<3>北斎画を8KのリアルタイムCGで再現
続けて、本講演のメインパートと言える8KリアルタイムCGが紹介された。龍や鳳凰の3DCGモデル制作やルックデヴ(実物の再現)といった具体的な制作手法については残念ながら解説されなかったが(ぜひ改めてメイキングが披露されることを願う)、リアルタイムCGのコーディングにはUnityを利用したそとのこと。
完成したコンテンツは、龍と鳳凰を模した立体造形にセンサを仕込み、特定の部位をタッチするとセンサの状態を監視しているマイコンボードを介して予め仕込んだコマンドがPCに伝わり、拡大・縮小、アニメーションが行われるという仕様になっていた。
CGで再現された鳳凰
完成した8KリアルタイムCGの感想として、中谷氏は「8Kは画素が見えないので非常に滑らか。こうした表現を見たのは初めてのことで、リアルタイムで動くというのは新しいアートの胎動を感じました。これからの画家に大きな影響を与えると思う」と語っていた。
続けて、國重氏はフルHDと8Kにおける相対視距離(ディスプレイサイズとその係数で表す鑑賞距離)のちがいについて触れ、前者の視野角33°から算出される相対視距離が3mであることに対して、8Kは0.75mとなると解説。『北斎ジャポニズム』を通して、8Kでは段ちがいの没入感が得られることを改めて実感したという。
(左)リアルタイムCGのデモを行う國重氏。龍と鳳凰を模した造形に仕込まれたセンサによって、拡大・縮小、指定された部位のアニメーションの実行をリアルタイムで制御できる/(右)鳳凰を拡大させた例
そのほか、「SIGGRAPHへいらっしゃる方々は、実際にCGを制作されている方が多いと思うので『8Kなんかとんでもない!』と思われていらっしゃる方も多いかもしれません。ですが、今回のデモをご覧になっていただき8Kがもたらす新たな映像表現の可能性を実感してもらえたらと思います」という中谷氏のコメントも印象的であった。
龍をアニメーションさせた例
最後に、8KリアルタイムCGのシステム構成と中核スタッフの紹介が行われた。今回のデモにはシャープが開発中だという8K/HDR液晶ディスプレイ2台が用いられたが、8Kフッテージは30Pで、リアルタイムCGは60Pで再生された。各ディスプレイはNVIDIA Quadro M6000を搭載したBOXX Technologiesの「APEXX 4 7201」モデルとHDMIケーブル4本で接続、リアルタイムCG制御用の静電容量センサが埋め込まれた立体造形とはマイコンボードを介してUSBで接続したという。
リアルタイムCGのモデルやアニメーション制作はNHKアートのデジタルアーティスト数名が担当する一方で、Unity用のプログラム開発は東京電機大学 ビジュアルコンピューティング研究室(高橋時市郎 教授)の協力を得たそうだ。
今回のリアルタイムCGデモ用のシステム構成(エルザ ジャパンとNVIDIAが機材協力)。8Kフッテージ再生用のシステムも同じ構成とのこと
2時間の講演としては、プロジェクトの表面的な紹介にとどまった印象はぬぐえず、SIGGRAPHの講演としては物足りなく感じた参加者もいたようだ。これは邪推に過ぎないが、6年ぶりに日本で開催されるSIGGRAPHに間に合わせられる範囲で実施できることにしぼらざるを得なかったのかもしれない("特別招待"という扱いになった所以ではないのだろうか)。
デジタルアーティストの性分である「新たな表現の追求」を効果的に呼び起こすためにも、NHKには8Kコンテンツ制作の啓蒙のためにもさらなる研究と、そこから得られた知見の紹介を通した8Kプロモーションに期待したい。
講演終了後は、8Kの表現力を間近で体験しようとする人たちでにぎわっていた
TEXT & PHOTO_沼倉有人(CGWORLD)
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SIGGRAPH Asia 2015
開催期間:2015年11月2日(月)~11月5日(木)
会場:神戸国際会議場・神戸国際展示場(神戸コンベンションセンター)
主催:ACM SIGGRAPH
SIGGRAPH Asia 2015 日本語公式サイト