>   >  映画『ファインディング・ドリー』で実践された、ピクサー最新の画づくり〜SIGGRAPH 2016レポート<1>〜
映画『ファインディング・ドリー』で実践された、ピクサー最新の画づくり〜SIGGRAPH 2016レポート<1>〜

映画『ファインディング・ドリー』で実践された、ピクサー最新の画づくり〜SIGGRAPH 2016レポート<1>〜

<2>アニメーション&エフェクト

タコのキャラクター「ハンク」のアニメーションについて紹介する。8本の足を有するタコの動きは大変複雑であり、吸盤を使って自由に移動する。この動きを実現するためには、従来のジョイント・ベースのコントロールでは制約が生じる事が容易に予測出来た。そこで、スプライン・ベースでコントロールできるシステムを開発した。 これは、ピクサーの自社開発アニメーション・ツール「プレスト」で、球のコントロール・ハンドルを動かすことでアニメートできるという優れもので、かなり自由度の高いコントロールが可能だ。

How Pixar created its most complex character yet for "Finding Dory"(CNET News)

また、アニメーションのベデロップ期間中には、さまざまなアプローチのアニメーションをテストした。 2Dの手書きアニメを参考に3Dアニメに置き換える手法で、 昔のワーナーアニメのようなコミカルな動きもテストされた。いろいろテストするうち、口の動きの表現が意外に難しい事もわかってきた。タコなので制御も見せ方も難しい。 ハンクが背景に化ける「カモフラージュ」のシーンがいくつか登場するが、ここでも「どうやってカモフラージュさせるか?」のアイデアをみんなで出し合い、最も面白く&演出上的確と思われる案を採用した。

SIGGRAPH 2016|Under the Sea -- The Making of "Finding Dory"

© 2016 DISNEY / PIXAR. All rights reserved.

エフェクト面でチャンレンジとなったのは、やはり水の表現である。これには複雑なインタラクションも含まれるため自ずと難易度が高くなる一方では、物量の多さから効率性の最大化も必須であった。そこで「GIN(Geom Implicit Network)」等が開発された。そのほかにも前述のUSDを使った新しい手法も採用している。
例えば、まず水面のボリュームにディスプレイスメントを施した後、特定エリアだけを球で切り取ったり、カメラ・フラスタムで切り取ってオプティマイズすることができる。それを.usd形式で書き出して他部門とやりとりするといった具合だ。水面についてはプロシージャルなアプローチと、シュミレーション主体のアプローチとを、ショットのニーズによって使い分けたという。そして本作では、「TMA(Texel-Marsen-Arsloe)」による新しい水面シュミレーションの手法も開発された。

本作ではバケツやコーヒーポットに入った水など、シュミレーションのコンテナ自体が移動するシーンも多く、それにキャラクター・アニメーションが絡む事も少なくなかった。まずローレゾで流体シュミレーションを走らせ、それをアニメーターに渡してキャラクターが水の動きに追従した動きを付けてもらう等のやり取りも行われている。
また、様々なスプラッシュへの対応も求められた。シュミレーションするエリアを極力小さくすることで計算負荷を減らす等の工夫をした。白波(white water)と気泡(bubble)の表現は、スプラッシュの内部に大量の細かい小さな球を配置して、それをレンダリング時に水のサーフェスから屈折させると良い結果が得られたそうだ。余談だが、前述した「タッチプール」のシークエンスでは、映画『プライベート・ライアン』のオマハ・ビーチ上陸作戦の映像をリファレンスにしたというエピソードが披露されたのだが、会場は爆笑の渦に巻き込まれていた。魚目線から、子供達の手が水面から突入して来て砂煙を上げる様は、おそらく戦場さながらの光景だったにちがいない。

SIGGRAPH 2016|Under the Sea -- The Making of "Finding Dory"

© 2016 DISNEY / PIXAR. All rights reserved.

<3>シネマトグラフィー(映画的な撮影術)

最後に、撮影監督の立場から「どのような画づくりを行われたか」を紹介したい。映画の中では、水中と陸のシーンが登場する。それぞれをいかに効果的に見せるか?がチャレンジとなった。例えば水の中では、「水中ルック」をどのように表現するか。これはチャレンジに次ぐチャレンジとなった。様々な方法が考えられるが、コースティックス、ボリューム・フォグ、ディフュージョンによる遠景のボカし、これらを組み合わせると効果的であることがわかったという。
加えて、本作は小さな魚からの目線のマクロ映像なので、被写界深度が重要になってくる。被写界深度を浅くすることで、それを表現している。但し、あまりリアリティを追求し過ぎるとドキュメンタリー風の絵になってしまうため、そのバランスには注意を払ったという。実写ではカメラとレンズの大きさによって焦点距離や映り具合が変わってくる。そこで、今回はCGカメラを「35mmカメラ」と「16mmカメラ」の2種類用意し、それぞれテストしてみたところ、ドリーをクローズアップするショットは「16mmカメラ」を、引きのシーンでは「35mmカメラ」を用いることにしたそうだ。

水中では、屈折がかなり強い。どのように見えるか、実際に水中カメラの映像などを観察。水槽内部から撮影すると、屈折によって、画面の特定箇所で絵柄が急に途切れたように見える「クリティカル・ポイント」と呼ばれる現象が起きることがわかった。そういった物理現象も、レンダリングの中で再現を試みている。また、屈折が入ると、レンダリング結果に予期せぬ影響が生じることがあった。レイアウトは屈折なしの状態でアプルーブされる訳だが、いざレンダリングしてみると、屈折の影響で構図が変わってしまう場合がある。実際に起こった事例として、コーヒーポットに入ったドリーをレンダリングしてみると、水の屈折の影響でドリーの見た目の大きさが変わってしまったことがあったという。そこで、ドリーのスケール値を段階的に変えたウエッジを数枚作り、その中から的確なサイズに見えるスケール値をピックしたそうだ。



SIGGRAPH 2016|Under the Sea -- The Making of "Finding Dory"

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info.

  • SIGGRAPH 2016|Under the Sea -- The Making of "Finding Dory"
  • 映画『ファインディング・ドリー』
    大ヒット上映中

    監督:アンドリュー・スタントン/Andrew Stanton
    共同監督:アンガス・マクレーン/Angus MacLane
    製作総指揮:ジョン・ラセター/John Lasseter
    製作:リンジー・コリンズ/Lindsey Collins, p.g,a.
    脚本:アンドリュー・スタントン/Andrew Stanton、ヴィクトリア・ストラウス/Victoria Strouse
    音楽:トーマス・ニューマン/Thomas Newman

    www.disney.co.jp

    © 2016 DISNEY / PIXAR. All rights reserved.


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