>   >  VFXへのあくなき追求 ~松永孝治(NHK)~|今年活躍したデジタル・コンテンツ制作者に聞く(2)
VFXへのあくなき追求 ~松永孝治(NHK)~|今年活躍したデジタル・コンテンツ制作者に聞く(2)

VFXへのあくなき追求 ~松永孝治(NHK)~|今年活躍したデジタル・コンテンツ制作者に聞く(2)

<2>VFXの責任者だからこそ、あえて"ワガママ"も言う

――さて、2016年はどんな年になりそうですか?

松永:まだ詳しい内容を言えないのですが、今は来年の夏に放送予定の単発のドラマ作品に参加しています。この作品も4K解像度で制作しています。あと僕は直接には関わっていませんが、『生命大躍進』に参加していたうちの若手がVFXスーパーバイザーを務めているNHK放送90年 大河ファンタジー『精霊の守り人』を応援しています。

――チームとしても着々と成長していらっしゃるようですね。

松永:われわれNHK内部のVFXチームは、日々制作されているる番組数に比べると少数のため、外部のアーティストさん、プロダクションの協力が不可欠です。優秀な外部パートナーの方々と良い仕事を実践していく上では、互角にわたりあうためには、内部スタッフのスキルアップが欠かせません。技能だけでなく、心がまえやコミュニケーションのとり方といった、メンタル面もふくめて制作実務を通じた育成が必要だと考えています。

「CGWORLD大賞 2015」記念インタビュー(2)松永孝治(NHK)

――なるほど。

松永:今回僕が参加している単発ドラマの作品でも、若手のスタッフについてもらい、打ち合わせの進め方や資料づくりなど、VFXスーパーバイザーに求められる素養や配慮しないといけないような部分を、自分の仕事を見せながら覚えてもらっています。次の世代を担っていってもらう若手たちの育成にはよりいっそう力を注いでいきたい。

――そんな松永さんだからこそお聞きしたいのですが、VFXスーパーバイザーに求められる素養とはどのようなものだと思われますか?

松永:大前提として、VFXスーパーバイザーの役まわりはプロダクションや案件によって千差万別でしょう。そうしたなか、自分が『生命大躍進』でVFXスーパーバイザーを務めたときは、撮影現場にも立ち会いましたし、VFX制作のスケジューリングや予算などのプランニングも行いました。また、役者さんに加えて、撮影班や美術などVFX以外のスタッフとも打ち合わせをするわけなのでコミュニケーション能力も必須です。

――目指すゴールは同じでも、VFXチーム内のメンバーへ伝える場合と、VFXが専門外の方に伝える場合とでは、伝え方は変えなければなりませんよね。

松永:そのためには、実務的な能力のほかに、自分がこうしたいという意見や提案をしっかり伝えることができる人間であることが大切です。『生命大躍進』のときも、プロデューサーやディレクター陣に対して自分たちVFXチームとしては「こういう映像(VFX)をつくりたいんです」という明確なビジョンを積極的に提案してきたからこそ、このようなビジュアルが実現できたのだと自負しています。

「CGWORLD大賞 2015」記念インタビュー(2)松永孝治(NHK)

© NHK
NHKスペシャル『生命大躍進』 第3集「ついに"知性"が生まれた」より


――個人的なものでかまいませんので、2016年の抱負をお聞かせください。

松永:『生命大躍進』で心がけたのは、とにかく40点(落第点)のカットをひとつも出さないということでした。その上で全カットを80点というか、合格ラインに引き上げた上でさらにその中からひとつでも多くの120点をマークできるカットをつくり出せるに努力したつもりです。今後の制作でも、この方針を変わらず掲げていきたいと思っています。それと、Amazon創立者でありCEOのジェフ・ペゾス氏の言葉に「後悔するのは、やらないこと」というものがあるのですが、僕もVFX制作において同じことを意識しています。

――具体的にはどういったことでしょう?

松永:例えば、あるVFXカットがスタッフから上がってきたとして、合格ラインに達していたとしてもなにか気になる点があった場合は「(合格ラインに達しているから)まあ、いいか」などと容認してしまうと、絶対に後で心残りになってしまうんです。直したいと思ったときには、あえて"ワガママ"を言って、直してもらうことを心がけています。

「CGWORLD大賞 2015」記念インタビュー(2)松永孝治(NHK)

――"ワガママ"という表現はユニークです。

松永:『生命大躍進』の場合、第1集『そして"目"が生まれた』の海中のシーンで海中のリアルさが中々満足な仕上がりになりませんでした。VFX制作の責任者としては、早く終わらせて続く第2集、第3集のVFXに着手するべきなのですが、どうしてもこのままでは世に出せないと思い、自分でリファレンスになりそうな映像などの追加資料をかき集めて、ブラッシュアップの方向性をスタッフに伝えました。具体的な方向性を示すことさえできれば、優秀なスタッフが参加してくれていたので着実にクオリティを高めることができました。

「CGWORLD大賞 2015」記念インタビュー(2)松永孝治(NHK)

© NHK
NHKスペシャル『生命大躍進』 第1集「そして"目"が生まれた」より


――まさに熱意ですね。

松永:VFXスーパーバイザーは、ワガママを言える権限をもった立場なのだから、あえて嫌がられても言うときは言わないといけないと思っています。とは言え、やみくもにクオリティをアップさせることだけを考えのではなく、コストパフォーマンスも常に意識しています。100のパワーをかけて2倍になる方法と、10のパワーで1.5倍になる方法があったとしたら、1.5倍しか向上できないとしても10のパワーで済ませる方法を選択します。先ほどもお話したとおり、全カットで120点を目指すのではなく、40点をなくすことが重要なので。

――今後、VFX制作に取り入れてみたい新しいテクノロジーはありますか?

松永:技術面では、『生命大躍進』の制作当初からは想像できないほど定着したドローンですが、先日DJIが発表した「Osmo」(3軸ジンバルによる手ブレ補正機能付きハンドヘルド4Kカメラ)などを使ってみたら面白い映像がつくれるのではないかと考えています。新しい機材は積極的に使ってみたい性分なもので。

――では、一緒に仕事をしてみたいアーティストやプロダクションはございますか?

松永:そうですね。『生命大躍進』では、恐竜などのキャラクター表現に集中して取り組むことができたので、今度は北田栄二さん帆足タケヒコさんのようなハードサーフェイス表現を得意とされるアーティストさんと何かご一緒できればと、個人的には思っています。ふたりとも以前から知り合いなのですが、これまでそうした表現に挑戦する機会にめぐまれなかったので。日本にこだわっているわけではないのですが、国内には優れたデジタルアーティストさんがたくさんいらっしゃいます。どんどん一緒にやっていきたいですね。

INTERVIEW_大河原浩一(ビットプランクス) / Hirokazu Okawara(Bit Pranks
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota



  • 「CGWORLD大賞 2015」記念インタビュー(2)松永孝治(NHK)
  • CGWORLD大賞 2015

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    cgworld.jp/special/award2015

Profileプロフィール

松永孝治/Koji Matsunaga

松永孝治/Koji Matsunaga

1990年にNHK入局。近年は、スペシャルドラマ『坂の上の雲』(2009/2010/2011)や大河ドラマ『八重の桜』(2013)などのCG・VFXを担当。NHKスペシャル『生命大躍進』(2015)では、VFXスーパーバイザーとして4Kフォーマットの3DCGならびにVFXを用いた大型科学ドキュメンタリー番組を制作。VES/Visual Effects Society(アメリカ視覚効果協会)会員。

松永孝治氏インタビュー(NHKアーカイブス)

スペシャルインタビュー