>   >  『モンスターハンター:ワールド』の開発事例から海外アーティストの制作手法まで〜ZBrush Merge 2019(2)
『モンスターハンター:ワールド』の開発事例から海外アーティストの制作手法まで〜ZBrush Merge 2019(2)

『モンスターハンター:ワールド』の開発事例から海外アーティストの制作手法まで〜ZBrush Merge 2019(2)

<2>ベルギー出身のデジタルスカルプターが語る「ZBrushと歩んだ10年の旅」

ZBrush Merge 2019最後の登壇となったのは、ベルギー在住のフリーのデジタルスカルプター、Maarten Verhoeven/マーティン・ヴァーホーヴェン氏だ。ヴァーホーヴェン氏は様々な分野のコンセプトアート提供や3Dプリントによる作品制作に携わっている。今回はヴァーホーヴェン氏の個人制作作品を中心に、氏がZBrushを作品制作にどのように活用しているかがプレゼンテーションされた。

Maarten Verhoeven/マーティン・ヴァーホーヴェン氏(左)

講演はまずヴァーホーヴェン氏のバックグラウンドの紹介から始まった。ベルギー出身のヴァーホーヴェン氏は作風のバックグラウンドとして15世紀あたりのベルギーの昔の絵画など、古いアートの手法を受け継いでいるという。80年代に見た映画『グレムリン』をきっかけにVFXへの興味をもち始めたが、当時ベルギーではVFXを学べる学校がなかったので、VFXへの入口として芸術学校でアートやアニメーションを学んでいったという。

2000年代に入り、3DCGツールを触り始めるが、ポリゴンモデリングのツールが多く、自分の作風を活かすにはあまり向いていないと思っていたところにZBrushに出会い、ZBrushで作品を制作するようになった。ZBrushを使った最初の仕事は、「G.I.ジョー」などの玩具を販売するメーカーHasbroからの依頼で行なった銃のモデリングで、「子どもの頃から親しんでいたHasbroからの依頼が非常に嬉しかったことを覚えている」という。その他にもZBrushを使った初期の仕事例として、人物の3Dスキャンデータの整形や、美術館の展示用オブジェの制作などが紹介された。

ヴァーホーヴェン氏が手がけた作品の数々。氏の仕事の幅の広さが窺えるラインナップだ

人物を3DスキャンしたデータをZBrushでリファインした例

後半では個人制作作品の紹介と、ZBrushを使った制作手法が披露された。氏の作品は基本的にZBrushとKeyShotを使って制作されている。氏の作品の特徴として、スパイラルのようなプリミティブな模様や、各国の文字などの文化的な特徴、金や赤といった光や暗闇、生命に象徴されるような色などを組み合わせながらつくることが多いという。造形してレンダリングしてそれで終わりというのではなく、何かしら意味をまとった作品として制作したいと思っているとのこと。氏の制作スタイルは非常にスマートで、コンセプトアートであれば、1日から2日ぐらいで作品を仕上げており、二度手間になるのが嫌なのでPhotoshopなどでのリペイントはなるべくしないようにしているという。



  • ヴァーホーヴェン氏がよく使うというモチーフの数々。渦巻きや岩肌、日本的なイメージ、黄金の装飾など


  • エジプト神話の神、アヌビスを自分なりに表現したらどのようなデザインになるのかを試した作品



  • 日本の鎧など、日本のテイストを採り込んだ作品。ヴァーホーヴェン氏は、日本の文化に非常に興味をもっており、自分のフィルタを通して再構築した日本のイメージを表現することも多いという


  • 額に漢字をあしらった鬼をベースにしたクリーチャー。黄金の装飾を身に纏っているのもヴァーホーヴェン氏らしい意匠だ

アマゾンの干し首にインスパイアされた作品。3Dプリントしてカラーリングが施されている

クトゥルフ神話の神が海から上がってくるところを表現した3Dプリント作品。左がZBrushで作成したモデルをレンダリングしたもの。右は3Dプリントしたものだ。このように3Dプリントしてもディテールがはっきりと再現できることは、デジタルスカルプターにとって嬉しいことだと話す

作品のブレイクダウンではいくつかの作品が紹介された。まずは甲冑を着た猿の作品だ。この作品では、鎧の部分はベースメッシュを使って作成している。ZBrushの良いところは、3時間ぐらいである程度のベースの形状を作成できてしまうところだという。「短時間でベースの形状を作成し、あとはディテールに集中して制作時間をかけることができる」とヴァーホーヴェン氏は話す。

甲冑を着けた猿の作品の制作工程。左から右へディテールアップが施されている。ヴァーホーヴェン氏はこのようなキャラクターを作成するときには、台座を作成しておくことが多いという。台座に乗せることで、重力感の説得力が出るのだそうだ

ZBrushを使用し始めてから、アイデアを錬るときにスケッチブックを使うことがなくなり、ほとんどのデザインをZBrushだけで済ませてしまうという。この作品では、ZBrush 2019で搭載されたNPRフィルタを使って1つのイラスト作品として仕上げている。ヴァーホーヴェン氏もNPRフィルタからこの作品のような作画風に仕上げられることには、非常に驚いたとのこと。



  • 完成したモデルをKeyShotでレンダリングしたもの


  • 完成したモデルをNPRフィルタを使ってレンダリングしデザインしたもの

もう1つの作例は、女性形のクリーチャーだ。この作例では、ベースとなるメッシュから完成までのブレイクダウンが解説されたのち、実際にZBrushを使った実演も行われた。女性のベースモデルにSphereを組み合わせたメッシュからスカルプトしていくが、ヴァーホーヴェン氏このようなクリーチャーの造形を行う場合には、最終的な形状がどのようなデザインになるのかを、キチンと意識しながら制作を進めていくことが大事だと話す。「仕上がりが頭にない状態で造形を進めていくことは、地図をもたずに見知らぬ森に入っていくようなもの」だと言う。



  • 女性型のクリーチャーの完成画


  • クリーチャーの簡単な制作工程を表したもの。左にある女性のベースモデルから、パーツを追加しながらディテールを加えて全体像を作成している

完成したモデルはKeyShotでレンダリングし、パーツごとのマスクを作成してPhotoshopで色味や明度などを調整して完成となる

ヴァーホーヴェン氏は造形する際には、なるべくシンプルに、ブラシも3~4つぐらいしか使用していない。ディテールもIMMブラシなどを使って制作のスピードを落とさず作成できるようにしているという。「ZBrushはツールとしてはシンプルなので、形状に応じた様々なやり方を開発して試すことができるし、シンプルな分、造形作業に集中することができるのでコンセプトアートなどアイデアを練り込むには非常に良いツールだ」と語り、プレゼンテーションを締めくくった。



  • ヴァーホーヴェン氏による実演の様子。まずは、クリーチャーの装飾パーツの位置などを考えながら球を配置していく


  • 球を変形させながら、腕を延ばしていく



  • 延ばした腕のメッシュをさらに彫り込んでディテールを付けていく。他の部分のパーツも同じように、変形させてバランスを取った後にディテールを彫り込んでいくという手順を採っている


  • ボディのような部分は、内側を非表示にすることで、表面のスカルプトに集中して作業することができる

スカルプトの作業が完成した状態。この状態でレンダリングして作品化されている

ZBrush Merge 2019 - Maarten Verhoeven プレゼンテーション



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