CG・映像制作におけるプロジェクト管理ツールとして、ユーザーの意見を広く取り入れながら開発を続け、欧州で勢いをもつスウェーデン発の「ftrack」。その開発元である同名メーカーのCEO Fredrik Limsäter/フレドリク・リムサター氏に、ftrack のこと、ツールとしての考え、今後の展望などを聞いた。

TEXT_安藤幸央(エクサ)/ Yukio Ando(EXA CORPORATION)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

<1>短時間で習得できる、使い勝手の良さが特徴

CGWORLD(以下、CGW):まずは ftrackとftrack社の紹介をお願いします。

フレドリク・リムサター氏(以下、リムサター):ftrack は"film track"の略だと考える方もいますが、実は私の名前が「Fredrik」なので、その「F」を頭につけたツールというわけなんです(笑)。以前務めていたソニー・ピクチャーズ・イメージワークスにインハウスのプロジェクト管理ツールがあり、もともとは社内利用に限定したツールだったのですが、それを外部でも利用することになり名前をつけたのが始まりです。様々な案が出ましたが、Webサイトのドメインが空いていたこともあって「ftrack」という名前になりました。

CGW:ftrackの特徴はどういったところですか?

リムサター:まずひとつめに、使い始めやすいこと、親しみやすいのが大きな特徴です。ユーザーからフィードバックを多く採り入れ、使い勝手の向上を重要視しています。普段からツールを使い慣れている人たちだけでなく、フリーランスで突然プロジェクトに駆り出されたような人にとっても使いやすいような工夫をいろいろと考えています。ftrackは使い始めてからひととおり使いこなすまで、習得にかかる時間が短いことが最大の特徴です。

ftrackのレビュー画面

ふたつめは、バックエンドには様々な複雑な機能が用意されていますが、必要になるまではそれらの複雑な機能を呼び出すことなくシンプルなままで使えるということです。シンプルに使いたい人は自分が使うところだけ選んで使い、複雑な機能を使いたい人は、必要に応じてそれらの機能を呼び出して使うといった、柔軟な使い方ができます。

みっつめは、ヨーロッパ、米国、中国にサポートチームを置いており、開発者たちとコンタクトを取りながら充実したサポートを受けられることです。アジア圏は上海に拠点を置き、そこではセールス、サポート両方の対応を受けられるようになっています(日本ではボーンデジタルが取り扱い)。

さらに近いうちに日本語バージョンのリリースが予定されています。すでに中国語バージョンがリリースされており、2バイト文字への対応も問題なくできているため、あとは日本語の表記だけです。日本語の場合、漢字だけでなくカタカナ表記もあり、文も長くなりがちです。ローカライズはとてもトリッキーで複雑な作業なので注意深く進めているところです。

自分のタスク管理画面(左)/チーム内でのタスクの割り振りを一覧する画面(右)

<2>TVシリーズやゲーム、VR制作にも活用されるftrack

CGW:ftrackは主にどういった分野で利用されているのでしょうか?

リムサター:ftrackはもともと映画や大規模作品のVFX制作に使われていましたが、2012年にテコ入れをして、複数話を扱うTVドラマシリーズやゲーム、VRの制作においても非常に多く使われるようになってきています。

制作会社の中では、プロジェクトを特定のパートに細分化し、あるパートだけ ftrackを使って細かく扱うといったやり方が浸透してきています。全行程ではなく、部分的に使われていることもあります。


プロジェクトの進行状況を確認する画面

リムサター: チームやプロジェクトごとに使い分けることができ、外部スタッフとのやりとりに ftrackを活用しているスタジオもあります。ftrackを介してコミュニケーションを取り、ftrackを作業のハブ的に使い、アクセス管理やアセットの受け渡し、共同作業のチェックなどを行うのが便利との声も聞いています。

チーム全体の進行状況を確認する画面(左)/アセットのバージョン管理画面(右)

CGW:ftrackはクラウドベースのシステムですが、メリット、デメリットは?

リムサター:今はクラウドでサービスを提供していますが、ご要望があればオンプレミス(制作会社内のマシンにツールをインストールして利用すること)も可能です。特にニュース映像を扱う放送局系の企業は情報の取り扱いが厳しいため、データを外部に出さず、オンプレミスで運用しているところもあります。

大手のユーザーの場合はクラウドベースで利用していますが、自分たちのクラウド、プライベートクラウドにftrackをインストールして使っている企業もあります。インストールは、docker(モジュール単位で手軽に扱える仮想化環境)なので、簡単に行えます。

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<3> 高いカスタマイズ性

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<3>高いカスタマイズ性

CGW:カスタマイズ性はいかがでしょうか?

リムサター:カリフォルニアのEight VFX(NYを拠点とする150人規模のVFXプロダクション)では、自社の制作パイプラインに合わせてPythonやREST、 C++を活用しカスタマイズして使っています。フロントエンド部分はJavaScript、バックエンド部分はPythonに対応しており、最初からカスタマイズ用のAPIが揃っているため、自分たちの好きなように加工して利用することができます。

●Eight VFXのftrack活用事例
https://www.ftrack.com/en/portfolio/eight-vfx-personalizing-pipelines-ftrack

また、ftrackの公式サイトには開発者向けのフォーラムがあり、そこで開発者同士が意見やカスタマイズ方法などの情報交換をしています。ftrackのアドオン(拡張機能)をユーザー同士で交換し合ったりもしています。

CGW:他ツールとの連携について教えてください。

リムサター:ftrackは他ツールとのインテグレーションにとても力を入れています。Autodesk MayaやAdobeのツールはもちろんのこと、Unityなどとの連携も進めています。最近では NUKE Studioと機能連携し、前よりも使いやすくなったという高評価をいただいています。2019年は、Unreal EngineやUnityとの連携も進めていきます。


NUKEとの連携機能

リムサター: Houdiniとの連携は有志の人が開発してくれたオープンソースのものがありますが、2019年中にはftrack公式のHoudiniインテグレーションツールを提供できると思います。

Ftrack Houdini Connect Plug-in from Mike Datsik on Vimeo.

CGW:ftrackのモバイル利用について教えてください。

リムサター:現在は ftrack GO (collaboration on the go) というiOS, Android用のモバイルアプリが用意されています。現在はまだそれほど機能がなく、作業状況の報告等に使われる程度です。2019年中には要望の多いプレビュー機能を充実できるよう開発中です。


ftrack GO(iOS版)

<4>ユーザーの投票によりアップデートの優先度を決定

CGW:プロジェクト管理ツールはftrackの他にもSHOTGUNなどの市販のもの、またプロダクションの内製のものなど様々なツールがあります。こういった、ライバルと言える他のツールについては意識していますか?


リムサター:私自身は全然気にしていませんが、開発チームは他社ツールや、他社プロダクションのツールなどをとても気にしていますね。それらを参考にしながらftrackの機能を考えています。業界はそれほど大きくはないので、様々なカスタマーと話してどういうことをやってみたいのか、そういう意見を開発に反映したいと考えています。ライバルツールを出している他社とも仲は良く、共同セミナーを開催したり、業界全体を育成するためにいろいろ協力しています。

CGW:先ほど、ftrackの優位性は「使い始めやすい」ことだとお話がありましたが、その真意は?

リムサター:ftrackには様々な機能がありますが、それらを一気に全部見るのではなく、必要なときに必要な機能だけが目に入るよう工夫しています。ソリューション(解決手段)とインターフェイス(操作性)をセットで考えているのです。さらにユーザーが手を入れて拡張していくこともできます。ftrackとしてはUI、UXに関してとても注力しているということです。

ユーザーから問題や要望がたくさん来るので、それらを集め、どういう新機能があったら便利で面白いかということを何週間も話し合っています。その話し合いの段階で問題を細分化し、細分化した後、実際にその問題をUIで解決するには、機能的に解決するにはどういうことができるか? 開発に入る前の段階から話し合い、できることから少しずつ機能を改良したり、追加したりしています。ftrackは、ユーザーからの意見をとても細かく調査しているのです。

それから、これはftrackがユーザー本位で開発していることのひとつの証拠になるのですが、何とツールのロードマップをユーザーに公開し、新機能の優先順位を投票で決めているのです。お客さんが最も必要としている機能から優先的に実現できるよう、開発側がユーザーの要望を把握できるようになっているのです。ftrackのロードマップはTrelloという情報共有ツール上でユーザーに公開されていて、ユーザーは自由に書き込んだり順位づけしたりすることができます。ただし、本当に全部公開するとライバルに知れてしまうので、一部は隠していますが(笑)。


trello上で公開しているロードマップ

<5>世界各国のユーザーがより簡単に使えるように

CGW:他国のftrackユーザーの様子はどうですか?

リムサター:アジア圏のユーザーはモバイルアプリの機能強化を求めています。その他は大体同じで、各国ともローカライゼーションを強化してほしいと言われています。韓国語、ロシア語、スペイン語などの要望もあります。世界中のローカライズが人たちにむけて、各国でどう協業できるのかを探っているところです。ftrackはストックホルム本社、ロンドン、マドリード、バルセロナ、上海、サンフランシスコ、ロサンゼルスに拠点があり、全拠点を結んでWeb会議をやっています。

CGW:どんな優秀なツールでも時差は解決できないものですが、この点はどのような工夫をされていますか?

リムサター:毎月全拠点とグローバルミーティングをやっているのですが、開始時間を早めにしたり遅めにしたり、常にある1つの国に合わせた時間で固定するのではなく、順番にそれぞれの国の会議しやすい時間に動かしながら開催しています。開発者たちは、時間に関係なく毎日のように情報交換していますがね。面倒ですけれど、ビデオ電話、ビデオ会議システムを使って、顔を見ながらやることでより親密に打ち合わせでき、効果的な会議になると考えています。

CGW:日本のユーザー、これからftrackを利用したいと考えているユーザーにひとことお願いします。

リムサター:特にアジア圏に関しては非常に力を入れて開発を進めており、皆さんにとって使いやすいツールになるように頑張っています。製品のラインナップとしては、ftrack studio、ftrack reviewもまもなくリリース予定で、これらは機能を絞ったバージョンなので、より簡単に使えるようになる予定です。

日本に限らずどの国でも ftrackのライバルは ExcelとGoogle Docs、それとお手製のインハウスツールです。それらのツールをサポートしたりメンテナンスすることに時間を取られず、本来の業務に集中できるようになってほしいと考えています。それはとてもチャレンジングなことなのですが、ftrackが手助けしていきます。

もしかしたら今は便利に使えているかもしれないインハウスツールも、機能追加したくなったら、どうしますか? インハウスツールを開発した人が辞めてしまったら?

ftrackは日本語のインターフェイスも充実していく予定で、これにより、さらに初期段階での使い勝手が向上すると考えています。コラボレーションのためのプラットフォームとして、レビュー担当の人は、レビューをするための部分だけに特化して使いこなせます。日本のゲーム業界でも ftrackは活躍できるポテンシャルをもっていると思いますので、ぜひよろしくお願いします。