<3>グレーディング& 3DCG
グレーディングで幻想的に
動画はまずPremiere Proでカット編集を行い、DaVinci Resolveでグレーディング、再びPremiere Proで一本化。その後はカットごとにAfter EffectsでBlenderから出力されたCG素材と合成してカットを仕上げ、最終的にPremiere Proで仕上げる。DaVinci Resolveでのグレーディングは、フリーのLUT「NEON VIBES」を50%くらい当て、基本的なルックを「暗部を深い青、ハイライトは暖色系に統一し、シネマライクなイメージ」に整えている。クラゲがモチーフになっているため、「深海っぽい雰囲気」も意識して調整したとのことだ。その上で、実写映像に乗っているグレインに合わせるように、CGのクラゲにもノイズを加えて馴染ませている
▲完成ショット
▲完成ショット
3DCGで具現化されたクラゲ
▲実写撮影と並行してクラゲのアセット制作を開始。ベースのモデルは購入しつつ、海外のCGの講演会映像を見て研究しリグを構築。かさの動きに合わせて色が変化するしくみをセットした。「モデリングが苦手なので、手を借りられるところは借りる感じで(笑)。購入したモデルにはリグが付いていましたが、理想とする柔らかい動きを再現できなさそうだったので、ベースだけ利用して改造を施しました」と橘氏。本作のクラゲは実物と異なり「足(触覚や口腕と呼ばれる部分)」を紐状ではなくパーティクルの粒として表現した。「クラゲの足は揺らぐことで一瞬で散っていく花火のような、そして命の儚さのようなものをパーティクルの軌跡で表現したかった」と橘氏テーマ性を語る。また、クラゲ本体の動きもリグを再構築。モーフベースではなくベースボーンの動きで全体のシルエットが追従するようにセットアップを行った。水の抵抗を感じつつ、流れて漂う動きが表現できるようにこだわっている
<4>コンポジット
Light Wrapでの馴染ませワーク
発光するクラゲと実写の背景素材を馴染ませる方法として、波形を見ながら周囲の明るさに合わせて光の回り込みや反射を表現する手法「Light Wrap」を取り入れている。本作ではCGのクラゲが自己発光しているので、その近くにあるはずのものや建築物は、マスクワークにより発光体の影響を受ける「光(Light)が滲んで回り込み包み込むような(Wrap)」効果を加えることで、輝度が高いものの光をリアルに表現した。こうした細かな合成テクニックにより、クオリティに説得力をもたせている。なお、細かい点だがクラゲの方にも周囲の環境光を反映させ、色味を馴染ませている
▲【グローをかけた素材】を複製して「ステンシルアルファ」で抜き取り、回り込む光だけを抽出
Deep Glowで手軽に綺麗に発光
Deep GlowはGPUに対応した発光効果を高速に処理できるAfter Effects用プラグイン。本作では実写の夜の街並みにはカメラレンズのフィルタ効果で光の部分を柔らかく滲ませてグローさせているため、CG素材を同様に馴染ませるため、Deep Glowを使用している。グロー効果単体であればBlender内でコンポジットして出力することも可能だが、AEで後乗せでエフェクトとしてグロー処理する方が高速で綺麗なグロー表現ができると橘氏は評価している
▲適用前
▲適用後
▲DeepGlowの設定
RSMBを使用した後乗せのモーションブラー
実写映像に3DCGのクラゲを合成していく段階で、After Effects用プラグインのRSMB(RE:Vision Effects社のReelSmart Motion Blur)を使用している。RSMBを使うと「モーションブラーの付いていない3DCG素材」の映像を解析し、後からモーションブラーを追加できる。背景の実写素材にはカメラや被写体の動きが当然加わり、シャッタースピードに合わせて自然なモーションブラーがかかっている。モーションブラーはBlender上でも適用できるが、After Effectsで合成しながらかかり具合を調整したほうが効率が良い。本作では結果的に、少ないレンダリング回数でコンポジットできたとのことだ
▲適用前
▲適用後
▲RSMBの設定