アーティストの創造を支える多彩な機能群
RE ENGINEではレンダリングシステムの根本的な改革だけではなく、アーティストが使用する表現機能においても多くの進化を遂げている。現行ゲームエンジンではデファクトスタンダードとなっているPBRはもちろん、アーティスト自身が自由にシェーダを作成可能なノードグラフ(D-1)、ボリュメトリックな表現が行えるライトシャフト(D-2)なども搭載されている。特にエフェクト表現において実装されている2D流体シミュレーション(D-3)は『バイオ7』の世界観を表すのに重要な機能と言え、最大8個の速度エミッタや障害物とインタラクションが行えるようになっている。2Dに処理を限定することで、60fpsでも動作可能な高パフォーマンスを実現させており、流血表現のみならず火や煙、水面においても使用され、プレイヤーの没入感に貢献している。
また、スクリーンスペース系のエフェクトも充実している。SSR(スクリーンスペース・リフレクション)はSIGGRAPH 2015でFrostbiteが発表したStochastic Screen-Space Reflectionsをベースに実装されており、現行最先端と言っていいだろう。SSAO(スクリーンスペース・アンビエントオクルージョン)にはSIGGRAPH 2012にNVIDIAが発表したScalable Ambient Obscuranceと2015年にMicrosoftが公開したDirectX 12のグラフィックスライブラリMiniEngineのSSAOを組み合わせたものが実装されており、SSSSS(スクリーンスペース・サブサーフェス・スキャタリング)なども実装されている。もちろんこれらのスクリーンスペース系のエフェクトはゲーム中適宜選択的に使用することが可能になっており、パフォーマンス対策やスケーラビリティの調整に利用されている。
さらに、今後業界スタンダードになっていく可能性の高い、HDRや4Kレンダリングにもいち早く対応しており、HDRに関しては全プラットフォームにおいて使用することができる(D-4) 。4Kに関してはPS4 ProとPCにおいて対応しており、GUIをベクターでラスタライズすることで小さな文字なども視認性を確保した上で美しく描画することが可能だ。
D-1 ノードベースシェーダエディタ
アーティストが作成したノードグラフ。複雑に動作するシェーダもアーティストが思いのまま作成することが可能だ。もちろん各ノードはアーティストが作業しやすいよう各種用意されている
アーティストが作成したシェーダ。徐々に部屋の壁がカビていくのがわかる。特殊なシェーダ制作に対するアーティストの熱意は高く、「もはやどうやって作成されているのかわからないものも多いくらいです(笑)」と三嶋氏
D-2 ボリュメトリックライトシャフト
ボリュメトリックライトシャフトを使用しているシーン。シャドウマップを利用したレイマーチング を行うことでボリュメトリックな表現を可能としている
RE ENGINEエディタ上でライトシャフトの調整をしている様子。実装されているライトシャフトの各パラメータはエディタ上に公開されており、アーティストの望むとおり調整することができる
D-3 2D流体シミュレーション
クルマの挙動で避ける煙
手を伝う流血表現
キャラクターの動きに反応する水面。2D流体シミュレーションにはキャラクターや障害物とのインタラクションのほかに、ディテールを増すためのCurlノイズも加えられている。水面にはテッセレーションも使用されており、さらにはアーティストの設定したマテリアルを適用することで表現の幅を広げることも可能だ
D-4 HDR対応
HDR対応前
HDR対応後。白飛びして潰れてしまっていた蛍光灯の高輝度部分の情報が、HDR対応することで美しく 描画されていることがわかる
総括 これからのカプコンを背負うにふさわしい未来志向エンジン
UnityやUnreal Enginelなど汎用エンジンのシェアは年々拡大しており、一定のクオリティを上げるという点で言えば、内製エンジンを開発するよりも汎用エンジンを使用する方がコストパフォーマンスに秀でている......と考える開発会社が多くなってきていることはまちがいないだろう。そんな状況の中、世界でAAAタイトルを制作する各社が内製エンジンの開発にこだわるのは、自社の強みを最大限活かしたいという強い想いがあるからにちがいない。
今回RE ENGINEから感じたのは、とにかく「イテレーションを回す」という一点に対する強烈な哲学だ。何度も挑戦し、失敗し、くり返し、そして成功へ導く。ある意味泥くさいとも言えるその開発哲学は、まさにカプコンイズムを体現していると言える。「今後の弊社の5年10年を見ていてください」と田原氏も自信をにじませる。ゲームの面白さを何より重視するカプコンイズムをふんだんに感じられるRE ENGINEは、今後もきっと私たちの期待に大きく応えてくれるはずだ。
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『バイオハザード7 レジデント イービル』
発売/開発:カプコン
発売中
価格:7,990円+税(通常版・パッケージ版)
Platform:PS4/Xbox One/PC
ジャンル:サバイバルホラー
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