<3>VR&AI 〜コンテンツを支える最新テクノロジー〜
セッション2の方は、エリック・ハンソン氏のプレゼンテーションから始まった。ハンソン氏は、VFXアーティストとしてのキャリアを背景に、USC School of Cinematic ArtsのJohn C. Hench Division of Digital Arts and AnimationでVFXの授業を行なっている。USCのカリキュラムの一環として、IMAXから制作環境の提供を受けたS3D(立体視)映像の制作やVR HMD用の幾何学的なVJ映像の制作、東京藝術大学と共同で現実の環境のCGへの取り込みと合成の研究といったことに取り組んでいるという。
▲ VFX歴20年以上のベテランUSC School of Cinematic Artsのエリック・ハンソン氏(Associate Professor of Practice)
その一方で、自身のCGプロダクションxRez Studioをかまえており、VFX映像の作成や合成用の素材撮影をも行なっている。ランドスケープのギガピクセル取り込み、3Dスキャン、ヒマラヤの渓谷の高解像度撮影、マヤ文明をテーマにしたプラネタリウム用コンテンツの制作、ナバホ族文化と中国人アーティスト艾 未未(アイ・ウェイウェイ)のコラボ作品への制作協力、アイスランド人シンガーBjörk(ビョーク)のMV向けVFX用ランドスケープの撮影などと多岐にわたる。
▲ xRez StudioのVRデモリール。360度見渡せるVRムービーとして公開されている
続いて登壇したドリアンクール氏からは、ゲーム制作の概要を説明した後、AIに関するプレゼンテーションが行われた。氏によると、スクウェア・エニックスでは、3DCGがフォトリアルさを増し現実のものに近づけば近づくほど増大する、いわゆる「不気味の谷」の問題は、モデルの造形やキャラクターアニメーションの範疇ではすでに解決済みで。現在はAIにフォーカスが移っているという。
▲ アカデミック出身でAI一筋のレミ・ドリアンクール氏(スクウェア・エニックス テクノロジー推進部 ジェネラル・マネージャー)
ゲームプレイ中のユーザーの体験をより新鮮でリッチなものにしていくためには、よりスマートなAIが重要だ。ゲームAIも進化を遂げ、現在では、AIの判断に基づいてアニメやシミュレーションと同調するように設計されている。また、それぞれのオブジェクトが自律的に動作するようにエージェント化や、オブジェクトが直面した瞬間の状況で反応を変えるのではなく、行動原理を持たせて常に計画的に動作させる非リアクティブ化も進んでいる。
AIの応用範囲は広がっており、ゲーム内のノンプレイヤーなオブジェクトAIだけにとどまらず、プレイヤーの行動、反応パターンのラーニングや、ゲーム開発環境としてのアセットの自動生成、テストの自動実行、データ分析といった領域にまで、AIが活用されているという。また、将来的には、あるプレイヤーの生涯のプレイ履歴を追いかけて分析するもの、複数のゲームを横断的に取り扱うもの、複数のプレイヤーグループをまとめて取り扱うもの、ゲーム以外の情報を取得して判断に活用するものが登場すると予想していた。
▲ 普段は自然科学分野を追いかけている毎日新聞 デジタル報道センター 編集委員の元村有希子氏
セッッション2でもセッション1と同じく、後半戦にはモデレータの元村氏が登場し、先端技術には不案内だという元村氏の疑問に、プレゼンテーションを行なった両氏がそれぞれ私見を述べるという形式でトークが進行した。
失礼ながら元村氏のお題が、現状を踏まえられていなかったり、専門分野以外のものであったりしたせいもあって、抽象的な一般論に終始したり答えが答えになっていないケースが散見された。ただ、ひとつ印象的であったのは、人材育成に関する話題のなかで、両氏が日本独特のカルチャーや日本人特有のふるまいに対して思いのほかポジティブに捉えていて、すでに持つ強みを活かすべき、としていたことだ。
▲ セッション2のパネルディスカッション風景
受講した2つのセッションを通じて、ワールドワイドで通用する人材、ワールドワイドで通用するコンテンツがセールスボリュームの土台を支え、そこにリージョンごとの独自性をどれだけ積み上げるかが重要だということを改めて認識させられた。
ふり返ってみれば、ひと昔前には、ワーナーエンターテイメントジャパンが製作委員会に加わり、邦画やアニメの制作、配給、DVD/BDの販売を行うなど考えられなかった。スクウェア・エニックスも、英アイドスの買収したあたりから、ずいぶん国際化が進んだように思う。
▲ 本フォーラムを主催する経済産業省商務情報政策局文化情報関連産業課の伊藤 桂氏
ただ、いずれのセッションも、1コマ90分のうち約半分の時間を、2人または3人のパネラーそれぞれの持ち時間として分け合い、パネルディスカッションに残りの時間を割くというスタイルであったため、全ての話題が概要レベルの物足りないものとなってしまったのは残念だった。
とはいえ、海外からの多彩なゲストの生の声を聞く機会が得られたということは、やはり大きいものがある。次回以降のフォーラムが、より密度の高いイベントとなるために、フォーラムの構成にもうひと工夫ほしいところだ(改善を期待したい)。