映像をもっと“派手”にしてほしい――そういった指示を受けるケースは多いものの、実際に何をどう派手にすればよいのか、どうすれば意図した派手さが実現できるのかを判断して実践するのは難しい。ここでは、遊技機メーカー出身でこれまで遊技機映像を数多く手がけてきたエゴ・ワンが、メーカー内での開発実務の中で得た知見をもとに“派手”の概念を体系的に整理し、After Effectsでの作例を交えながら紐解いていく。
プロフィール
株式会社エゴ・ワン
2022年設立の映像制作会社。「楽しませることに妥協しない!」をモットーに、デジタルとアナログの二刀流で、遊技機やゲームの企画からプリプロ映像をメインに手がける。昨今は内製の作画アニメも好調で、これまでにない新しい試みにチャレンジし続けている
日比野辰彦/Tatsuhiko Hibino
エゴ・ワン立ち上げ前は遊技機メーカー2社に在籍し、開発歴は25年ほど。過去には電機メーカー、ゲームメーカーを渡り歩き、遊技機メーカーの仕事に流れ着く。版権周りから映像制作、電機ハードまで広い範囲に知見がある
中尾椋介/Ryosuke Nakao
2022年からエゴ・ワンに在籍。もともとはYouTubeの動画制作会社で野球コンテンツ制作に従事。遊技機ファンであり、未経験ながらも独学でエゴ・ワンへ移籍。遊技機愛を軸としつつも、幅広い興味と知見を活かし日々業務に取り組んでいる
“派手”を体系的に理解しよう
はじめに
本連載では遊技機の開発において演出を派手に仕上げる点に着目し、過去の経験と著作物の引用により、遊技機ではここまで求められていると思われる部分を独自に体系化した知識やノウハウを「派手学」としてまとめます。
昨今の遊技機の花型となる演出では必ずド派手な演出を求められますが、各所で派手に演出を彩る制作者スタッフが育っていない点が懸念されます。そんな中で、遊技機制作の未経験者は考え方の根本から見直すことになりますが、遊技機制作のみならず各分野での画づくりのヒントにもつながると思いますので、遊技機業界の制作ノウハウからぜひ学んでいただけるとうれしいです。
目指すところとして、クライアントからの「派手につくって」のニュアンスをいただいた際に使えるように、わかりやすく落とし込めるナビゲートを目指していきます。
今回の内容は遊技機制作の主力であるAfter Effectsを使った記事内容となるため、After Effects経験者は理解が深まると思います。ぜひAfter Effectsのハンズオンを試してみてください。
こちらが、今回のターゲットとなる画づくりのイメージ画像です。
記事構成としては以下の3要素を基本とし、全4回の連載として進めます。
<基本的な記事構成>
①体系(考え方) ②ハンズオン ③まとめ
<各回の内容(予定)>
第1回:派手学とは&装い表現編
第2回:光表現編
第3回:柄表現編
第4回:色表現編
「派手学」とは?
派手学というのは実際に学問として存在はしていませんが、人が派手を感じる感覚を分解して体系として理解していくことと定義しておきます。
派手とは人によって感じ方が違うものではありますが、一般的に派手に見えるラインをゴールにしてあるので、ここまでいけば派手と思われるものだと捉えてください。
「派手」とは?
辞書には下記の記載があります。
「姿・形・色彩などが華やかで人目をひくこと」
まさにこの内容(姿・形・色彩)をハンズオン形式で紐解いていきます。
素材名:和 Japanese style x beautiful material
装い表現編:体系知識
派手という演出依頼への対応
多くの映像演出の制作依頼においては、「派手につくってほしい」「見せ方を豪華に」などという簡易的なワードでオーダーされることが多く、映像制作者は情報の少なさに頭を悩ませているのではないでしょうか?
処理の仕方としては、コンポジット時に加算処理を重ねたり、様々なエフェクトを重ねたり、文字を大きく加工して注目をそちらに向けたりなど、いろいろな方法があります。しかしながら、出来上がった演出を発注者に見せたとき、発注者の意図と仕上がりのニュアンスが合わないケースを体験した方も多いのではないでしょうか。
加算効果は映像質感をつぶし、画面を白く飛ばすことになりますし、エフェクトを乱雑に重ねるだけでは派手よりもゴチャゴチャ感が強く感じてしまいます。また、文字表現を強調するパターンは派手化ではなく、視点を変えた着地点と言えるでしょう。
では、遊技機制作時に依頼される派手な表現とはいったい何なのでしょうか?
派手とは柄と色の掛け合わせ
派手の表現をデジタルが生まれる以前まで歴史を遡ると、ひとつの答えが見えてきます。古来、日本で表現された派手とは、和柄と色の組み合わせによるものでした。以下の画像を比較してみると、組み合わせから生まれるデザイン性が派手さを表していることがわかると思います。
歴史をふり返ると、生地などで柄物をつくるのは大変手間のかかる作業のため、柄ものは人手がかかる=金額が高くなり、経済力のある人が柄もの(高級品)を求めることで派手な衣装ができてきた経緯があります。
派手さを出す上では、細かな装飾部分に柄を入れるなどの配慮の積み重ねが、派手にポジティブな印象を加えていきます。派手さの度合いについては、普段よりも細かな柄や多くの色遣いで表現することで、さらに派手さ、豪華さを認識できるようになります。ただし、やみくもに派手さだけを追及しても全体的なメリハリが生まれない点に注意しましょう。
装い表現編:ハンズオン
ここからはエゴ・ワン中尾が実際に文字をつくり、柄を埋め込むまでをハンズオン形式で解説していきます。ではどのように文字をつくり、そこに和柄を埋め込むのか?
遊技機制作の主力ツールであるAfter Effects、その中で最も使用されているプラグインが Element 3Dです。もはや必須のツールとなっていますので遊技機映像の仕事を志す方はマストで学びましょう! 最近のパチンコでは図柄でもElement 3Dを使っているものも多くあります! 今回はそのElement 3Dを使用して文字を制作していきます。
まずはElement 3D用のコンポジションを作成します。今回はオーソドックスな遊技機の液晶サイズ1,280×1,024のサイズで作成します。なお、画面のシェイクなどの+αの要素を考慮しておくと、ビタビタのサイズではなく100ピクセルほど余裕をもたせたコンポジションサイズで作成することをオススメします。
※画面のシェイクとは、映像表現において画面が揺れることを指します。呼び方はシェイク、画ブレ、画面動、カメラブレ等々……。遊技機の映像表現はカメラに対して激しく作用するモーションが多く、画ブレ表現の利用機会も多いです。
そしてコンポサイズの黒平面を配置し、Elementを適用します。それでは早速、「派手学」という文字を作成していきます!!
Element 3Dではテキストレイヤーを読み込み、そのテキストを立体化することが可能です。まずテキストレイヤーを作成し、Elementのプロパティ内のCustom layersからCustom text and masksを開きましょう。そして、「派手学」と入力したテキストレイヤーをPath Layer1に選択します。テキスト&パスとあるようにパスからも文字を作成できます!
続いて、Elementのエフェクトプロパティ内の一番上にあるScene setupを開きます。
開くとこんなカンジ、通常After Effectsを使用している上ではなかなか見慣れない光景ですね。すでに派手学の文字が完成していますが、これは上部にあるExtrudeというタブをクリックすることでさきほど適用していたテキストレイヤーがシーン内に文字として押し出されて表示されます。
今回押し出したExtrusion Modelが右のSchene内に確認できると思います。矢印をクリックするとBevel1というマテリアルがぴょこっと現れます。
このマテリアルをいろいろ調整してあげて、色やベベルを付けていくのがElement 3Dの基本となります。
プリセットのGoldを適用してあげるとこの通り! そしてBevelは5つまで増やすことができるのです!
増やしたBevelは下部のBevelという項目のパラメータをいじることで直感的に形状を変更することができます。
するとこんな感じに! 自分の好みでいろいろいじくりまわしてみましょう!
マテリアルにはまだ設定項目があるので一部を紹介します。
さきほどのBevelを少し下にスクロールするとTexturesの項目があります。いくつかテクスチャが適用されていますね、このあたりは他のメジャーな3Dツールのようなニュアンスで使用できるかと思います(名称のブレはありますが……)。
Custom Textureという項目がElementのエフェクトプロパティにあるので、そこにAfter Effects上のエフェクトで作成したものや素材といった様々なものを適用することができます。自分好みにカスタマイズしていきましょう!
このままマテリアルを設定して文字を作成しても良いのですが、さらにひと工夫していきます。では一体どういう工夫を加えればよいのか? 実際にコンポジションを見ながら考えてみましょう。
こちらが今回の「派手学」の完成ビジュアルで使用しているElementのコンポジションです。4番目のレイヤーがElementを使用している黒平面のレイヤーになります。
そしてこちらがさきほど作成したElementです。
この2つでつくり方はどうちがうのでしょうか? ぜひ考えてみてください!
レイヤー数が異なるのはもちろんとして、そのレイヤー数のちがいはどう影響しているのか? ちがいを把握して自分の中で消化し、言語化することもスキルを向上していく上でとても大切なことです。もちろん手法を知らなくては、ちがいを認識することは難しいでしょう! ですが、己で思考した後に文章を読んでみることでハンズオンの価値はより向上するはずです。定着力も上がりますしね!
では回答編です。
「PASS:S~LL」となっているものは「派手学」の文字のパスになります。
そもそものつくりが、今回はパスからアプローチをしているというわけですね!
パス自体はAfter EffectsのオートトレースやIllustratorで簡単にテキストのアウトラインを出すことができます。そしてそのアウトラインを太らせ、4段階にサイズを分けています。
ではなぜそのようなことをする必要があるのか?
これが「派手学」完成版で使用しているElementのシーンです。Extrusion Modelの数が全然ちがいますね!
先ほども解説したように、Extrusion Modelは1つのModelで5つのBevelをもつことができます。つまり、Bevelだけで形状の大きさや形に差をつけるのではなく、パス自体から大きさに差をつけてあげるのです!
そこからさらにBevelを調整してあげることで、より複雑な文字の見た目にすることができます。単純計算で1×5のBevelを何個も作成できますからね。さらにそのBevelにテクスチャが適用されていき、そのテクスチャもいくつも設定できるので、すごいつくり込みができそうですね!
パスから様々なものを作成できることもあり、遊技機業界にはElement 3Dの魔術師のような方がたくさんいらっしゃいます。Elementに限らずとも、すごく学びが多い業界ですよ! 情報量こそが見映えを良くし、派手にするために必要なことなんです!
それでは最後に、さらなる情報量の追加のために和柄テクスチャを適用していきましょう。今回はPIE Ineternational様から発売されている「和の伝統デザイン」という素材集の波模様をお借りしております。
金風に加工したらテクスチャの完成! これをElementのScene内Normal Bumpの項目に適用します。
このようにして文字に柄を入れることができました。Normal Bumpはかなり強めに影響がでる項目なので、パーセンテージは少なめをオススメします。いろいろ探ってみてください!
After Effectsで作成するあらゆるものに通ずることですが、様々なアプローチでゴールを目指すことができます。そしてそのアプローチ手法次第で、いろいろな表現をすることができます。
「手法はこれが正解だったのだろうか?」ということを常に考えてみましょう。そして先輩や他のデザイナーと照らし合わせることで、相互的な成長にも期待ができると思います!
さて、今回はNormal Bumpを使って模様を疑似的に表現しました。この手法の別の方法としては、波のパスを文字に押し出して適用し、その模様を別レイヤーに複製、「派手学」という同じ文字でトラックマットをつくり、文字からはみ出した部分をマスクで隠す、という手順でも実現可能です。こちらの方法を採れば、模様部分に立体的な膨らみをもたせられるので、よりリアルな質感を出せるでしょう!
今回は可視部分にのみ柄を入れていますが、パスで細かく分けているのでどの部分にも柄を入れることが可能です。演出ごとの動きや意図、クライアントの要望に応じて都度変更していきましょう!
そして、今回の文字は遊技機らしくコントラストを調整して完成!
このように、文字に柄を入れることで視覚的な華やかさだけでなく、直接的な“情報量”を増やせます。派手さの演出には色や陰影も有効ですが、“柄”にはそれ以上に直接的な情報や意図・由来が詰まっていて、「派手だなぁ!」という印象に直結する要素ではないでしょうか?
柄には視覚的な情報量だけでなく、柄ごとに意味があります。
青海波は「末広がりの幸運」や「子孫繁栄」
麻の葉は「成長」「魔除け」
籠目には「厄除け」
七宝には「円満・調和」などなど……
和柄に限らず、様々な柄にはデザイン的な意図や柄自体に意味があります。これらを理解することで、単なる装飾ではなく“深み”を伴ったデザインが生まれるはずです。柄がもつ歴史や意味を学んでデザインに活かすことは、自分のスキル向上にもつながる素敵なアプローチですね。
キメ細かい配慮をデザインに施しつつ派手なものを完成させる! そんなプロの技を目指して一緒に頑張っていきましょう!
装い表現編:まとめ
このように、派手な見せ方の基本として柄と色の組み合わせで表現することが、古来の日本では一般的でした。CGでの映像表現においても、派手な見た目をつくる際の基本として頭に入れておいてください。
一方で、柄と色による派手さの演出は画面全体にメリハリがなくなり、映像として印象に残らなくなる点に注意しましょう。
様々な柄・模様と色の組み合わせ次第で、表現の幅は広がります。皆さんも、求める表現を深めるためにぜひ活用してほしいと思います。
次回は「派手学:光表現編」として、先ほどの注意点であるメリハリを光の効果で乗り越える手法を一緒に研究していきましょう。
INFORMATION
エゴ・ワンでは遊技機企画者、遊技機制作者、作画アニメーターを募集しています。オフィスも拡大を考えておりますので、ぜひこの機会にチャンスを掴みに来てください。詳しくはエゴワンHPまで!
https://www.ego-one.jp/