>   >  デジタル作画のメリットとデメリットは?「KCCデジタル作画セミナー&セルアニメ新時代研究部会」をレポート。
デジタル作画のメリットとデメリットは?「KCCデジタル作画セミナー&セルアニメ新時代研究部会」をレポート。

デジタル作画のメリットとデメリットは?「KCCデジタル作画セミナー&セルアニメ新時代研究部会」をレポート。

京都発信、セルアニメ新時代!

イベントの後半は「京都発信、セルアニメ新時代!」と題された公開研究部会。ジャーナリスト真狩祐志氏の司会のもと、産学さまざまな立場からアニメ制作に携わる7名の登壇者がめいめいの意見を交換した。

トピックとしては、アニメ制作の現状や2000年代以降の変化、労働環境の厳しさ、人材育成などがあげられるが、中でも印象深かったのは、デジタル化のデメリット、弊害についての話題。

前半での講演のとおり『外部との連携面』が喫緊の課題として挙がったが、加えて『初期投資の高さ』『データ管理』『人材育成』もデメリットとして挙げられた。

  • 「アニメ業界は非常に多くのフリーランスによって回っている面があります。スタジオに属していればデジタルツールを学ぶ機会も作れますが、フリーランスの場合各自で習得することになります。ソフトだけでなくタブレットも買ってもらって、設備を整えてもらわないと仕事を出せません(ライデンフィルム・坂本氏)」

また、そうした制作実務で用いる機材以外にも、ストレージやネットワークなどのインフラ、システムスタッフを立ててセキュリティや情報漏洩についての保守を行うなどの課題も無視できない。

  • 「いままでは言ってみれば"タップ一本渡り鳥"で成り立ちましたが、今後はシステム面に予算を立てることも必須になります。経営側がそのあたりにも責任を持ってあたるべきで、それに合わせて経営体制も変革していくことになるでしょう(コロリド・宇田氏)」

データ管理については、これまで『紙の管理』を行っていた部分がファイルベースに置き換わることになる。全く新規のパートというわけではないが、スキルセットが異なるものであり、感覚の置き換えには十分な時間を要するだろう。

そしてこれら二つとも密接に関わってくるのが、育成の部分だ。どこでどのように習得するのか以外にも、作画ソフトのスタンダードが定まっていない現状、どれを学ぶかという判断は容易にはつかない。ただ、一側面としてツールが定まるのを多勢が『待ち』とした結果、デジタル移行が長引いている向きも決して皆無ではないだろう。また、画材が紙からデジタルへ移行するという点そのものは、「アナログがうまい人はデジタルでも当然うまい。また、若い方ほど画材に対してデジタルかアナログかは問わない印象がある(セルシス・野崎氏)」「作業分担が集約され、表現にこだわれるように拡張される(ワコム・轟木氏)」と必ずしもデメリットにはあたらないようであった。

すでにデジタル作画フローの実践を進めるコロリド宇田氏からは、経営的な目線として「作業の集約」がメリットして挙げられた。デジタルなツールを用いることで、これまでは作画のみに携わっていたスタッフが着彩や撮影にもタッチでき、結果的にスタッフ一人一人の収入増に繋げられるというものだ。「多様な業務をこなすことになりますが、その分一人当たりの報酬はあげられます。業務時間については、アニメ業界一般よりは短くできていると思います。また、今後のツールの進化や環境整備によっては、さらに効率化を図れるでしょう」

このイベントは今後も年一回程度のペースで開催され、継続して成果を確認することが構想されているとのこと。

  • 「フローのデジタル化に伴いワークフローが激変し、業界の流れが変わるのではという機運を感じます。大きく動いていくなかで、様々な側面を視野に入れて多角的な意見を言い合う場にできたらと思います(ジャーナリスト・真狩氏)」

まだまだ強固な東京一極集中傾向を持つアニメ業界だが、近年は地方にもスタジオを設ける制作会社が相次いでいる。京都のスタジオ、大学、行政が連携しての本イベントは、継続して開催されるなかでより意義を増していくことだろう。今後に強い期待を寄せたい。

TEXT & PHOTO_岸本ひろゆき




  • デジタル作画セミナー&セルアニメ新時代研究部会

    日時:2015年12月5日(土)
    主催:京都精華大学アニメーション学科、京都クロスメディア・クリエイティブセンター(KCC)、京都府、京都市
    協力:株式会社スタジオコロリド、株式会社ワコム、株式会社セルシス、株式会社ボーンデジタル、CGWORLD、文部科学省事業「アニメ・マンガ人材養成産官学連携コンソーシアム」
    後援:一般財団法人 デジタルコンテンツ協会

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