3Dが抱える問題を克服できる設計の模索
荒牧監督は、神山監督の脚本を「字コンテに近く、画が浮かびやすい」と評した。「行間を埋めると蛇足になってしまう脚本です。試合直前のボクサーのようにダイエットしきっているから、そのまま画にしてくれればいいんです」(神山監督)。それでも、モーションキャプチャ時の検証を経て、人物やカメラの位置、芝居のリズムなどを変えるケースも多々あるという。「変えるとおおごとになる場合もあるので、変更しても支障がないか、スタッフに確認しながらやってます」(荒牧監督)。「作画だと、作打ち後の修正はほぼできませんが、本作ではモーションキャプチャ時にも試行錯誤ができるから、演出の幅が広がりました」(神山監督)。
▲第6話のショットの【上左】【上右】作業画面と、【下】完成画像。「バトーがスミスの胸ぐらを掴む芝居をやりたいと、モーションキャプチャのときに相談したのですが、掴める設計になっておらず、スタッフが右往左往しました(苦笑)。最終的に『上着は無理ですが、ネクタイだったら掴めます!』という提案があり、この芝居に着地しました」(荒牧監督)
▲第9話のショットの【上】【中左】【中右】作業画面と、【下】完成画像。矢口サンジの場合は、当初はポケットに手が入る設計になっておらず、両監督の要望で後日モデルが改良された
『3Dなら、この方が絶対にお得』という演出が、見つかってきた
人物やカメラの位置が変われば、ライトの調整も必要になる。また、本作では逆光による画づくりを多用しており、特に素子がメインのショットはそれが顕著だ。
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高橋孝弥氏(ライティング/コンポジットスーパーバイザー) - 「素子の顔にガッツリ光を当てたくないから、逆光にしてほしいという依頼は、第1話から受けていました。両監督の様々な要望に対応できるよう、各シーンのライティングは慎重に設計しています」と高橋孝弥氏(ライティング/コンポジットスーパーバイザー)は語った。
▲第3話の輸送機内のシーンの監督チェック用データの一部。ライティング設計とコンポジットのOKが出たら、各ショットに反映させるフローになっている
▲先のシーンの作中ショット。手前のジョン・スミスにのみ、危険を示唆する赤色のライトが当たる設計になっている。素子とバトーの顔の陰影のちがいにも注目してほしい
▲先のショットの直後、退室するスミスを見送る素子のショット。何よりも素子の表情を優先しているショットだが、あえてカゲの中に入れている
▲谷口悟朗氏と神山監督による先のショットの絵コンテ。制作途中でカメラ位置が変わったことがわかる
「作画の場合は、カゲの落ち方も含めて "キャラ" なんです。素子のようなツルッとした顔の人に濃い陰影が付くと、途端に雰囲気が変わってしまいます。とはいえ強いライトでカゲを飛ばすのは不自然なので、表情を観せたいショットや、普通に話しているショットでは逆光をよく使っています。この逆光のように、『3Dなら、この方が絶対にお得』という演出が、少しずつ見つかってきました。シーズン2では、3Dが損をしない演出をさらに見つけていきたいです」(神山監督)。
▲第1話の作中ショット。いずれも素子の顔が逆光になるよう、ライティングが設計されている。一方で、顔の凹凸がはっきりしているバトー【下】には、強い光が当たっている
▲【上】第1話の作中ショット/【下】第3話の作中ショット。どちらも表情を優先しているショットだが、荒巻大輔【上】は目の下に濃いカゲを入れるライティング、トグサ【下】は逆光にしてカゲの中に顔を入れるライティング(前述の素子と同じライティング)となっている。このように、本作ではキャラクターの顔の造形を考慮しつつ、ライティングが設計されている
©士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会 | ©Shirow Masamune, Production I.G/KODANSHA/GITS2045
info.
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Netflixオリジナルアニメシリーズ
『攻殻機動隊 SAC_2045』
2020年4月23日よりNetflixにて全世界独占配信中
(中国本土を除く)
原作:士郎正宗『攻殻機動隊』(講談社 KCデラックス刊)
監督:神山健治 × 荒牧伸志
シリーズ構成:神山健治
キャラクターデザイン:イリヤ・クブシノブ
制作:Production I.G × SOLA DIGITAL ARTS
製作:攻殻機動隊2045製作委員会
ghostintheshell-sac2045.jp
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月刊CGWORLD + digital video vol.263(2020年7月号)
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cgworld.jp/magazine/cgw263.html