年、コンシューマゲーム開発14年に加えて、ソーシャルゲーム開発の経験もあるというベテランだ。エフェクトに加えて、近年ではツール制作やプロシージャルモデリングも行なっている。

「岩出さんとは先輩後輩の関係です。年次的には岩出さんの方が4つ先輩なのですが、エフェクトのキャリアは7年くらい私の方が長く、業務では助言をしていたという関係でした。岩出さんは、常に帽子を脱がない人でした。独身時代は野球帽を後ろ前に、結婚してからはハンチング帽をかぶっており、屋内であろうがミーティング中であろうが常にかぶっていました。デザイングループ(管理単位)のリーダーを努めており、メンバーにGDCの最新情報などを流していました。また社内向けのGDC報告会取りまとめなども担当していました」。

「独身時代は良く晩飯を一緒に食べに行きました。ゲーム雑誌を見ながらいろいろ議論を重ねていました。議論好きで、ゲーム業界への夢を常に忘れない熱い人でした。今そういう人はこの時代には滅多にいないのではないでしょうか?」。

これ以外にも取材中、様々な話を聞くことができた。共通しているのは、岩出氏の話を聞かせてほしいというと、誰もが熱心に話してくれたことだ。

そこから岩出氏の人柄が偲ばれると共に、岩出氏のキャリアを通して、日本のゲームグラフィックスの進化が浮かび上がってきた。

はじめは1人で何でもこなす3Dデザイナーとして。そこからアートディレクターとして。そして大型タイトルのセクションリーダーとして。立場はちがっても、良質なゲームをつくりたいという想いは変わらない。

岩出氏がキャリアの後半で取り組んできたエフェクト表現についても、従来のビルボードによる表現から、ボリュームレンダリングをはじめ、様々な表現が可能になってきている。

単にパーティクルをエミッタから表示させるだけでなく、よりプログラマブルに、インタラクティブに表現できるようになっている。VRをはじめデバイスの多様性が広がる中、エフェクトの可能性はさらに広がっている。

最後に筆者が2010年、岩出氏にインタビューした記事「CG-ARTS EDUCATION REPORT」を引用しつつ、本稿を締めくくろう。

「細分化が進むゲーム開発の中にあって、エフェクトデザイナーは1人で様々な仕事に関われる、横断的なポジションです。短いシーンなら自分でディレクションすることもあるので、絵コンテが切れると強みになります。物理シミュレーションを使ってエフェクトを制作することもできるので、物理やスクリプトの知識も、あって損にはなりません。エフェクトをつくる手段は様々ですし、エフェクトが関われる要素は今後さらに増えていくでしょう。エフェクトデザイナーとして業界に入ってくる学生たちと一緒に、エフェクトの可能性を広げていきたいですね」。

岩出氏から受け継いだバトンを手に、ゲーム業界はさらに前へと進んでいく。ご冥福をお祈りいたします。

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