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GDC2016に見るハイエンドVR&ゲームグラフィックス動向

GDC2016に見るハイエンドVR&ゲームグラフィックス動向

リアルタイムアニメーション技術に斬新な手法を持ち込んだ「For Honor」

カナダに大型の開発拠点を置くフランスのゲームデベロッパー・パブリッシャーのUbisoftは、2016年内の発売を予定しているPC/PS4/Xbox One用のアクションゲーム「For Honor」で非常に斬新なモーション遷移システムを実装している。

Ubisoftで10年のキャリアを持つアニメーションプログラマーのSimon Clavet氏が「Motion Matching」と呼ぶこの手法では、歩く・走る・止まる・方向転換等の各モーション遷移について、人の手による作業をほぼ完全に排除した。

▲「For Honor」。中世の騎士・侍・バイキングがソードファイトを繰り広げるアクションゲーム

▲For Honor Gameplay - Multiplayer Walkthrough - E3 2015 [Europe]

従来の考え方では、各モーションはあらかじめ適切な長さのモーションクリップに手作業で分解され、遷移図上でそれらのクリップを適切につなぎ合わせることで各モーションの遷移をプログラムしていた。この場合、モーション間のつながりを自然に見せるためには、遷移が生ずるモーションクリップ間の"出口"と"入口"が、人の手で丹念に調整されていなければならない。ユーザーの入力が介在しないカットシーンなどでは、各モーションが生ずる(遷移する)タイミングをアニメーターが全て制御できるため、この手法で問題はない。

しかし、ユーザーの入力に機敏に反応しなければならないアクションゲームでは、従来の手法では限界がある。アニメーションを自然に見せることを優先すれば、規定のモーション遷移タイミングを尊重することになり、操作性や自由度が低下する。ユーザー入力への反応を優先すれば、モーション間のつながりが不自然になることを許容したり、移動方向とキャラクターの動きが合っていないタイミングが生ずるような部分を許容するほかなかった。アクションゲームにおけるアニメーション表現の歴史は、この限界を、モーションクリップ数や遷移パターンを増やしたり、補完アルゴリズムを高度化させることによって「ごまかす」ことに終始してきたといってもいい。

これに対して「For Honor」で実装された「Motion Matching」アルゴリズムでは、全く異なるアプローチでリアルタイムアニメーションを生成する。

▲非常に自然なつながりを見せるモーション遷移

このアルゴリズムで使用するデータは、「走る」、「平行移動する」、「武器を構えて歩く」、「武器の持ち手を変更する」といった、ゲーム中で生ずる様々な動きを、アクターがそれぞれ数分間も変化をつけながら繰り返した、ひとつながりの長大なモーションクリップだ。

▲本作のために行なわれたモーションキャプチャセッション。一種類の動きを数分間も繰り返し、それを丸ごと収録する

本作のアニメーションエンジンは、ユーザーの入力に応じて生ずるキャラクターの姿勢・移動速度・方向・回転速度等の移動パラメーターをもとに、全てのモーションデータの中から最も適切な1フレームを選択し、遷移させる。この処理は毎フレーム行なわれるため、いついかなるタイミングでユーザーの新たな入力が生じても、常に自然なつながりを持つアニメーションが再生される。

▲ユーザー入力に応じて将来の移動方向を予測し、それに近い移動結果が得られるフレームが優先的に選ばれる

なお、数分~数十分にも及ぶモーションデータの全検索を正面から行なうのはさすがに負荷が高いため、モーションデータの各フレームには、検索時に用いられるパラメータが予め紐付けられている。そのフレームにおける両足や武器の位置、移動ベクトル、将来の移動方向といったものだ。これを現時点のフレームにおけるそれとマッチングさせることで、最適な遷移先フレームが見つけられる仕組みだ。

▲姿勢、勢い、各部位の動作方向などがパラメータ化されており、検索のために使われる

▲モーションフレーム検索の精度や動作遷移の自然さを高めるため、ゲーム側で大胆に移動方向の予測を行なっている

一方、剣を振る、防御するといった移動以外のアクションについては、ゲームデザイナーによる緻密な調整を可能とするため、基本的には事前にプログラムされた遷移パターンを尊重するつくりになっている。この場合は事前に人の手で切り分けられたモーションクリップが用いられるが、各アクションの合間に細かく発生する移動アクションについてはMotion Machingが働くため、いわゆる「待機アニメーション」を挟む必要なく、自然な動きのつながりと、機敏な操作性が実現される。

▲攻撃等のアクションについてはゲームロジック優先型の遷移手法が採られている。手付けしたイベント情報等による割り込みも可能

▲本作におけるアニメーション全体の処理パイプライン

このように「For Honor」で実装されたMotion Matchingアルゴリズムはアクションゲームのアニメーション表現に一石を投じる革命的な手法だが、唯一の難点は膨大なモーションキャプチャセッションの実施が必要となることだ。

つまり、完全に自然な動きを実現するためには、ありとあらゆるシチュエーションに対応した動きがあらかじめ収録されていなければならないが、事前にそのすべてを把握することが難しい。1度のモーションキャプチャセッションで全てをカバーすることはできず、動作テストを行いながら不自然な動きをするパターンを見つけ、その穴を埋めていくために追加のモーションキャプチャセッションを実施する必要があるというわけだ。

このため「For Honor」の開発チームでは、週に1回、繰り返しモーションキャプチャセッションを実施し、モーションの穴を埋めているという。こういった負担が生ずるため、本手法を本格的に利用できるのは大手スタジオに限られる可能性があるものの、ゲームにおけるリアルタイムアニメーションをひとつ上の次元に引き上げるポテンシャルを秘めた手法であることもまた間違いない。

TEXT & PHOTO_佐藤カフジ

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