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オートデスク「3DCG ツールと Unity によるゲーム開発実践セミナー」にみる、Maya と Unity の現在の関係

オートデスク「3DCG ツールと Unity によるゲーム開発実践セミナー」にみる、Maya と Unity の現在の関係

『Ragdoll』開発事例 〜Maya から Unity へのアプローチ〜

次に行われたセッションでは、株式会社マトリックスが自社コンテンツの Android 端末向けのアプリとして開発した『Ragdoll』の事例について発表が行なわれた。

『Ragdoll』スクリーンショット

『Ragdoll』スクリーンショット

この『Ragdoll』は、「かわいいを作ろう! カワイイを持ち歩こう!」をコンセプトに、編み物風のぬいぐるみ人形を自由に作れるデザインゲームである。画面に表示される毛糸の柔らかい、リアリティのある質感で表現されたぬいぐるみのモデルが印象的だ。本タイトルの開発で Unity を導入した要因のひとつに、このリアルで柔らかな質感を表現するために必要な、自由にカスタマイズできるシェーダが用意されていたことがあったと、本プロジェクトで開発主任を務めた高崎奈美氏は語る。
「当社はコンシューマゲーム向けの受託開発が多いため、今回のようなオリジナルプロジェクトは会社としても異例でした。そこで、短期間、低予算で成果を出すため、そして何より、やりたいことを表現できるという 3 点から Unity の導入を決定しました」と高崎氏。つまり、制限された中で最高の結果を出すために選択されたツールが Unity だったというわけだ。しかし、開発を開始した2010年末はまだ Unity に関する情報が現在ほど多くなかったため、開発は手探りで進められたという。

Unity はゲーム画面を見ながらゲームの調整ができるため、アーティストドリブンな一面を持つが、逆にできることが多くなるため、プログラマーとデザイナーの間でデータのやり取りが増えてしまい、それによって作業効率が停滞してしまう弊害も起こってしまったという。これは Unity がボタン 1 つで簡単にデータのやり取りができてしまうが故の問題とも言え、高崎氏は「使いやすい環境なだけにビジョンと計画性は大切だった」と語っていた。

 

  株式会社マトリックス コンテンツ事業部デザイン開発課主任
高崎奈美氏


本プロジェクトの開発に Unity を用いたことで、チーム力の向上や、実装までの速度アップを実感できたという。また、開発者手動のコミュニティ(Facebook の「Unity 助け合い所」など)に問題発生時の質問を書き込めば、すぐに返事が戻ってくるという横の繋がりは、これまでのコンシューマーゲームの開発にはなかったことで、Unity が掲げる「ゲーム開発の民主化」を実感できたと、その驚きを紹介してくれた

続いて本タイトルの制作工程について、開発担当の杉浦裕樹氏が実例を挙げて解説していく。まず Maya を用いて NURBS からポリゴン化することで、リテイクしやすい環境を作成する。データの受け渡しは FBX に変換し行っているそうだが、Maya データのままだと受け取り側にも Maya をインストールする必要があるため、コスト的な問題もあったようだ。その後、Unity 側でマテリアル、Physics 設定、プレハブ化を行なう。シェーダは Unity 内にある「Strumpy Shader Editor」というノードベースのシェーダーを用い、デザイナーが Fur シェーダなどを作成し、人形の柔らかい質感を再現している。

「本作は多様なデバイスが存在する Android 端末向けのタイトルなので、メニュー周りは Unity 標準の 「GUI Texture」 ではなく、サードパーティが開発する 「EZ GUI」 を使用することによって、解像度が縦横比で崩れてしまうことを防いでいます」と杉浦氏は話す。
これは多様なデバイスが存在する Android 特有の問題とも言えるが、Unity ではデバイスごとの画面解像度や縦横比の違いで発生する問題には、まだ対処ができないということのようだ。しかしながら、高崎氏は「再生ボタンを押すだけでテストができ、結果をすぐ見られることは良かった」と Unity の利点を述べ、Unity を画材に例えて「誰もが上手くできるものではなく、スキルを持った人が使わないと上手くいかないもの」と説明し、「色々なことに柔軟に取り組んでほしい」と会場にメッセージを送った。

株式会社マトリックス コンテンツ事業部技術開発課
杉浦裕樹氏


今作では容量の削減のために複数のシーンのテクスチャを 1 つにまとめたが、そのためにロード時間が増えるという問題が発生。さらに一部の修正や追加でも、それら全てを含んだデータの更新が必要となってしまった。そこで杉浦氏は Unity の AssetBundle を使用して問題の解決を図る。これにより、アプリ本体を更新しなくても一部データの差し替えが可能になるのだ。ただし、差分だけをダウンロードする AssetBundle は、本体と差分とで Unity のバージョンが一致していなければならないとのこと。また、Ragdoll Wizard を使うと、アニメーションを制御しやすいとも語っていた

10〜30代女性向けに開発された「あにぐるみ・ぬいぐるみ」が作成できるアプリ『Ragdoll』 。スマートフォンのジャイロと重力センサにも対応し、バッグからぬいぐるみを下げている感覚で楽しめるアプリである。開発時においては、Pixel Light Count を減らすことで大幅な負荷の軽減になったという

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