>   >  コロナ禍で進化するエンターテインメント。バーチャルプロダクションがもたらす新たなライブ体験
コロナ禍で進化するエンターテインメント。バーチャルプロダクションがもたらす新たなライブ体験

コロナ禍で進化するエンターテインメント。バーチャルプロダクションがもたらす新たなライブ体験

<2>日本最大級「xR対応スタジオ」における制作フローの実例

「Hello, New World」PART2のオンライン配信は、日活調布撮影所4番スタジオに常設されている「xR対応スタジオ」から行われた。ステージのフロアサイズは間口11m×奥行き9mで、運営するバーチャル・ライン・スタジオ(以下、VLS)調べでは日本最大級の常設合成スタジオだ。

▲写真中央:VFX スーパーバイザーの前川英章氏(VLS)/写真右:カメラマンの山岡昌史氏(CRANK)

▲CG合成をしていないスタジオの様子

ハリウッドではかなり前から、グリーンバックに役者が立ち、仮のCG背景とリアルタイムに合成され、その場で監督やカメラマンが確認できるしくみをつくり上げている。VLSがこのスタジオをつくることになった理由の1つは、日本でも同様の制作フローを実現するためだ。最近ではLEDウォールも使用されるが、日本の市場規模やワークフローを考えたとき、現時点ではグリーンバックのシステムのほうが馴染むと判断した。クオリティを求めるなら、ポスプロによってリッチに仕上げていけばよく、それでも十分にバーチャルの恩恵が受けられる。技術開発をしなくても、新しい技術を使いつつも実績のあるRealityを即戦力として利用できるのも大きい。

VLSでは、スタジオのオープンに合わせてプロモーション映像を制作。その準備工程を明かしてくれた。

▲バーチャル・ライン・スタジオ プロモーション映像

スタジオの準備と並行して、シナリオやコンテが作成された。「リビング」、「オフィス」、「渋谷」、「山」と、4つのシーンをつくることにした。シチュエーションにあわせて必要な背景をCGで制作。スタジオ機材調達が遅れたこともあり、全体で2~3ヵ月を要したという。

山のシーンを企画したのは、雄大な山の風景をできるだけ小さいセットで実現するという目的からだ。実際に作成したセットは、3m×4mだ。

実際の制作では、まずフルCGによるプリビズを作成しイメージを可視化。どのレンズとカメラワークなら効果的に撮影できるか、そしてCGの範囲やセットの過不足を検証してから撮影に臨んだ。

▲山シーンでのプリビズ

通常ならセットをつくってから3DCGを合わせることが多いが、このセットでは3DCG制作が先行し、それに合わせてセットをつくったのが特徴的だ。そしてさらに、フォトグラメトリーによって立体的なモデルを作成し、セットにCGを寄せていくことで、馴染みのよい映像に仕上げた。ここまでが3DCGの準備段階だ。

▲手前のモニターでは、山の3DCGと合成された映像を確認できる

▲フォトグラメトリーによる調整

撮影直前のスケジュールはこうだ。1日目は、全体を通してのリハーサル。2日目は前日の演出に従ってライティングの仕込みを行う。Realityの特性上、ライティングが変わるとキーイングなど他の調整が改めて必要になってくる。そうすると一度ステージの上をクリアにする必要があり、役者やスタッフの作業を止めなければならない。そうならないように、準備においてできるだけ追い込んだセッティングを目指す。ライティングとキーイングのせめぎあいが、クオリティにつながるのだ。

そして撮影本番には3日間かけられた。リアルなセットをクローズアップするシーンでは、グッと土を踏みしめたり、足で木を転がしたり、草を揺らしたりしてリアルさを強調。そうすることで合成後のリアリティが増す。そんな工夫もなされている。

▲リアルとバーチャルがシームレスにつながっている

映像のプロ同士が集まっていても、グリーンバッグの向こうに何が見えているかイメージを言葉で共有するのは容易でない。実際に見て共有できることで、クオリティを上げていけることに、撮影を終えてみて大きな価値を感じているという。

この「xR対応スタジオ」がオープンして間もない2020年11月に内覧会を開催したところ、追加開催が必要になるなど、想定以上の反響があったという。その中でも映像業界ではない企業から、社内イベントの映像に使いたいという問い合わせが多いことに驚いたそうだ。VLSは、そんな企業の用途でも歓迎し支援したいと話す。

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