Vケットの運営と技術的な課題
CGW:これだけ開催規模が大きくなると、運営面でも課題が出てくるのではないでしょうか?
フィオ:一番問題になるのが描画負荷ですね。視界に入るメッシュ、頂点、マテリアル数、テクスチャサイズなどの要因があります。PCのスペックが高くない人のために描画負荷をいかに下げるかがテーマです。各ワールド自体は負荷が低いようにつくっていますが、出展者のモデルは比較的描画負荷が高い。導線を考えて、どう動いても8個以上のブースが見えない設計にして、負荷を減らしています。
水菜:「Vケット4」では最初からいきなりワールドのモデルをつくらずに、グレーのラフモデルをつくって統括が導線などの確認し、OKが出たら本番モデルをつくるようにしました。
フィオ:そのほか悩まされたのは、企業さんからいただいたモデルを「VRChat」向けにコンバートするところですね。例えば、映像作品用のデータは、当然「VRChat」を想定していないから、ポリゴンをリダクションして、さらにボーン構造をつくり直しています。バーチャルで使えるかたちに整えるのが想定以上に大変でした。でも、おかげでノウハウは貯まりました。
水菜:企業以外の一般出展者さん同士ですと、お互いにDiscordなどでコミュニケーションをとっているので、歴戦の猛者たちが初心者に教えてくれたりしています(笑)。
舟越:われわれの方でも基本的な説明は出していますが、拾いきれない個別の特殊な事例はDiscordなどの参加者コミュニティでも解決していただいています。参加者コミュニティが非常に広がっていて、ありがたく思います。
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Vケットの今後について
CGW:「Vケット4」が無事に終了した今、今後の予定と次回開催の抱負を教えていただけないでしょうか?
フィオ:次回のテーマは「グローバル化」です。これから海外の参加者もどんどん増えていくと思うので、次回の「Vケット5」(※3)からはカタカナだったロゴを英語に変えて「日本から世界に」を掲げていきます。海外からの出展者を集めたり、ブースの表記を英語と日本語で切り替えたり、世界中の人が楽しめるイベントにしたいです。また、今取り組んでいることのひとつに本の出展を主体とした同人誌即売会「ComicVket」(※4)があります。4月に「ComicVket 0(ゼロ)」を実施したのですが、同人作家さんはUnityを使えない方も多いため、画像入稿だけすればバーチャル空間上にスペースをつくれるようにしたり、HMDだけではなくPCやスマホから見られるようにしたりして、参加のハードルを下げる取り組みをしています。
※3......「Vケット5」(www.v-market.work/v5)は2020年12月19日(土)~ 2021年1月10日(日)に開催予定
※4......「ComicVket 0」(comic-vket.com)は2020年4月10日(金)~12日(日)の3日間で開催されたバーチャル空間上(VR)での同人誌即売会。次回「ComicVket 1」は2020年8月13日(木)~16日(日)に開催予定
水菜:Vケットと大きくちがうのは参加するためのハードルの差です。今後は、同様に音楽を出展する「MusicVket」も実施したいと企画しています。
フィオ:これからは同人や音楽の業界の方にもバーチャル空間に興味をもってもらえたらと思っています。まずは参加しやすい「ComicVket」や「MusicVket」に出展してもらえたら嬉しいです。
水菜:現実にあるもものほとんどはバーチャル空間に再現できるはずなんです。エンタメ以外の分野でも、インテリア、家具、自動車などの様々なプロダクトは制作段階で一度3D化されているものが多くあると思いますので、バーチャル空間に入れることが可能だと思います。
フィオ:展示会やショッピングモールはやろうと思えば、すぐにバーチャル化できますね!
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これからのバーチャルの可能性
CGW:最後に、Vケットに限らず、バーチャルイベントの今後の可能性についての見解を聞かせてください。
フィオ:リモートワークの可能性が見直されている昨今、そもそも現実空間でやることのリスクや、現実でなくてもできるのではないかという点が注目されていると思います。特にイベントにウェイトを置いている企業さんにはVケットにとても注目していただいていて、問い合わせもたくさんきています。けれど、企業側の関心は高まっていますが、一般参加者の側はまだHMDを持っていないことが多い。参加側の課題はHMDがメガネ型になったり、スマホでアクセスできたりするなど、デバイスの進化に依存していている部分が大きいと思います。需要する側にはまだ価値に気づいてもらえていないので、アクセスしやすいようにわれわれが工夫していかなければと思っています。そのひとつの方法として、アバター文化をいかに広めていけるか、バーチャル空間をいかに受容してもらうかは密接に絡みついている部分だと思います。
CGW:VTuberなどに代表されるアバター文化は、一般の方の間でもかなり認知が進んでいますね。
フィオ:アバター文化はいわゆる"盛り"の文化で、自分をよく見せたいという人間が根本的にもっている欲求。自分の好きなアバターをまとってバーチャル空間で過ごすというのが、ひとつの新しいライフスタイルとしてあるのだと、もっと広めていきたいですね。デバイスの進化を考えると少し時間はかかると思うのですが、当たり前のように現実空間の隣にバーチャル空間が並行して存在していて、メガネをかけたらアクセスできるような時代がくると思います。その頃には1人に1アバターが普通になるでしょうから、そのときのための準備をしておく感じです。
水菜:その時代がきたときのために、市場をつくっておかないといけないと思っています。
フィオ:バーチャル空間とアバターをもつことで、人生が豊かになることはあると思っています。私は数年前の一時期、人と会うのが怖くなり、Facebookやスマホの連絡先などを消してありとあらゆる世界との関わりを断ってしまったことがあります。その頃、社会との関わりについて悩んでいた時期に、VRと出会いました。VRの中だったらキャラクターと話している感じがして話ができました。自分は人を集めることや、ビジョンを描いて人に呼びかけることにはスキルがあったので、そこでVケットを主催しているうちにそれが仕事になり、HIKKYの取締役にもなって社会とのかかわりを取り戻せました。VRと出会わなければ、今も家にこもっていたと思います。
CGW:まさにVRとの出会いで人生が変わったんですね。
フィオ:VR空間には様々な事情を抱えた人がいます。自分と同じように現実世界では活躍できなかったり、しんどさを抱えたりしている人はたくさんいる。そういう人にとってVR空間は救いになる場所です。例えば、子育てや介護で家を離れらない人でも、HMDを付けたら職場に行けるのは福音だと思う。多くの人にとって、バーチャルでのアバターには可能性があります。イベントやライブなどの商売っ気あるような話はもちろん、人生でどのように生きていくかの選択肢のひとつにもなりえます。物理現実だけでなくて、バーチャルを織り交ぜていくことによって人生が豊かになる人や、物理現実だと生きづらいけどバーチャルなら伸び伸びと生きていける人は、潜在的にいると思う。私はVRに救われた人間なので、そういう人たちにVRを届けたいと思っています。バーチャルは"仮想"ではなく"本質"なんです。
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まとめ
今回はリモートワーク特集の一環としてインタビューを行なったが、ビジネス分野の話題にとどまらず、生活にバーチャル空間を積極的に取り入れていくことで、人生が豊かになっていくのだという、より広い意味でのポテンシャルを聞くことができた。自粛で半ば強制的に始まったリモートワークが今後のスタンダードになっていく可能性があるように、今回をきっかけとして、バーチャルのもつ新しい可能性に気がつく人は多いだろう。グローバルに羽ばたいていくVケットの今後に注目していきたい。