「その子らしい選曲」「その子ならではのつなぎ方」を確立したい
田端:『電音部』のDJプレイにも、BanaDIVE™ AXが活用されるのでしょうか?
子川:そのつもりです。キャラクターによるDJプレイでは、BanaDIVE™ AXを使います。加えて、キャストやコンポーザーによるDJプレイや、キャストのライブも展開していきます(※)。
※第13回 アキバ大好き!祭り(2020年12月26日(土) 開催)のステージでは、堀越せな氏(アキバエリアの茅野ふたば役)によるDJプレイが披露された。また、バンダイナムコエンターテインメントフェスティバル 2nd(2021年2月6日(土)〜7日(日)開催)の7日のステージでは、アキバエリアとハラジュクエリアのキャスト6人によるライブが予定されている。
田端:先ほど(※)、BanaDIVE™ AXによるDJプレイは、機械的な楽曲データのアナライズと、人間が設定するマーカーが基になっているという話を伺いました。マーカーには設定した人の個性が反映されるそうですが、12人の女の子のDJプレイのスタイルのちがいは、マーカーを誰がどのように設定するかによって表現できるということでしょうか?
※詳細は前篇の3ページ目を参照。
大久保:そうなると思います。設定する人が変われば、たとえ同じ楽曲を使ったとしても、DJプレイのスタイルはちがうものになります。つなぎ方だけでなく、選曲やかける順番にも各々のスタイルのちがいが出るので、そこも含めて担当する人を変えていけば、いろんなスタイルを表現できます。
子川:実際のDJプレイの個性も選曲やつなぎ方に表れてくるので、『電音部』でもキャストやコンポーザーの皆さんと相談しながら、「その子らしい選曲」「その子ならではのつなぎ方」を確立したいです。
田端:DJプレイのスタイルに加え、キャラクター性のちがいについても、どう表現するのか興味があります。BanaDIVE™ AXのAIでもって、キャラクター性を表現することは可能でしょうか?
大久保:現状のBanaDIVE™ AXは、フロア体験全体を楽曲で制御するシステムが軸になっており、キャラクター性をロジックでつくり出すものではありません。キャラクター性は『電音部』のストーリーがつくり出すコンテキストによって確立するものです。それを支えるべく、今後はDJプレイのアニメーションにもキャラクター性を宿せるよう、そのキャラクターらしい動きのパターンをもっと増やしたいし、より自然な動きを実現させたいです。例えばクラップのときの腕の上げ方ひとつでも、キャラクターごとにちがいがあると思うのです。バンダイナムコスタジオ(以下、BNS)のアニメーションチームとも相談しつつ、システムのアップデートを図っていく方針です。
田端:ちなみにAOFでは、ミライ小町ちゃんがDJプレイをするときのスタイルと、大久保さん自身がDJプレイをするときのスタイルを意識して変えていましたか?
大久保:今回は、そこまで意識する余裕はなかったというのが実情です(苦笑)。限られた時間の中で、仕様策定から、実装、実証実験まで進める必要がありましたから......。AOFのパフォーマンスはいわばα版のようなもので、まずはかたちにすることを目指しました。
田端:やっぱり、AOFのミライ小町と大久保さんは、限りなく近い存在だったわけですね(笑)。
大久保:まずは自分のDJプレイのロジックに沿って動くかどうかを試すことから始めたので、今後はいろんな展開ができるようにしたいです。
田端:DJ自身がモーションアクターになり、BanaCASTを使ってリアルタイムに演じることは可能でしょうか?
大久保:そういう可能性もあり得ますね。バンダイナムコ研究所(以下、BNKEN)のxR研究チームやBanaCASTチームとも連携して、いろんな可能性を探っていきたいです。『電音部』の女の子は現時点でも12人いるので、個々のキャラクター性を確立しつつ、イベントの量産化や制作の効率化を実現する必要があります。それもあって、フロア体験全体を楽曲で制御できる、ミュージックドリブンというシステムを設計したわけです。
▲アキバエリアの3人。ゲーマーだったり、ロボ好きだったり、アイドルだったりと、アキバエリアならではの濃いキャラクター性が持ち味
田端:将来的には、ゲームミュージックに特化したエリアや女の子も登場してほしいですね(笑)。
子川:つくるとしたら、モンナカエリア(※)でしょうか(笑)?
※モンナカ:BNKEN、およびBNSの社屋は、東京都江東区門前仲町にあり、モンナカは、門前仲町(もんぜんなかちょう)の通称。
大久保:アキバ、ハラジュク、アサブ、シブヤときて、まさかのモンナカ(笑)。
子川:夢が広がります。既に海外のファンからの反応もあるので、ベルリン、アムステルダム、バルセロナ、ニューヨークなど、クラブカルチャーに対する感度が高いエリアや、大規模な音楽イベントを開催しているエリアも追加していきたいです。
ファンの皆さん、どんどんつくって、共有、公開してください
田端:「電音部」ファンメイドコンテンツポリシーが言わんとすることは、「ファンの皆さん、ファンアートでも、楽曲の改変・リミックスでも、どんどんつくって、共有、公開してくださいね」ということでしょうか?
子川:そういうことです。DJやクラブカルチャーに根ざしたコンテンツなので、ファンの皆さんと一緒に『電音部』の世界をつくっていきたいという思いがあり、ガイドラインを設けました。公開前に当社の法務部と何度も打ち合わせを重ね、キャストやコンポーザーの皆さんや、その所属事務所にも賛同していただきましたね。2020年の5月から、浜崎あゆみさんがアカペラ音源の無料公開を始めており(※)、自由にリミックスや投稿をしてほしいと呼びかけています。『電音部』でも、そういう働きかけをしていくつもりです。
※詳細はayuクリエイターチャレンジ!アカペラ音源公開中!を参照。
大久保:僕もやっていい?
子川:もちろんです!! 個人の創作活動であれば、どなたでも参加できます。『電音部』では、みんなで一緒に世界をつくり、その過程も含めて共有していきたいと思っています。例えば『電音部』の公式サイト制作はjunniさんに依頼しており、その制作過程を自社のWebサイトやTwitterアカウントで紹介していただき、『電音部』の公式アカウントでも拡散しました。紹介するときの文章にもこだわっており、あえて「Blender」「WebGL」などの技術関連の単語も入れていただきました。『「電」音部』なので、テクノロジーの好きな人に刺さる言葉も入れることで、わかる人には面白がっていただき、わからない人には、これを機会に興味をもっていただければと願っています。
▲『電音部』公式サイトの3Dモデルは全てBlenderで制作し、WebGLを用いてサイト内に組み込んでいる。また、サイト内のシェーダはBGMに連動している。詳細はjunniの制作実績ページを参照
大久保:AOFのAR映像も、Webブラウザ上のJavaScriptでWebGLを操作しています。少し前にリニューアルしたミライ小町のWebサイトでもWebGLを使いました。最近は個人的にもWebGLをノードベースでプログラムできるcablesというツールを使って遊んだりしています。JavaScriptやWebGLの世界って楽しいんですよね。
子川:『電音部』の舞台は近未来なので、DJやVJのプレイに合わせてクラブの空間内を3Dホログラムが乱舞するという設定にするつもりです。それをAR映像で表現し、『電音部』のDJイベントで体験できるようにしたいと大久保に相談しています。
田端:オンライン投票システムと組み合わせて、イベント空間に選択肢が浮かび上がったりするとゲーム的な体験もできて盛り上がりそうですね。それから、女の子たちの3Dモデルの制作過程もぜひ紹介してください!!
子川:その予定です。完成形だけではなく、だんだん可愛くなっていく過程も含めて、楽しんでほしいと思っています。
大久保:そうですよね。制作過程を見守っていると、愛が深まっていきますよね。
田端:ミライ小町ちゃんの成長を見守ってきた大久保さんがおっしゃると、説得力がありますね。
▲YouTube番組の「『電音部』 生放送特番 -デジタルクリエイティ部-」(2020年9月26日 ライブ配信。現在も視聴可能)内で公開された、アキバエリアの日高零奈の3Dモデル。この番組には大久保氏に加え、3D制作を担当しているイルカの高森聡之氏、蔀祐佳氏(日高零奈役)も登場し、3Dモデル制作の進捗、BanaDIVE™ AXの展望、AIの未来などが語られた。日高零奈モデルの開発進捗度は55%とのことだが、既にかなり可愛い。番組内では3Dモデルのターンテーブルも視聴できるので、ぜひご覧いただきたい
▲【上】先の番組では、日高零奈モデルのテストアニメーションも披露された。楽曲とダンスアニメーションは、【下】ミライ小町の『ミライ』 MVのものを流用しているため、両者が同じポーズをとっている。このようなデータ流用が可能で、しかも広く公開できるのは、「技術研究と創作活動のためのキャラクター」であるミライ小町ならではの特徴だ
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