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『FFXV』の基礎AI作りクロニクル/書籍刊行記念『FINAL FANTASY XV』AI座談会~チームリーダー編

『FFXV』の基礎AI作りクロニクル/書籍刊行記念『FINAL FANTASY XV』AI座談会~チームリーダー編

AIグラフエディターがAI量産の目処を立てた

三宅:白神さんもそうなんですが、キャラクターの意思決定や制御の仕組みを作り上げたツールに[AIグラフエディター]があります。こちらの歴史を教えていただけますか。

白神:三宅さんと相談していく中で「ビヘイビアツリー」を紹介していただいて、そこを足がかりに自作していったのがスタートでした。最初はとても大きなビヘイビアツリーができてしまって、もうどうしようかと。2~3回試作を重ねてデータを作り、それでも巨大なデータができ上がるといったときに、テクノロジー推進部が開発中だった[AIグラフエディター]と融合させてみようと。

白神:機能としては、ビヘイビアツリーのステートマシンを階層型に組み合わせられるツールだったのですが、そのおかげで表現力が向上した上に、膨大だったデータが非常にコンパクトになりました。これでAIデータを量産できる目処が立ったんですね。この[AIグラフエディター]を使って、仲間・ニフル兵・モンスター・街のNPCに至るまであらゆるキャラクターAIを作りました。

三宅:それを開始したのが2013年で。実際にデザイナーが使うようになるまで時間がかかりました。

白神:2014年上旬なので半年くらいですね。整備して実際にデータを入れてもらって、という感じです。

三宅:2014年以降は、色々な用件を入れて更新・拡張させていきましたね。

白神:さらにゲーム独自の拡張もしていって。ステートマシンは状態変化に非常に強いんですが、急な状態の割り込みには不向きでした。ゲームAIに割り込み制御は重要なので、簡単に割り込み制御ができるように拡張しました。

その他にも、複数の状態遷移を同時に走らせることで、何かを考えながら何かをするという「並列思考」をステートマシンでできるようにしています。こうして、開発と試行錯誤を繰り返していきました。

ステートマシンによる並列思考 © 2016-2019 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.

三宅:今回のビヘイビアツリーで、並列思考のためのパラレルノードはあとから拡張されたものでした。開発とインタラクションしながら、システムがどんどん大きくなったり、拡張されていくのも開発の醍醐味ですね。

白神:醍醐味ですし、開発の要件があるからこそ、非常に大きく成長できました。

三宅:『FFXV』では、時期によってチーム分けが変わっていくことがありました。例えば、ある時期だとコンバット班、モンスター班、クエスト班みたいな複数のところから同時に注文が来たと思うんですが、そうした要件にどう対応していったのでしょうか。

ファビアン:チームごとに優先度とスケジュールがあったので、基本的にはそのタスクにあわせて判断していましたね。

白神:私は仲間チームに入ることが多かったので、仲間の案件を主に見ていました。ただモンスターならでは、敵ならではの拡張要件も多かったので、どちらかというと案件ベースでどんどん対応していたと思います。でも、優先順位をつけるのは難しかったですね。

PQSがなくてはならない存在に

三宅:ファビアンさんに、ナビゲーションのチームの役割分担をどのようにやっていたかをお聞きしたいと思います。チームは大体4人でしたか。

ファビアン:基本的には4人でした。主な担当はナビゲーションシステムのパス検索です。「ある地点からある地点まで、どうやって障害物を避けて行けるようにするか」ですね。動くものを避けたり、アニメーションを滑らかに動かすようにしたり、そのためにステアリングや位置検索システム(Point Query System、以下 PQS)を導入していきました。PQSは完全に新しいシステムでしたが、結構使われていたと思います。

三宅:PQSは比較的新しい技術で、ゲームデザイナーも初めて触るものでしたが、最初はピンと来なくて色々意見がありました。でも、最終的には、結構頻繁に使われていましたよね。

白神:そうですね。今はかなりの数のクエリフィルターが存在しています。

ファビアン:ほかにもシステムはあったのですが、実装までいかないものもありました。もう少し時間があれば、それらもできたのですが。

三宅:自作はしたけど、入らなかったんですよね。

ファビアン:動いてはいても、GUIみたいに簡単に触れるまでにはなっていませんでした。この経験はあとで役立つと思います。

三宅:僕が最も印象的だったのは、PQSは最初ピンときてなかったのに、最後にはこれなしでは作れなくなっていたところです。今のゲームはマップが大きく、手作業でポイントを埋め込むのが不可能に近い。だからこそ、AIのシステムで次の目標地点とか、立つ場所を動的に見つけていく機能が必要とされていたんだと。そして、アニメーションドリブン(主導)というのも『FFXV』の特徴でした。移動システムはモーションにも関わるので、そこで色々面白いことや、苦労したこともあると思います。

ファビアン:『FFXV』はAIが移動の決定をするのですが、特にアニメーションを綺麗にすることにこだわりました。でもAIとアニメーションにはまだ溝があるので、AIが動きを自動学習してもいいのかなと思います。

ただ、これには良い点と悪い点があります。良い点は、ナビゲーションがアニメーションに関わらずに動いてくれるようになること。悪い点は、学習の更新に時間がかかってしまうことです。

白神:もし次、何か機会があるのであれば、アニメーションが持つ身体能力の制限などは、静的な解析を用いて事前に計算しておけるとよりいいなと思います。

指摘やミーティングを重ねて

三宅:今の部分は全体をデザインされてきたお二人ならではのお話ですね。つまり、ゲームの技術は単に技術を作るだけではなくて、ワークフローを作ると。そこに色々なアーティスト、デザイナー、エンジニアが共同作業をして、ベルトコンベアにデータを流していく。では、そうした全体のシステム設計で、工夫されたことは何かありますか?

白神:工夫とは逆の話になりますが。理想としてはゲームデザイナーさんにとってわかりやすく、使い勝手のよいツールを提供したいと思っていました。しかし、中には使いづらいものもあったのが反省点としてありますね。

三宅:白神さんが作られた技術をデザイナーさんに使ってもらうとき、説明やマニュアルが必要だと思うのですが、その辺りはどうされたんですか?

白神:技術に明るいゲームデザイナーさんに説明をして、その人となるべく多くディスカッションをしました。そこでたたき台を作って、皆さんに広げてもらうと。ただ難しかったのは、ゲームデザイナーさんにもバックボーンが色々あって。あるゲームデザイナーさんにはフィットしても、別のゲームデザイナーさんにはフィットしないシステムがあったりと、ツールとして苦労したところがありますね。ステートマシンとビヘイビアツリー、どちらかしか受け入れられない、というケースも興味深かったです。

三宅:両方使うシステムって、なかなかないですね。そこは技術的にも、我々が特許を取った部分でもあったので。全体としては、テクニカルなAIのチームで毎週ミーティングをし、そこで少しずつデモを見せ合っていました。ファビアンさんは説明会などを設置していましたよね。

© 2016-2019 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. MAIN CHARACTER DESIGN:TETSUYA NOMURA

ファビアン:使い方に関するものが多かったですね。むしろ気にしていたのは、マップ上で変化があったときのことです。ある場所で道がなくなっていて、「ここからここまでは行けなくなっているが大丈夫か」みたいな話が出てきたんですね。

白神:確かに、ファビアンさんからだと、「道がなくなったことがゲームとして正しいかどうかわからない」こともありますよね。

ファビアン:その辺りは直接確認していきました。

三宅:ファビアンさんがいろいろな場所に歩いていき、話していたのはよく覚えています。「これ合っているの、これどうしよう」みたいに。

白神:ファビアンさんが定期的に「これ怪しいです」とメールでお知らせしてたのをゲームデザイナーさんが拾って、ディスカッションして、問題がわかるというケースは多かった気がします。

三宅:そうやってみんながコラボレーションするのがゲーム開発の醍醐味ですよね。白神さんは、他の方とどういったやり取りをしていきましたか?

白神:基本的に皆さん各チームに所属しているので、毎週の定例会でそのチームの要件を出してもらい、そこで解決策を考えることもありましたし、直接相談をもらって解決したものもありました。

三宅:各チームとは、モンスター班・クエスト班・仲間班などですね。ミーティングと言っても、色々な切り方があって、AIという技術チームもあれば、モンスターというコンテンツチームもある。そういう意味では様々なミーティングがあって、調整も大変だったと思います。

白神:終盤は各班の定例会に顔を出して、何か問題が起こっていないかを確認していました。何か問題があった場合、優先度を上げてこのタスクに注力しようといったように、週替わりで調整していましたね。

三宅:それは時間がかかりますね。

白神:すべてのチームの定例会に顔を出しても、すべて掴みきれるわけではないんです。むしろそこでアラートが上がればラッキーな方で、「まだ見えていない何かがきっと潜んでいる」という状態がずっと続いていました。そこは難しい面だったと思います。

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AI技術は重ねると掛け算になる

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