3つの蹴りを通して、動きの原理を知る
先に紹介した3つの原理を私たちは日常生活の様々な場面で目にしているが、意識しなければ見過ごしてしまう。ここでは、ロレンツィ氏の前蹴り、回し蹴り、横蹴りを通して、動きの原理がどこに使われており、アニメーターの仕事にどう応用できるのかを解説していこう。
<Topic01>前蹴り


▲【A】で正面を向いていた上半身が、【B】で左側にねじられ、右上腕が前方に振られている。これが前蹴りのための反動動作だ/【C】左足で強く地面を踏んだ作用に対する反作用が、【D】腰を経て右足先へと連鎖していく様子がわかる/【E】力が伝わりきった時点で左足と腰が固定される一方、加速を続ける右足先では残像が見えている


▲【E】【G】慣性モーメントを小さくしてスピードを速めるため、蹴りのインパクトの前後では足をたたんでいる/【C】~【F】右腕を直線的に振り下ろすことで作用を起こし、その反作用で右足の蹴りを強めている/【F】右足の蹴りが止まるタイミングで右腕の動きも止め、身体を安定させている/【A】で両足の中間上にあった重心が、【F】では左足の真上に移動している。この重心移動に合わせて上半身を後方に傾けることでバランスをとっている/【I】で再び重心が両足の中間上に戻ると左足を動かせるようになる
<Topic02>回し蹴り


▲回し蹴りの場合は足の回転と反対方向に上半身を回転させ、目的の動作と相反する力を生み出すことで身体を安定させる必要がある。そのため、【B】のように両腕を含む上半身を左側にねじることが回し蹴りの反動動作となる


▲【B】~【E】左足で強く地面を踏んだ作用に対する反作用が、腰を経て右足先へと連鎖していく様子がわかる。力が連鎖している最中の【D】では右足全体が鞭のようにしなり、足先を加速させている/【C】~【F】右足と上半身を逆方向に回転させ、相反する作用を起こすことで重心のぶれを防いでいる/【F】~【H】右足が着地するタイミングで上半身を持ち上げることで、身体のバランスを維持しつつ、重心の位置をコントロールしている
<Topic03>横蹴り


▲横蹴りは、回し蹴りの回転運動と、前蹴りの直線運動を組み合わせた動きになっている/まず【A】~【D】で右腕を振り下ろして作用を起こし、その反作用で右足を上げる/【D】では大腿背面と腹部の筋肉が縮む一方、大腿前面の筋肉は引き伸ばされている。これが横蹴りの反動動作となる/【D】【E】上半身を後傾させて作用を起こし、その反作用で右足の蹴りを強めている。地面からの反作用が右足へと連鎖していく様子にも注目してほしい


▲【D】【F】前蹴り同様、慣性モーメントを小さくするため、蹴りのインパクトの前後では足をたたんでいる/【E】のインパクトの瞬間を長めに見せると、蹴りの重さを強調できる。一方で、蹴りの鋭さを強調したい場合には、足を引いた後の【H】の動きを長めに見せた方が良い。タイミングを変えることで、キャラクターの戦闘スタイルや個性を表現できる/【G】蹴り足をたたむのに合わせて上半身を重心に引き付け、身体を安定させている
CONCLUSION
今回紹介したように、元梅氏が手がけるアニメーションは、現実の人間の動きと原理に対する飽くなき探求の上に成り立っている。ただし、最も大切にしたいのは『プレイヤーが気持ち良いと感じる動き』だという。「ボタンを押した際、キャラクターの反応が悪かったり、期待に反する動きをされたりすると気持ち良くありません」(元梅氏)。まず反動動作を行い、次に目的とする動作を行う、この『メリ』と『ハリ』が大切だという。「ハリだけでは唐突すぎて、経過を楽しむ余裕がない。一方で現実に即した動きであっても、反動動作のための準備運動まで入れるとメリメリハリに見えてしまう。『型なし』ではなく、動きの『型』を修得した上で『型破り』な表現ができる。それがわれわれの目指すアニメーターの在り方です」(元梅氏)。
次回予告次回は、テクニカルアニメーションの流儀を紹介する。
TEXT_尾形美幸(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充