3月23日(土)、東京・富士ソフト アキバプラザにてZBrush Merge 2019が開催された。折しもZBrush 2019がリリースされた直後の開催で、多くのZBrushユーザーが集い、デジタルスカルプトの最新事例を堪能した。8時間に及ぶイベントだったが、密度の濃いプレゼンテーションが続きあっという間に時間が過ぎた。それでは、各プレゼンテーションの内容を前後編に分けて紹介したい。

TEXT&PHOTO_大河原浩一(ビットプランクス
EDIT_小村仁美(CGWORLD)、山田桃子

<1>ZBrush 2019の新機能紹介

イベントの冒頭を飾ったのは、先日バージョンアップされたZBrush 2019の新機能紹介だ。代表的な新機能をPixologicの日本マーケティングディレクター、トマ・ルーセル氏が実演を交えながら紹介した。

左:トマ・ルーセル氏(Pixologic日本マーケティングディレクター)、右:成川大輔氏(同社日本マーケティングマネージャー)

まず最初に紹介されたのが、新しく搭載された「スナップショット3D」だ。スナップショット3DはSpotLightに追加された機能で、読み込んだアルファ素材から3Dメッシュを作成し、減算することで複雑な形状の凹凸を生成することができる。「複製をくり返すことで、より複雑な形状を作成することができるので、これまでは難しかった形状を簡単に作成することができる」(トマ氏)という。これまで細かいサブツールを組み合わせてブール演算しながら作成していたような形状も、目の前でサクサクとモデリングの実演が行われ、ハードサーフェスモデリングでは非常に有用な機能だと実感するデモンストレーションだった。

スナップショット3Dはアルファの素材からメッシュの作成が可能だ。図はO状のアルファを使用して、銃のパーツを作成しているところ

スナップショット3Dで作成したジオメトリを使った作例。このような複雑な幾何学的な形状が集まったモデルもスナップショット3Dを使うことで容易に構成することができるようになった

次に紹介されたのが、今回のバージョンアップの目玉でもあるNPR(ノン・フォトリアリスティック・レンダリング)だ。「ZBrushはアートツールなので、最終的なイメージまでツール上で制作できるようにしたい」というように、これまでフォトリアリスティックなレンダリングが中心だったZBrushでもクオリティの高いコミック調や水彩風のレンダリングを行うことができるため、イラストなど幅広い画風へ対応が可能となった。「ZBrushCentralに様々なNPRの作例があるので参考にしてほしい」とのこと。

新しく搭載されたNPRフィルタの例。フィルタはPhotoshopのレイヤーのように重ねて適用することができ、それぞれのフィルタの設定を編集することで、様々なルックを表現することができる

より詳細な内容については、下記にプレゼンテーションの動画が公開されているので合わせてチェックすると良いだろう。

ZBrushMerge 2019 - Pixologic プレゼンテーション

<2>フロム・ソフトウェアの世界観を支えるキャラクターアーティストの仕事

最初の登壇者は、フロム・ソフトウェアのリードキャラクターアーティスト藤巻 亮氏だ。藤巻氏は『DARK SOUL』シリーズなどの多数のタイトルを手がけており、2009年の入社当時からフロム・ソフトウェア内のZBrushの導入や活用を牽引する役割を果たしているという。

藤巻 亮氏(フロム・ソフトウェア リードキャラクターアーティスト)

藤巻氏のデモンストレーションでは、『DARK SOULS Ⅲ』や、3月22日(金)に発売されたばかりの『SEKIRO : SHADOWS DIE TWICE』のキャラクター制作例の紹介から始まり、後半では藤巻氏オリジナルのキャラクターを例に、ZBrushによる制作テクニックはもとより、氏のキャラクターデザインにおける考え方などが惜しみなく披露された。

SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE 発売ロンチトレーラー【2019.3】

前半のフロム・ソフトウェアの作品例の紹介では、主にキャラクター設定や時代設定などを表現するためには、適切なディテール表現が大切だということから、ZBrushのナノメッシュや、ハイトマップを効率良く使用して説得力のあるキャラクターを作成する方法が紹介された。装具であれば、戦いによる損傷表現を加えたり、紐などにもファイバーメッシュでディテールを付け加えることで、過酷な世界観の表現と説得力のある造形の両立を目指しているのだという。

ゲーム内で作成されたキャラクター造形について、キャラクターごとに注力ポイントが紹介された。上は『SEKIRO : SHADOWS DIE TWICE』の侍大将、下は『DARK SOULS Ⅲ』に登場するサリヴァーンの獣、デーモンの例

『SEKIRO : SHADOWS DIE TWICE』から、主人公「狼」の忍義手の例。ファイバーメッシュなどを使い、紐のような細かいメッシュにも繊細なディテールが施されている

後半では、藤巻氏が個人的に作成したワイバーンのモデルを基に、詳細なメイキングが紹介された。藤巻氏は、業務の効率化によって長い残業をなくし、フリーの時間を自分の能力を伸ばすための個人制作の時間にあてるようにしているという。

ワイバーンをテーマとした藤巻氏の自主制作作品

はじめに、印象に残るキャラクター造形のコツが語られた。印象に残る造形のポイントは、「アウトライン」「影」「色の明暗」の3つの要素に注力することだと藤巻氏。キャラクターを作成する際には、まずはアウトラインから作業を詰めていく。アウトラインを作成する場合に気をつけているのは、シルエットだけでもキャラクターがわかるように「キャラクターの特徴を出す」ことだという。

そのためには、単調すぎる部分を潰しつつも、ごちゃごちゃとしたシルエットにならないように、骨格のながれを感じるようなキャラクターのアウトラインを作成していくことがポイントとのこと。特に骨格のながれを無視してしまうと、生物としてのバランスが悪くなるため、必ず造形しようとしているキャラクターの骨格がどのような構造になっているのか考える必要があると話す。

次に大事になるのが、「影」の要素だ。造形のディテールは影によって強調されるため、見る人の視線は影の部分に誘導されるのだという。そのため、ひだの部分などでは、隙間や段差をつくることで意図的に影になる部分をつくり、情報量を増やして印象に残すようにしている。逆に形状ではなく質感を見せたい部分は、なるべく影を抑えておく必要があるという。

また、色の明暗をコントロールして、見る人の視点を誘導することも大事だと話す。ゲームで使用されるキャラクターの場合は、カメラが引いた状態でも認識できないといけないので、アウトラインと影の表現が特に重要になると、ゲーム作品のキャラクター造形を多く手がける藤巻氏ならではの視点が披露された。

造形の実演で興味深かったのは、藤巻氏が積極的にSculptris Proを使用している点だろう。氏によれば「Sculptris Proはディテールをつけやすく、スムーズを使ってポリゴン数を均一化させやすく、SnakeHookなどのブラシとも相性が良い。アルファと組み合わせると最強」だという。Sculptris Proを使用すると、ポリゴン数が多くなりがちだが、こまめにDecimation Masterを使って調整しながらスカルプトしているという。

Sculptris Proを積極的に使用して、細かいディテールが造形されている

ふたつめの作例紹介では、マーメイドのオリジナルキャラクターを使って、NPRの表現とナノメッシュを使ったディテールの盛り方が紹介された。藤巻氏はZBrush 2019に搭載されたNPRフィルタに非常に注目しており、マーメイドの造形を基にフィルタを使った実例が紹介された。各作例紹介の後には、質疑応答の時間が設けられ、さらに深いキャラクター造形のコツなどの質問が寄せられていた。

ふたつめの作例は、マーメイドをテーマとした自主制作作品だ。体表には胞子のような細かい器官が配置され、とてもディテールのある造形がキャラクターに説得力を与えている

  • NPRフィルタで作成されたマーメイドのキャラクターを手描き風のルックにしたもの。フィルタのパラメータが細かいが、その分思ったルックをつくりやすいという。フィルタを重ねがけすることができるのも良いとのこと

球体のナノメッシュを作成し、フジツボのような形状に編集したものをランダムに表面に配置し、高さのバリエーションを調整している。そこにFiberMeshによるエノキダケのようなディテールが追加されることで、見る人の印象に強く残るデザインとなっている

ここまでに紹介された機能はいずれもZBrushに標準で搭載されているものばかりで、ほんの少し手を加えただけとのこと。詳細は下記のプレゼン動画にて確認していただきたい。

ZBrushMerge 2019 - FromSoftware プレゼンテーション

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<3>『フレームアームズ・ガール』 スティレット -SESSION GO!!- フィギュア制作過程の紹介

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<3>『フレームアームズ・ガール』 スティレット -SESSION GO!!- フィギュア制作過程の紹介

午前中の最後の登壇は、フィギュアメーカーのコトブキヤから、企画本部開発グループ原型チーム所属のツチヤトモミ氏による、『フレームアームズ・ガール』の登場キャラクター・スティレットのデジタル造形を基に、ZBrushを使ったフィギュア制作過程が紹介された。会場には作成されたフィギュアの彩色前の現物も展示され、注目を集めていた。プレゼンテーションでは、『フレームアームズ・ガール』の企画内容から、フィギュア販売のながれ、フィギュア原型制作のワークフローなど、ZBrushによる造形の実演を交えながら行われた。

『フレームアームズ・ガール』のシリーズ概要

プレゼンテーションは、まずコトブキヤの概要やビジネスモデルの紹介から始まり、コトブキヤのオリジナルロボットコンテンツである『フレームアームズ』の概要が紹介された。今回紹介された『フレームアームズ・ガール』とは、コトブキヤ オリジナルロボットコンテンツ「フレームアームズ」の各機体を"美少女化"したスピンアウトシリーズで、アニメ化もされている。制作のながれとしては、フィギュアの企画が立ち上がったところで、造形担当がフィギュアのコンセプトやキャラクターデザインの解釈や読み込み、必要な資料収集を行なった後に、素体の作成、衣装モデルの作成、ラフモデルを3Dプリントして形状を検証し、さらにつくり込みを行いながら顔などの細かい要素をディテールアップしながら修正をくり返し、監修を受けるというかたちだ。

フィギュア造形の大まかなながれが紹介された。素体の造形から始まり、髪の毛や衣装のつくり込みからエフェクト造形、監修を経てさらなるディテールのつくり込みといった手順が踏まれている

プレゼンテーションでは、スティレットの各工程での造形データの状態を紹介しながら、各工程での造形ポイントが解説されていった。フィギュアをつくるための考え方としては、まずコンセプトの確認が大事だという。

例えばプラモデル用の造形とフィギュア用の造形ではコンセプトがまったくちがうのでつくり方も変わってくる。プラモデル用の造形では、関節に可動部分があるため、可動のしくみと造形の両立が求められるという。また、武器のパーツを組み替えたりするようなカスタマイズ性も求められるため、シリーズで統一された仕様に則った造形が必要になる。さらに、プラモデルの場合素材のちがいによる金型の制約なども考慮しながら造形しなければならないという。

フィギュアの場合は、固定ポーズならではの表現が求められる。プラモデルに比べてサイズが大きくなるため、ディテールのつくり込みや、飾って見て楽しむという部分に注力しながらの造形となる。「『フレームアームズ・ガール』のキャラクターは装甲パーツのように普通の女の子のデザインと異なる部分があるので、制作前に特徴をしっかり読み込んでおく必要があります。設定や作家さんのインタビューを通して、そのキャラクターらしさがどこにあるのかをよく分析し、造形に盛り込みたい要素を考えていきます。衣装の質感に関しては設定がないことが多いので、デザイン画や実際の素材として近しいものをイメージして制作していくことも必要」と造形作業に入る前段階でのポイントをツチヤ氏は話す。

同フィギュアのコンセプトを示した図。バトル前の勝ち気な表情、肌部分の表現、ツインテールのながれ、躍動感、衣装のシワの表現に注力したフィギュアと記されている

キャラクターデザインを読み込み、設定画はもとより、イラストやアニメなどを参照しながら、キャラクターの性格付けといった深い設定まで検証しながらフィギュアとしての造形デザインを考えていく

造形の作業は社内ディレクターのチェックを受けながら進められていくが、プレゼンテーションでは、実際にディレクターに提出したデータに対して、どのようなチェックバックがあったのかなど、具体的な資料が提示しながら解説が行われ、フィギュアの原型造形などを目指している人には、フィギュアを造形する際に良く問題となるポイントへの理解が深まったと思う。

ディレクターによる実際のチェック内容を書き留めたもの

実演のパートでは、衣装と髪の毛のパーツをベースにフィギュア造形ならではの、ZBrushによる造形テクニックが披露された。衣装の制作は、極力ローポリゴンで作成し、厚みを付けつつ形を整えていく手順を採ったという。フィギュアの場合、強度の都合上厚みの制約がある。基本的には1~2mm以上の厚みを確保しているが、縁が分厚いと布っぽく見えないので、例外的に0.7mmほどにしているそうだ。衣装の角の部分にはCreaseを適用、オプションのCreaseLVの数値で角の丸みを調整し布らしさを出しているという。厚み付けにはZModelerのQMeshを使用している。

厚みのない状態で作成したスカートのオブジェクトに、ZModelerの押し出しを使って厚みを付ける

一様に厚みを付けただけでは布感が出ないので、クリースで角を落としたり、部分的に薄くするなどして布感を出している

衣装のメッシュはかなりのローポリゴンで作成されているが、ローポリゴンでベースを作成しておくと、厚みを調整しやすくなりそれだけでも布っぽい印象になると、ツチヤ氏は、フィギュアの衣装制作でのポイントを話す。この他にも髪の毛のつくり方も紹介された。髪の毛のベースもローポリゴンで作成している。DynaMeshで作成してしまうと、髪の毛の房と房の谷部分を処理する際にトポロジーが乱れて編集しにくくなるため、デザイン的に問題ないレベルまでローポリゴンの状態で作業を進めているという。

髪の毛のオブジェクトは図のようなローポリゴンの状態から作成していったという



  • 顔のトポロジーのアップ。やはりかなりローポリゴンで作成されているのがわかる



  • ある程度モデリングできたら、シルエットを確認していく

ほぼモデリングが終了した状態。ディレクターの細かいチェックを受けながら、ディテールを詰めていく

プレゼンテーションの最後には、8月に発売されるフィギュア『フレームアームズ・ガール スティレット -SESSION GO!!-』の予約受付と、6月に劇場公開される『フレームアームズ・ガール~きゃっきゃうふふなワンダーランド~』の告知が行われた。

彩色された『フレームアームズ・ガール スティレット -SESSION GO!!-』。2019年8月発売予定。予約受付中
© KOTOBUKIYA / FAGirl Project

ZBrushMerge 2019 - Kotobukiya プレゼンテーション

>>後篇は5月14日(火)公開予定