俳優の雰囲気まで表現した"スマート・ハルク"のVFXメイキング/ケリー・ポート氏(VFXスーパーバイザー、ILM)
「ILMのVFXスーパーバイザー、ラッセル・アールです。肉体はハルクで、頭脳はブルース。この状態を「スマート・ハルク」(=賢いハルク)と呼びます。このデベロップメントは、実は『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』のときにはじめたのですが、ストーリーが変更になり『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』ではスマート・ハルクが登場しないことになり、今回の『アベンジャーズ/エンドゲーム』で初めて登場しました。
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「"スマート・ハルク"に、俳優マーク・ラファロがもつ雰囲気をなるべく出すため、全身をスキャンし、Medusaによるフェイシャル・キャプチャによってライブラリを構築し、コンセプト・アートを参考にしながら作業を進めました。過去の作品でハルクを担当した同じアーティストにも参加してもらい、統一感がとれるように配慮しています」。
「まず、マーク・ラファロに脚本に沿って演技をしてもらい、その姿を撮影してリファレンスにしました。彼の性格や人柄も含め、それをなるべく"スマート・ハルク"に反映させたかったのです。このテスト映像を見たマーベル側からも大変ポジティブな反応が得られたため、方向性が決まりました。"スマート・ハルク"は映画の中にたくさん登場しますが、セーターを着ていたり、衣装が複数あるので、その対応も大変でした。ILMはそれ以外にもたくさんのシークエンスを担当しました。この作品は、複数のVFXベンダーに跨った作品ですので、バトル・シークエンスなどではWeta Digitalとアセットをやり取りしながら進めたショットも多数ありました。ベンダーごとのショットのコンティニューイティー(繋がり)が心配になるショットもありましたが、結果的にはうまく行ったと思います」。
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ポータル・シークエンス&バトルシークエンスのVFXメイキング/マット・アイトケン氏(VFXスーパーバイザー、Weta Digital)
「Weta DigitalのVFXスーパーバイザー、マット・アイトケンです。Weta Digitalは『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』と『アベンジャーズ/エンドゲーム』の両方に参加していますが、『アベンジャーズ/エンドゲーム』では、DDと分担して担当したサノス、ポータル・シークエンス、最後のバトルシークエンスなど、全500ショットほどを手がけました。サノスの複雑なフェイシャル・パフォーマンスに対応するめ、Weta Digitalで最近開発されたDeep Shapesというツールを使用し、口角のコントロールを中心に、よりフレキシブルな表情のコントロールが可能となりました」。
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「ポータル・シークエンスについてお話しましょう。ポータル(※作品に登場する入り口のようなもの)の基本アイデアは『ドクター・ストレンジ』からいただきましたが、われわれのアプローチはHoudiniのパーティクルSIMとボリュメトリック・スモークの組み合わせで表現しました。ポータルのサイズ自体は非常に大きなものですが、観客が"ドクター・ストレンジのポータルだ"とすぐに認識しやすいよう、見た目の雰囲気を合わせています。ポータルの中には、ワカンダ、ニューアズガルド、宇宙空間など、複数のエンバイロンメントが見えています。このシーン構成は、かなり複雑なものになりました」。
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「最後のバトルシーンについお話しましょう。さて、アベンジャーズ軍団が突撃しているシーンのオリジナル実写プレートを見てみると、様々な問題があることがわかります。まず、ブラックパンサーのスタントマンですが、1人だけ足が速すぎて、みんなから先行し過ぎたばかりか、とうとう画面右端から見切れてしまっています(笑)。また、左端で走っているスタントマンは、何かにつまづいて、おもいっきりコケてしまっています(場内大爆笑)、幸いケガ人は出なかったようですが。そこでデジタル・ダブルを使って、差し替えを行いました」。
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「さて次は、トニー・スタークが指を鳴らしてインフィニティ・ストーンの力を発動するシーンです。まず実写プレートでは、トニーのコスチュームは完成ショットと異なるのがおわかりいただけると思います。これにHoudiniのプロシージャル・ジオメトリ、インフィニティ・ストーンのパス、エナジーラインのパスなどなど、複雑なレンダーパスを合成してショットを仕上げていきました」。
「デシメーションによって塵になっていくショットでは、ディテールとタイミングの調整に時間を費やしました。Houdiniのシュミレーションによる、3Dの塵、ダスト素材、フレークなどを複雑に組み合わせています。そしてこれがファイナル・ショットになります。背景の煙素材はNUKEのプラグインEddyを使って表現しています。このプラグインは、ボリューメトリックSIMの煙パスを比較的早くつくることができます。
Q&A
Q:ジェンに質問です。プレビズはクリエイティブ・ツールとして使いますか? それとも、VFXベンダーに割りふるためのビジネス・ツールとして使いますか?
ジェン・アンダダール:その両方と言えます。ストーリーテリングのロードマップを決める大きな助けになりますし、VFXベンダーに仕事を割り振る際も、作業量が事前に正確に把握できるので見積もりを取る際にも便利です。
Q:各VFXベンダーで、それぞれAIを使ったツール開発などを行なっていると思いますが、そういった知識やアセットのシェアは、どの程度行なっていますか?
ジェン・アンダダール:アセットのシェアは、納期と予算のバランスを考慮して検討します。例えばサノスの場合、ショット数が多いので1社だけで完成させるのは難しく、WetaとDDで分担してもらいました。ベースとなるモデルをシェアし、その後は各社のパイプラインによって別々に作業が行われます。
ラッセル・アール:われわれは仲間です。現場レベルのパイプラインは他のベンダーと仕様が異なるのでシェアが難しいですが、アセットはシェアしています。VFXベンダー各社は単なる競合相手というより、良き友達でもあります。彼らが難しい効果をどうやって実現したのか? そのアイデアを交換することもありますし「あいつらができるんだったら、俺たちにもできるだろう!」と良い意味でのライバル意識で技術向上を図ってがんばってくれてますね。
マット・アイトケン:われわれは、このSIGGRAPHを活用しています。SIGGRAPHは技術や論文をシェアする絶好の場と言えます。SIGGRAPHの場で、日ごろ開発したテクニックをお互いにシェアしています。このプロダクション・セッションの場も、「シェア」と言えます。
Q:ハルクのアニメーションについて質問なのですが、首の筋肉部分はどうしていますか?
ラッセル・アール:通常、首と舌はキーフレームでコントロールしています。
マット・アイトケン:同じですね。首の部分はフェイシャル・リグの一部に含まれています。
ケリー・ポート:同じです。多くの場合、首の筋肉はシェイプ・ベースのキーフレームが、ソリューションとなります。
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Q:デジタル・ダブルについて質問です。全身デジタル・ダブルのキャラクターと、半分だけデジタル・ダブルのキャラがいます。半分だけだと、より作業が難しいと思いますが、そのちがいについて少しお聞かせいただけますか?
マット・アイトケン:確かに、全身デジタルのキャラクターの方がストレートなので扱いは楽です。
ラッセル・アール:作品にもよりますが、スタントをワイヤーで吊って、それを合成したりと実写プレートの要素はなるべく多く画面に残すようにしています。アニメーションの立場で言うと、半分だけデジタル・ダブルの場合、ライブ・アクションとかなり正確にマッチさせないといけないので、作業はより困難になり、優秀なアニメーターやアーティストの手腕にかかってきます。
Q:マットに質問です。技術的・苦労した点・感動した点などを含め、どのショットが最も印象に残っていますか?
マット・アイトケン:とても難しい質問ですね(笑)。さきほど皆さんにポータル・シークエンスをお見せしましたが、あのシークエンスを完成させ、映画が公開となり、アニメーション・スーパーバイザーと一緒に映画館へ行き、実際に観客のリアクションを目の当たりにしたときは、本当に涙がながれましたね。
Q:みなさんは、どのような経歴で業界に入りましたか? フィルム・スクールなどを出ているのでしょうか?
ジェン・アンダダール:私は最初、高校の先生でした。5年間教鞭を取って、何かクリエイティブな仕事をしよう! と決意し、友人のツテでDDに当時あったミニチュア部門で3年間働き、それからデジタルに移行したのです。
ジェラルド・ラメレズ:私は伝統的な道すじで、まずはアニメーション・スクールへ通い、当時まだメジャーでなかったビジュアライゼーションの分野で仕事を得て、この世界に入りました。
ケリー・ポート:僕は歳ですから、VFXがメジャーになる前からこの業界にいます(笑)。DDが創立された翌年にソフトウェア開発部門に入りました。僕はUCLAで史学の専攻でしたので、映像系の学位はもっていません。当時、地球上でまだ珍しい職種だったVFXに興味をもち、DDで当時開発されていた新しい合成ソフトNUKE(現在はFoundryから発売されている)のテスト、Prisms(現Houdini)の導入テストなどを担当しました。その関係で、VFXに関することは全て仕事をする上で学びました。この経験から言えることは、これからこの世界に入りたい方は、可能な限りVFXスタジオのインターン・シップ制度を利用したり、YouTubeやオンライン上にあるチュートリアルを勉強したり、SIGGRAPHへ来たり、常にアンテナを張って学んでいく姿勢が大切だと思います。
ラッセル・アール:私は模範となる学生とは言えませんでしたが、成長期にはいろんなことに興味をもって、例えばリモコン・カーがどのように動作するか? など、物事をクリエイティブに考えるよう(be creative)にしていました。私もジェンと同じようにモデル・ショップからスタートして、それからデジタルに移行して、各種プログラムを勉強して、好奇心を武器にして、ここまで来たような感じです。
マット・アイトケン:私のカレッジ時代は、コンピューター・グラフィックスやVFXのコースをとり、空き時間には8mmフィルムで自主映画を撮って......これはこれでとっても楽しかったですよ。そして徐々にデジタルVFXに関わるようになり、自分が興味あるものを追い求めてきた結果、現在に至るのです。
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ジェン・アンダダール:では、お時間となりました。今日はみなさん、どうもありがとうございました!
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