ミライ小町のDJプレイ。あのセットリストになった経緯を知りたい
田端:ミライ小町ちゃんのDJプレイは、彼女の持ち歌「Future Melody - 心から未来へ -」から始まり、『リッジレーサー』シリーズの曲で攻め続け、『アイドルマスター』シリーズも入り、『太鼓の達人』シリーズの「さいたま2000」で終わりました。このセットリスト(※)になった経緯を教えてください。
※当日のセットリストはこちらを参照。
子川:セットリストは、僕のリクエストも入れながら、大久保につくってもらいました。
大久保:1曲目は、ミライ小町のDJプレイなので、彼女の曲を選びました。その後の『リッジレーサー』シリーズは、僕がシリーズの楽曲をほぼ全部知っているので、選びやすかったという背景があります。これまでにも何度か『リッジレーサー』シリーズのDJイベントを開催しており、お客様にも喜んでいただけたので、今回のGAMEフロアのオーディエンスなら喜んでくれるだろうという思いもありました。『アイドルマスター』シリーズも、GAMEフロアのオーディエンスとの相性が良いだろうと思ったので入れました。
田端:期待以上の内容でした。ただ、オーディエンスがオンライン投票で次の楽曲を選ぶところは、どちらも「選べない!」と言いたくなる選択肢で歯ぎしりしました(笑)。
大久保:(笑)。1回目の選択肢は「EUPHORIA(RR 20th Anniv. Mix)」と「Drive U 2 dancing (AJURIKA Remix)」で、後者が選ばれましたね。2曲とも佐宗綾子さん作曲の『リッジレーサー』シリーズの人気曲のリミックスで、「これは選べないだろうな」と自分でも思いました。
田端:2回目は『アイドルマスター』シリーズの「スタ→トスタ→ -AJURIKA Remix-」(作曲:大久保氏)と「キラメキラリ -おおくぼひろし Remix-」(作曲:神前暁氏)で、後者が選ばれたわけですが、私は選択肢を前に悩んでしまい、気が付けば投票時間が終わっていました。
子川:2曲とも大久保が関わっている曲なんですよね(笑)。
大久保:どちらの選択肢も「どっちにしよう......」と悩んでほしかったので、上手くはまってもらえましたね(笑)。投票の総数は数万件に上りました。配信プラットフォームのTwitchからは1回しか投票できないしくみでしたが、スマホARからは連打投票できたので、楽曲を聞きながらスマホ画面を連打してくれたオーディエンスもいたのだろうと思います。
▲PC画面にスマホをかざすとARエフェクトが飛び出す演出。オンライン投票も、同じスマホからできるしくみになっていた
田端:フロアで体を揺らすのと同じ感覚で楽しめそうで、面白いですね。最後の楽曲が「さいたま2000」(作曲:LindaAI-CUE氏)だったのは、どういう理由からですか?
子川:僕の一番好きなゲームミュージックなので、「入れてください」とリクエストしました。かなり盛り上がったので嬉しかったです。
大久保:バンナムフェスのミライ小町のDJプレイでも、セットリストは僕がつくっており、『太鼓の達人』シリーズの楽曲は盛り上がりましたから。AOFで「さいたま2000」の直前にかけた「Rotterdam Nation Remix」(作曲:細江慎治氏/『リッジレーサー』シリーズ)とも綺麗につながり、良い終わり方になりました。
田端:すごく綺麗につながっていて、曲が変わっていることに最初は気付きませんでした。
大久保:ミライ小町の可愛いキャラクターと、セットリストの間にギャップがあって「可愛いのに治安の悪いDJ」というようなコメントをオーディエンスからいただきました(笑)。実は「アニソンなども織り交ぜようかな」とも考えたのですが、「GAMEフロアでのDJプレイなんだから、ゲームミュージックでいこう」と考え直しました。僕がゲームミュージックのイベントでDJをやる場合に近い選曲になっていると思います。
子川:今回の目的はBanaDIVE™ AXの実証実験でしたが、DJプレイ自体にもこだわり抜いてもらえて、すごくありがたかったです。「ミライ小町のDJプレイが良かった」といったコメントもいただきました。
田端:ミライ小町ちゃんのDJプレイが終わった後、大久保さん自身もDJプレイをなさいましたね。両者のステージを見て、私は「DJのミライ小町ちゃんは、大久保さんの娘のようだな」と思いました。選曲に加え、愛情がこもっているという点でも娘のようだなと。
▲AOFのGAMEフロアでDJプレイをする大久保氏。2020年12月31日(木)〜2021年1月1日(金)開催のAOF2では、ミライ小町と大久保氏の共演も発表されている。今回も楽曲のオンライン投票、AR視聴などが体験できるのに加え、ミライ小町と大久保氏が交代で曲をかけるBack to Back(B2B)のDJプレイまで楽しめるとのこと。詳細は公式サイトを参照
子川:大久保の人格がインプットされているとも言えるわけで、面白いですね。
大久保:ミライ小町のモーションアクターさんのディレクションも僕が担当しているので、いろんなところに僕のこだわりが反映されているとは思います(笑)。
広すぎる守備範囲があったから、BanaDIVE™ AXができた
田端:BanaDIVE™ AXというネーミングには、どんな意味が込められているのでしょうか?
大久保:BNKENでは、デジタルとリアルを結びつける様々な研究をしており、これらを総称してBanaDIVE™(BandaiNamco Deep Immersive Visual Enhancement)と呼んでいます。例えばCEATEC2019では、サンライズと共同で『機動戦士ガンダム THE ORIGIN -RISING-』のCGのガンタンクと、実写の丸の内のオフィス街を合成したVR映像を展示しました(※)。AIにDJをさせるシステムも、将来的にはxRの研究と結び付いてくると思ったので、AIの「A」と、xRの「X」を付けて、BanaDIVE™ AXと名付けたのです。
※展示の詳細はこちらを参照。
田端:BanaDIVE™ AXのプレスリリースでは「開発 :バンダイナムコ研究所、開発協力:スマイルブーム」とクレジットされています。開発体制についても教えてください。
大久保:本システムを実現するのに必要なピースは複数あって、その中には楽曲のアナライズ(解析)や、DJプレイのアニメーションのプログラムもありました。楽曲のテンポ(BPM)、ビート(拍子)、サビ(盛り上がり)などのアナライズには、CRIミドルウェアさんのBEATWIZというミドルウェアを活用させていただきました。プログラム全体の開発は、スマイルブームさんに協力をお願いすることになりました。僕の方で設計した仕様に沿って、楽曲のアナライズ結果を基に、アニメーションやステージ演出などを遷移させるプログラムを組んでもらっています。
企画が起ち上がった当初から、僕の頭の中では、BanaDIVE™ AXをつくるのに必要なピースが揃っていました。僕は、サウンドに加え、モーションキャプチャやアニメーションのチームのマネジメントも担当してきたので、各チームの技術をどのように組み合わせれば目的を達成できるか、早い段階から見通しが立っていたわけです。
田端:私はずっと大久保さんのことをサウンドの専門家だと思っていたのですが、アニメーションにも精通しているということですか!?
大久保:はい。サウンドクリエイターとしてナムコに入社して、ずっとサウンドチーム所属でサウンド開発を担当してきましたが、CGや映像にも興味をもっており、たまにお手伝いをしていました。そういう背景もあったからか、組織変更の中で、モーションキャプチャチームや、アニメーションチーム、映像チームなどのマネジメントなども担当してきた感じです。
田端:守備範囲が広すぎますね。
大久保:ドット絵の時代からサウンドも絵も大好きだったので、良い経験をさせてもらいました。かつてNIFTY-ServeのMac関連のフォーラムにオリジナルアイコンを投稿しまくっていたことが契機となり、様々なメディアにフリーウェアとして掲載されたりしていました。それがきっかけで、『リッジレーサー』シリーズや、『エースコンバット』シリーズ、『ミスタードリラー』シリーズなどでは、サウンドチームの所属なのに、アイコンやドット絵の作成を手伝っていました。だからビジュアルアート担当として僕の名前がクレジットされているタイトルもありますね。3DCGに関しても、トーヨーリンクスさんがメタボールでTVCMなどをつくっていた時代から追いかけていたので、仕事の範囲が広がることに対する違和感はなかったです。
現在BNSでモーションキャプチャチームのマネジメントをしている大曽根淳は、僕と同時期に入社しており、新入社員研修でも同じ班だったのです。僕はCGに興味があったので、彼がCG開発部に所属していたときから、いろんな話を聞かせてもらっていました。彼がモーションキャプチャチームをまとめるようになってからは、モーションキャプチャの話も聞かせてもらっていたので、そのあたりの知識は活かせたんじゃないかと思います。
田端:そういうキャリアがあったから、BanaDIVE™ AXをつくろうという発想が生まれたのでしょうか?
大久保:キャリアがあったからというよりは、これまでの経験と知見があったから、形にできたということだと思います。自分にDJの経験があったから、キャラクターに上手くDJをしてもらうためのAIのロジックを考えることができました。ゲームサウンドの知見があったから、楽曲をプログラムで制御するインタラクティブミュージックの手法を応用できました。CGアニメーションの知見があったから、アニメーションのツリーを組むことができたし、そのためにはモーションキャプチャでどんな素材を収録すればいいかも自ずと想像できました。
自分の知見と経験を全部つなげてみたら、必要なピースが揃ったわけです。加えて、BNKENとBNSには各分野のエキスパートが所属しているので、自分のつくった仕様を見せて、「これで問題ない?」と確認し、アドバイスをもらいました。DJ、AI、サウンド、CGアニメーションなどのエキスパートをバラバラに集めたプロジェクトだったなら、そう簡単にはかたちにならなかったかもしれません。
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