3月23日(土)、東京・富士ソフト アキバプラザにてZBrush Merge 2019が開催された。折しもZBrush 2019がリリースされた直後の開催で、多くのZBrushユーザーが集い、デジタルスカルプトの最新事例を堪能した。前回に続き、本稿では後半となる2つの講演を紹介する。

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TEXT&PHOTO_大河原浩一(ビットプランクス
EDIT_小村仁美(CGWORLD)、山田桃子

<1>『モンスターハンター:ワールド』モンスターデザインにおけるZBrushの活用法

午後最初の登壇者はカプコンから、同社の人気タイトル『モンスターハンター:ワールド(以下、MH:W)』『モンスターハンター:アイスボーン』に登場するモンスターと環境生物のデザイン、3Dモデリングを担当した、モデラーの尾﨑健太郎氏と為貝雅也氏が登場。モンスターハンター:ワールドのモンスターを例に、モンスターを現実感のある生物として見せるための情報の足しかたなどを、ZBrushによる実演を交えながらのプレゼンテーションとなった。

左から尾﨑健太郎氏、為貝雅也氏(カプコン)

まずは尾﨑氏により、「ミラボレアス」をベースに、いかにして生物感のあるモンスターを造形するかがプレゼンテーションされた。尾﨑氏がモンスターをデザインする場合、「イメージ」「シルエット」「ディテールアップ」の3段階で考えていくという。

ミラボレアスのイメージ画

最初のイメージを固める段階では、まず質感や形状のリファレンスをとにかく集めるのだという。リファレンスは生物の写真の他に、割れた木肌や炎など、モンスターのイメージを想起するようなものを積極的に集めてデザインを検討する。リファレンスが集まったところでシルエットの検討に入るが、プレゼンテーションでは、実際にZBrushを使って造形しながらシルエットをどう決めていくかが紹介された。

ミラボレアスの頭部のデザインのために用意されたリファレンス画像。頭部のトゲやうろこの感じはささくれた木片などをリファレンスとしている。顎の部分は鰐の顎、全体のイメージには炎の形状が参照された

尾﨑氏はシルエットを考えるとき、まず動物らしいシルエットを目指してラフにモデリングを始め、骨格や動きの基点となるとようなパーツを考慮しながら、ローポリゴンのモデルを作成しデザインを詰めていくという。このとき大切なのは、キャラクター性に合った動物のリファレンスを参考に、生物としての構造の理屈やルールを見つけて造形していくことだと話す。モンスターのモデルは様々な角度から見られるため、角やトゲのような突起物も大きさに強弱を付けながら配置し、モンスターとしての特徴あるシルエットを模索するという。



  • 骨格や動きの基点になる位置を考えながらパーツの位置のアタリを付ける


  • 大きい歯はかみ合わせのために外側に向かって生えるなど、リファレンスを参考に生物として構造のルールを見極めてデザインしていく

顎にできるシワも筋肉の構造のディテールがわかるように、顎の末端にながれていくような感じに造形していく。可動部分と動かない部分が造形から見て取れるようにデザインするのがポイントだという

シルエットが決まったところで、続いてディテールアップの工程が実演された。モンスターのディテールをつくり込む際には、デザインを決める際に集めたリファレンスに加え、さらにディテールの参考になるようなリファレンスを用意して進めていくという。ディテールの造形において重要なのは、例えば角やトゲなどの生え際のエッジを立てて質感のちがいを明確にしたり、硬い質感の部分に出る成長痕や攻撃を受けた傷といったような、そのモンスターのバックボーンがわかるような造形を施していくことだ。尾﨑氏はこのような造形をする場合にはZBrushのDam Standardブラシを使ってメッシュに傷をくり返し入れていくという。実際の開発では、このイメージ、シルエット、ディテールの3工程をくり返しながら造形を進めていくとのこと。



  • 歯茎は生え際のエッジを立てたり、皮膚のうろこの大きさに強弱をつけることでディテールに緩急ができる。生物感を出すためには、このディテールの緩急も必要だという


  • 風格を出すためにシワを入れることがあるが、うろこで覆われている場合にはシワを入れにくいので、そのような場合はうろこに成長痕をつけることで表現を代用する

最終的に仕上がったミラボレアス

続いて、為貝氏により、『MH:W』に登場するドドガマルのデザインを基にゲームモデルとしての造形ポイントが解説された。為貝氏がモンスターなどのキャラクターを造形する際には、サブツールでデザインのバリエーションを複数作成し、それらを組み合わせながら大胆に形状を変えていくことで、新しいデザインの発見に繋がっていくのだという。

為貝氏がメイキングを紹介したドドガマルのデザイン画(左)と、完成モデル(右)

ドドガマルは動いたときの筋肉の表現が特徴的なので、筋肉をClayブラシで盛り上げながら、断面を確認して形状を調整していくと上手くいくとのこと。また、手足や尻尾の末端を膨らませるなど、生物的な特徴とキャラクターの特徴をキチンと踏まえた造形として形状が詰められている。

最初はサブディビジョンレベルを低めで、大きく彫っていき、途中シルエットに切り替えながらまん丸な形状にならないように注意しながら全体のバランスをみていく



  • 手足の形状は外側を膨らませることで生物らしいシルエットになってくる


  • 筋肉のながれを意識して、断面を考えながらClayブラシを使ってスカルプトするようにしているという

ゲーム用のキャラクターは動いたときのシルエットが重要になるため、モデリング作業中にアニメーションを付け、動いたときのモデルの雰囲気を必ず確認しているという。為貝氏は、ZBrushでキャラクターデザインを行うメリットとして、デザイン画の印象を壊さないようにモデリングできることが大きいと述べた。また、デザイン設定画を作成する場合も、NPRフィルタが搭載されたことで3面図の作成が容易になり、プレゼンも楽になると続けた。



  • 背中にもトゲを作成して情報を足していく


  • 正面から見たときにトゲが不自然にならないよう、サイズを調整し山なりのシルエットになるよう編集していく

全体に鱗などのディテールを彫っていき完成となる

全体の詳細な内容は下記のプレゼンテーション動画も参照してほしい。

ZBrushMerge 2019 - Capcom プレゼンテーション

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<2>ベルギー出身のデジタルスカルプターが語る「ZBrushと歩んだ10年の旅」

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<2>ベルギー出身のデジタルスカルプターが語る「ZBrushと歩んだ10年の旅」

ZBrush Merge 2019最後の登壇となったのは、ベルギー在住のフリーのデジタルスカルプター、Maarten Verhoeven/マーティン・ヴァーホーヴェン氏だ。ヴァーホーヴェン氏は様々な分野のコンセプトアート提供や3Dプリントによる作品制作に携わっている。今回はヴァーホーヴェン氏の個人制作作品を中心に、氏がZBrushを作品制作にどのように活用しているかがプレゼンテーションされた。

Maarten Verhoeven/マーティン・ヴァーホーヴェン氏(左)

講演はまずヴァーホーヴェン氏のバックグラウンドの紹介から始まった。ベルギー出身のヴァーホーヴェン氏は作風のバックグラウンドとして15世紀あたりのベルギーの昔の絵画など、古いアートの手法を受け継いでいるという。80年代に見た映画『グレムリン』をきっかけにVFXへの興味をもち始めたが、当時ベルギーではVFXを学べる学校がなかったので、VFXへの入口として芸術学校でアートやアニメーションを学んでいったという。

2000年代に入り、3DCGツールを触り始めるが、ポリゴンモデリングのツールが多く、自分の作風を活かすにはあまり向いていないと思っていたところにZBrushに出会い、ZBrushで作品を制作するようになった。ZBrushを使った最初の仕事は、「G.I.ジョー」などの玩具を販売するメーカーHasbroからの依頼で行なった銃のモデリングで、「子どもの頃から親しんでいたHasbroからの依頼が非常に嬉しかったことを覚えている」という。その他にもZBrushを使った初期の仕事例として、人物の3Dスキャンデータの整形や、美術館の展示用オブジェの制作などが紹介された。

ヴァーホーヴェン氏が手がけた作品の数々。氏の仕事の幅の広さが窺えるラインナップだ

人物を3DスキャンしたデータをZBrushでリファインした例

後半では個人制作作品の紹介と、ZBrushを使った制作手法が披露された。氏の作品は基本的にZBrushとKeyShotを使って制作されている。氏の作品の特徴として、スパイラルのようなプリミティブな模様や、各国の文字などの文化的な特徴、金や赤といった光や暗闇、生命に象徴されるような色などを組み合わせながらつくることが多いという。造形してレンダリングしてそれで終わりというのではなく、何かしら意味をまとった作品として制作したいと思っているとのこと。氏の制作スタイルは非常にスマートで、コンセプトアートであれば、1日から2日ぐらいで作品を仕上げており、二度手間になるのが嫌なのでPhotoshopなどでのリペイントはなるべくしないようにしているという。



  • ヴァーホーヴェン氏がよく使うというモチーフの数々。渦巻きや岩肌、日本的なイメージ、黄金の装飾など


  • エジプト神話の神、アヌビスを自分なりに表現したらどのようなデザインになるのかを試した作品



  • 日本の鎧など、日本のテイストを採り込んだ作品。ヴァーホーヴェン氏は、日本の文化に非常に興味をもっており、自分のフィルタを通して再構築した日本のイメージを表現することも多いという


  • 額に漢字をあしらった鬼をベースにしたクリーチャー。黄金の装飾を身に纏っているのもヴァーホーヴェン氏らしい意匠だ

アマゾンの干し首にインスパイアされた作品。3Dプリントしてカラーリングが施されている

クトゥルフ神話の神が海から上がってくるところを表現した3Dプリント作品。左がZBrushで作成したモデルをレンダリングしたもの。右は3Dプリントしたものだ。このように3Dプリントしてもディテールがはっきりと再現できることは、デジタルスカルプターにとって嬉しいことだと話す

作品のブレイクダウンではいくつかの作品が紹介された。まずは甲冑を着た猿の作品だ。この作品では、鎧の部分はベースメッシュを使って作成している。ZBrushの良いところは、3時間ぐらいである程度のベースの形状を作成できてしまうところだという。「短時間でベースの形状を作成し、あとはディテールに集中して制作時間をかけることができる」とヴァーホーヴェン氏は話す。

甲冑を着けた猿の作品の制作工程。左から右へディテールアップが施されている。ヴァーホーヴェン氏はこのようなキャラクターを作成するときには、台座を作成しておくことが多いという。台座に乗せることで、重力感の説得力が出るのだそうだ

ZBrushを使用し始めてから、アイデアを錬るときにスケッチブックを使うことがなくなり、ほとんどのデザインをZBrushだけで済ませてしまうという。この作品では、ZBrush 2019で搭載されたNPRフィルタを使って1つのイラスト作品として仕上げている。ヴァーホーヴェン氏もNPRフィルタからこの作品のような作画風に仕上げられることには、非常に驚いたとのこと。



  • 完成したモデルをKeyShotでレンダリングしたもの


  • 完成したモデルをNPRフィルタを使ってレンダリングしデザインしたもの

もう1つの作例は、女性形のクリーチャーだ。この作例では、ベースとなるメッシュから完成までのブレイクダウンが解説されたのち、実際にZBrushを使った実演も行われた。女性のベースモデルにSphereを組み合わせたメッシュからスカルプトしていくが、ヴァーホーヴェン氏このようなクリーチャーの造形を行う場合には、最終的な形状がどのようなデザインになるのかを、キチンと意識しながら制作を進めていくことが大事だと話す。「仕上がりが頭にない状態で造形を進めていくことは、地図をもたずに見知らぬ森に入っていくようなもの」だと言う。



  • 女性型のクリーチャーの完成画


  • クリーチャーの簡単な制作工程を表したもの。左にある女性のベースモデルから、パーツを追加しながらディテールを加えて全体像を作成している

完成したモデルはKeyShotでレンダリングし、パーツごとのマスクを作成してPhotoshopで色味や明度などを調整して完成となる

ヴァーホーヴェン氏は造形する際には、なるべくシンプルに、ブラシも3~4つぐらいしか使用していない。ディテールもIMMブラシなどを使って制作のスピードを落とさず作成できるようにしているという。「ZBrushはツールとしてはシンプルなので、形状に応じた様々なやり方を開発して試すことができるし、シンプルな分、造形作業に集中することができるのでコンセプトアートなどアイデアを練り込むには非常に良いツールだ」と語り、プレゼンテーションを締めくくった。



  • ヴァーホーヴェン氏による実演の様子。まずは、クリーチャーの装飾パーツの位置などを考えながら球を配置していく


  • 球を変形させながら、腕を延ばしていく



  • 延ばした腕のメッシュをさらに彫り込んでディテールを付けていく。他の部分のパーツも同じように、変形させてバランスを取った後にディテールを彫り込んでいくという手順を採っている


  • ボディのような部分は、内側を非表示にすることで、表面のスカルプトに集中して作業することができる

スカルプトの作業が完成した状態。この状態でレンダリングして作品化されている

ZBrush Merge 2019 - Maarten Verhoeven プレゼンテーション