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建築設計&デザインにITとカルチャーを取り入れる「松本技術設計」

建築設計&デザインにITとカルチャーを取り入れる「松本技術設計」

未来の現実空間を描く場所をつくりたい

xRArchi創設やVR建築コンテスト運営の経験を通して、オープンな場で情報発信することによって、自分と似たことに興味をもった仲間と出会えることを身をもって実感した。それと同時に、建築の分野でもパブリックな場所でコミュニケーションをとることで、会社や業種に囚われず、豊かなものづくりができるようになるのではないかという想いが強くなった。xRArchiなどの活動を通してVRChatのワールド等の「バーチャルで生活していくためのバーチャル空間」に触れる機会が多くあったが、個人的にはバーチャル空間というよりもバーチャル空間に「自由に空間をつくって共有しあっている楽しさ」への興味が大きく、「あの楽しさを現実空間にもってきたい」というスタンスだ。今のところあくまでも興味は現実空間にある。

次は、自分の強みであるBIMをはじめとした建築3D分野の技術や、xRArchiの活動で体験したオンラインxRの技術を使って、現実空間を面白くするような活動をしたい。しかし、コミュニティ主体でのイベント運営は有志に労力の提供を頼らざるを得ず、クリエイターの価値を高めるための活動なのに仲間のクリエイターたちを疲弊させてしてしまっているという矛盾があった。そこで、次に何かイベントを実施する際は、きちんと法人という立場で運営することで、そのモヤモヤを解消したかった。

また、個人的に現実の建築業界に対して常々感じている問題として、情報が閉鎖されすぎて、実際にその空間を使うであろう一般の人たちとの関わりが薄すぎるということがある。例えばSNSの普及によって日夜様々な話題がタイムラインをにぎわせているが、その中でもバズって何万RTもされている話題の中に、建築関連のものを見かけることも珍しくない。ただし、ポジティブな意見はまれで、批判的な意見が多いように感じる。例えば、先月オープンした新国立競技場は工事中の上空からの画像が便器のようだと話題になり、大阪メトロの心斎橋駅やJR原宿駅新駅舎などは、完成予想のパース画像と共に、そのデザインに対する批判的な意見が目についた。これらに共通するのは、すでに着工あるいはデザインが決まってしまってから批判が集まっていることである。せっかくの新しい公共空間をみんなで考える機会であったはずなのに、その機会を十分に活かしきれていない案件が多いように思う。

それらとは対照的だったのが、ノートルダム大聖堂の屋上再建案をめぐる議論である。昨年4月15日から16日にかけて、フランス・パリのノートルダム大聖堂で大規模な火災が発生し、尖塔とその周辺の屋根が崩落するという大きな被害を受けた。しかし、その日からわずか1ヶ月足らずで多くの再建案が集まり、活発な議論がくり広げられたのだ(※)。フランスでの建築文化の深さや、市民の愛、またそれを支える社会システムに驚かされる出来事だった。ノートルダム大聖堂の再建をめぐる議論のように、批判的なだけではないポジティブで建設的な意見は、どのようにすれば増やすことができるのか。市民に自分が住んでいる空間にもっと愛着をもってもらえるような、疎外感の少ない決め方はどのようにすればできるのか。以前からぼんやりと考えていたことだが、より「なんとかしたい」という想いを強めるきっかけになった。

※:アート系Webメディア「Bored Panda」が昨年5月上旬に公開した記事(www.boredpanda.com/notre-dame-cathedral-new-spiredesigns)によると、1ヶ月以内に17のデザイン案が発表された

そうした思いに端を発する新たな試みが、「仮想万博2020」である。VRやWebGLなどの技術を使えば、もっと多くの人にコンセプトの段階から参加してもらいながら、面白い未来の空間の描き方ができるのではないだろうか。そこで考えついたのが、誰でも作品を提出でき、インターネット上の仮想空間で開催する本イベントだ。

未来の現実空間をVR空間にデザインする

2018年に主催した第0回「VR建築」コンテスト、そして私以外のxRArchiメンバーが開催した「VRAA01(VR Architecture Contest 01)」(xrarchi.org/vraa1)は、バーチャル空間のデザインの発展を目的としたイベントだった。これらと比較すると、「仮想万博2020」はバーチャル空間ではなく「未来の現実空間」を描くイベントという位置づけである(下図)。

バーチャル空間のデザイン

現実空間のデザイン

多くの読者がご存じのとおり、VR技術は現実の建築業界でも使われている。その利用方法は、建築の時系列で分類することができる。過去の建物に対しては、復元して体験できるようにする、解体の決まった建物をデジタルアーカイブするといった具合だ。また、現在計画中の建物に対しては、デザインをVRで検討する、バーチャルモデルルームとして販売促進に活かすといったものである。「仮想万博2020」は、それらの先の空間、つまり未来の空間に対してのアプローチだ。この空間に対してVRやWebGLなどの技術を用いることで、建築関係者でない一般の人たちにも未来の空間を考えるきっかけにしてもらいたい。

「仮想万博2020」会場予定地

「VR建築」コンテストではプラットフォームとしてVRChatを使用した。その理由は、ユーザー数の多さ、自由度の高さ、マルチプレイの快適さなどの点で、開催当時は他のプラットフォームを圧倒していたからだ。第0回のイベントとしては最適なシステムではあったが、いかんせんハイスペックPCとHMDがなければ体験することができなかったため、広く参加してもらうにはハードルが高いという欠点があった(先述の「バーチャルお宅訪問」ライブ配信などの施策によって多少は補うことはできた)。映画『レディ・プレイヤー1』(2018)のようなVRが世間一般にまで浸透するのはまだまだ先の話なので、もっと多くの人に入ってきてもらうためには、何か別の工夫が求められる。

そこで「仮想万博2020」では、VRレディなハイスペックマシンを持っている人たちだけではなく、もっと多くの人たちにその空間を体験してもらいたいという思いから、会場をWebGLで作成することにした。WebGLは、PCでもモバイル端末でもWebブラウザで3Dシーンを動かすことができる。参加者には、動画、STYLY、PlayCanvas、VRChatのいずれかのワールド作品と一緒に、作品の軽量化モデル(FBX形式)を提出してもらい、この会場に建てていく予定だ。さらに各建物をクリックするとウィンドウが開き、そこからその作品の動画を視聴できたり、バーチャル空間に入っていけたりする予定である。

現在、参加者&スポンサーを募集中である。まずは公式サイトへアクセスしてもらいたい
virtualexpo.matsumototd.com



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