<2>レイトレーシングで変わる? UE4での建築ビジュアライズ by 真茅健一
真茅健一氏(Frames)
続いて登壇したのは、個人プロダクションFramesにて建築ビジュアライズを手がける真茅健一氏。建築ビジュアライズにおいて、UE4のレイトレーシングでどのような表現ができるのか、実際にデモシーンを作成したときに出てきた問題や、表現方法などが紹介された。
夜っぽい映像だが、レイトレーシングのリアルタイムGI(グローバルイルミネーション)は使っておらず、リフレクション、アンビエントオクルージョン、シャドウ、矩形ライトを利用。半透明は検証のため使用したが、品質の問題から一部ラスタライズを利用している部分もある。「今までは動的なライトは硬い影しか使えなかったが、綺麗にボケた影を使えるのが良い」(真茅氏)。距離に応じて影のボケ具合も変わるが、樹木が揺れているのに落ちる影は揺れなくなるなど、レイトレーシングを使うことで全てが良くなるというわけではないという。
●シャドウ(影)の表現
ドアなどの移動するオブジェクトのメッシュにもエリアシャドウが落とせるようになった。建築空間の場合ライトが多いためシャドウはとても重要な要素。椅子の下の遮蔽感が出るところや、鏡の映り込み表現が良くなったという。ただし、半透明表現はいま一歩で、鏡の中に映るはずの半透明オブジェクトが消えたり不透明として映ったりすることもある。半透明の小物が消えるならまだしも、椅子ぐらいの大きさのものが消えると辛い場合が多い、と語った。
●リフレクション(反射)の表現
リフレクションはツヤ感や鏡の表現に重要な要素で、デフォルトの設定だと計算がとても重い。画面に映らないものがあるため、いろいろと表現を変えていく必要がある。「いわゆるゲームっぽいアンビエントオクルージョンにならないように調整するのが難しかったが、リアルタイムレイトレーシングのAOであれば面倒なことをせずに綺麗な表現が得られる。ただし、万能ではなく、使いどころに工夫が必要」(真茅氏)。
●半透明の表現
レイトレースでの半透明の屈折は、正しい屈折率を入れてもガラスの屈折が正しく計算されていないという結果に。このあたりは今後のUE4のバージョンアップで改善されるかもしれない。
こうしたデモ映像制作での検証の結果、「全てをレイトレーシングで描くのは計算が重すぎて現実的ではない」と真茅氏は結論づけた。反射表現が重要なので、リアルタイムシャドウの活用など、表現を取捨選択する必要がある。VR表現でのリアルタイム表示であれば無理なことも、ウォークスルー映像収録のコンテンツであれば、計算時間がかかっても使える表現も多い。見映えのするデモはピカピカのマテリアルとマットな背景がポイントで、表現として上手く必要な要素がカバーされているのが重要。機能の使い分けをせず無計画につくると描画時間が大変なことになってしまう。
なるべくレイトレーシングを使って時間をかけて描画した例
半透明や屈折の表現が一般的なレンダリングとは大きくちがうのは問題だが、ライトマップの焼き込み作業から解放されるのはやはり大きな利点だと言える。床のギラギラ感や照明の調整といったたぐいの検証はやりやすかったので設計とかデザインフローでは役立つかもしれないとのこと。
「その表現にレイトレーシングは本当にいる?」と考えるのが大切で、ぱっと見は同じ描画でも計算時間が全然ちがう、という。「無計画に使うと大変なことになるので、機能を頭に入れつつ、負荷を削りつつ活用するのが重要。建築ビジュアライゼーションはゲームとちがいハードの制約は少ないので、ハイエンドのマシンを使って次世代ビジュアルのコンテンツを探求できる可能性は大いにあります」と真茅氏は今後への期待を述べた。
レンダリング手法によってそれほど結果にちがいがない例
●発表資料
<3>UE4のレイトレを映像出力に使ってみる by コンノヒロム
コンノヒロム氏
コンノヒロム氏は CINEMA 4DをメインツールとするCGアーティストで、CINEMA 4Dに関する著作を多数もつ。コンノ氏がUE4を使って自分の手持ちの3Dデータを読み込んでみたり、目的をもって使い始めたのは今回が初めてとのこと。
非リアルタイムに映像を出力するのであれば、レイトレーシング設定をいくらでも重くしても良いのでは?と考えて使っていったという。確かにリアルタイム描画よりは描画が重くなるが、通常のオフラインレンダラとは段ちがいのスピードだったとのこと。今回はCINEMA 4Dで作ったデータをFBX経由で読み込み。キャラクターモデルは自作のもの、背景モデルは素材サイトDaz3Dで購入したものを使用した。
フレームレート度外視で、レイトレーシング機能を駆使した映像表現
Daz3Dの「The Green Room」というモデルを背景に使用
非リアルタイム利用なのだから、レイトレーシング設定をどこまでも高画質・重くしても良いだろうと考えたが、実際Unreal Editorが落ちて使えなくなってしまうことがあったという。これは、Windows OS側の制御で、描画がある程度遅くなるとアプリケーションが動いていないと判断して、Unreal Engineを落としてしまうことによるもの。これに対処するにはWindows OSのレジストリキーの修正が必要とのこと。
レンダリング時の主要プロセスのパラメータは Post Process Value で設定できる。描画テストの際に毎回「高品質で重い描画」と「低品質で軽い描画」を切り替えるのは面倒なので設定済みのプロセスセットをいくつか用意しておくと便利に使える。コンノ氏は「レイトレテスト用」「レイトレ本番用」といったようなセットを作り、切り替えて利用したとのこと。描画設定を「高品質で重い描画」にした際はビュー上でのリアルタイム操作をあきらめ、動かすときにはワイヤフレーム表示にしてしまう、という割り切りが必要だったという。
最終的な画質としては、素のレイトレーシングの結果にデノイズやアンチエイリアスをかけるとそれなりに良好という結果。RTGI(Realtime Raytraced Global Illumination)のサンプル数の上限は64で、オフラインレンダラの常識からするとかなり少ない方だが、その割には綺麗な描画だとコンノ氏。
素の状態(左)に、順にGI Denoise、Temporal AA、Screen Percentage 200%を重ねていった結果
素の状態から、デノイズ、Temporal AA、スクリーンパーセンテージによるスーパーサンプリングを施し画質を上げていく過程が紹介された。Temporal AAは時間的なアンチエイリアシング機能。FXAA(Fast Approximate Anti-Aliasing)はそれなりに有効だが、1フレームごとにノイズがザラザラするため使いものにならない。Temporal AAはカメラがあまり動かない場合には画質に貢献する。
しかし、Temporal AAには効果が出るまでにタイムラグがある。そのため、カットの冒頭や動きのある部分にどうしても残像が残ってしまう。対策としては、UEのシーケンサー上の[ムービー出力設定→Animation→Warm Up]のDelay Before Shot Warm Upの値を0.3程度に設定すると、レンダリングの出力範囲の先頭からTemporal AAが効くようになる。ただしカットが切り替わる場合には、このパラメータでは対策できなかったとのこと。
続いて、[Post Process Volume→Misc→Screen Percentage]の値を200%に設定。本来はリアルタイムでフレームレートを稼ぐ目的でダウンサンプルを行うための機能だが、シーケンサーから書き出す場合はリアルタイムではないため、この値を100%以上にすると各画素を圧縮するように働く。200%だと1ピクセルを4ピクセルで計算したもので描かれるので、実質Super Sampling AAの2x2に相当する描画が可能だ。
●UE4.22のレイトレーシングのメリットとデメリット
UE4.22時点でのレイトレーシングのメリットとデメリットについて、コンノ氏は、「普段オフラインレンダラを使っている感触からすると、計算時間を度外視してもRTGIよりライトマップが無難。リフレクションや透明が上手く反映しないため制約が多く、計算の重さに見合わない。描画は十分綺麗だが、決定的な差があるわけではなく、逆にとても綺麗な描画になる場合もあり、一概には言えない」と語った。
●普通のオフラインレンダラと比較
従来のオフラインレンダラとの比較としては、CINEMA 4D + Redshiftの組み合わせで可能なこともUE4だといろいろできないことがあるとのこと。現状ではガラスに色をつけることもできないし、ガラス越しの影の描き方にも制限がある。ボケた背景の上にシャープな背景を描くといった表現も難しいという。またオフラインレンダラなら、レンダリングとエディタ、ビューが独立しているため、どんなに描画が重くても快適に操作できる。
ただし、レンダリングスピードについてはUE4が圧倒的に速い、とコンノ氏。オフラインレンダラはレンダーファームや専用マシン、ファイナルレンダリングの時間が必要だが、UE4はPC1台でも快適にレンダリングができるので、そこに希望がある。圧倒的なレンダリングスピードが得られるのであれば、画質は重視しなくても良い場合もあるのではないかと考えているという。
UE4のポストエフェクトによるDoF(被写界深度)と、RedshiftのレイトレーシングDoFとの比較
結論としては、UE4.22のリアルタイムレイトレーシングは今すぐオフラインレンダラの代替にはならないが、これから出てくる次のバージョンUE4.23に期待しているという。「レンダリングスピードが100倍なのは大変な魅力。実戦投入できる案件もあるかもしれない。シーケンサーから動画を書き出せるようになったので、今まで諦めていた動画を簡単に出力できるようになった。垣根が低くなったので、オフラインレンダリング側、UE4側双方のユーザーが、お互いの技術を学んだり協力したら面白いと考えている」とのこと。
余談として、UE4のマーケットプレイスのアセットが使えるのはとても良い、とコンノ氏は付け加えた。ライセンス的にUE4以外でも利用可能で、Epic Games公式以外のデータであれば、そのままオフラインレンダリングにも利用できる。「また、映像制作目的であればUE4の学習コストはだいぶ下がります。効率が悪かろうと、手間がかかろうと、最終的に画が出ればOKなので。そういった背景もあり、ここ3年から5年くらいでオフラインレンダラを使わなくて良い環境がやってくるのではないかと期待しています」。
●発表資料