クラフト感を生む「奥行き」とは? ディレクターデュオ・NIOの制作哲学と、インテル® Core™ Ultra 9 プロセッサー 285K 搭載 DAIV FX-I7G80の実力
「人間の記憶にある理想の光を再現する」「安っぽさとクラフト感のちがいは“奥行き”にある」――。独自の制作哲学に基づき、見る者の心を惹きつける作品を生み出し続けるディレクターデュオ・NIO。実写の知見とCG技術を融合させる彼らにとって、制作の道具であるPCはどのような存在なのか。
また今回、同氏が、Intel最新CPU・インテル® Core™ Ultra 9 プロセッサー 285Kを搭載したマウスコンピューターのクリエイター向けPC「DAIV FX-I7G80」をテスト。ZBrushでの快適なハイポリゴンモデリングや、ハードウェアへの深い知見に基づく評価、そして彼らが「ずっとインテル」と語るインテルの CPUへの信頼まで、詳しく伺った。
11/23(日)17:30よりCGWORLD CREATIVE CONFERENCEにNIOが登壇!
記事では掲載しきれなかった貴重な中間素材に加え、制作プロセスの詳細なワークフロー解説もご紹介する予定です。クリエイターの皆さまにとって参考となる情報を、より深くお伝えできればと思います。ぜひお申し込みください。
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※参加費は無料です。
※席数には限りがあります。お早めにお申し込みください。
プロフィール
NIO
KANA NIOとTAKUTO NIOが夫婦で活動するディレクターデュオ。VaundyやHumpBackなどのMV監督・3DCGなど多数の作品に携わる。KANAは主に、ZBrush, blender, Substance Painterでビジュアルを制作、TAKUTOはCinema 4Dで映像制作を行う分業体制。制作環境には活動開始から一貫してIntel製CPUを使用している
www.vinio.net
ディレクターデュオNIOの歩み
CGWORLD編集部(以下、CGW):本日はよろしくお願いします。まずは改めておふたりのキャリアについて伺います。
KANA NIO氏(以下、KANA):KANA NIOです。私は音楽をはじめとしたカルチャーが好きだったので、慶應大学卒業後は音楽レーベルに就職して、A&Rやプロモーションなどを担当していました。
CGW:そこから、ご自身で手を動かす方向へ?
KANA:はい。もっと自分で手を使ってつくりたいという思いが強くなり、ロンドン大学ゴールドスミス校の大学院に留学しました。
その後、グラフィックデザイナーを経て、3DCGアーティストとしての勉強を始め、今に至ります。現在はアートディレクターやキャラクターデザインなどを担当しています。ただ、ふたりでやっているので、そこまでがっちりと棲み分けはしていません。
TAKUTO NIO氏(以下、TAKUTO):TAKUTO NIOです。僕は大学で映像を学んだ後、東京の制作会社でアニメのコンポジットや広告アニメーションの編集などをしていました。自分でカメラを持って撮影するビデオグラファーのようなこともしていましたし、CGも少し触っていました。
その後、広告代理店のインハウス制作会社を経て独立しました。映像を制作する際は、基本的には自分たちでできるところは全部やりたい。自分たちで手を動かさないといけないという気持ちが人一倍強いと思います。
CGW:そこはおふたりの共通点ですね。実写の撮影経験はアニメーション制作に活かされていますか?
TAKUTO:特にCGのライティングに活きていると思います。実写の撮影では照明さんなど多くのスタッフと分業になりますが、CGならライティングもカメラワークも全部自分で操れる。そこが心地良いですね。
CGW:KANAさんはどのようにCGに興味を持たれたのですか?
KANA:私はグラフィックデザインの中でもイラストレーター的な動きをしていたのですが、コロナ禍の時期に、2Dを深めるよりも何かちがうことをやりたいと思ったのがきっかけです。私自身、はっきりとは覚えていないのですが、どうやら突然「3Dをやりたい」と言い出したらしいです(笑)。
TAKUTO:僕が「それなら絵を描いてきた経験を活かして、モデリングや造形から始めたらいいんじゃないか」と。こういうソフトがあるよ、とZBrushを勧めました。
CGW:なぜZBrushを?
TAKUTO:僕はCGをずっとやっていましたが、モデリングがすごく苦手で。でも彼女は絵が描けるし、造形領域をやらせたら上手くいくだろうな、と。実際、ZBrushを教えたら楽しそうにしていたので、僕としても「ラッキー、苦手分野を補ってくれる」と思いましたね。
ライティングでは画づくりを優先
CGW:NIOの作品は、モデルの温かみと、ライティングの柔らかい空気感が非常に印象的です。
TAKUTO:一般的なライティングに留めていないからでしょうか。僕の場合、いわゆる3点照明のような標準的な構成を組みつつも、それに加えてポイントライトをたくさん配置します。そこらじゅうに散りばめる感じで。
CGW:光源を気にせず?
TAKUTO:はい。常識に基づく「あそこに照明があるから、ここから光が漏れる」といったリアルさは追求していません。それよりも、最終的な画が綺麗だったら良いという考え方です。だから、これが何の光かわからないような場所にポイントライトを置いたりします。
出典:Vaundy 2nd Album "replica" Disc 1 TRAILER (2023.11.15 release)
CGW:作品全体に漂う手づくり感、クラフト感もNIO作品の特長です。
TAKUTO:僕らはふたりとも、業界標準のちゃんとしたCG教育を受けていません。なので、フォトリアルや正しさで勝負しても勝てないだろうと思っているんです。
CGW:なるほど。それが逆に作家性に繋がっていると。
TAKUTO:AIもそうですよね。AIは基本的に綺麗な画、正しい画を出すのが得意。だから僕ら人間はあえて構図や配色の正しさを一度捨ててみても良いのかな、と。
KANA:自分たちの手で掴んだ少しの正しさと、自分たちにできない部分(欠落)やエラー。そういうものをこねくり回すことで生まれるものを作家性と呼ぶのかな、と思います。そこで大事なのは「奥行き」です。
CGW:「奥行き」とは。
KANA:例えば、「安っぽさ」と「クラフト感」のちがい。それは奥行きだと思うんです。
KANA:物理的な空間の奥行きだけでなく、「時間の物語性」としての奥行きです。時間の物語性には2つの要素があります。
ひとつはテクスチャ。テクスチャが汚れているとか割れているという表現で、「どういう人が、何年かけて、どう扱ったか」をそこに宿すことができます。几帳面な人が10年大事に使ったモノと、1歳の子供が3ヶ月遊んだモノとでは、宿る物語がちがいますよね。
もうひとつは、人間が「綺麗だな」「リアルだな」と思う光と、物理的にリアルな光とのちがいによる奥行きです。
TAKUTO:それ、宮崎 駿さんも言ってますよね。「自分の記憶を掘り起こせ」って。スマホでパッと撮った夕日と、小学校の帰り道に見た(と記憶している)夕日って全然ちがいますよね。人の脳みそにある夕日を描け、ということで。
KANA:現実に見た光は、記憶の中ほど綺麗じゃなかったかもしれない。でも、その脳内にある理想の光や理想の質量感を再現して記憶にアクセスすることで、人は綺麗だと感じてくれる。それが私たちの画づくりの核にあるかもしれません。
CGW:アニメーションについては?
TAKUTO:そこはモンブラン・ピクチャーズの竹野智史さんと、キャラクターアーティストのヤマダダイキさんにほぼお任せしています。感覚が近いのか、あまり細かい指示をしなくてもスムーズに進めていただけるんです。ただ、カメラワークには僕もこだわります。実写畑の経験から、Cinema4Dのカメラリグを使用してクレーンの動きを再現したりしています。
CGW:手描きのエフェクトも非常に印象的です。
出典:replica / Vaundy:MUSIC VIDEO
TAKUTO:あれはカナダの映像作家ノーマン・マクラレン(1914-1987)からの影響が大きいです。彼はフィルムに直接、尖ったもので傷をつけて削ったり、汚したりしてアニメーションをつくっていたんですよ。
CGW:狂気的な技法ですね。
TAKUTO:はい、そこがめちゃくちゃ好きで。この技法を3Dの上に乗せたら面白いだろうな、という感覚でやっています。このエフェクトは、僕が最初に勤めた会社の先輩で、エフェクトアニメーションが得意な畳谷哲也さんにお願いしたりしています。
KANA:手づくり感とリアリティのあるライティングのように、少しズレのある要素を入れると、良い違和感が出ることが多いんです。3Dと2Dの組み合わせもそのひとつですね。
TAKUTO:初期の自主制作から、3Dのキャラクターの目や口だけ2Dで手描きする、といった表現はよくやっていました。
CGW:CGはどのように勉強されたのですか?
KANA:独学です。リトポロジーの作法など基礎ができていないので、アニメーターさんに迷惑をかけていることも多いと思います(苦笑)。
だから、独学に使った教材も、見るだけのチュートリアルではなくて、ちゃんと添削してくれるものを選びました。CGMA(CG Master Academy)というオンライン講座です。6週間ほどのコースで、毎週出る課題をこなして、添削してもらうんです。ZBrush、Substance 3D Painterは、『CGWORLD +ONE Knowledge』香取 政人 氏による「テクスチャで魅せる~説得力をもたせる背景テクスチャリング術~」講座で覚えました。
TAKUTO:僕はColosoでCinema 4DとRedshiftを習得しました。
クリエイターに寄り添うDAIV FX-I7G80の実力――パフォーマンスからデザイン、静音性、拡張性まで
CGW:ここからは、今回検証いただいたマウスコンピューター「DAIV FX-I7G80」の使用感を伺っていきます。どのように感じましたか。
今回NIOが試用した検証機
マウスコンピューター DAIV FX-I7G80
- CPU
インテル® Core™ Ultra 9 プロセッサー 285K
※標準のインテル® Core™ Ultra 7 プロセッサー 265K からカスタマイズ
- GPU
NVIDIA® GeForce RTX™ 5080
- メモリ
32GB
- SSD
2TB
KANA:私はZBrushでモデリングをしてみました。普段ハイポリゴンでモデリングする際にはダイナメッシュを多用するのですが、そのリメッシュの待ち時間がほとんどなくなりました。こまめにやる工程なので、待ち時間があると集中力が途切れてしまうんです。最近は3Dプリンタ出力用にあえてハイポリのまま作業することも増えているので、これは本当に嬉しかったです。
KANA:Substance 3D Painterでの8Kテクスチャのベイクも、私のマシンで49秒かかっていたのが、検証機では34秒。体感としてもかなり早く感じましたし、この差は作業の集中力を保つ上で大きいです。
CGW:TAKUTOさんのハイエンドマシンと比較してみるといかがですか。
TAKUTO:僕のメインマシン(Core i9-12900KF / 128GB / RTX 4090)とCinema 4DのAlembicベイクで比較したところ、25秒が22秒になりました。GPUやメモリが僕のマシンの方がスペックが良いので、それでも短縮できているのは驚きです。
KANA:ひとつひとつは数秒から数十秒の差ですが、制作工程全体で見ると積み重なって大きな時短になります。個人で作業するクリエイターにとって、この効率化は本当にありがたいですね。
インテル® Core™ Ultra 9 プロセッサー 285K――クリエイティブワークフローを加速する新世代CPU
今回NIOが使用したインテル® Core™ Ultra 9 プロセッサー 285Kは、クリエイター向けの性能が大幅に向上した最新世代のCPUだ。
CGW:クリエイターの視点から見た筐体デザインはいかがですか。
KANA:コロンとして可愛いなと思います。デザイン性もカバーしてくれるのは嬉しいですね。
TAKUTO:僕は「DAIV」というブランドがもともとすごく好きです。BTOパソコンでここまで外観が良くてカスタマイズ性が高いマシンはなかなかない。
CGW:カスタマイズ性もポイントですね。
TAKUTO:メモリが128GBまで積めるのが良いですね。他のメーカーではハイエンドモデルでもそこまでは積めないことも多いですから。僕はAfter Effects、Premiere Pro、Cinema 4Dを全部同時に開きながら作業するので、128GBでも足りないくらいに感じることがあります。
KANA:それと、静かですよね。DAIVは「本当に電源入ってる?」と思うくらい静かで、集中しやすいです。
TAKUTO:それとこのキャスター! 最高です。前のシリーズのDAIVを会社で使っていた時から、移動のしやすさが抜群で。
KANA:女性でも動かしやすいです。
「ずっとインテル」――父の代から受け継ぐCPUへの絶大な信頼
CGW:TAKUTOさんは自作PCユーザーとのことですが。
TAKUTO:父が昔からの自作PCユーザーで、大学の入学祝いとしてふたりでPCを組んだりしていました。「CPUはインテルだろ」と言っていた父の影響で、僕はCPUはずっとインテルです。すごく思い入れがありますし、安心感がある。小学生の頃にCore 2 Duo、中学生でCore i7が出てきて。「映像やるならCore i7だ」と父に言われて組んでもらったのが最初ですね。
KANA:私は2004年ごろに放映されたインテルのCentrino(セントリーノ)のCMがすごく好きです。音楽と質感が印象的で素晴らしい。
TAKUTO:インテルのCMって全部いいよね。我々ってインテル入ってる(笑)。
CGW:インテルのCPUに対する信頼感が伝わってきました。本日は貴重なお話をありがとうございました。
TEXT_kagaya(ハリんち)
PHOTO_弘田 充
EDIT_中川裕介(CGWORLD)