<3>正統な進化を続ける『ファイナルファンタジーXV』はモダンなRPGの王道を行く
最後に紹介するのは、純然たるゲームコンテンツとして新規性をアピールするもので、スマートフォン向けファーストパーソンシューター(以下、FPS)『Afterpulse』を実現させたDigital Legends Entertainmentの「Karisma engine」と、ご存知スクウェア・エニックスの『ファイナルファンタジーXV』(以下、FFXV)が該当する。
ご承知の通り、ゲームでは、演出としてシーンの情景をシネマティックに見せるカットシーンの部分を除いて、プレイヤーの入力に応じてリアルタイムに画面に結果を反映させなければならない。一般的にアクション性の高いものほど高頻度なものになり、アクション性の低いものほど低頻度で済む傾向にあるが、現世代のゲームでは、比較的アクション性の乏しいRPGにおいても、あらかじめ用意されたパターンの組み合わせで記号的に描写するにとどまらず、何かしらプレイヤーの置かれている状況を反映させ、プレイのルーティーンに飽きがこないように工夫が凝らされている。
Digital Legends Entertainmentが、外部のミドルウェアに頼らず、完全に自前で開発したモバイル用ゲームエンジン「Karisma engine」のデモは、同社の看板FPSタイトル『Afterpulse』のゲームプレイを通じて行われた。本来はPC用のゲームエンジンが、マルチプラットフォームの一環としてモバイルをもサポートするパターンとは異なり、当初よりモバイルに特化して開発されてきたエンジンだ。高速動作の秘訣は、iOS版ではApple'のMetal APIとフル64bitのサポートにある
極めてアクション性の高いゲームコンテンツとしては、FPSが挙げられる。今回エントリーしたFPS『Afterpulse』においても、常にプレイヤーキャラクターに対して何らかのインタラクションが続くと言っていい。FPS『Afterpulse』を実現するためにDigital Legends Entertainmentがインハウスで独自に開発したのが「Karisma engine」で、直接光、間接光の取り扱いや、ノーマル、アンビエントオクルージョン、デプスといったモダンなエンジンが備える機能をひと通り有する。これが、スマートフォンで、かなり軽快に実現しているというのだから驚きだ。
一方のRPGにおいても、『FFXV』の取り組みはひと味ちがっている。同作のシリーズ作に、『FFXI』や『FFXIV』といった、RPGにしては高頻度でしかも複数のプレイヤーからのインタラクションが発生するMMOゲームが存在する流れを受けてか、スタンドアローンの『FFXV』においてもプレイヤーキャラクターはゲームワールドに対して影響を与え、また逆にワールドからも影響を受けるように設計されている。具体的には、世界の中で変化する天候、コンバットでのモンスターAI、アニメーション制御、魔法効果のフィールドへの波及といった部分で実現させており、以前の取材におけるスクウェア・エニックスのリアリティへの取り組みは、すでにモデルやアニメーションを乗り越えてAIの域にまで達しているという発言を思い起こさせた。
伝統的に戦闘にリアルタイム要素を取り入れてきた経緯もあってか、「ファイナルファンタジーXV」は、RPGの中では、かなりリアルタイム性の高い部類に入る。昼夜、天候といったワールド環境の変化にとどまらず、エネミーモンスターとの戦闘ではリアルタイム性が高いことを活かした表現がなされている。たとえ同じエネミーとの遭遇線であったとしても、遭遇地点の環境が異なればゲームワールドから受ける影響も異なるということになり、その場所に応じたものになる。逆にプレイヤーパーティからの世界への影響も、ゲームワールド内の環境が異なれば、自ずと変化することになる。プレゼンテーションで強調されていたのは炎系の魔法エフェクトの例で、エネミーに対して記号的に効果エフェクトが表示されるだけでなく、周囲の環境に対しても延焼しているのがわかる
FINAL FANTASY XV Trailer Feat. AFROJACK / ファイナルファンタジー15
本年6月に公開されたバトル中心のトレーラー
両作品ともに、デバッグモードを駆使した内容的に充実した実演デモであり、インハウスエンジンの普段は見られない裏側の一端を垣間見る大変貴重な機器であったが、大掛かりな装置や身体全体を使ったものではなかったため、パフォーマンスとしては、どうしても見劣りしてしまった感は否めない。ARの基盤技術のプレゼンテーションにも同様のことが言えるのだが、パフォーマンスとしての見栄えや派手さも新しいと判断されうる部分であり、結果の評論にすぎないかもしれないが、そういった意味で本アワードでは不利に働いたように感じられた。
ここまで見てきたように、本イベントは、ノミネートされた作品の開発者自身によって、"リアルタイム"にデモが行われるのが醍醐味だ。やはり「リアルタイム」であることが特性であり、ウリでもあるものを、あらかじめ完璧に準備したムービーやスライドで見せてしまうのでは、リアルタイムの真実が伝わらないということだろう。とは言え、普段の環境と異なる特設のイベント会場ということで、会場設備によるハプニングが起こってデモが中断することもしばしばで、登壇者が困惑する場面も見受けられた。リスクの多いイベントは大変だろうが、来年の「Real-Time Live! 」では、万全を期していただきたい。
ゲームエンジンや商用ミドルウェアなどは、ハンズオンイベントやスクールスタイルのプレゼンテーションの機会も多いが、普段は外に出てこないインハウスエンジンの作品の裏側や作業環境をナマで見られる機会というのは滅多にない。今後もリアルタイムグラフィクスのトレンドを掴むために、「SIGGRAPH」の中でも、本イベントには注目を続けていきたい。
info.
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SIGGRAPH 2016
会期:2016年7月24日(日)〜7月28日(木)
場所:Anaheim Convention Center
主催:ACM SIGGRAPH
s2016.siggraph.org