>   >  ミライ小町のDJプレイを可能にしたBanaDIVE(TM)AXについて、開発者の大久保氏と『電音部』の子川Pに聞いてみた(後篇)
ミライ小町のDJプレイを可能にしたBanaDIVE(TM)AXについて、開発者の大久保氏と『電音部』の子川Pに聞いてみた(後篇)

ミライ小町のDJプレイを可能にしたBanaDIVE(TM)AXについて、開発者の大久保氏と『電音部』の子川Pに聞いてみた(後篇)

『電音部』でもDJプレイの「文脈」を大事にしたい

田端:ファンの中には、キャラクターや楽曲には興味があるけど、DJプレイはよくわからないという人もいるのではないでしょうか? DJ講座の需要もあるように思います。

子川:それもやりたいですね。『電音部』をきっかけに、DJの面白さを知ってもらえたら嬉しいです。『電音部』では、キャラクター、DJ、テクノロジーに加え、ファッションの面白さも伝えていきたいと思っています。

田端:ここ最近のファッションは、いろんなスタイルのミクスチャーが定着していますから、DJとはすごく相性が良いですよね。『電音部』の女の子たちのファッションは、ストリートの中にゲームやアニメの要素もミックスされていて、とっつきやすさを感じます(笑)。

子川:実際、今どきの10代の原宿系の女の子たちは『アイドリッシュセブン』も好きだったりしますし、そのあたりの境界線はなくなってきたなと感じます。原宿系の要素を入れつつ、秋葉系の要素も入れつつ、上手くバランスをとっていきたいです。

大久保:最近のコミックマーケットに来ている若い層はオシャレな人が多いですし、ファッションや音楽と同列に、ゲーム、アニメ、マンガなども楽しんでいるように見えますね。

子川:そういうミックスの文化に加え、DJには、ある界隈のDJが別の界隈のDJイベントに招かれ、DJプレイをしたり、交流をしたりする文化もあるのです。『電音部』も、そういう交流をいとわない、懐の広いコンテンツでありたいと思っています。

加えて、DJには「文脈」を大事にする文化もあって、ひとつのセットリストの中で物語をつくったりするんです。AOFのCHARACTERフロアで、TAKU INOUEさんが「夜明けまであと3秒」をかけてくださったのは超エモかったです。BNSを退社しているINOUEさんが、AOFに出演してくださり、既にオンラインサービスの終了した『シンクロニカ』の楽曲でセットリストの最後を飾ってくれました。その物語に震えましたし、こういう文化を『電音部』でも大事にしたいと思いました。

▲『シンクロニカ』はバンダイナムコエンターテインメントより発売され、2015年6月に稼働を開始したアーケードの2人協力音楽ゲーム。2019年9月にオンラインサービスが終了し、以降はオフラインでの稼働となった。本作の楽曲のひとつである「夜明けまであと3秒」はTaku Inoue氏が作曲している


▲Taku Inoue氏は、アキバエリアの東雲和音の楽曲『Mani Mani』を作曲している

現実のDJイベントにはない価値を発見し、それを伸ばす

田端:バンダイナムコエンターテインメントフェスティバルとAOFのミライ小町ちゃんを見比べると、後者は実在感が増しているように思います。BanaDIVE™ AXによるリアルタイム映像であることが要因だと思うのですが、ほかに工夫した点はありますか?

大久保:オンライン投票の結果によって次にかかる曲が変わる仕掛けは、リアルタイム処理だからこそ可能なことで、リアリティを感じさせる演出だったと思います。

子川:ミライ小町が主役のイベントではなく、複数のアーティストが出演するイベントで、その中のひとりとしてDJプレイを披露したこともリアリティを感じさせる要因になったと思います。実際、DJイベントでひとりだけがフィーチャーされるというケースはほとんどありませんから。ミライ小町を知らないオーディエンスにとっては「人間のDJがいっぱい出演している中に、ひとりだけキャラクターが混じっている。この子は何なんだ?」という予想外の出会いになったと思います。一方で、ミライ小町を知っているオーディエンスは「大久保さんたちが可愛がってきたミライ小町が、新しい技術を見せてくれる」という文脈を受け取り、そこに魂を感じてくれたと思うのです。

複数のフロアがあり、同時進行でいろんなDJがプレイするというスタイルは、イベントやフェスではよくあることです。移動途中にあったフロアを好奇心で覗いてみたら、すごく良いプレイに出会えたというような偶然の出会いもよく起こります。AOFは、それに近い体験をオンラインイベントという枠組みの中で実現できました。イベントに行き慣れている人ほど、リアリティを感じてくれたのではないでしょうか。一方で「観たいステージの時間帯がかぶっていて、どれを観ようか悩ましくてしんどい」という状態も、イベントではよくあることですよね。そういう「しんどさ」までオンライン上で再現したいと思っていました。

オーディエンスの中には、モニタやタブレットを4台用意して、4つのフロアを同時視聴してくれた方もいたようです。そういう視聴環境をわざわざ準備していると、自宅にいながらでも、イベントに参加する特別感が醸成されていくと思います。視聴後の余韻も大きいので、楽しかった思い出として長く記憶に残ります。アニON STATION(キャラクターコラボカフェ)でDJイベントを担当していたときも、オーディエンスが「ちょっと疲れたな」と感じるくらいの方が、万事が快適なものよりも満足度が高かったので、そのあたりのバランスは意識しています。

田端:COVID-19が収束する見通しの立たない今、オンラインイベントの満足度の向上は重要ですね。BanaDIVE™ AXや『電音部』の関連プロジェクトが目指しているゴールは、現実のイベントの再現でしょうか? あるいは現実のイベントにはない、新たな体験の創造でしょうか?

大久保:実のところ、現状の技術では、現実のイベントを超える体験をオンラインで提供することは難しいと思っています。リアリティを感じさせる技術や演出を追求してはいるものの、現実を超えて楽しめる体験にはなれていないと感じています。現実のイベントにはないベクトルの価値を発見し、それを伸ばせた先に、すごく面白い世界があるんだろうと思っています。ですので、現実の楽しさと、オンラインならではの楽しさと、どちらにしようと迷うくらいまでオンラインの価値を高められたらと考えています。

子川:だからこそAOFでは「変わる世界、変わらない熱狂」というテーマを掲げたのです。慣れ親しんできた現実のイベントのフォーマットを下敷きにしつつ、見せ方や楽しみ方はどんどん変えていけばいいと思っています。例えば、一体感や満足感は、会場でペンライトを振ることだけではなく、Twitterトレンドの1位を目指すことでも得られると思います。そうして楽しみ方が変容しても、熱狂を生み出すことは、変わらずに大事にしていきたいです。

2020年の3月頃から国内でもCOVID-19の感染が一気に拡大し、ライブハウスやクラブが営業休止を余儀なくされる中、秋葉原にあるDJイベントスペースのMOGRAさんはすばらしい動きをなさいました。いち早くMusic Unity 2020(2020年4月18 日 開催)というライブストリーミングフェスを実施し、僕たちを熱狂させてくれたのです。その後、多くのDJやVJが配信のやり方を研究し、ノウハウが確立され、オンラインでの楽しみ方がオーディエンスに周知されていきました。その過程で僕はすごく勉強させていただき、AOFを開催するための土壌ができあがったのです。MOGRAさんには、すごく感謝しています。

大久保:DJが緑のTシャツを着てプレイをし、クロマキー合成の要領でTシャツの上にリアルタイムにエフェクトを合成して見せたりと、斬新なアイデアがどんどん実践されて面白かったです。その勢いのおかげで、AOFの準備にも熱が入りました。

田端:そうやって影響を与えあい、みんなで一緒に熱狂を生み出していくことも、DJ文化のひとつの側面なんですね。

コンテンツと組み合わさることで、技術にも注目してもらえる

田端:今後予定している展開を、話せる範囲で語っていただけますか?

大久保:体験の設計を重視したいです。xRのためのデバイスは日々進化していくので、それを見越した未来の体験を設計しつつ、それに近い体験を、スマホなどの現在使いやすいデバイスでもってオーディエンスに提供していく取り組みを今後も続けていきたいです。

子川:それを『電音部』の世界に取り入れ、感動や熱狂を生み出すというのが僕の役割ですね。『電音部』のもう1人の統括プロデューサーである石田裕亮とは「BNKENが設計する未来の体験を『電音部』の世界に取り入れよう」という話をしています。

大久保:僕らが「面白いな」と思った技術を子川や石田に伝えると、『電音部』というコンテンツの中での活用方法を考えてくれるのです。コンテンツありき、用途ありきというわけでもないところが、今までにない関係性だと思います。コンテンツと組み合わさることで、技術にも注目してもらえるし、実証実験の場が増えて技術が磨かれていくので、今後も仲良くしていきたいです。

田端:技術とコンテンツがお互いに刺激し合うことで、新しい価値が生み出されていくわけですね。

子川:「やろうよ」と言われたときに、「やりましょう」と言える寛容なコンテンツでありたいので、それを面白がってくれるファンを増やし、人気を高めていく必要があると思っています。

田端:寛容なコンテンツというと、『初音ミク』ちゃんをイメージしますね。

子川:『初音ミク』ちゃんは、とても寛容で技術への貢献度の高いコンテンツだと思います。

AOF2では、「音楽と越えていく」というテーマを掲げ、「MUSIC」「GAME」「VIRTUAL」「DIGITAL」からなる4ジャンルの名を冠した4つのDJフロアにて、多くのアーティストがパフォーマンスを披露する。MUSICフロアでは『電音部』、『アイドルマスター』シリーズ、『テイルズオブ』シリーズに加え、『初音ミク』『東方プロジェクト』『GEMS COMPANY』の楽曲によるDJプレイの実施も発表されている


大久保:僕らはエンターテインメントの会社の人間なので、エンターテインメントの技術によって変わる世界を創造し、それを体験してもらえる機会をつくっていきたいと考えています。そのためにも、ぜひ『電音部』やミライ小町を応援していただきたいです。

子川:今後とも、『電音部』をよろしくお願いいたします!!

田端:さし当たって、AOF2に馳せ参じますね! 今度こそ、ちゃんと時間内に投票してみせます!!



後篇は以上です。
前篇ではこちらでご覧いただけます。合わせてお楽しみください。

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