Topic 2
培ってきたノウハウを活かし、こだわりぬいた造形
生産までを見据えた原型制作の極意
本作の原型制作期間は、着手からトータルで約2ヶ月強。メインツールは3ds Maxが用いられている。「制作では、体型やバランスを変えられる共有素体を使用しました。kneadの原型師は10名ほどいますが、同じ素体を使って、何かあれば情報を共有することで、手伝いや素材のシェアがしやすくなっています。そこが3ds Maxを使っている理由ですね。また、3ds Maxはモディファイヤをスタックできるので、ディレクション時にそれを瞬時に切り替えられ、結果を比較検討できることも強みだと感じています。さらに自社ツールとしてスクリプトも使用していて、パーツごとにターボスムースのかけ方を一覧で表示し、瞬時に変更できるようになっています。パーツ数も多いですし、それぞれ割り方が異なるので、分割数のステップを一括管理することで、工数の削減を図りました。ずっと3ds Maxを使用してきたので、ツールの資産がある分、工数が短縮できるしくみです。最近ではポーズが決まった後のツールにMODOを選択するスタッフもいます。3ds Maxと同じようにモディファイヤを使用できるので、今後はMODOの本格的な導入も検討しています」(木村氏)。
前述の通り、kneadでは以前に蘭子のフィギュアを作成したことから、そのモデルデータがあった。しかし、カードによって表情の雰囲気は変わるため、以前のデータは仮置きとして、そこから本作のモデリングを始めたという。「パーツ分割については、スカートはシワの折り込みでパーティングラインが見えない形状にしようとか、シワのなびき方やディテールをつくるときにあらかじめパーツ分割を考えようとか、生産の経験をもつスタッフと原型師が話し合いながら進めました。生産の段階において、組み付けで干渉するところもありますので、組み付けの順番や角度も想定し作成しています。今回は光造形方式の3Dプリンタで一度出力しましたが、FDM方式の3Dプリンタで仮出力を何度も行い、実際にはまるかはまらないかなど、本原型ができる前から検証するケースもあります。画面で見るだけでなく、実際に触った方が早いですね。まずラフで出してみて、大きさを測り、マジックでラインを描いてここで切ろうというアナログなやり方も採っています」(木村氏)。
ポージング&ラフモデルの作成
ベースとなる素体モデル
蘭子の心情を読みとりながらのポーズの検証。アイドルっぽい足とは? 蘭子のキャラクターは? 足を開いているのか、それとも普段とはちがう恥じらいのある足なのか? まずは原型師が考えて、Bipedでポーズを数パターン作成する。それを基に社内で話し合い、コンセプトを固め、おおまかなデザインを確定していった
デザイン検討&デザイン承認用のラフモデル
ワンダーフェスティバル2018[冬]で展示された仮出力原型。布の動きやディテール、ボリューム、分割の検討にも使用された
デジタル原型データ(完成)
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完成データ。ここにいたるまで、ユーザーがもつ様々な蘭子像の最大公約数をねらうのか? それともイラストそのものをねらうのか? などが検討され、彩色見本作成後、実際に塗装をした上で、さらにもう1回の修正を加えるなど、妥協を許さず細部にまでこだわりぬいて作成された
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同ワイヤーフレーム。ポリゴンモデルとしてトポロジーが綺麗に整えられ、全体のシルエットがはっきりとわかる。見えない足のポージングも含め、少ない動きの中のちょっとした仕草に蘭子の心情が込められた
何度も検証した表情や髪
モディファイヤをスタックし、切り替えて確認する。前髪の長さや口元の位置などは[モディファイヤ リスト]に、顎、口、目などを追記することで、そのモディファイヤのON/OFFのみで微細な変化を検討できる
仮出力を行い、デカールを貼ることでイメージを確認する。その結果を見て3Dデータへ戻り、幾度となく調整がくり返された。顔と前髪は最後の最後ギリギリまで手直しが入れられている
ライブラリを活用して作成されたブーケ
ブーケは植物系のデータライブラリや過去の資産を活用して作成された
データライブラリ。3Dデータの活用は、まさしくデジタルの強みであろう
ブーケのデジタル原型。3Dデータの中から使用できるものを選択し、ブーケ全体の配置を終えた後、花ごとに形状や大きさの微調整を行い、美しく、また不自然にならないよう丁寧に仕上げていく
彩色原型(ブーケのアップ)。存在感もあり、淡く繊細な出来に驚かされる。フィニッシャーも社内に抱えていることは、kneadの強みだ
分割を工夫して造形された、シンデレラのガラスの靴
「シンデレラガールズ」ということでつくられたガラスの靴は、こだわりのアイテムのひとつだ。ここにも今まで培ってきたノウハウが垣間見える。通常の靴であれば中の足は見えず、靴の中に足が少し入り込むところで分割されるが、ガラスの靴は中が透けて見えてしまう。そこで足先の指までつくり込み、金型と組み付けを考慮して指先部分と靴底を1つのパーツとして分割している
足を組み付けた状態が【画像左】だ。色彩原型【画像右】を見ると、透けたガラスの中でも分割面が極力目立たないよう、最適な位置で分割されていることがわかる
デジタルデータの活用とこだわりのつくり込み
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刺繍部分はひとつのパターンをつくった後、スカートの裾に沿わせて複製して効率化された。最終的には手作業で微調整していくが、初期段階が効率化されることで、こだわりたい部分に時間を投入することができる
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スカートの小さな飾りが別パーツになっているのはセールスポイントだ。製品になったときに立体感が出るように、あえて別体化している
パーツの分割作業は3D-Coatで行われた。丁寧に形状を確認しながらブーリアンしていく。ボクセル対ボクセルのブーリアンはエラーが少なく、結果も良好であるとのこと
色の異なる部分は、原型では全て別パーツとなる。スカートだけでも約80パーツもの分割が必要となった。knead作成の原型の中では、かなりパーツ数が多い部類に入るのだとか