>   >  歌やダンスではない自然な演技を魅せる、アイドリッシュセブン『RabbiTube』クリエイターにチャレンジ!
歌やダンスではない自然な演技を魅せる、アイドリッシュセブン『RabbiTube』クリエイターにチャレンジ!

歌やダンスではない自然な演技を魅せる、アイドリッシュセブン『RabbiTube』クリエイターにチャレンジ!

『RabbiTube』のために専用設計した新スタジオ

モーションキャプチャ撮影を担当したのは竹原真治氏率いるMOZOO。モーションキャプチャ業界を長年リードし、数多の実績をもつプロフェッショナル集団である。今回の撮影に使われた乃木坂スタジオは、『RabbiTube』のために専用設計して新たに設立したという。「2019年の秋頃に企画の相談をいただいて、僕が最初にやった仕事は物件探しです(笑)。ちょうどオフィスが手狭になってきてセカンドオフィスを探していたタイミングで、プロジェクト専用のスタジオを確保したいとのお話を受け、急いで探しました。この番組では箱に手を入れたりするコーナーもありますし、このシチュエーションではソファやテーブルなど体が隠れるところが多くなりますので、光学式モーションキャプチャではなく慣性式であるMVNが適していると判断しました」(竹原氏)。MOZOOがプロジェクトに参画した頃にはすでにCG先行で家具のモデリングが進んでいたため、家具類はCGモデルのサイズやデザインに合わせて調達または自作して用意したという。

また、指のキャプチャについては、以前からMOZOOで自社開発していたシステムを、社外の協力を得ながらテクニカルアーティストの中澤魁斗氏がアップグレードしてこのプロジェクトに活用した。このシステムでは、人差し指・中指・小指に曲げセンサを取り付け、曲率に応じた電気抵抗値をワイヤレスでPCに送信している。残り2本の指の動きは、3本の指の情報から補間している。キャプチャ結果はMotionBuilderでリアルタイムプレビューが可能だ。モーションアクターの指の動きを完全再現するものではないが、MVNとも相性が良い、ノイズの少ないモーションデータを取得できるという。

さらに本作では、フェイシャルキャプチャにスマートフォンアプリを活用するという新たなチャレンジにも取り組んだ。中澤氏は「TrueDepthカメラでフェイシャルキャプチャを行うことのできるアプリとしてiCloneなども検証していましたが、いろいろ試した結果、今回はFace Capがこのプロジェクトに向いているなという結論になりました」と話す。フェイシャルキャプチャの撮影時には、Face Capのプレビューだけでなく、Unityとライブリンクしてアイドルたちの実際の表情を確認できるようにしていた。撮影後のフェイシャルデータはMOZOOでの編集後、ダンデライオンによって仕上げを行なった。

モーションキャプチャ撮影

▲MOZOO乃木坂スタジオでのモーションキャプチャ撮影の様子。テーブルやソファが置かれたセットで、MVNによって収録が行われた

指キャプチャ

▲MOZOOで自社開発した電気抵抗式の指キャプチャシステム

フェイシャルキャプチャ

▲iPhoneとFace Capアプリを使ったフェイシャルキャプチャの撮影風景



  • ▲iPhoneでのFaceCapアプリのプレビュー画面


  • ▲右下のディスプレイでは、Unity上でアイドルの表情をリアルタイムに確認している

「番組の中で演技をしている」ことを意識したアニメーション制作

MOZOOにてMotionBuilderでモーションの編集を行なった後、ダンデライオンにてMayaでさらに細かい演技を仕上げる。和泉一織編の箱開封チャレンジコーナーでの指の仕草や、四葉 環編のソファを飛び越える演出などが特に難しかったとのことだ。ダンデライオンのラインには協力会社も加わっているため、はじめに表情のライブラリなどを整備して統一感のある表現を心がけた。フェイシャルキャプチャデータの使えるところはそのまま使い、あとは表情ライブラリを用いるなどして適宜表情を追加するなどアレンジしたという。特にまばたきや眉の動かし方の表現にはキャプチャデータが役に立ったとのことだ。「TVアニメに登場するアイドルたちは素の表情なわけですが、『RabbiTube』は番組なので、彼らが『アイドルとして立ちふるまっている』ような表情や演技を心がけていました」ダンデライオンのアニメーション・スーパーバイザー松島有香氏は話す。

衣服や髪の揺れ表現には、nHair、nClothなどのシミュレーションを用いた。ひとつひとつのシーンが長尺であるため、途中でシミュレーションが暴れてしまわないように対応するのが大変だったという。特にパーカーの袖がめり込みやすかったため、肘の回転角に連動してめり込みを自動補正するリグを用意したとのこと。

また、アニメ調のルックで対応が必要となる角度に応じた輪郭の補正については、コンストレインでリグをカメラに連動させ、ある程度自動で行うように効率化を図った。トゥーンシェーディング特有の、影と明るい部分が一瞬で切り替わってしまう影パカ問題への対応については、固定カメラで撮影していることからカメラ位置の変更によってパカを回避することができないため、アニメーションを修正するか、シェイプを修正するツールを活用。さらに、シーン構築ではカット単位ではなくコーナー全体をまとめて1つのシーンファイルにして編集。そのシーンを各カットに切り分けるためにMayaのカメラシーケンサを使っており、プレイブラストの作成やレンダーシーンを自動で切り出すことのできる内製ツールを用意した。

他にも、カット管理の手間を軽減するための自動で動画データを振り分けるチェックアップツールなど、パイプラインを効率化するための複数のツールを整備。プロジェクトの性格上、各社間でリハから完パケまで膨大な動画や音声データをやり取りしていたが、共有手段としてはクラウドストレージのBoxを用いたとのこと。

アニメーション作業

▲Mayaでのアニメーション作業画面

▲MotionBuilderでのアニメーション作業画面。MOZOOから渡されたモーションデータをMotionBuilderでエディットし、Mayaで細かい定義づけを行なっている。レンダリングにはV-Ray for Mayaを使用

フェイシャルライブラリ



  • ▲ダンデライオンで制作した十 龍之介の表情集。アニメーション作業に入る前に、バンダイナムコオンラインとの方向性の確認のため各アイドルごとに準備された


  • ▲フェイシャルキャプチャデータ。番組の各パートごとに作成したデータをカットに読み込み、編集作業を行う

▲口パクのパターンライブラリ。各母音とその中割り、閉じ口、その他必要になりそうなデータを用意し、口パクの作成に活用している

アニメーション的な見どころ

▲アニメーション作業で特に苦労したという和泉一織編での箱開封チャレンジ【左】とその作業画面【右】。手に収まるサイズの箱を開け、中のキーホルダーを取り出すという動きを7箱分くり返すというもの。「動画では2箱目からは早送りになっていますが、アニメーションは定尺で7回分制作しています。モーションキャプチャでは実際に同じサイズの箱を用意して、真面目に全部開けました」とダンデライオンのプロデューサー・中山佳代氏

▲もうひとつ大変な作業だったと挙げられた四葉 環編の箱の中身を当てるコーナーで感触に驚き、飛び上がってソファの背後に隠れるシーン【左】とその作業画面【右】。環は登場アイドルの中でも背がかなり高い方であるため、想像以上に調整が必要だったという

肘のめり込みを自動補正

今回の衣装であるパーカーは、ダボッとしたシルエットのためめり込みが発生しやすく、アニメーション作業においては悩みの種だった。そこで、腕の曲げ伸ばしの角度に応じて自動でめり込みを回避するリグを採用することでひとつひとつ手で修正する手間を削減した



  • ▲自動補正OFFの状態


  • ▲自動補正ONの状態

カメラシーケンサを活用したシーン管理

▲本作ではモーションはシームレスに収録しているが、カメラは固定でカットが短いスパンで切り替わる。そのため、カット単位でシーン構築作業を行うと、カットごとにシーンを開き直し、シミュレーションをかけ直し、シミュレーション結果やアセットの配置、ポーズの整合性をとるという手間が大きくなる。そこで、Mayaのカメラシーケンサ【画像】を活用し、パート単位で作業を行えるフローを構築した

▲カメラシーケンサを使い、撮影したパート単位の一連のモーションで、カットを区切る

  • ▲カメラシーケンサに紐付けられたカメラを選択し、プレイブラスト作成ツールでチェック画像を作成
  • ▲レンダリングする際は、カメラシーケンサのシークエンスごとにカットを切り分けて保存する内製ツールを使用。カッティングしたいカットを選択し、個別に切り出すことができる

▲切り分けられたカットを開くと、そのカットに必要なシーケンサとカメラ以外は削除されたシーンが作成される。デュレーションもシーケンサのデュレーションに合わせられる

アングルターゲットによる輪郭補正

▲本作は固定カメラということもあり、トゥーンシェーディングの作品でよく使われるカメラによる見た目の調整が難しい。そのため、アングルターゲットと呼ばれる補助用のブレンドシェイプを作成。画像内の黄色い矢印の リグをカメラやロケータにコンストレインすることで、カメラの向きに応じて輪郭をある程度自動で補正することが可能



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