<3>高いカスタマイズ性
CGW:カスタマイズ性はいかがでしょうか?
リムサター:カリフォルニアのEight VFX(NYを拠点とする150人規模のVFXプロダクション)では、自社の制作パイプラインに合わせてPythonやREST、 C++を活用しカスタマイズして使っています。フロントエンド部分はJavaScript、バックエンド部分はPythonに対応しており、最初からカスタマイズ用のAPIが揃っているため、自分たちの好きなように加工して利用することができます。
●Eight VFXのftrack活用事例https://www.ftrack.com/en/portfolio/eight-vfx-personalizing-pipelines-ftrack
また、ftrackの公式サイトには開発者向けのフォーラムがあり、そこで開発者同士が意見やカスタマイズ方法などの情報交換をしています。ftrackのアドオン(拡張機能)をユーザー同士で交換し合ったりもしています。
CGW:他ツールとの連携について教えてください。
リムサター:ftrackは他ツールとのインテグレーションにとても力を入れています。Autodesk MayaやAdobeのツールはもちろんのこと、Unityなどとの連携も進めています。最近では NUKE Studioと機能連携し、前よりも使いやすくなったという高評価をいただいています。2019年は、Unreal EngineやUnityとの連携も進めていきます。
NUKEとの連携機能
リムサター: Houdiniとの連携は有志の人が開発してくれたオープンソースのものがありますが、2019年中にはftrack公式のHoudiniインテグレーションツールを提供できると思います。
Ftrack Houdini Connect Plug-in from Mike Datsik on Vimeo.
CGW:ftrackのモバイル利用について教えてください。
リムサター:現在は ftrack GO (collaboration on the go) というiOS, Android用のモバイルアプリが用意されています。現在はまだそれほど機能がなく、作業状況の報告等に使われる程度です。2019年中には要望の多いプレビュー機能を充実できるよう開発中です。
ftrack GO(iOS版)
<4>ユーザーの投票によりアップデートの優先度を決定
CGW:プロジェクト管理ツールはftrackの他にもSHOTGUNなどの市販のもの、またプロダクションの内製のものなど様々なツールがあります。こういった、ライバルと言える他のツールについては意識していますか?
リムサター:私自身は全然気にしていませんが、開発チームは他社ツールや、他社プロダクションのツールなどをとても気にしていますね。それらを参考にしながらftrackの機能を考えています。業界はそれほど大きくはないので、様々なカスタマーと話してどういうことをやってみたいのか、そういう意見を開発に反映したいと考えています。ライバルツールを出している他社とも仲は良く、共同セミナーを開催したり、業界全体を育成するためにいろいろ協力しています。
CGW:先ほど、ftrackの優位性は「使い始めやすい」ことだとお話がありましたが、その真意は?
リムサター:ftrackには様々な機能がありますが、それらを一気に全部見るのではなく、必要なときに必要な機能だけが目に入るよう工夫しています。ソリューション(解決手段)とインターフェイス(操作性)をセットで考えているのです。さらにユーザーが手を入れて拡張していくこともできます。ftrackとしてはUI、UXに関してとても注力しているということです。
ユーザーから問題や要望がたくさん来るので、それらを集め、どういう新機能があったら便利で面白いかということを何週間も話し合っています。その話し合いの段階で問題を細分化し、細分化した後、実際にその問題をUIで解決するには、機能的に解決するにはどういうことができるか? 開発に入る前の段階から話し合い、できることから少しずつ機能を改良したり、追加したりしています。ftrackは、ユーザーからの意見をとても細かく調査しているのです。
それから、これはftrackがユーザー本位で開発していることのひとつの証拠になるのですが、何とツールのロードマップをユーザーに公開し、新機能の優先順位を投票で決めているのです。お客さんが最も必要としている機能から優先的に実現できるよう、開発側がユーザーの要望を把握できるようになっているのです。ftrackのロードマップはTrelloという情報共有ツール上でユーザーに公開されていて、ユーザーは自由に書き込んだり順位づけしたりすることができます。ただし、本当に全部公開するとライバルに知れてしまうので、一部は隠していますが(笑)。
trello上で公開しているロードマップ
<5>世界各国のユーザーがより簡単に使えるように
CGW:他国のftrackユーザーの様子はどうですか?
リムサター:アジア圏のユーザーはモバイルアプリの機能強化を求めています。その他は大体同じで、各国ともローカライゼーションを強化してほしいと言われています。韓国語、ロシア語、スペイン語などの要望もあります。世界中のローカライズが人たちにむけて、各国でどう協業できるのかを探っているところです。ftrackはストックホルム本社、ロンドン、マドリード、バルセロナ、上海、サンフランシスコ、ロサンゼルスに拠点があり、全拠点を結んでWeb会議をやっています。
CGW:どんな優秀なツールでも時差は解決できないものですが、この点はどのような工夫をされていますか?
リムサター:毎月全拠点とグローバルミーティングをやっているのですが、開始時間を早めにしたり遅めにしたり、常にある1つの国に合わせた時間で固定するのではなく、順番にそれぞれの国の会議しやすい時間に動かしながら開催しています。開発者たちは、時間に関係なく毎日のように情報交換していますがね。面倒ですけれど、ビデオ電話、ビデオ会議システムを使って、顔を見ながらやることでより親密に打ち合わせでき、効果的な会議になると考えています。
CGW:日本のユーザー、これからftrackを利用したいと考えているユーザーにひとことお願いします。
リムサター:特にアジア圏に関しては非常に力を入れて開発を進めており、皆さんにとって使いやすいツールになるように頑張っています。製品のラインナップとしては、ftrack studio、ftrack reviewもまもなくリリース予定で、これらは機能を絞ったバージョンなので、より簡単に使えるようになる予定です。
日本に限らずどの国でも ftrackのライバルは ExcelとGoogle Docs、それとお手製のインハウスツールです。それらのツールをサポートしたりメンテナンスすることに時間を取られず、本来の業務に集中できるようになってほしいと考えています。それはとてもチャレンジングなことなのですが、ftrackが手助けしていきます。
もしかしたら今は便利に使えているかもしれないインハウスツールも、機能追加したくなったら、どうしますか? インハウスツールを開発した人が辞めてしまったら?
ftrackは日本語のインターフェイスも充実していく予定で、これにより、さらに初期段階での使い勝手が向上すると考えています。コラボレーションのためのプラットフォームとして、レビュー担当の人は、レビューをするための部分だけに特化して使いこなせます。日本のゲーム業界でも ftrackは活躍できるポテンシャルをもっていると思いますので、ぜひよろしくお願いします。