>   >  【創刊200号記念】『TERAI YUKI』〜テライユキとの再会 〜(後篇)
【創刊200号記念】『TERAI YUKI』〜テライユキとの再会 〜(後篇)

【創刊200号記念】『TERAI YUKI』〜テライユキとの再会 〜(後篇)

<4>難航を極めた髪の毛の表現

セットアップには、ボディとフェイシャルのどちらもAdvanced Skeltonが用いられた。「CGWORLDの表紙グラフィックなので、可能なかぎり3DCGで表現することを徹底しました。2Dレタッチは最終的なシワの微調整に止めています」(森江氏)。こうしたトランジスタ・スタジオのこだわりの証として、後日、ターンテーブルのメイキング動画も作成された(後述)。

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ボディおよびフェイシャルのリギングにはAdvanced Skeletonを採用。上図は、ボディリグ。衣服はシミュレーションを元に形状を作成しているため、セットアップは行なっていない。Advanced Skeltonは、森江氏の連載「アニメーションスタイル」でも頻繁に登場するフリーのMayaプラグインであるが、骨の位置だけ指定すれば自動でリグを作成してくれるのでアーティスト・フレンドリーだという

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フェイシャルリグ。ベーシックなリギングは森江氏自らが担当し、最終的に田島誠人氏が仕上げたという。右側にあるカーブのコントローラだけでなく、顔の表面にあるジオメトリのコントローラで表情を細かく調整することが可能。今回のTERAI YUKIのように、女性の表情をリアリスティックに表現する上で非常に効果的だったそうだ

3DCGワークのなかで、最も手こずったのが髪の毛の表現だったという。
「当初はV-RayのHair and Fur機能で表現しようと思ったのですが、人間の髪の毛は約10万本と言われています。V-Rayでも1本1本の髪の毛をレンダリングすることが物理的には可能ですが、10万本(10万ノード)のレンダリングを実行しようとすると、Maya上でのオペレーション自体が重すぎて破綻してしまったため、途中からShave and a Haircutに切り替えました」(森江氏)。

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  • 頭部の制作過程を図示したもの。(左上)<Process 1>この段階では、眉毛と睫毛がポリゴンで作成されているが、最終的にはShave and a Haircutで生成したものへとリプレイスされる/(右上)<Process 2>ポージング後にも頭のバランスや耳の形状などの修正が行われたが(後述)、ブレンドシェイプで対応/(左下)<Process 3>Shave and a Haircut で生成された髪の毛および睫毛、そしてV-Ray Fur による産毛が追加された完成形


しかし、Shave and a Haircutに切り替えた後もV-Rayでレンダリングが実行できないという深刻な事態に見舞われてしまった。
「最終的に、その原因はライセンスサーバの設定にあったのですが、Shave and a Haircutが利用できない=プロジェクトの失敗なので、かなり焦りました(苦笑)。そんな途方に暮れているときに、たまたま目にしたCGWORLDにTELYUKAさんによる『COURIR』の作例(本誌199号「第2特集:3DCGポートレート」内)が載っていたのです。そちらでもShave and a Haircutを利用されていたことを知り、藁にもすがる思いでメールしました。TELYUKAさんには面識がなかったにも関わらず、親切に教えてくださって本当に感謝しています。やはり、聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥ですね」(森江氏)。

今年3月6日(金)のCGWORLDニコニコ生放送内でも披露された、Shave and a Haircutのデモ動画。ご存知の読者も多いとは思うが、Shave and a Haircutは、映画『キング・コング』(2005)をはじめハリウッドでも豊富な導入実績を有するツールであり、ガイド(ターゲット)の間を500〜1000本単位で自動補間する等の高いコストパフォーマンスも大きな魅力だという

<5>シーンリニアワークフロー(ライティング&レンダリング)

先述したとおり、今回の『TERAI YUKI』プロジェクトでは、できるだけ3DCGで表現することが目指された。そこで、フォトリアリスティックな表現を効率的に制作するべくシーンリニアワークフローが導入された。そのパイプライン構築を担当したのが、伊藤浩之氏(フリーランス)だ。
「実は、自分が参加することになった直接のきっかけはV-Ray Hairの研究だったりします。ところが、先ほどお話ししたように最終的にShave and a Haircutに切り替えられてしまいました(笑)。だけど、面白いプロジェクトだと思ったので、ひき続きシーンリニアワークフローのパイプライン構築やライティングまわりで参加させていただきました。スチール撮影の現場では、スタイリストさんの『生きジワは残して、死にジワはなくして』という御意見に、『え、このシワは生きてるの? 死んでるの??』と混乱したりもしましたが(笑)、そうした日頃のCG制作では得られないやり取りが新鮮で楽しかったですね」。

【創刊200号記念】『TERAI YUKI』〜テライユキとの再会〜(後篇)

本作向けに作成されたHDRI。「リファレンスとなる写真を撮影した場所でHDRIも作成しました(前篇を参照)。余計な映り込みはレタッチで消しています」(伊藤氏)

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ライティングは、HDRを設定した「V-Ray Dome Light」1灯と、光源を強調するための「V-Ray Rect Light」1灯の計2灯を使用。GIを利用したレンダリングのため、ライトの数は最小限に抑えられた

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レンダリングは、V-RayのGIを使用。「髪の毛などの細い部分にノイズが出ないようにImage samplerのsubdivs値を高めに設定してある。その一方では、静止画のため、Irradiance mapのsubdivsおよびinterp. sampleはノイズが出ない範囲で低めの値に止めている

【創刊200号記念】『TERAI YUKI』〜テライユキとの再会〜(後篇)

主なレンダーパス。左上から時計回りに、beauty、Ao、depth、マスク1〜3。そのほかにも落ち影の素材等が追加で出力された

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