<6>コンポジットワークと最終調整
いよいよ、最終段階である。コンポジットワークにはNUKEを使用、この工程をリードしたのが柴野剛宏氏だ。「スチール撮影時の状況を考慮しながら、3D環境をセットアップしていきました。その意味では、コンポジットの実作業よりもライティングやレンダリング調整の方に時間を費やしたと思います」。
NUKEのコンポファイル。Mayaからレンダリングイメージをタイルレンダリングで出力し、NUKE上で統合している。ビューティーパスを実写の写真に馴染ませる上では、その他のパスを利用して細かな調整が施された
- テイク1に対する森江ディレクターの修正指示。いかにTERAI YUKIを魅力的に表現するのか、そして効率的にCGっぽさをなくせるのかが焦点になったという。「指示内容に応じて、各担当者が修正作業を行いました」(柴野氏)
色校の段階では、原作者くつぎけんいち氏にも監修していただいた。(左)色校バージョン/(右)くつぎ氏の修正案。こちらの修正案の下、トランジスタ・スタジオ側でアイキャッチの追加や、髪の流れの調整などが行われた。なお、この修正作業も3DCG上での調整とのことで、上述したとおり2Dレタッチは衣服のシワ表現に止められた(改めて強いこだわりが伝わってくる)
完成したグラフィックのカラーバリエーション例。実際に表紙に採用されたのは、モノクロ(右上)のものだが、シーンリニアワークフローの強みを活かしたカラーバージョンも実は模索されていた。「自分たちとしてはアニメ的な表現だけでなく、フォトリアルな表現にもどんどんチャレンジしたいと思っているんです。ですので、技術面ではOpenColorIO(OCIO)にも取り組んでみたいですね。そうした意味でも、このプロジェクトはとても有意義でした」(森江氏)
『TERAI YUKI』ターンテーブル。360度に対応できるよう、モデルと髪の毛の双方に調整が施された。なおレンダリングコストとの兼ね合いから、若干クオリティを下げていることをご了承願いたい
いかがだっただろうか? 森江氏や秋元氏の優れた才能は、本誌の連載をはじめ、以前から様々なかたちで実感してきた。だからこそ、今回の『TERAI YUKI』の制作をトランジスタ・スタジオに依頼したわけだが、本プロジェクトを通じて同社の強さの源は、所属するアーティスト個々人の技能の結集であることが存分に伝わってきた。「うちでは、通常の商業制作と並行して、テーマは自由でかまわないので必ず自主制作に取り組むようにと指導しています。そうした取り組みから得たものを、本作で役立てることができたのかもしれません」と、森江氏は総括してくれた。
"TERAI YUKI" Staff Credit
original character design by くつぎけんいち
<Transistor Studio>
Director:森江康太/秋元純一
Modeling:金山隼人/岡田寛成/佐川智司/佐藤 賢
Setup:田島誠人
Composite:柴野剛宏
Lighting:伊藤浩之
System:平井豊和
Assistant Director:大野陽祐
<スチール撮影>
Photographer:山本 大
Stylist:石田有佑
Hair & Makeup:森江可奈子
Model:えぐちあやか(テライユキ)
衣装協力:エドウィナ・ホール/セイン
TEXT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)