<2>CG&VFXメイキング
Unityでの髪の毛と服のシミュレーション
LEDウォールでの撮影で対応できない引きのショットは、3Dスキャンで作成したデジタルダブルを使ったフルCGで制作されている。3DCGの使用にあたっては、どこまでカメラを寄せることができるかがポイントとなった。当初は引きのショットでしか3DCGを使うのは難しいのではと考えていたが、実際に制作してみるとミドルショットでも対応できることがわかり、一気に制作が進んだという。3DCGのショットは、3DスキャンしたモデルデータをMayaでリトポした後にリグを作成、アニメーションを付けた後にUnityに読み込んで髪の毛や衣服のシミュレーションを行い、再びMayaへ戻ってV-Rayを使ってレンダリングを行う。髪の毛は、最初板ポリの髪の毛の変形だけで対処する予定だったが、かなりカメラが寄ったときにクオリティがもたないということで、山本良太CGディレクター(AnimationCafe)が岡田博幸テクニカルアーティスト(ModelingCafe)にUnityでの髪の毛と服のシミュレーションを依頼した結果、CGパートのクオリティをかなりアップできたという。シミュレーションが必要なカットは16カットあり、真面目にMayaなどでシミュレーションをかけたらスケジュール的に終わらなかったが、Unityでシミュレーションをかけることでほぼ3日程度で終わらせることができたそうだ。
本作では、キャラクターアニメーションのほかにも、HoudiniやNukeを使ったエフェクトが多数利用されている。また作品の仕上げの段階ではFlameも使用されている。Nukeはコンポジットなど1ショットのクオリティを上げるために使用し、Flameは作品全体のクオリティを上げるために使用するというように使い分けていたそうだ。
指針となったフルCGのミドルショット
あまりカメラが寄れないだろうと想定されていたCGパートだが、このミドルショットの出来が非常に良かったため不安が一気に解消したという、本作のCGカットの指針となったカットだ。このカットはUnityで髪や服のシミュレーションを施し、そのデータをMayaに読み込んでV-Rayでレンダリングした素材に加え、Houdiniで作成した雲の素材と背景のHDR素材をNukeで合成して仕上げている
▲Houdiniで作成した雲素材
▲UnityでシミュレーションしたデータをMayaに読み込み、ライティングやカメラワークを追加する。UnityからMayaへの変換はオリジナルのコンバータを用意して対応している
▲コンポジットやエフェクト処理はNukeで行われている。図はNukeのノード構成。HDRの空背景素材に、Houdiniで作成した雲素材を合成。Mayaでレンダリングされた女の子の素材に対してはグローがかけられ、全体にレンズダストやフレアも追加されている
▲コンポジットに使用された空のHDR素材
▲空素材のノード構成。空のHDR素材は天球メッシュにマッピングして使用されている
Unityによる髪と衣服のシミュレーション
髪の毛は最初MayaのnHairを使ってリグが作成されていたが、毛束の感じが強く出てしまったためグリッドでつくり直して大量に配置し、Unityのボーンを使ってシミュレーションをかけてMayaに戻すという工程を経ている。Unityではシミュレーションに使用する風の状態などもパラメータで調整できるようになっており、ショット単位でシミュレーション結果をリアルタイムで確認しながら調整を行なっているという
▲Mayaでセットアップされたモデルデータ。このモデルの髪の毛にUnityで大量のボーンを設定する
▲Unityによるシミュレーション例。シミュレーションしたデータは、服はAlembicで出力し、髪の毛はボーンのデータをアニメーションパーツとしてMayaに読み込むツールを利用してMayaに取り込んでいる
▲Mayaによるテスト画像
▲Mayaでレンダリング後コンポジット処理された完成に近いルック
Houdiniを使ったフォトリアルな水玉
フォトリアルに仕上げられた水玉のショットは、まずHoudiniで球のメッシュに手付けでアニメーションを付けた後に、ノイズをかけて水を変形させ、水独特のふるまいを追加する。そのメッシュをpointに変換してVDB化して、2つの水玉が融合する状態を作成。さらに、融合時の反動などを再びノイズを加えながら調整している
▲Houdiniによる水玉の基本的なふるまいのアニメーションを作成した状態
▲アニメーションを付けた状態のメッシュをpointに変換。VDB化して融合させる
▲Nukeによるコンポジットノードで4種類のライティングを使用した画像を出力して合成し、見映え良く仕上げていく
ロトスコープによるアニメパート
本作途中に挿入される手描きのアニメーションは、mimoidの山田遼志氏によるものだ。最初はまっすぐ落ちていくような単純な動きが想定されていたが、尺がもたないということで、CGチームの方から3D的なカメラワークを提案したという。ただし、複雑な動きをゼロから手描きするのはスケジュール的に難しいだろうということで、髪や衣服のシミュレーションを施し、3DCGで作成したプリビズを手描きでロトスコープすることで制作されている。3Dでガイドを出したことでダイナミックな表現が実現し、予想以上の仕上がりになったという
▲初期プリビズ
▲シミュレーション後のプリビズ
▲ロトスコープされた手描きアニメ(途中段階)