<2>Enlightenだからこそ実現した間接光表現
続いてカプコン・亀井氏が登壇し、『STREET FIGHTER V』の画づくりにおいてEnlightenが果たした役割を解説した。亀井氏は『STREET FIGHTER V』では他のハイエンドゲームとの差別化や、歴代シリーズのアートスタイル踏襲のため、NPRによる「油彩+リッチなライティング」を目指したと語った。
『ストリートファイターV』ハイエンドCGトレーラー
『STREET FIGHTER V』はUE4ベースで開発されており、間接光もUE4標準のIndirect Lighting Cacheと、Enlightenによる二段階で行われている。これによってキャラクターの間接光に意図的に色を加えて、鮮やかな色彩やディティールアップを可能とした。
フォトリアル全盛のAAAゲームの中で埋没することなく、シリーズの伝統も踏襲した『STREET FIGHTER V』の画づくり。これを成し得る上では間接光の強調が不可欠であった
【ライティングのワークフロー】
1.背景ライト(Sky Light / Static Light)
2.キャラライト(Statinaly Light)
3.間接光(Indirect Lighting Cache / Enlighten)
3段階のライティングを経て完成した『STREET FIGHTER V』の個性的なビジュアル。その中でも仕上げに用いられたEnlightenの効果がポイントとなった
亀井氏はEnlightenを使用した理由として「アーティストが思うがままに、意図的な色を間接光で当てたいが、そのためにライトビルドすることは避けたかった」からだと述べた。そのためにはライトプローブで動的キャラクターに対してリアルタイムに間接光を加えられるEnlightenが不可欠だったという。
Enlightenによる間接光の有無でビジュアルから受ける印象が大きく変わることがわかる。間接光に固有の色をリアルタイムで加えられることもEnlightenの強みのひとつだ
一方で『STREET FIGHTER V』では格闘ゲームということもあり、Enlightenの特徴である、ランタイム側によるリアルタイムなGI制御は行われていない。亀井氏も「本来のEnlightenからは少し離れた、贅沢な使い方」だと補足した。
セッションでは実際の開発環境を用いたデモも行われた。『STREET FIGHTER V』の中国ステージではステージの上手(右側)が寒色系、下手(左手)が暖色系の色味、中央はその中間で照らされており、格闘ゲームならではのメリハリがつけられている。
Unreal Engine 4上のエディタで実際のステージを開いた例。Enlightenはメニュー画面が1つに統合されているので直感的に作業が行える。先日Unity 5にも統合されたほか、自社開発したエンジンにもSDKを介して組む込むことが可能だ
ステージ全体を照らすのが上空に設置されたSky Lightで、上手側と下手側で1灯ずつ、合計2灯が設置されている。ステージ上にはたくさんのライトプローブが配置されており、この中にあるキャラクターやオブジェクトが間接光の影響を受ける。
このとき、Sky Lightに「Enlighten On」の設定を加えると、ライトプローブに一次光の影響を廃して、間接光だけを拡散反射させられる。前述の通り、リフレクションのキューブマップを調整することで、色味をリアルタイムに調整可能だ。このようにすることで、キャラクターの立ち位置によって、自動的に寒色・暖色の間接光を付与できた。
ライトプローブの色味をエディタで調整した例。この空間に存在するオブジェクトに対して、エディタで設定した色味が間接光として加えられる。UE4でゲームプを楽しみなら(プレイヤーの目線で)つくりこむことが可能である
Enlightenを使用することで、NPRな色彩表現ができ、ライティングの設定コストも削減できた......このようにまとめた亀井氏。Indirect Lighting Cacheによる間接光の表現を廃して、Enlightenに一本化していく方針も明かされ、セッションは終了した。
将来的にはEnlightenのみで間接光の表現を集約させていく方針とのこと。ワークフローをシンプルにすることで、アーティストの作業量を軽減させることも期待できる