リアルタイム技術は今後のキーテクノロジーになる
ーーどんな人材が求められているのか教えてください
橋本:Unityだったり、Unreal Engineだったり、リアルタイム技術はゲーム業界向けという考え方が現状も続いているんですけど、実はいくらでも他の業界に広がる可能性を持っているんじゃないかなと思ってます。自動車、家電、インテリア、建築など、他の業種に波及して、世の中を変えるひとつのキーとなる技術になり得るんじゃないかと。映像やライブイベントでもリアルタイム技術が広がれば、作り方も表現も変わってくると思いますし、現実とCGの非現実の区別がつかないところまで来れば、それがブレイクスルーになると思います。そのためには新しい表現のためのツールをイチから作ることも必要でしょう。
それを踏まえて今後どういった人材が求められそうかというと、僕が思うに、数学とか物理とか情報工学とか、それは絶対やっておいた方が良いんですけど、やはり"見る目"がないとダメなのかなと感じています。例えば、レンダラを書いてもらったときに、どう見てもこの建物の影がおかしいと思うときがあったのですが、やっぱりプログラムにバグがあったみたいで。ただ本人はそれに気づいていないんですよね。そういう人は良いメンバーにはなるかもしれないけど、"何かを生み出す人"にはなりにくいかなと。つくったものの良し悪しを自分で判断できるかどうかが重要な気がしてます。
真鍋:それはありますね。これ絶対、音と映像がずれているよね、みたいな気になるしきい値がけっこうバラバラだったりして。ライブに行くと、音と照明が合ってないことがほとんどなんですけど、やっぱりそういうのが気になってしまいます。照明は照明のシーケンサーで作りやすい作り方をしていて、映像は映像ソフトでフレームに合わせて作っているんだろうと思います。
音をやっている人は時間に対してすごく厳しくて逆に、映像と照明側はわりと甘い感じなので、結果的にずれたものが出来上がってしまうのでしょう。今は照明の人も映像の人も、情報学的な感覚が必要になるし、もちろん音楽の人も映像や照明のことも知らないといけない。だから昔よりも、音も照明も映像もレーザーもロボットもドローンも全部やりますというような人が、今後増えてくるんじゃないかと思ってます。そうなると目もそうですが、耳も大事で、全ての感覚を研ぎ澄ます必要があるのかなと思いますね。
橋本:知覚のOKラインのしきい値のところで、自分の分野に対する自己基準が厳しくないとものはつくれないですよね。
真鍋:ええ、そこがデモ映像と完成された表現のちがいでしょうか。表現で感動させる要素が、そういう細かいディテールのところに宿ったりするので。ただ勉強するチャンスがなくて、ひたすらエンジニアリングだけをやってたりすると、なかなか気づきにくいのかなと。
コンテンツ制作も研究開発も両方できる環境が理想
橋本:知覚を鍛えるには自分で作品をつくっていくのが一番良いのでしょうか?
真鍋:ものの見方というのは訓練しないと身につかないのですが、クリエイティブとエンジニアリングを一緒に学ぶ機会を得るのは、学生の頃は難しいのかなという気もしてます。僕の場合は、照明の方に2年くらいついて作品をつくってましたし、音楽スタジオでも2年くらい働いていました。音も聞き方を知らないと、ずれていたり小さいノイズが乗っていたりするのに気づかないんですよね。学生時代は自分のやりたい表現の方向のアルバイトをしてみるのも手かもしれません。
橋本:ゲームの場合はかなり分業化が進んでいますが、それでもやっぱり総合的に理解している人がいないと成立しないなと感じています。分業だけの人が100人いてもまったく機能しないので。少なくとも橋渡しする人は、エンジニア的な目とデザイン的な目の両方を持っていないと難しいですね。
真鍋:そうそう、エンジニアだけでつくっても単なるデモ映像になってしまいますしね。大学の研究でもデモはつくると思うんですけど、仕事となると時間もクオリティも要求されるレベルが全然ちがいます。ライブだと演出家がいるので、演出に合わなければ使われることはないし、会場の制約も受けるし、本番では失敗もできません。シビアな条件下で、いかに新しく面白い表現をアウトプットできるかが大事なんですよね。
橋本:僕もデモから実際のパッケージに落とし込むまでとても苦労しました。何かを開発してから人の手元に届くまでには大きな開きがあるのですが、その辺はなかなか学生さんには伝わらなかったりします。すごい研究をやっていたとしても、その先が本当に大変なんだぞ、と(笑)。
真鍋:それから、エンジニアにもいろいろなレイヤーがあると思っていて、例えばスピードを高めるような正解が決まっていることをやるエンジニアと、発明みたいなまったく新しいことをやるエンジニアでは、大分ちがうのかなと。本人の特性もあるので、自分に合っている方を伸ばしていくと良いのではないでしょうか。
橋本:まったく同意します。やはり適材適所ですよね。僕としてはそれに加えて段取れるエンジニアを目指してほしいと思ってます。上手く行くか行かないかはマネジメント力も大きく関わってくるので。先にも言いましたが、そのためにもエンジニア以外の視点も養っていってほしいなと思いますね。
INTERVIEW_遊佐怜子(FLAME)
PHOTO_弘田 充