ASOBINOTES ONLINE FEST 2nd(以下、AOF2)の開催が、2020年12月18日(金)に発表されました。第1回のASOBINOTES ONLINE FES(以下、AOF。2020年6月28日(日)開催)と同様、今回も完全オンライン配信で、2020年12月31日(木)〜2021年1月1日(金)にかけての年越しイベントとなります。なお、開場は12月28日(月)19:00、開演は12月31日(木)21:00[予定]とのことです。

本記事の前篇では、筆者が注目している「ミライ小町 × 大久保博」にスポットを当て、大久保博氏(BanaDIVE™ AX開発者)と子川拓哉氏(『電音部』統括プロデューサー)にお話を伺いました。後篇では、同じく注目必至の「電音部プロジェクト」にスポットを当てます(※)。AOF2の直前予習に役立てていただけると幸いです。

※ 本記事は、2020年7月10日に実施したインタビュー、および2020年12月28日までに発表された情報を基に制作しています。

TEXT_田端秀輝 / Hideki Tabata(@hitabataba
EDIT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

『電音部』のおさらい

『電音部』はバンダイナムコエンターテインメントが展開するダンスミュージックプロジェクトで、AOFのラストにその始動が発表されました。AOFでフロアを沸かせたアーティストの多くがキャストやコンポーザーとして参加しており、段階的に公開されていく情報に呼応して、SNS上でのファンアートや世界観考察も増えてきています。『電音部』の舞台は電子音楽が世界のミュージックカルチャーの中心となった近未来で、アキバ・ハラジュク・アザブ・シブヤの4エリアの高校に通う12人の少女たちは、電音部と呼ばれるDJプレイの部活動に青春をかけます。

▲『電音部』ティザーPV


『電音部』のキャラクターデザインはMika Pikazoさんが担当しており、12人の少女たちが好む楽曲、DJプレイのスタイル、ファッションは、所属するエリアのイメージに即した差別化がなされています。例えばファッションに関しては、アキバの3人は制服スタイル、ハラジュクの3人はガーリーなライトトーン、アザブの3人はモダンなモノトーン、シブヤの3人はスポーティなビビッドトーンという具合です。キャストには、声優に加え、アイドル、VTuberなども起用されており、DJプレイを担うコンポーザーのバックグラウンドも様々です。DJを核とするプロジェクトに相応しい、ミクスチャーなスタイルと言えるでしょう。

また始動当初から、ファンアートや、楽曲の改変・リミックスなどのファンメイドコンテンツの制作と共有を応援する姿勢を示しており、ガイドラインとなる「電音部」ファンメイドコンテンツポリシーを公式サイトで公開している点が目を引きます。

ASOBINOTES ONLINE FES(AOF)の反響は?

田端秀輝(以下、田端):AOFの当日、私は会場となったSTUDIO COASTで取材させていただき、周囲の関係者が「この面白さは、ほかのコンテンツにはない!」と興奮する姿を目の当たりにしていました。お2人はどのような手応えを感じましたか?

大久保博氏(以下、大久保):周囲からは「楽しかった」という声ばかりをもらいました。

子川拓哉氏(以下、子川):僕も同様で、評判は良かったです。個人的に「嬉しいな」と感じた点は2つあり、ひとつはDJをやっている友人から「最高のパーティでした!」と言ってもらえたことです。もうひとつは、ラストの『電音部』始動の発表で宣伝色が前面に出てしまい、しらけたムードになることを危惧していたのですが、多くのオーディエンスに歓迎してもらえたことです。アーティストの皆さんがDJプレイの楽しさを伝えてくれたから、オーディエンスの共感を引き出せたのだと思います。アーティストの皆さんに、すごく感謝しています。

▲【左】大久保博氏(バンダイナムコ研究所)/【右】子川拓哉氏(バンダイナムコエンターテインメント


田端:AOFでの体験を通して、DJプレイのスタイルの多様性を実感しました。楽曲のつなぎ方はもちろん、身体を使ったパフォーマンスも千差万別で、例えばAKIBA POPフロアのDJの中には、ブースの外に出て踊る人もいましたね。AOFに出演したアーティストの多くが『電音部』にも参加すると伺っています。その多様性が『電音部』のキャラクターのDJプレイにも反映されると期待していいでしょうか?

子川:そういう展開を目指しています。AOFの出演アーティストの中だと、CHARACTERフロアの高橋花林さん(※)による『アイドルマスター シンデレラガールズ』の楽曲オンリーセットでのDJプレイが斬新でした。歌いながらDJプレイをやり、振付も、カメラの捉え方もカンペキでした。本業は声優なのに、用意してきた楽曲をその場でつなぎ、DJプレイもしっかり披露してくれたのです。僕の周囲のDJやVJの方々も「新しいパフォーマンスだ」と賞賛していました。

※高橋花林:声優。『アイドルマスター シンデレラガールズ』には森久保乃々役で出演している。


田端:CHARACTERフロアの総合司会を務めた佐野電磁さんも、同じように褒めていましたね。

子川:DJプレイのあり方は様々で、高橋さんのように新境地を見せてくれる人もいるので、『電音部』でもエリアごとのDJプレイの特色を打ち出していきたいです。

▲アキバエリアの日高零奈(CV:蔀 祐佳)、東雲和音(CV:天音みほ)、茅野ふたば(CV:堀越せな)の楽曲を収録した「電音部-外神田文芸高校- 1st Mini Album 『New Park』」は、2020年10月28日に発売された


▲ハラジュクエリアの桜乃美々兎(CV:小坂井祐莉絵)、水上雛(CV:大森日雅)、犬吠埼紫杏(CV:長谷川玲奈)の楽曲を収録した「電音部-神宮前参道學園- 1st Mini Album 『New Pallet』」は、2020年11月25日に発売された


▲アザブエリアの黒鉄たま(CV:秋奈)、白金煌(CV:小宮有紗)、灰島銀華(CV:澁谷梓希)の楽曲を収録した「電音部-港白金女学院- 1st Mini Album 『New Palace』」は、2020年12月23日に発売された


▲シブヤエリアの鳳凰火凛(CV:健屋花那)、瀬戸海月(CV:シスター・クレア)、大賀ルキア(CV:星川サラ)の楽曲を収録した「電音部-帝音国際学院- 1st Mini Album『New Paradigm』」は、2021年1月20日に発売予定



©BANDAI NAMCO Entertainment Inc./©BANDAI NAMCO Research Inc.

次ページ:
「その子らしい選曲」「その子ならではのつなぎ方」を確立したい

[[SplitPage]]

「その子らしい選曲」「その子ならではのつなぎ方」を確立したい

田端:『電音部』のDJプレイにも、BanaDIVE™ AXが活用されるのでしょうか?

子川:そのつもりです。キャラクターによるDJプレイでは、BanaDIVE™ AXを使います。加えて、キャストやコンポーザーによるDJプレイや、キャストのライブも展開していきます(※)。

第13回 アキバ大好き!祭り(2020年12月26日(土) 開催)のステージでは、堀越せな氏(アキバエリアの茅野ふたば役)によるDJプレイが披露された。また、バンダイナムコエンターテインメントフェスティバル 2nd(2021年2月6日(土)〜7日(日)開催)の7日のステージでは、アキバエリアとハラジュクエリアのキャスト6人によるライブが予定されている。


田端:先ほど(※)、BanaDIVE™ AXによるDJプレイは、機械的な楽曲データのアナライズと、人間が設定するマーカーが基になっているという話を伺いました。マーカーには設定した人の個性が反映されるそうですが、12人の女の子のDJプレイのスタイルのちがいは、マーカーを誰がどのように設定するかによって表現できるということでしょうか?

※詳細は前篇の3ページ目を参照。


大久保:そうなると思います。設定する人が変われば、たとえ同じ楽曲を使ったとしても、DJプレイのスタイルはちがうものになります。つなぎ方だけでなく、選曲やかける順番にも各々のスタイルのちがいが出るので、そこも含めて担当する人を変えていけば、いろんなスタイルを表現できます。

子川:実際のDJプレイの個性も選曲やつなぎ方に表れてくるので、『電音部』でもキャストやコンポーザーの皆さんと相談しながら、「その子らしい選曲」「その子ならではのつなぎ方」を確立したいです。

田端:DJプレイのスタイルに加え、キャラクター性のちがいについても、どう表現するのか興味があります。BanaDIVE™ AXのAIでもって、キャラクター性を表現することは可能でしょうか?

大久保:現状のBanaDIVE™ AXは、フロア体験全体を楽曲で制御するシステムが軸になっており、キャラクター性をロジックでつくり出すものではありません。キャラクター性は『電音部』のストーリーがつくり出すコンテキストによって確立するものです。それを支えるべく、今後はDJプレイのアニメーションにもキャラクター性を宿せるよう、そのキャラクターらしい動きのパターンをもっと増やしたいし、より自然な動きを実現させたいです。例えばクラップのときの腕の上げ方ひとつでも、キャラクターごとにちがいがあると思うのです。バンダイナムコスタジオ(以下、BNS)のアニメーションチームとも相談しつつ、システムのアップデートを図っていく方針です。

田端:ちなみにAOFでは、ミライ小町ちゃんがDJプレイをするときのスタイルと、大久保さん自身がDJプレイをするときのスタイルを意識して変えていましたか?

大久保:今回は、そこまで意識する余裕はなかったというのが実情です(苦笑)。限られた時間の中で、仕様策定から、実装、実証実験まで進める必要がありましたから......。AOFのパフォーマンスはいわばα版のようなもので、まずはかたちにすることを目指しました。

田端:やっぱり、AOFのミライ小町と大久保さんは、限りなく近い存在だったわけですね(笑)。

大久保:まずは自分のDJプレイのロジックに沿って動くかどうかを試すことから始めたので、今後はいろんな展開ができるようにしたいです。

田端:DJ自身がモーションアクターになり、BanaCASTを使ってリアルタイムに演じることは可能でしょうか?

大久保:そういう可能性もあり得ますね。バンダイナムコ研究所(以下、BNKEN)のxR研究チームやBanaCASTチームとも連携して、いろんな可能性を探っていきたいです。『電音部』の女の子は現時点でも12人いるので、個々のキャラクター性を確立しつつ、イベントの量産化や制作の効率化を実現する必要があります。それもあって、フロア体験全体を楽曲で制御できる、ミュージックドリブンというシステムを設計したわけです。

▲アキバエリアの3人。ゲーマーだったり、ロボ好きだったり、アイドルだったりと、アキバエリアならではの濃いキャラクター性が持ち味


田端:将来的には、ゲームミュージックに特化したエリアや女の子も登場してほしいですね(笑)。

子川:つくるとしたら、モンナカエリア(※)でしょうか(笑)?

※モンナカ:BNKEN、およびBNSの社屋は、東京都江東区門前仲町にあり、モンナカは、門前仲町(もんぜんなかちょう)の通称。


大久保:アキバ、ハラジュク、アサブ、シブヤときて、まさかのモンナカ(笑)。

子川:夢が広がります。既に海外のファンからの反応もあるので、ベルリン、アムステルダム、バルセロナ、ニューヨークなど、クラブカルチャーに対する感度が高いエリアや、大規模な音楽イベントを開催しているエリアも追加していきたいです。

ファンの皆さん、どんどんつくって、共有、公開してください

田端「電音部」ファンメイドコンテンツポリシーが言わんとすることは、「ファンの皆さん、ファンアートでも、楽曲の改変・リミックスでも、どんどんつくって、共有、公開してくださいね」ということでしょうか?

子川:そういうことです。DJやクラブカルチャーに根ざしたコンテンツなので、ファンの皆さんと一緒に『電音部』の世界をつくっていきたいという思いがあり、ガイドラインを設けました。公開前に当社の法務部と何度も打ち合わせを重ね、キャストやコンポーザーの皆さんや、その所属事務所にも賛同していただきましたね。2020年の5月から、浜崎あゆみさんがアカペラ音源の無料公開を始めており(※)、自由にリミックスや投稿をしてほしいと呼びかけています。『電音部』でも、そういう働きかけをしていくつもりです。

※詳細はayuクリエイターチャレンジ!アカペラ音源公開中!を参照。


大久保:僕もやっていい?

子川:もちろんです!! 個人の創作活動であれば、どなたでも参加できます。『電音部』では、みんなで一緒に世界をつくり、その過程も含めて共有していきたいと思っています。例えば『電音部』の公式サイト制作はjunniさんに依頼しており、その制作過程を自社のWebサイトやTwitterアカウントで紹介していただき、『電音部』の公式アカウントでも拡散しました。紹介するときの文章にもこだわっており、あえて「Blender」「WebGL」などの技術関連の単語も入れていただきました。『「電」音部』なので、テクノロジーの好きな人に刺さる言葉も入れることで、わかる人には面白がっていただき、わからない人には、これを機会に興味をもっていただければと願っています。

▲『電音部』公式サイトの3Dモデルは全てBlenderで制作し、WebGLを用いてサイト内に組み込んでいる。また、サイト内のシェーダはBGMに連動している。詳細はjunniの制作実績ページを参照


大久保:AOFのAR映像も、Webブラウザ上のJavaScriptでWebGLを操作しています。少し前にリニューアルしたミライ小町のWebサイトでもWebGLを使いました。最近は個人的にもWebGLをノードベースでプログラムできるcablesというツールを使って遊んだりしています。JavaScriptやWebGLの世界って楽しいんですよね。

子川:『電音部』の舞台は近未来なので、DJやVJのプレイに合わせてクラブの空間内を3Dホログラムが乱舞するという設定にするつもりです。それをAR映像で表現し、『電音部』のDJイベントで体験できるようにしたいと大久保に相談しています。

田端:オンライン投票システムと組み合わせて、イベント空間に選択肢が浮かび上がったりするとゲーム的な体験もできて盛り上がりそうですね。それから、女の子たちの3Dモデルの制作過程もぜひ紹介してください!!

子川:その予定です。完成形だけではなく、だんだん可愛くなっていく過程も含めて、楽しんでほしいと思っています。

大久保:そうですよね。制作過程を見守っていると、愛が深まっていきますよね。

田端:ミライ小町ちゃんの成長を見守ってきた大久保さんがおっしゃると、説得力がありますね。

▲YouTube番組の「『電音部』 生放送特番 -デジタルクリエイティ部-」(2020年9月26日 ライブ配信。現在も視聴可能)内で公開された、アキバエリアの日高零奈の3Dモデル。この番組には大久保氏に加え、3D制作を担当しているイルカの高森聡之氏、蔀祐佳氏(日高零奈役)も登場し、3Dモデル制作の進捗、BanaDIVE™ AXの展望、AIの未来などが語られた。日高零奈モデルの開発進捗度は55%とのことだが、既にかなり可愛い。番組内では3Dモデルのターンテーブルも視聴できるので、ぜひご覧いただきたい


▲【上】先の番組では、日高零奈モデルのテストアニメーションも披露された。楽曲とダンスアニメーションは、【下】ミライ小町の『ミライ』 MVのものを流用しているため、両者が同じポーズをとっている。このようなデータ流用が可能で、しかも広く公開できるのは、「技術研究と創作活動のためのキャラクター」であるミライ小町ならではの特徴だ



©BANDAI NAMCO Entertainment Inc./©BANDAI NAMCO Research Inc.

次ページ:
『電音部』でもDJプレイの「文脈」を大事にしたい

[[SplitPage]]

『電音部』でもDJプレイの「文脈」を大事にしたい

田端:ファンの中には、キャラクターや楽曲には興味があるけど、DJプレイはよくわからないという人もいるのではないでしょうか? DJ講座の需要もあるように思います。

子川:それもやりたいですね。『電音部』をきっかけに、DJの面白さを知ってもらえたら嬉しいです。『電音部』では、キャラクター、DJ、テクノロジーに加え、ファッションの面白さも伝えていきたいと思っています。

田端:ここ最近のファッションは、いろんなスタイルのミクスチャーが定着していますから、DJとはすごく相性が良いですよね。『電音部』の女の子たちのファッションは、ストリートの中にゲームやアニメの要素もミックスされていて、とっつきやすさを感じます(笑)。

子川:実際、今どきの10代の原宿系の女の子たちは『アイドリッシュセブン』も好きだったりしますし、そのあたりの境界線はなくなってきたなと感じます。原宿系の要素を入れつつ、秋葉系の要素も入れつつ、上手くバランスをとっていきたいです。

大久保:最近のコミックマーケットに来ている若い層はオシャレな人が多いですし、ファッションや音楽と同列に、ゲーム、アニメ、マンガなども楽しんでいるように見えますね。

子川:そういうミックスの文化に加え、DJには、ある界隈のDJが別の界隈のDJイベントに招かれ、DJプレイをしたり、交流をしたりする文化もあるのです。『電音部』も、そういう交流をいとわない、懐の広いコンテンツでありたいと思っています。

加えて、DJには「文脈」を大事にする文化もあって、ひとつのセットリストの中で物語をつくったりするんです。AOFのCHARACTERフロアで、TAKU INOUEさんが「夜明けまであと3秒」をかけてくださったのは超エモかったです。BNSを退社しているINOUEさんが、AOFに出演してくださり、既にオンラインサービスの終了した『シンクロニカ』の楽曲でセットリストの最後を飾ってくれました。その物語に震えましたし、こういう文化を『電音部』でも大事にしたいと思いました。

▲『シンクロニカ』はバンダイナムコエンターテインメントより発売され、2015年6月に稼働を開始したアーケードの2人協力音楽ゲーム。2019年9月にオンラインサービスが終了し、以降はオフラインでの稼働となった。本作の楽曲のひとつである「夜明けまであと3秒」はTaku Inoue氏が作曲している


▲Taku Inoue氏は、アキバエリアの東雲和音の楽曲『Mani Mani』を作曲している

現実のDJイベントにはない価値を発見し、それを伸ばす

田端:バンダイナムコエンターテインメントフェスティバルとAOFのミライ小町ちゃんを見比べると、後者は実在感が増しているように思います。BanaDIVE™ AXによるリアルタイム映像であることが要因だと思うのですが、ほかに工夫した点はありますか?

大久保:オンライン投票の結果によって次にかかる曲が変わる仕掛けは、リアルタイム処理だからこそ可能なことで、リアリティを感じさせる演出だったと思います。

子川:ミライ小町が主役のイベントではなく、複数のアーティストが出演するイベントで、その中のひとりとしてDJプレイを披露したこともリアリティを感じさせる要因になったと思います。実際、DJイベントでひとりだけがフィーチャーされるというケースはほとんどありませんから。ミライ小町を知らないオーディエンスにとっては「人間のDJがいっぱい出演している中に、ひとりだけキャラクターが混じっている。この子は何なんだ?」という予想外の出会いになったと思います。一方で、ミライ小町を知っているオーディエンスは「大久保さんたちが可愛がってきたミライ小町が、新しい技術を見せてくれる」という文脈を受け取り、そこに魂を感じてくれたと思うのです。

複数のフロアがあり、同時進行でいろんなDJがプレイするというスタイルは、イベントやフェスではよくあることです。移動途中にあったフロアを好奇心で覗いてみたら、すごく良いプレイに出会えたというような偶然の出会いもよく起こります。AOFは、それに近い体験をオンラインイベントという枠組みの中で実現できました。イベントに行き慣れている人ほど、リアリティを感じてくれたのではないでしょうか。一方で「観たいステージの時間帯がかぶっていて、どれを観ようか悩ましくてしんどい」という状態も、イベントではよくあることですよね。そういう「しんどさ」までオンライン上で再現したいと思っていました。

オーディエンスの中には、モニタやタブレットを4台用意して、4つのフロアを同時視聴してくれた方もいたようです。そういう視聴環境をわざわざ準備していると、自宅にいながらでも、イベントに参加する特別感が醸成されていくと思います。視聴後の余韻も大きいので、楽しかった思い出として長く記憶に残ります。アニON STATION(キャラクターコラボカフェ)でDJイベントを担当していたときも、オーディエンスが「ちょっと疲れたな」と感じるくらいの方が、万事が快適なものよりも満足度が高かったので、そのあたりのバランスは意識しています。

田端:COVID-19が収束する見通しの立たない今、オンラインイベントの満足度の向上は重要ですね。BanaDIVE™ AXや『電音部』の関連プロジェクトが目指しているゴールは、現実のイベントの再現でしょうか? あるいは現実のイベントにはない、新たな体験の創造でしょうか?

大久保:実のところ、現状の技術では、現実のイベントを超える体験をオンラインで提供することは難しいと思っています。リアリティを感じさせる技術や演出を追求してはいるものの、現実を超えて楽しめる体験にはなれていないと感じています。現実のイベントにはないベクトルの価値を発見し、それを伸ばせた先に、すごく面白い世界があるんだろうと思っています。ですので、現実の楽しさと、オンラインならではの楽しさと、どちらにしようと迷うくらいまでオンラインの価値を高められたらと考えています。

子川:だからこそAOFでは「変わる世界、変わらない熱狂」というテーマを掲げたのです。慣れ親しんできた現実のイベントのフォーマットを下敷きにしつつ、見せ方や楽しみ方はどんどん変えていけばいいと思っています。例えば、一体感や満足感は、会場でペンライトを振ることだけではなく、Twitterトレンドの1位を目指すことでも得られると思います。そうして楽しみ方が変容しても、熱狂を生み出すことは、変わらずに大事にしていきたいです。

2020年の3月頃から国内でもCOVID-19の感染が一気に拡大し、ライブハウスやクラブが営業休止を余儀なくされる中、秋葉原にあるDJイベントスペースのMOGRAさんはすばらしい動きをなさいました。いち早くMusic Unity 2020(2020年4月18 日 開催)というライブストリーミングフェスを実施し、僕たちを熱狂させてくれたのです。その後、多くのDJやVJが配信のやり方を研究し、ノウハウが確立され、オンラインでの楽しみ方がオーディエンスに周知されていきました。その過程で僕はすごく勉強させていただき、AOFを開催するための土壌ができあがったのです。MOGRAさんには、すごく感謝しています。

大久保:DJが緑のTシャツを着てプレイをし、クロマキー合成の要領でTシャツの上にリアルタイムにエフェクトを合成して見せたりと、斬新なアイデアがどんどん実践されて面白かったです。その勢いのおかげで、AOFの準備にも熱が入りました。

田端:そうやって影響を与えあい、みんなで一緒に熱狂を生み出していくことも、DJ文化のひとつの側面なんですね。

コンテンツと組み合わさることで、技術にも注目してもらえる

田端:今後予定している展開を、話せる範囲で語っていただけますか?

大久保:体験の設計を重視したいです。xRのためのデバイスは日々進化していくので、それを見越した未来の体験を設計しつつ、それに近い体験を、スマホなどの現在使いやすいデバイスでもってオーディエンスに提供していく取り組みを今後も続けていきたいです。

子川:それを『電音部』の世界に取り入れ、感動や熱狂を生み出すというのが僕の役割ですね。『電音部』のもう1人の統括プロデューサーである石田裕亮とは「BNKENが設計する未来の体験を『電音部』の世界に取り入れよう」という話をしています。

大久保:僕らが「面白いな」と思った技術を子川や石田に伝えると、『電音部』というコンテンツの中での活用方法を考えてくれるのです。コンテンツありき、用途ありきというわけでもないところが、今までにない関係性だと思います。コンテンツと組み合わさることで、技術にも注目してもらえるし、実証実験の場が増えて技術が磨かれていくので、今後も仲良くしていきたいです。

田端:技術とコンテンツがお互いに刺激し合うことで、新しい価値が生み出されていくわけですね。

子川:「やろうよ」と言われたときに、「やりましょう」と言える寛容なコンテンツでありたいので、それを面白がってくれるファンを増やし、人気を高めていく必要があると思っています。

田端:寛容なコンテンツというと、『初音ミク』ちゃんをイメージしますね。

子川:『初音ミク』ちゃんは、とても寛容で技術への貢献度の高いコンテンツだと思います。

AOF2では、「音楽と越えていく」というテーマを掲げ、「MUSIC」「GAME」「VIRTUAL」「DIGITAL」からなる4ジャンルの名を冠した4つのDJフロアにて、多くのアーティストがパフォーマンスを披露する。MUSICフロアでは『電音部』、『アイドルマスター』シリーズ、『テイルズオブ』シリーズに加え、『初音ミク』『東方プロジェクト』『GEMS COMPANY』の楽曲によるDJプレイの実施も発表されている


大久保:僕らはエンターテインメントの会社の人間なので、エンターテインメントの技術によって変わる世界を創造し、それを体験してもらえる機会をつくっていきたいと考えています。そのためにも、ぜひ『電音部』やミライ小町を応援していただきたいです。

子川:今後とも、『電音部』をよろしくお願いいたします!!

田端:さし当たって、AOF2に馳せ参じますね! 今度こそ、ちゃんと時間内に投票してみせます!!



後篇は以上です。
前篇ではこちらでご覧いただけます。合わせてお楽しみください。

©BANDAI NAMCO Entertainment Inc./©BANDAI NAMCO Research Inc.