【イベントレポート】ダンデライオン西川氏×マンガボックス安江氏が語る「ヒット作を生む組織」――Flow PT×freee連携が見据える、クリエイターファーストなプロジェクト管理
「クリエイターの熱量」をいかに最大化し、同時に「赤字リスク」を回避して持続可能な経営を実現するか。これは、全てのコンテンツ制作企業が直面するジレンマだ。
4月14日(火)にフリーが開催した「エンタメ×経営学:IP全盛時代に、クリエイターが挑戦できる舞台をどう設計するか」イベントでは、マンガとアニメーションという異なるフィールドでトップを走る、マンガボックスの安江亮太氏とダンデライオンアニメーションスタジオの西川和宏氏が登壇。単なる「管理」ではないクリエイターを導く心理的安全性の高い組織づくりや、リアルタイムなデータに基づく採算管理手法について深く語り合った。
その中で、オートデスクのFlow Production Tracking(以下、Flow PT)と統合型クラウド会計ソフトfreeeとの連携機能が、クリエイターファーストなプロジェクト管理を実現するカギとして初披露。6月頃の本リリースを予定しているという。現場を縛ることなく、淀みないデータ経営を実現するためのヒントが詰まったイベントレポートをお届けする。
プロフィール
西川和宏氏
株式会社ダンデライオンアニメーションスタジオ
代表取締役・プロデューサー
1975年兵庫県生まれ。2000年に東映アニメーションCG部に移籍し、長編第一作目となる劇場版『ONE PIECE THE MOVIE デッドエンドの冒険』にてCG監督などを務める。2007年にダンデライオンアニメーションスタジオを設立。「世界中の子どもたちへプレゼントを」を企業理念に掲げ、プロデューサーとして活躍。長編映画『THE FIRST SLAM DUNK』(2022)、短編映画『あめだま』(2024・米国アカデミー賞短編アニメ部門ノミネート)などを手がける。
安江亮太氏
株式会社マンガボックス
代表取締役社長
東京大学経済学部卒。2011年DeNAに新卒入社。韓国、米国などのマーケティング業務や全社戦略の立案などを経て、マンガボックス事業に従事。DeNA事業部長、子会社代表などを経た後、2020年にマンガボックス事業を切り出し独立。TBSグループとDeNAのジョイントベンチャーとして、電子出版の領域でクリエイターが活躍できる仕組みづくりに注力する。
佐野 誠氏
フリー株式会社
セールスエンジニア ソリューションアーキテクト 映像制作業界DX推進責任者
2007年、オービックにてSEとしてキャリアをスタート。映像制作業の顧客を中心にERP提案を100社以上、構築を30社以上経験。2022年に管理会計製品のプリセールスを経て、2024年フリーに入社。映像制作業向けの制作工程管理ツールとfreee工数管理の連携企画など、API・AIを活用した業務改善企画を推進している。
個人プレーのマンガとチームプレーのアニメーション
佐野 誠氏(以下、佐野):本日は安江さんと西川さんをお招きして、「IP全盛時代において、クリエイターが挑戦できる環境をどう設計するか」というテーマで、出版社とスタジオそれぞれの視点でお話しいただきます。まずは、「クリエイターが挑戦できる環境づくり」への考え方について、マンガとアニメの制作現場、それぞれの特徴をお聞かせください。
安江亮太氏(以下、安江):マンガの場合、基本的に「作家さんと担当編集者」という2者の関係性がベースになります。そのため、奇しくも編集者は個人事業主のような働き方の側面が存在しています。一方で、1人の編集者や作家さんにひもづく売上が非常に明確になるため、編集者個々人の成果が計測しやすい、というのが事業としての特徴でもあります。
挑戦という観点では、編集部が個人事業主の集まりになってしまっては会社・編集部である意味が薄れてしまいます。マンガボックスでは複数の編集部(レーベル)を分けていますが、レーベルとしてどう色を出していくのか、チームとしてどう成果を上げていくのかを注力しています。個人の裁量が大きい分、チーム貢献という意識付けや、会社・事業状況に合わせた評価制度のアップデートが欠かせません。
西川和宏氏(以下、西川):アニメの場合は、マンガなどの出版物が原作となり、われわれがアニメ化を担うという流れが一般的です。配信シリーズや劇場作品になると、1作品で数億円規模の予算が動き、関わる人数も非常に多くなります。ですから、個人の裁量が強すぎると逆に危険です。オーケストラのようなチームでどうモノをつくるかという組織力が問われます。少し連携が取れていないだけでスケジュールが大幅に延びたり、無駄が発生したりしますから。
われわれにとって、挑戦できる状態をつくるということは、予算やスケジュールといった制約がある中で、いかにクリエイターが自由に考え、動ける状態をつくるか、ということだと考えています。
佐野:クリエイターの挑戦を応援したいという思いがある反面、会社としては予算やスケジュールの都合で管理をしなければならないというジレンマがあると思います。マネジメント面で気をつけていることはありますか?
安江:クリエイターの集団は時に「動物園」に例えられ、マネジメント側は猛獣使いにならなければいけないと言われがちです。しかし、僕はその表現は適切ではないと思います。見世物小屋に入れられた動物が活き活きしているかというと、そうではないですよね。
理想的なクリエイターマネジメントの形は、「動物園」よりも「サファリパーク」というのが一つの解ではないかと思っています。一定のエリアで仕切られてはいるけれど、その中にいる限りは自由な環境が担保されている。自由に創作できる環境を提供しつつ、「ここから先へ進んではいけない」というラインに触れたらピリッとするような、メリハリをつけることが大事です。ガチガチに決め込んでしまうと裁量の幅がなくなり、自由なモノづくりができなくなってしまいますから。
西川:その通りですね。「ああしろ、こうしろ」と言われ続けてモノをつくっていても、良い結果には繋がりません。ピリッとするラインは引きつつも、その中でいかに自由にやってもらうかが重要です。「管理されています」という状態は誰だって嫌ですから、違うアプローチを考えた方が良いと考えています。
安江:管理部門や経営側からすると、時には「管理」という言葉を使いたくなりますが、実際に編集者と向き合うのは編集長・副編集長などの現場マネージャーです。編集長に限らず、マネージャーと話す際には「マネージャー=管理者ではない」と伝えています。マネージャーは「manage to(なんとかする・うまく取り扱う)」する存在です。管理者や監督ではなく、「なんとかできる人、良い塩梅にする人」がマネージャー。無茶振りかもしれませんが、マネジメントについては「なんとかしよう」というスタンスで向き合うことが大切ですね。
マンガの現場:元編集者を配置した事業推進部を設置し、編集者が業務に集中できる環境を実現
佐野:マンガボックスでは、ヒット作を偶発的なものではなく再現性のあるものにしていくため、組織整備を工夫されていると伺っています。
安江:出版社には必ず編集部がありますが、スケジュール管理や原稿料の支払い、経費精算などの処理がスムーズに進行できないといった問題は「あるある」です。そこで「なぜできないのか」というのは個々人・組織によって様々な原因があるとは思うのですが、弊社ではその課題を解決するために、約2年前に事業推進部という新しい部署を立ち上げました。
安江:事業推進部は編集部に寄り添うパートナー部署です。スケジュール管理のサポートだけでなく、難易度の高い法務対応や著作権周りの課題が発生した際に、フロントに立って調整を行います。実際に編集者からも「事業推進が管理を行ってくれるおかげで、編集以外の業務で手が止まることがなくなり、作品づくりに向き合える」という声が上がっています。
この組織のポイントは、メンバーに元編集者のメンバーも在籍していることです。編集者の気持ちや実務を理解している人間がコアとなり、支えながらも時には厳しいことをしっかり伝えていく。それがうまく機能している理由です。
佐野:事業推進に元編集者を配置するというのは面白い仕組みですね。
安江:実はこの体制は、親会社であるTBSグループの制作と編成の関係性からヒントを得ました。テレビ局では、制作現場のことを「泥棒」、編成のことを「警察」と冗談めかして呼ぶことがあると聞いたことがあります。制作の現場は自分たちのつくりたいものを突き詰めていくためにできるだけ制作費を使おうとし、一方で編成はそれを締める役割です。
面白いのは、制作の人間が編成に行ったり、編成の人間が制作に行ったりする人事異動があることです。泥棒が警察のやり口を覚えてまた泥棒になるような(笑)、逆もまた然りですね。この構造は非常に健全だと思いました。編成・制作の論理がそれぞれ分かっている“通訳者”が増えることで、組織が円滑に回るのです。
佐野:作品への投資戦略についてはどのようにお考えですか?
安江:戦略としては、「バットを長めに持ち、ホームラン狙いを増やす」ことを掲げています。短期的な売上に囚われて、バットを短く持ち、マーケットに埋もれやすい作品ばかりをつくってしまうと、5年、10年と愛されるIPには育ちません。もちろんホームラン狙いばかりでは三振が増えてしまうので、レーベルごとに適切なポートフォリオを定めています。
安江:マンガの市場においては、年間数千という作品が連載されては終了していきます。できるだけ多くの打席に立つためには、作品を早期に終わらせる、というシビアな決断が必要になる場面もあります。作品を終わらせるのは辛いことですが、そうしなければ作家さんの重要な作品づくりの時間を売れない作品に費やさせてしまう、ということでもあります。当然その作品に対しての思いはある一方で、次の打席のチャンスを作家さんと編集者に提供するサイクルを回すことも重要です。
アニメの現場:データドリブンな工数管理と自己ケアまで含む人事評価指標
佐野:続いて、アニメ制作という、予算規模が大きく足元の利益確保が難しい現場において、ダンデライオンではどのような管理をされていますか。
西川:アニメーションは“一撃必殺”のビジネスといえます。数億円の予算と長いスケジュールがかかるため、常に状況を把握し、無駄や遅れがあればすぐに軌道修正をかけるオペレーションが必要です。できるだけリアルタイムに気づいていないと、億単位で赤字になりそうな地獄に向かって突き進んでしまいそうなこともありますから。
当社では、プロジェクト管理から利益算出までを複数のツールを連携させて行なっています。入り口となる予算・コスト管理はSalesforce、人件費予算やアサイン計画は「freee工数管理」、日々のタスクや進捗は3DCG業界標準のFlow PTを使用しています。
西川:特色としては、自社開発の「DlasPMTimeLog」という詳細作業ログツールを導入している点です。スタッフがどのディレクトリのどのファイルにアクセスして作業しているかを裏側で自動集計し、就業時間は「freee人事労務」で担保する。これらのデータを最終的にGoogleスプレッドシートやGeminiに集約し、プロジェクトごとの予実乖離や最終利益率をリアルタイムで把握しています。
安江:アニメ制作においては人件費が最大のコストだと思いますので、そこを緻密に管理するのはまさに経営の肝ですね。マンガの場合は作家さんへ支払う原稿料が主なコストなので構造が異なりますが、非常に参考になります。
佐野:人事評価の項目も特徴的ですよね。
西川:2、3年に1回、全社の評価項目を見直しています。「変革力」や「自己管理力」、「チーム貢献力」などに加えて、最近新たに追加したのが「心身の自己ケア力」です。
クリエイターという職業柄、長時間パソコンの前に座り続けるため、腰や首を痛めたり、メンタル不調に陥ったりするケースも少なくありません。それでは仕事になりませんから、「健康を維持することも仕事のひとつ」と明確にメッセージとして打ち出しました。
西川:過去には、全社員が集まるイベントで私自身がプレゼンを行い、「呼吸・姿勢・リラックスの重要性」や「骨盤前傾・後傾のチェックの仕方」など、ストレスマネジメントのメソッドを共有したこともあります。私自身が45歳を過ぎた頃に「根本的に疲れが取れない」「起きた瞬間から疲れている」と感じた経験が元になっています(笑)。しっかりお風呂に入って血流を良くして、まずは自分で自分の体を楽にしてあげることが、良いクリエイティブに繋がると考えています。特に歳取ってくると(笑)。
安江:僕も1on1の面談では「最近、体鍛えてる?」とか「散歩してる?」と尋ねることはあります。定期的な運動習慣がなくなるというのは、メンタル負荷が高まっているサインであることが多いですからね。
「自分のおかげ」ではなく「誰かのおかげ」と言えるカルチャー
佐野:おふたりのお話からは、共通するマネジメントの姿勢が見えてきますね。
安江:やはり、クリエイターの会社だという共通項は強いですね。人間は感情の生き物です。それを力で押し付けても絶対にうまく動きません。「人間とはそういうものだ」というある種の諦めに立ち、それを受け入れた上でどうコミュニケーションをとっていくかがマネジメントの基本だと思っています。
また、マンガボックスでは年に1回、素晴らしい成果を上げた編集者を全社で表彰するのですが、最近は誰も「私がやった、俺はすごい」と言わなくなりました。「営業部の〇〇さん、経理の〇〇さんのおかげ、そして何より作家さんのおかげでこの作品ができました」とスピーチするメンバーが多いです。クリエイティブは自分と作家さんだけではなく、周囲に支えられて成り立っている。そういう温かいカルチャーが育つことで、心理的安全性が担保された強い組織になっていくと考えています。
西川:売上や個人のスキルという軸だけで評価していると、どうしてもギスギスした組織になってしまいます。「この人のおかげで良い仕事ができた」と称え合える要素が日常にあるべきだと思います。
Q&A:ストック型ビジネスの爆発力と、AIとの共存に向けたスタンス
佐野:ここからは参加者の皆様から事前にいただいた質問をテーマにお話しいただきます。1つ目は「受託制作からIP創出への転換について」です。
西川:当社もちょうど転換期にあります。映画『THE FIRST SLAM DUNK』以降、様々な企画や製作委員会からお声がけいただく機会が増えました。現在は受託側にとどまらず、自社で出資参加し、ロイヤリティや商品化権などのIPの一部を運用する立ち位置へとシフトし始めています。海外のアニメファン層の心が動く高付加価値な作品をどうつくっていくかが、今の最大のテーマです。
安江:マンガの強みは圧倒的な「ストック型ビジネス」であることです。例えば、当社の『にぶんのいち夫婦』という作品は、ドラマ化された時点で累計300万部ほどでしたが、連載とドラマが終了した後に売れ続け、現在では500万部を突破しています。連載終了後に何十億円という売上が追加で積み上がったことになります。
安江:会社としてのポリシーは明確で、お預かりしている作家さんの作品を生成AIの学習に利用することは絶対にありません。他社に無断で利用させるようなことはあってはならないと宣言しています。一方で、作画の補助などツールとしてのAI活用を全否定することはありません。ただ、ゼロからイチのストーリーを生み出すのは人間の領域であり、そこは人間がやり続けていくことだと思っています。
西川:アニメ業界は絵を描くクリエイターが多いこともあり、AIに対しては慎重だったり否定的な意見が多いのが実情です。しかし、我々のようにCGを中心としている会社は常にAI技術を検証し、それに触れ続けている必要があると考えています。CGとAIはこの先、技術的に一体になっていく方が自然だと予想しているからです。避けては通れない技術だからこそ、自分たちで深く理解し、「ここは使って良い、ここはダメだ」と使い方をコントロールできる状態にしておくことが重要だと感じています。
佐野:最後は「持続可能な経営設計について」です。クオリティとコストのデッドラインをどう設定していますか?
安江:社員の意識やカルチャー浸透の面で行なっていることですが、マンガボックスでは月に一度、アルバイトも含めた全社員に向けて、月次の売上と営業利益を全て公開しています。会社の現在地を全員が共有することが健全な経営に繋がると信じています。
西川:アニメ制作でも、以前はマネジメント側だけで予算を管理していましたが、それでは上手くいきませんでした。今はある程度キャリアのあるリードクラスに対して、プロジェクトの収支状況やデータを共有し、「どうつくり方を変えるか」を具体的に話し合える状態を用意しています。しんどい仕事に価値を見出すのではなく、楽ができるところは楽をしてDXを進め、生み出した余力を本当にこだわるべきと思う場所に注ぐ。それが持続可能な制作の鍵だと思います。
佐野:おふたりとも、貴重なお話をありがとうございました。フリーでは、西川さんのお話にも挙がったFlow PTと「freee工数管理」の連携機能リリースを予定しています。
クリエイターが日々のタスクステータスを更新するだけで、自然に工数データがfreeeに蓄積され、経営者や管理者が作品・工程ごとのリアルタイムな採算を可視化できる仕組みです。勘に頼らないデータ経営の実現に向けてご活用いただけたらと考えておりますので、ぜひ続報をお待ちください。
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6/16(火)、経営とバックオフィスをつなぐ年に一度の祭典「