4月3日(水)から5日(金)まで東京ビッグサイトで開催された「コンテンツ東京 2019」。セミナープログラムでは、エンターテインメント分野においてVRがどのように活用されているかを紹介する「エンタメ×VRの最新活用事例」が実施された。講演では、「XRライド」を展開するユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)と、ディズニーが出資し『Corridor』などのMRアトラクション事業を推進するティフォンより、VRエンターテインメントの最先端が語られた。

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TEXT&PHOTO_安田俊亮 / Shunsuke Yasuda
EDIT_小村仁美(CGWORLD)、山田桃子

USJがこだわるクオリティ、スケール、企画の差別化

最初の講演で登壇したのは、ユー・エス・ジェイ マーケティング部ブランド・マーケティング課長の御園ジェリー研策氏。御園氏は、まずUSJの簡単な経緯から語っていった。

御園ジェリー研策氏(ユー・エス・ジェイ マーケティング部ブランド・マーケティング課長)

2001年3月にオープンしたUSJは、開園当初は勢いがあったものの、2002年以降は厳しい状況が続いていた。そこでUSJでは方針を転換。ターゲット層を「若い女性、あるいは家族連れの母親」と明確に打ち出し、2012年以降はファミリー向けイベントや新型コースターを導入し、徐々に来場者を増やしていった。

完全な転換点となったのは2014年の「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター」エリアのオープン。このエリアが登場したことにより、関西以外からの来場者が一気に増え、大きな成長に繋がった。

【ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター5周年™『大魔法祭、開幕』】

USJが2011年以降打ち出しているブランドメッセージは「世界最高を、お届けしたい」。ここでの「世界最高」とは、「ありえないスケールとクオリティに巻き込まれて、あらゆる感情便益が刺激され、活性化され、自分の殻を破ってくれるワクワク・ドキドキ体験」のことだとした。

その実現のために必要な要素として、御園氏は「クオリティ」「スケール」「企画(アイデア)の差別化」を挙げた。特に「クオリティ」と「スケール」は「非日常を体験する」という点で特に大事。「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター」についても2017年に登場した「ミニオンパーク」についても、街や村はリアルさやディテールにこだわり、さらに規模にもこだわっている。クオリティとスケールの両方が組み合わさることで、他の場所では味わえないような体験を生み出している。

一方で「企画(アイデア)の差別化」は、常にパーク内外で新しい体験を生み出すための方針だ。来場者は関西圏のリピーターが多いため、再来場を促したり、次に来るまでの周期を短くするようなしかけが大切になる。数年に1回登場するような大型アトラクションとは別の軸で、来場者の想像や期待値をいかに超えられるかが勝負なのだとした。

では具体的にどう差別化しているかというと、「新規コンテンツ&イベントの導入」「新規体験フォーマットの導入」の2点が戦略としてある。

「新規コンテンツ&イベントの導入」は、毎年開催されている「ユニバーサル・クールジャパン」に代表されるような、映画やコミックの世界をリアルに再現し、その世界に入り込んで体感できるものを指す。

「新規体験フォーマットの導入」ではコンテンツを変えるのではなく、体験方法を変えることで体験全体の新しさを打ち出していこうという考え。例えば、「ハリー・ポッター・アンド・ザ・フォービドゥン・ジャーニー」を世界に先駆けて4K、3D化したことで、以前の体験者にも新たにアピールしている。

【ハリー・ポッター・アンド・ザ・フォービドゥン・ジャーニー™ 完全版】

VR技術をUSJらしく打ち出す

そしてその最たる例がXRライドだ。XRライドは、搭乗者がVRヘッドセットを装着して楽しむライドアトラクション。ローラーコースターのスピード感や落下する感覚と、VR体験が一体となるUSJならではのアトラクションだ。

【ユニバーサル・クールジャパン 2019】ルパン三世カーチェイス XRライド

XRライドは、パーク内にある既存施設を活かすコスト意識と、「VR技術をUSJらしく打ち出すには」という思いが結びついて生まれた。VR体験にライドアトラクションならではの疾走感と重力が加わることで、USJらしい「世界最高の体験」ができるというねらいだ。しかもXRライドなら、映像側のコンテンツを切り替えることで、新施設をつくらないまま新たな体験が生み出せる。

ねらいは決まったが、実際にはライドの動きと映像、音を合わせる作業に非常に苦労したという。ライドの動きは、搭乗者の体重の変化でも変わるくらい微妙なもので、毎回同じとは限らない。ライドの動きとVRの映像が少しでもずれれば、いわゆるVR酔いがすぐにやってくる。

またアトラクションの性質上VRデバイスは独立させる必要があるため、スペック上の制限もある。デバイスの処理能力とクオリティのバランスも常にせめぎ合いだそうだ。

これらの詳細な解決法は「機密事項」だそうだが、映像上の工夫としては、酔いを防ぐためにライドが進む方向をある程度示したり、画面のどこかに動かないものを置いて目の逃げ場を必ず置いたり、大きな出来事は正面で起こるように設計したりしている。4年以上実施してきたことでノウハウはかなり溜まっており、年々より良いものができている自負があるとした。

御園氏は「XRライドはUSJのブランド価値を上げるようなアトラクションになっている」とし、今後もVR技術を導入したアトラクション開発を継続し、「数年以内に新しい体験を提供したい」と話した。さらに2020年にオープン予定の新エリア「スーパーニンテンドーワールド」にも力を入れており、「最新技術を使った体験を展開していく」と述べた。

【SUPER NINTENDO WORLD™】エリア イメージ動画

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「ホーンテッドマンション」に魅せられた少年

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「ホーンテッドマンション」に魅せられた少年

続いて登壇したのは、ティフォン代表取締役の深澤 研氏。深澤氏はエンジニアとしてサン・マイクロシステムズに勤務後、画家や映像作家としても活動し、2011年にティフォンを設立するというキャリアを歩んできた。

深澤 研氏(ティフォン代表取締役)

ティフォン設立後は『ゾンビブース 2』などスマートフォン向けのアプリを企画・開発し、2014年にはディズニーのインキュベーション事業「The Disney Accelerator」に採択。現在はVR・AR・MRコンテンツの企画・開発のほか、MRアトラクション体験施設「TYFFONIUM」の運営を行なっている。

魔法じかけのVRテーマパーク「ティフォニウム」

深澤氏が取り組むのは、「空間で体験するエンターテインメント」の提供だ。ARやMR技術が盛り上がり、スマートフォンの次のプラットフォームになるのであれば、エンターテインメントの形式は「スクリーンから空間へ」と主流が移り変わっていくはず。その先駆けとなるようなコンテンツを開発している、とした。

そもそも深澤氏がなぜこのような活動を始めたかというと、深澤氏が4歳のころに体験した、東京ディズニーランドのアトラクション「ホーンテッドマンション」が深く影響を与えているという。当時を「子供心に本当に別の世界に入り込んだような体験だった」とふり返り、「このような世界をつくりたい」とそのときから思っていたのだという。

ライドに乗り込み、幽霊屋敷を探索する「ホーンテッドマンション」は、1969年につくられたアトラクションにも関わらず、すでにプロジェクションマッピングの概念が導入されているなど当時の最先端技術が使われている。古典的なトリックと最先端の技術を組み合わせることで、自然にその世界へと誘われる。今からふり返っても、「非常に高度なことをやっている」と深澤氏は分析した。

すっかり「ホーンテッドマンション」に魅せられた深澤氏は、「想像したものをエンジニアリングの力で実現する」というディズニーのイマジニアの考え方を参考に、アートとテクノロジーの両面で技術を培うことを決める。

サン・マイクロシステムズで実際にエンジニアリングを実践する一方、ルネサンス時代の絵画技法も学び、絵画を3DCGに置き換えた映像作品をつくるなど、古い技術と新しい技術を合わせるアプローチを自ら試している。

ティフォン設立後、少人数でも空間エンターテインメントを作れるという理由から、2016年からはXRのエンターテインメント作りにフォーカス。そこでつくることになるのが、ホラーアトラクションの『Corridor』だ。

Magic-Reality: Corridor - Launch Trailer(マジックリアリティ:コリドール)

日常空間に魔法をかける次世代エンタメの姿

舞台をお化け屋敷と設定したのは、もちろん「ホーンテッドマンション」の影響があるから。つくり方としては、ひとまず技術的なことは置いて、まずは体験のイメージをスケッチしながら練っていった。

深澤氏が最初にイメージしたのは、アナログのお化け屋敷ではできないような体験として、廊下やインテリアも変形して怪物になるというもの。これは、当時住んでいたマンションの廊下が映画『シャイニング』のような雰囲気があったことが影響している、と話した。

深澤氏は書き留めた大量のスケッチを見せながら、最終的に4m×8m(最終版では約4.5m×8.5mまで広めたそう)の部屋の中で円を描くように歩くだけで体験できるものに決めたと説明。仮想空間の展開には工夫が詰め込まれており、途中で回転方法が逆になったり、仮想空間上でもっと広い空間を感じさせるような演出を入れることで、4m×8mの部屋とは思えなような体験が可能になっている。こうした「同じ空間内で仮想空間が展開するシステム」は、特許も取得しているとした。

システム面では、HTC Viveを採用している。ポジショントラッキングは光学式モーションキャプチャシステムのOptiTrackも試したが、最終的にはViveのベースステーションが使われている。ベースステーションの間隔は推奨距離5mとされており、4m×8mの空間だと間隔は9mとなるが、実際に試してみると動作することが判明したからだそうだ。

また『Corridor』では体験者はリアルなランタンを手にもち、ランタンをかざしながら屋敷内を進んでいく。VR上では体験者の手も映像内に映り込むのだが、この処理についてもViveの内蔵カメラを使っている。

コンテンツは、Unityを使って制作されている。ランタンをモンスターに触れさせると触れた場所から消えていったり、4万匹の虫の群れは体験者の行動によって動きを変えるなど、インタラクティブ性をもたせることで毎回異なった体験が生まれる。

『Corridor』は赤坂サカスで50日間限定のアトラクションとして稼働し、5,000人を動員。常に行列ができるような盛況ぶりだったそうだ。この盛況を受け、「施設自体も自分たちでつくらないと最高の体験はできないだろう」とMR体験施設の「TYFFONIUM」をお台場に起ち上げた。

「TYFFONIUM」では『Corridor』のほか、船に乗ってファンタジー世界を冒険する『FLUCTUS』、VRでタロットカードの世界を旅する『TAROT VR: VOYAGE OF REVERIE』が体験できる。『Corridor』と『FLUCTUS』については、詳しいメイキングをこちらの記事でも紹介している。

Magic-Reality: FLUCTUS - Launch Trailer(マジックリアリティ:フラクタス)

『TAROT VR: VOYAGE OF REVERIE』は4月に登場したばかりのコンテンツであり、さらに占いコンテンツ開発で知られるザッパラスとのコラボレーション企画となっている。オリジナルコンテンツと同時にコラボレーションコンテンツをつくることで、空間エンターテインメントの知名度を獲得していきたいとした。「TYFFONIUM」は現在お台場と渋谷に店舗があり、アメリカのサンタモニカに3店舗目の出店を計画中。将来的には、さらに店舗数を増やしていきたいとした。

タロットVR:ボヤージュ・オブ・レヴリ ~幻想の旅~

深澤氏は、空間エンターテインメントのこの先は「部屋の中から外へ出て楽しむもの」になると予測する。様々な技術が空間的な制限を突破できれば、街全体がエンターテインメントを体験できる場所になる。ティフォンのブランドメッセージは「Enchant Your World」。日常の世界に魔法をかけるような体験こそが、空間エンターテインメントの行き着く先であり、ティフォンの目指すものなのだと深澤氏は述べた。



  • VR・MR・ARワールド(コンテンツ東京 2019内)
    日時:2019年4月3日(水)~5日(金)
    場所:東京ビッグサイト
    www.content-tokyo.jp