「ホーンテッドマンション」に魅せられた少年
続いて登壇したのは、ティフォン代表取締役の深澤 研氏。深澤氏はエンジニアとしてサン・マイクロシステムズに勤務後、画家や映像作家としても活動し、2011年にティフォンを設立するというキャリアを歩んできた。
深澤 研氏(ティフォン代表取締役)
ティフォン設立後は『ゾンビブース 2』などスマートフォン向けのアプリを企画・開発し、2014年にはディズニーのインキュベーション事業「The Disney Accelerator」に採択。現在はVR・AR・MRコンテンツの企画・開発のほか、MRアトラクション体験施設「TYFFONIUM」の運営を行なっている。
魔法じかけのVRテーマパーク「ティフォニウム」
深澤氏が取り組むのは、「空間で体験するエンターテインメント」の提供だ。ARやMR技術が盛り上がり、スマートフォンの次のプラットフォームになるのであれば、エンターテインメントの形式は「スクリーンから空間へ」と主流が移り変わっていくはず。その先駆けとなるようなコンテンツを開発している、とした。
そもそも深澤氏がなぜこのような活動を始めたかというと、深澤氏が4歳のころに体験した、東京ディズニーランドのアトラクション「ホーンテッドマンション」が深く影響を与えているという。当時を「子供心に本当に別の世界に入り込んだような体験だった」とふり返り、「このような世界をつくりたい」とそのときから思っていたのだという。
ライドに乗り込み、幽霊屋敷を探索する「ホーンテッドマンション」は、1969年につくられたアトラクションにも関わらず、すでにプロジェクションマッピングの概念が導入されているなど当時の最先端技術が使われている。古典的なトリックと最先端の技術を組み合わせることで、自然にその世界へと誘われる。今からふり返っても、「非常に高度なことをやっている」と深澤氏は分析した。
すっかり「ホーンテッドマンション」に魅せられた深澤氏は、「想像したものをエンジニアリングの力で実現する」というディズニーのイマジニアの考え方を参考に、アートとテクノロジーの両面で技術を培うことを決める。
サン・マイクロシステムズで実際にエンジニアリングを実践する一方、ルネサンス時代の絵画技法も学び、絵画を3DCGに置き換えた映像作品をつくるなど、古い技術と新しい技術を合わせるアプローチを自ら試している。
ティフォン設立後、少人数でも空間エンターテインメントを作れるという理由から、2016年からはXRのエンターテインメント作りにフォーカス。そこでつくることになるのが、ホラーアトラクションの『Corridor』だ。
Magic-Reality: Corridor - Launch Trailer(マジックリアリティ:コリドール)
日常空間に魔法をかける次世代エンタメの姿
舞台をお化け屋敷と設定したのは、もちろん「ホーンテッドマンション」の影響があるから。つくり方としては、ひとまず技術的なことは置いて、まずは体験のイメージをスケッチしながら練っていった。
深澤氏が最初にイメージしたのは、アナログのお化け屋敷ではできないような体験として、廊下やインテリアも変形して怪物になるというもの。これは、当時住んでいたマンションの廊下が映画『シャイニング』のような雰囲気があったことが影響している、と話した。
深澤氏は書き留めた大量のスケッチを見せながら、最終的に4m×8m(最終版では約4.5m×8.5mまで広めたそう)の部屋の中で円を描くように歩くだけで体験できるものに決めたと説明。仮想空間の展開には工夫が詰め込まれており、途中で回転方法が逆になったり、仮想空間上でもっと広い空間を感じさせるような演出を入れることで、4m×8mの部屋とは思えなような体験が可能になっている。こうした「同じ空間内で仮想空間が展開するシステム」は、特許も取得しているとした。
システム面では、HTC Viveを採用している。ポジショントラッキングは光学式モーションキャプチャシステムのOptiTrackも試したが、最終的にはViveのベースステーションが使われている。ベースステーションの間隔は推奨距離5mとされており、4m×8mの空間だと間隔は9mとなるが、実際に試してみると動作することが判明したからだそうだ。
また『Corridor』では体験者はリアルなランタンを手にもち、ランタンをかざしながら屋敷内を進んでいく。VR上では体験者の手も映像内に映り込むのだが、この処理についてもViveの内蔵カメラを使っている。
コンテンツは、Unityを使って制作されている。ランタンをモンスターに触れさせると触れた場所から消えていったり、4万匹の虫の群れは体験者の行動によって動きを変えるなど、インタラクティブ性をもたせることで毎回異なった体験が生まれる。
『Corridor』は赤坂サカスで50日間限定のアトラクションとして稼働し、5,000人を動員。常に行列ができるような盛況ぶりだったそうだ。この盛況を受け、「施設自体も自分たちでつくらないと最高の体験はできないだろう」とMR体験施設の「TYFFONIUM」をお台場に起ち上げた。
「TYFFONIUM」では『Corridor』のほか、船に乗ってファンタジー世界を冒険する『FLUCTUS』、VRでタロットカードの世界を旅する『TAROT VR: VOYAGE OF REVERIE』が体験できる。『Corridor』と『FLUCTUS』については、詳しいメイキングをこちらの記事でも紹介している。
Magic-Reality: FLUCTUS - Launch Trailer(マジックリアリティ:フラクタス)
『TAROT VR: VOYAGE OF REVERIE』は4月に登場したばかりのコンテンツであり、さらに占いコンテンツ開発で知られるザッパラスとのコラボレーション企画となっている。オリジナルコンテンツと同時にコラボレーションコンテンツをつくることで、空間エンターテインメントの知名度を獲得していきたいとした。「TYFFONIUM」は現在お台場と渋谷に店舗があり、アメリカのサンタモニカに3店舗目の出店を計画中。将来的には、さらに店舗数を増やしていきたいとした。
タロットVR:ボヤージュ・オブ・レヴリ ~幻想の旅~
深澤氏は、空間エンターテインメントのこの先は「部屋の中から外へ出て楽しむもの」になると予測する。様々な技術が空間的な制限を突破できれば、街全体がエンターテインメントを体験できる場所になる。ティフォンのブランドメッセージは「Enchant Your World」。日常の世界に魔法をかけるような体験こそが、空間エンターテインメントの行き着く先であり、ティフォンの目指すものなのだと深澤氏は述べた。
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VR・MR・ARワールド(コンテンツ東京 2019内)
日時:2019年4月3日(水)~5日(金)
場所:東京ビッグサイト
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