「Unity で iPhone 向け 3D ゲームを作る」
最後に紹介するのは、株式会社セガ チーフデザイナー 築島智之氏が Unity で iPhone 向けの 3D ゲームを作る実例を紹介するセッションだ。今回のセッションでは、セガのアーケードゲーム 『Let's GO ISLAND 3D』 の実データを iPhone 用に移植、Unity で調整した画面を見つつ、iPhone への最適化作業に際してのポイントや問題点を挙げていった。
「まず前提として Unity のマニュアルに書いてあることは正しいです。しかし具体例が少なく、iPhone3 あたりをベースに書かれているため、対応していない項目もあります」と築島氏は語る。iPhone4 の特徴の 1 つに、大きなサイズのテクスチャを使えるというものがある。つまり、複数のレイヤーテクスチャを用いるよりも、1 枚の大きなテクスチャを使用した方が処理負荷が軽減されるのだ。
「ライティングが焼かれたカラーテクスチャ 1 枚などは最高です。他にも、できるだけ DrawCall を減らすなどの努力が必要です。マテリアルやテクスチャを多くすることは NG。まとめられるものはできるだけまとめるべきですね。モデルに関してもできるだけコンバインしまとめた方が効果的です」
他にも頂点数を減らすよりはマテリアル、テクスチャ対策の方が効果的なこと、リアルタイムライティングを使用しないので、Maya から Unity にインポートする時点で法線を捨てても良いことなどが挙げられた。また、iPhone の Retina ディスプレイは高解像度で再現ができるため、アンチエイリアシングしなくても良いとのこと。
「フォグ処理を使っても特に問題はありません。ただし、半透明は相変わらず危険ですね。半透明オブジェクトなどは、まとめてコンバインすると良いと思いますが、見える角度によってはまとめられない場合もあるので注意が必要です。それと、パンチスルー(cutout シェーダ)は若干重くなります」
さらにセッションではカリング(カメラで見える範囲のみレンダリングする)が有効なこと、メッシュを親子構造にしてアニメーション制御するより、1 メッシュにしてボーンで制御するなど、スキニングオブジェクトを少なくすることが処理を速くするための対処法として紹介された。これらを踏まえて築島氏は、とりあえず作成した 3D 素材をゲームとして出力してみれば、結構な割合で成功すると話す。
「ただし、ちょっとしたことで処理が重くなってしまうこともあるので注意が必要だと思います。テクスチャを大きくできる点を活かすことなど、最適化は常識的な範囲で行えば十分だと感じました」。

負荷軽減の DrawCall の目安として「200 以上は 15FPS」「100 以上は 30FPS」「50 程度は 60FPS」とのこと。また、オブジェクトの Statics の機能にチェックを入れておくと自動的にオブジェクトをまとめてくれるそうだが、多すぎると処理が重くなるため 50 以下が好ましいという。ポリゴン頂点数も 5 万くらいが良いそうだ


カリング(左)を有効に使うことがポイントの 1 つだと話す築島氏。SkyBox(右)はキューブだと 6DrawCall 使ってしまうため、球体にすると良いとのこと
「まずは、どんどん出してみること」 と話す築島氏だが、現在、北米と同様に外部開発のゲームエンジンを利用することが盛んになってきた日本において一番欠けているのが「コンテンツ工学」という、職人技を一般化し、誰もがモノづくりをできるようにするという工学的なアプローチであると話した。
「ここ10年くらい海外勢に追いつこうとしても内容が伴っていませんでした。その理由のつに、コンテンツ工学の知識が抜け落ちていたことが挙げられます。ですが日本のゲーム開発者は、実際の絵を出し、やり取りをするセンスは抜群で、感覚的なところは強いと思います。プログラマやデザイナーが Unity を触ってみると、最初は今までにないやり方なので戸惑うと思いますが、慣れてくると直感的な部分で開発できる Unity を好きになると思います。「Unity」で世界標準の、良いゲームを作り、盛り上げていきましょう」と話しを締め括った。
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株式会社セガ チーフデザイナー 築島智之氏 「Unity のマニュアルにも書かれていますが、常にコンバインを意識することが大事です」と制作のポイントを話す築島氏。日本独特の感覚に頼った職人気質な部分を数値化し、客観的に分析、学びやすい体系的な情報にする「コンテンツ工学」の考え方が今後は重要になると語った |
2012年2月15日(水)にリリースされた Unity 3.5 では、AAA タイトルでよく使われている AI 機能や技術を新たに搭載。Adobe Flash Player にも対応し、Unity Web Player といったシェーダや物理表現など、本格的な 3D コンテンツをブラウザ上で動作させるプラグインなども実装されている。また、大手パブリッシャーの開発タイトルにも Unity が採用されたという情報が発表された。
SNS やモバイルを対象とした開発現場のニーズと共に急激に採用例を増やしてきた Unity が、今後はハイエンドな表現を用いるタイトルへの採用も増やしていくのではないだろうか。「ゲームの民主化」を掲げる Unity。Autodesk の製品を用いたハイエンドゲームのセミナーが近いうちに開かれることを期待してしまう。
TEXT_宮田悠輔
PHOTO_大沼洋平