Topic2:スランテッド流・実写合成のコツ
実写撮影もCG制作もこなしこだわりを映像につめこむ
入念な撮影準備を経て、いよいよ選手とロケーションの撮影、ポスプロ作業だ。
先述の通り選手と背景は別々に撮影されている。背景の実写プレート撮影に先立ち、選手はACミランのミラネッロ・スポーツセンターの練習場にグリーンスクリーンを立てて撮影された。選手ひとりあたりの撮影時間は2時間という制限があったため、分刻みの香盤表の下で進めつつも、選手のスケジュールがずれるハプニングも多々あったそうだが、その都度臨機応変に対応していったという。
「タレントさんは仕事として撮影に慣れているので、香盤表通りに進むことが多いのですが、スポーツ選手にとってCM撮影は本業外の仕事なので、ときにはハプニングもあります。香盤の崩れたところは、選手の役割を入れ替えるなど臨機応変に対応しました」と山内氏。
選手撮影後は、プリビズの背景素材に選手の実写プレートを合成しながらオフライン作業に入る。このオフラインをクライアントチェックに出し、本格的にCGチームが制作を開始。クロマキー抜きや、CG背景に置き換わるようなカットのモデリングから作成していく。
また、10月初旬の3回目のロケとなる背景撮影に向けての下準備も同時に進められた。
背景はRED EPICを使った4Kで撮影され、撮影後に最終的なオフライン作業が行われて尺が決定される。
ここから本格的なポスプロ作業だ。
ポスプロ作業では、CG制作に3ds Max、MayaとMARI、コンポジットにNUKE、トラッキングにSynthEyesと多種多様なツールが用いられている。実写で撮影したように見えるシーンでも、演出的に見せたい動きがあるボールの動きや、実況中継するヘリコプターなど、3DCGで置き換わっている要素も多い。特に、全編で登場するAudi R8はほぼ3DCGで描かれているとのこと。
今回のポスプロ作業で特に難しかったのが、実写合成素材同士のライティング合わせだという。実写プレートは入念な準備の下で撮影されているとはいえ、ショットによっては撮影時の都合により光の方向が合わない素材もあり、コンポジット作業で光の方向を変えることで対応されている。
光の方向を変えるリライトの作業はコンポジットだけでは対応できないため、社内のコンポジティングで90数パーセントまで詰めた後、オンライン編集にまわしている。カラーグレーディングに関しても、素材ごとのグレーディングは合成作業を考える必要があるため、山内氏が自身でグレーディングを担当しているという。
▼人物合成の肝
本作の随所でみられる人物の合成について紹介する。ちなみに選手の実写プレートはグリーンバックを立てて撮影されているが、地面部分のグリーンバックは3m四方程度しか用意されておらず、急遽グリーンのカーペットなどを調達して対応したという。
撮影前に作成されたプリビズ。選手が演技する参考にもなっている
リッカルド・モントリーヴォ選手とジェレミー・メネス選手の実写プレート
Keyerで作成されたマスク素材
アディル・ラミ選手と本田圭佑選手の実写プレート
同マスク素材
ロケで撮影された背景プレート
背景素材と簡易合成された選手。何も調整せずに合成すると、グリーンバックの色かぶりなどがあるため、グレーディングを施しながら調整していく
綺麗にキーアウトできるように、グリーンバック素材にスピル除去の作業を行い、不要な緑成分を除去する
スピル除去した人物素材を背景に合成。この段階ではまだエッジの処理が不十分な状態となっている
NUKEのコンポジットノード。このショットは比較的シンプルな構成だという
素材によっては、図のようにエッジに不要な色が乗ってしまうことがあるため、VectorExtendEdgeというノードでエッジ部分の色を外側に拡張する。左が適用した状態
エッジとカラー調整を行なった完成画像
▼リアルなクルマ表現
本作の見どころでもあるクルマの3DCGのコンポジット。スランテッドでは日頃からクルマを題材とした映像制作に携わることが多いため、様々なノウハウが詰め込まれている。
プリビズ画像
背景の撮影素材。このロケーションでは激しいクルマの運転はNGだったたため、空舞台で撮影された。クルマの動きを想定したカメラワークも加えられている
背景プレートをマッチムーブした状態
実写プレートの動きに合わせてクルマのアニメーションを付けていく
レンダリングしたクルマの3DCG素材を合成した画像。影や映り込み、グレーディング処理はまだ行われていない
クルマをパーツごとに細かく調整するために、細分化されたマルチマットを出力している。今回はクルマがメインの映像ではないのでこの程度だが、クルマが主役の場合は20以上のマスクを出すという
完成画像。クルマのCG合成ではまず、背景とクルマの3DCG素材の黒レベルを合わせるところから始まり、ボディやガラス素材など映り込みの多い部分から調整を行なっていくという。モーションブラーは3DCGで付け、2DによるVelocity Blurは使われていない
▼3DCGで再現された路地
街中のシーンでは、ロケで撮影された写真素材を組み合わせてカメラマップで生成している背景もある。図はその一例だ。
カメラマップ用に撮影された背景の写真素材。選手撮影時のカメラの動きに合わせて複数撮影されている
ロケ時の計測データとマッチムーブのポイントを基にMayaで街並を簡単にモデリングしたもの。カメラマップ用の写真が撮影された位置に、カメラが配置されている
MARIにMayaで作成したシーンを読み込み、カメラから写真を投影して貼り付け、写真ごとの境界を馴染ませていく
MARIによる作業の後、Mayaに戻してレンダリングした背景。選手の実写プレートの動きに合わせてカメラワークの調整も可能だ
人物を合成して調整された完成画
▼アニメーションにこだわったカルガモ
作品の途中で登場するカルガモの親子も、3ds Maxによる3DCGで作成されている。ロケでは剥製のカルガモや縫いぐるみを置いてリファレンスが撮影された。子カルガモのかわいらしい動きを求めてリテイクを重ねた山内氏こだわりのカットだ。
プリビズ
剥製のカルガモをリファレンスとした現地の撮影素材
カルガモのヨチヨチ感を出すため、アニメーションは20テイクを超えた。力の入れどころを間違っているとも思われそうだが、こうしたこだわりの積み重ねで良い作品が出来上がる
Furの要素など、クルマとは異なるエレメントが出力された
コンポジット作業画面
完成画
[information]
『AC Milan vs. Super Car by TOYO TIRES』
広告代理店:電通
制作会社:ダンスノットアクト
www.youtube.com/watch?v=M092PBHytC8
TEXT_ 大河原浩一(ビットプランクス)