SIGGRAPH2019期間中に開催されるプロダクション・セッションでは、ハリウッド映画のメイキングが連日披露される。今年も興味深いテーマが目白押しであったが、ここでは「The Making of Marvel Studios' "Avengers: Endgame"」の模様を要約してお届けする。
■関連記事はこちら
「AMD Radeon ProRender」と専用クラウドレンダリングファーム「Bullet Render Farm」~SIGGRAPH 2019 レポート(1)~
超短時間で発表、論文ダイジェスト「Papers Fast Forward」と今年の注目論文ピックアップ~SIGGRAPH 2019 レポート(2)~
※本記事は2019年7月28日に開催されたSIGGRAPH2019での取材内容に基づきます。
TEXT & PHOTO_鍋 潤太郎/Juntaro Nabe
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada
©Marvel Studios
『アベンジャーズ/エンドゲーム』
監督:アンソニー・ルッソ&ジョー・ルッソ、脚本:クリストファー・マルクス、スティーヴン・マクフィーリー、製作:ケヴィン・ファイギ(p.g.a.)、製作総指揮:ルイス・デスポジート、ヴィクトリア・アロンソ、マイケル・グリロ、トリン・トラン、ジョン・ファヴロー、ジェームズ・ガン、スタン・リー、共同製作:ミッチ・ベル、クリストファー・マルクス、スティーヴン・マクフィーリー、撮影監督:トレント・オパロック、プロダクション・デザイン:チャールズ・ウッド、編集:ジェフリー・フォード(ACE)、マシュー・シュミット、衣裳:ジュディアナ・マコフスキー、視覚効果&アニメーション:インダストリアル・ライト&マジック、視覚効果監修:ダン・デレウ、ビジュアル開発主任:ライアン・メイナーディング、音楽:アラン・シルヴェストリ、音楽監修:デイヴ・ジョーダン、キャスティング:サラ・ハリー・フィン(C.S.A.)
marvel.disney.co.jp/movie/avengers-endgame.html
© Marvel Studios
SIGGRAPH会場内のProduction Galleryでも、マーベル作品のキャラクターのコスチュームやプロップの展示が行われていた
©Marvel Studios
2485ショット・1.9ペタバイトのVFXショットを制作/ジェン・アンダダール氏(VFXプロデューサー、Marvel Studios)
「Marvel Studiosのジェン・アンダダールです。『アベンジャーズ/エンドゲーム』ではVFXプロデューサーを務めました。この作品では全14社のVFXベンダーにコンタクトを取り、VFXでエンドクレジットに載ったクルーは2,500人にもおよびます。スタッフ構成は『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』のときとほぼ同じで、制作には2年半を費やしました。全ショット数は2,698、うち2,485がVFXショットでした。ほとんどのショットにVFXが含まれていることがおわかりいただけると思います。全データ量は1.9ペタバイト、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』も含めると3.3ペタバイトでした。これについては、ひとえに、マーベルのITチームのみなさんに心からのお礼を申し上げたいと思います」(場内から笑いと拍手が起こる)。
©Marvel Studios
「このVFXのための背景素材として使用されたライブ・アクション・プレート撮影ではブラジル、フィリピン、NYなど、世界10ヵ所でロケが行われました。VFXではCGキャラクター、CGコスチューム、ディエイジング/エイジング・ワーク(後述)など、様々な作業が必要になりました。特に、映画の中で登場するキャプテン・マーベルのコスチュームは、全てデジタルです。なぜって? それは、単に撮影の段階までに3種類の異なるコスチュームのデザインが決まらなかったという、シンプルな理由によるものなのです。キャプテン・マーベルだけではありません。ほかのキャラクターにも同じようなことが言えます(※そのサンプル画像をみて、場内から驚いたような&あきれたような、ため息が広がる)。......やっぱり、そういう反応になりますよね(場内大爆笑)。今日、Framestoreが参加してくれていないのは、きっと私たちの顔なんか、2度と見たくないからにちがいありません(笑)」。
「マーベル作品では時間軸が交差しますが、この作品は特にそれが顕著で、約200ショット以上でエイジング(登場キャラクターの加齢)/ディエイジング(肌を規定年数、若い状態にする)のエフェクトが施されました。例えばショットの時間軸変化に沿って5歳若返えらせたりと、微妙な調整を加えているのです」。
「足掛け3年間の大変なプロジェクトでしたが、ここにいるVFXベンダーの皆さんのおかげで、素晴らしい作品に仕上がったと思います。本当にありがとうございました」。
Production Sessions『アベンジャーズ/エンドゲーム』パネラー
ジェン・アンダダール氏(VFXプロデューサー Marvel Studios)
ケリー・ポート氏(VFXスーパーバイザー Digital Domain)
ラッセル・アール氏(VFXスーパーバイザー Industrial Light & Magic)
マット・アイトケン氏(VFXスーパーバイザー Weta Digital)
ジェラルド・ラメレズ氏(ビジュアライゼーション・スーパーバイザー The Third Floor)
撮影現場でのセットアップ確認やテスト試写にも活用されるプレビズ・ポストビズ/VFXプロデューサー ジェラルド・ラメレズ氏(ビジュアライゼーション・スーパーバイザー、The Third Floor)
「私はThe Third Floorのビジュアライゼーション・スーパーバイザー、ジェラルド・ラメレズです。The Third Floorでは約50人のクルーがこの作品に参加し、プレビズ、ポストビズ、テックビズを担当しました。プレビズは、動くストーリーボードの役割を果たすほか、撮影現場でセットアップに要する試行錯誤の時間を短縮できる重要なツールとなります。プレビズはアクション・シーンを中心に、ほぼ全てのシーンで使用されています。概算で40シークエンス、7,300ショット、30,000種類のレンダリングを行いました」。
©Marvel Studios
「実際の制作ではMayaでアニメーションをつけ、ビューポートで簡単なレンダリングを行います。ビジュアライゼーションの鍵は"ストーリー・テリング"を見せるのが目的ですので、ArnoldやMental Rayなどのレンダラは使用せず、最速で簡易なレンダリングを行います。テクスチャにはSubstance Painterを使用し、合成にはAfter Effectsを使っています。また、パイプラインを工夫して、作業がより円滑に進むように開発にも力を入れています」。
「ひと昔前であればストーリーボードを起こし、そこからアニマティックをつくったわけですが、現在ではそれらがプレビズに置き換わっています。実際のカメラレンズに合わせたカメラ・アングルや、現実世界の原寸や空間を正確に保ちながらプレビズを起こしていきます。作業のながれは、撮影セットやエディトリアル・ベイへ出向いて監督や編集やVFXスーパーバイザーと一緒に打ち合わせを行い、基本的なアイデアを詰めていき、それからプレビズをつくります。ときには私たちのチームのアーティスト側からアイデアを提案するなどしながら、進めていきます」。
「キャラクターの動きも、簡素な形状のジオメトリで、なるべく早いスピードでキャラクター・アニメーションを進めていきます。ここで構図やタイミングを固めていき、ブロック・アニメーションを仕上げるのです。プレビズが終わると、次にポストビズを行います。こちらは、監督とエディターによって編集された実写プレートにプレビズで使用したアセットを足して、VFXを制作する際の参考にするためのものです」。
「監督やエディターも、撮影したプレートにCGエレメントが入ることで、編集のタイミングやアニメーションを理解する助けとなります。また、映画の制作過程として、スタジオ側は制作途中の"仮バージョン"で、一般人を集めて試写会を行ないアンケートをとり、その意見をストーリーや編集に反映します。このテスト試写は何度も実施され、これにもポストビズは活用されます。グリーンスクリーンばかりの画面ではなく、ポストビズが入っていれば、テスト試写で観客がストーリーを理解する助けになります」。
サノスが登場するシークエンスのVFXメイキング/ケリー・ポート氏(VFXスーパーバイザー、Digital Domain)
「Digital Domain(以下、DD)のVFXスーパーバイザー、ケリー・ポートです。私とDDのチームは、前作『アベンジャーズ /インフィニティ・ウォー』にも参加させていただき、引き続きこの作品を担当しました。このような素晴らしい作品に参加できて、大変光栄に思います」。
「今回の『アベンジャーズ/エンドゲーム』では、サノスが絡む7シークエンス、約400ショットを担当しました。ポストプロダクションの観点から、まず"良いネビュラ"が、サノスに捕らえられて宇宙船に連行され"悪いネビュラ"とガモーラに会うシークエンスですが、このような設定が複雑なショットでは、先ほどThe Third Floorのプレゼンでもありましたようにポストビズによるビジュアライゼーション映像が、作業をはじめる上では大変重要な参考資料となります」。
「では、VFXが入る前の実写プレートを、見てみることにしましょう。"悪いネビュラ"がもつナイフは、マーカーが付いただけの小道具ですし、ネビュラの目は女優カレン・ギランの目がそのまま画面に映っています。ナイフが入る頭部パーツのメイクアップ修正も入っていません。これだけ見ると昔の特撮B級映画のようで、なかなか笑えるものがあります(場内から笑いと拍手が起こる)。前作の『アベンジャーズ /インフィニティ・ウォー』のとき、学生さん向けの講演で、オープニング・シークエンスのVFXが入る前の映像を見せたのですが、「これ最高です! お金を払ってでも良いから、この状態で映画を全編観てみたいです!」と言う感想が出たほどでした。面白そうなので"再リリース"として上映してほしいですよね(笑)」。
©Marvel Studios
「サノスは最も重要なキャラクターでしたが、時間軸が『アベンジャーズ /インフィニティ・ウォー』の少し前、そして『アベンジャーズ /インフィニティ・ウォー』の後と、展開が複雑でした。サノスのフェイシャル・キャプチャは、俳優ジョシュ・ブローリンの演技を、マシーン・ラーニングによるファイシャル・キャプチャのテクニックを応用してキャプチャしました。これは、ジョシュ・ブローリンにヘッドマウントを被ってもらい、そこに装着されたカメラと、顔面のトラッキング・マーカーでキャプチャされました」。
「以前であれば、ここから人海戦術による手作業でマーカーをトラックして、2週間かけて低解像度の顔面メッシュを起こしたものです。今や、マシンラーニングによってこの作業を自動化することによって、わずか1~2時間程で同じ作業が完了するようになり、浮いた時間をクリエイティブな調整に割くことができるようになりました。まずは低解像度のメッシュを起こし、ここから高解像度の顔面メッシュを生成していきます。AIによるメッシュの"誤った例も含めた膨大なサンプル・データを自社開発のマシンラーニング・システム"マスカレード"に学習させることで、より正確なメッシュが生成できるようになりました」。
©Marvel Studios
「この作業ステージの鍵は、生成されたメッシュを"可能な限り俳優の顔面にマッチさせること"でした。もし特定のメッシュがうまく顔面にフィットしない場合は、形状を修正した上でマシンラーニング・システムに戻し、"これが正しい形状である"ということをシステムに覚えさせて、より正確な結果を導くという作業を繰り返しました。そして、ある程度上手くいった段階で、俳優のパフォーマンス結果をキャラクター、この場合はサノスですが、顔面に反映させます。こうした作業をくり返し、より正確なパフォーマンスを取り出すことができました。『アベンジャーズ/エンドゲーム』では、サノスの顔面のシェーダーとテクスチャをアップデートさせ、ディスプレイスメントや様々なディテールを向上させることができました。タイムラインが交錯することもあり、サノスは数種類の異なる設定も用意されました」。
次ページ:
俳優の雰囲気まで表現した"スマート・ハルク"のVFXメイキング/ケリー・ポート氏(VFXスーパーバイザー、ILM)