>   >  サイバーコネクトツー「スーパーゲームスクール」が示す、人材教育における第3の方法論
サイバーコネクトツー「スーパーゲームスクール」が示す、人材教育における第3の方法論

サイバーコネクトツー「スーパーゲームスクール」が示す、人材教育における第3の方法論

SGSの修了生が語る受講メリット

続いてSGSを経てCC2で働いているクリエイターに、当時の想い出などについて語ってもらった。

村上哲哉氏

プログラマーコース1期生の村上哲哉氏はITエンジニアからの転職組だ。子どもの頃からゲームが好きで、就職後も夢を捨てきれず、悶々としていた。SGSのニュースを雑誌『ファミ通』で知り、30歳になるのを機に最後のチャンスと考えて挑戦。会社を退職して退路を断ち、C++の基礎を独学で学んだ上で受講に臨んだ。業務でCとJava言語を使用しており、Redmineなどのツールも活用していたため、前職の知識や経験が活かせたという。

むしろ大変だったのは、ゲーム特有の「心地良さ」の追求だ。『スーパーマリオ64』のカメラ動作をプログラムする際、何が心地良い動きなのかわからず、苦労したという。「講師に尋ねても答えを教えてくれるわけでもなく、ただリテイクがくり返されるばかり。自分が過去に遊んだゲームを引き合いに出して質問を続け、やっと合格が出ました」。ここから学んだのはゲームプログラマーならではのコミュニケーション力や、質問力の重要さだ。「独学では絶対に身につかないスキルだと思います」。

吉村修平氏

ゲームデザイナーコース2期生の吉村修平氏もWebデザイナーからの転職組だ。前職ではCSSやPHPなどを用いてWebのアニメーション設定などを行なっており、学生時代にゲーム制作の経験もあった。そんな吉村氏にとっても、プロの現場で求められる企画書の書き方には戸惑ったという。ゲームの内容や、ルールの説明もさることながら、そのゲームにおける気持ち良さや、操作の触り心地まで書面に盛り込むことが求められたからだ。「気持ちの良い動きの言語化に苦労しました」。

企画書演習ではMOBA(マルチプレイヤーオンラインバトルアリーナ)を小学生向けにアレンジしたものを作成。仕様書演習ではステルスアクションのゲームを基に80ページもの分量を作成し、講師陣を驚かせた。「社内でもかなり受けが良かったと聞いています」。Webデザイナーとゲームデザイナーでは、同じデザインでも内容が異なり、前職の経験があまり活かせないのも事実。「それでも食らいつけば、なんとかなりました。業界へのチケットを得る良い機会なので、挑戦してほしいですね」。

松本一輝氏

ビジュアルエフェクツアーティストコース1期生の松本一輝氏は、九州産業大学芸術学部の在学中にSGSを受講した。「もともとゲーム業界志望で、3DCGも触っていましたが、就活に際して武器がほしいと思い、挑戦しました」。苦労したのは氷の破壊エフェクトの制作で、UE4のカスケードを使用したが、なかなか氷らしい見た目にならず、時間がかかったという。「エフェクトについてはまったくの初心者でしたが、要素を分解して書き出す方法など、丁寧に指導していただきました」。

松本 萌氏

キャラクターアニメーターコース2期生の松本 萌氏も同じ九州産業大学芸術学部の卒業生で、在学中に受講し、新卒でCC2に入社した。アニメ作品が好きで、「神作画」を観るのが好きだった萌さん。DCCツールを使用するのが初めてで、なかなか思うような動きがつくれなかったが、必死についていった。「学校の演習では、どこまでいっても『自分が好きなもの』になってしまいます。それとはちがうリアルな世界で、厳しさをもって勉強ができました」。

4名の話を聞きながら改めて感じたのは、全員が「覚悟をもって」受講に臨み、自己研鑽に励んだことだ。素材が良かった、と言ってしまえばそれまでだが、そうした人材が通常の就活ルートでは弾かれる可能性があるのが、今の就活制度の限界だとも言える(実際に村上氏と吉村氏は転職組だ)。そうした「隠れた逸材」や「可能性を秘めた新人」に巡り会うためには、できるだけ受講時の敷居を低くすることが重要で、無償化はそのための施策のひとつだと言える。

一方で育成の「歩留まり」を上げるためには、育成する側のスキルも求められる。「名選手、名監督にあらず」のたとえ通り、ゲームクリエイターはつくるプロであっても、教えるプロではない。プロの側が無意識のうちにマウントをとり、受講生の熱意をくじいてしまう恐れもある(筆者も非常勤講師を行う上で、常に心がけている点だ)。鬼橋氏も「受け身になりがちな受講生が多い中で、いかに自主性を引き出していけるかが課題」とした。CC2の担当講師陣もまた、少しずつ手探りで学んでいるようだった。

現役受講生はこのように感じている

入校説明会

これまでSGSの卒業生に話を聞いてきたが、ここで第4期の受講生にも話を聞いてみよう。登場してもらうのはエフェクトアーティストコースのAさんと、プログラマーコースのBさんだ。両名とも自宅からオンラインで受講していたため、メールで回答を寄せてもらった上で、再構成した。また、就業前のため、氏名・学校名などは伏せている。なおBさんは、すでにSGSを修了(合格)しているが、いまだ専門学校に在学中だ。このことからも、課題が難しすぎるわけではないことがわかる。

――簡単な自己紹介をお願いします。

A:エフェクトアーティストコースを受講している30代の女性です。会社で一般事務をしています。

B:プログラマーコースを受講している20代の男性です。ゲーム専門学校で学んでいます。

――SGSを知ったきっかけと、応募動機について教えてください。

A松山さんのTwitterをよく閲覧させてもらっており、その中でこのようなプログラムがあることを知りました。ゲーム開発に興味はありましたが、興味をもち始めたのが社会人になってからで、とっかかりがありませんでした。こちらのプログラムは社会人で未経験からでも可能ということで、飛びつきました。

B:公式サイトで知りました。ゲーム制作の現場で求められる技術力を身につけられると考え、応募いたしました。

――課題内容とこれまでの感想を教えてください。

A:UE4上で炎や雷のエフェクト制作をしています。試されているのは本気度、身につくのが実力、そう感じています。

B:『スーパーマリオ64』を参考に、Unity上で基本アクションとカメラの実装を行いました。市販されているゲームを基に再現するため、アクション1つ1つがとても丁寧につくられており、課題をクリアできるだけのクオリティを満たすのが大変でしたが、それだけに勉強になりました。課題をクリアしたことで、ただプレイヤーが歩いたり走ったり、ジャンプするだけでなく、操作したときに面白い、気持ち良いと感じてもらえるようなプログラムが書けるようになったと思います。

――課題の難易度は自分に合っていますか?

A:はっきり言って無茶苦茶大変です(笑)。

B:適正だったと思います。

――オンラインでの授業ということで、メリットやデメリットは感じますか?

A:距離はもちろんですが、聞きたいことを聞きたいタイミングで聞けます。担当の方からも空き時間に返答をいただけます。非常にありがたいです。デメリットは表現方法が限られるため、わからないことを文字などで正確に伝えなければならないのですが、それが苦手で時々相手を混乱させてしまうときがあります。

B:自宅で好きな時間に課題の制作を行うことができたので、学校との両立ができて助かりました。

――ゲーム業界で将来どのようなキャリアを重ねていきたいと思いますか?

A:エフェクトはもちろん、エフェクトをつくる上でモデリングやアニメーションなどもできる方が良いと思っています。なのでそちらの方面にも力を伸ばしていけたらと考えています。

B:プログラマーとして、ゲームのプレイヤーの制御に関わる部分のプログラムを極めたいと思っています。

――その他、SGSについて感想などがあれば教えてください。

A:私はゼロからのスタートで、何もわからない状態ではじめました。自宅での講習では、通学がないぶん実感が湧きにくい部分はありますが、継続して勉強していけば必ず力になるので、興味がある方はぜひ参加していただければと思います。

B:課題の内容が3Dアクションゲームの開発が中心であるため、ある程度プログラムが書けて、自分でちょっとしたアクションゲームがつくれるけど、どうすればさらに良くなるのかがわからない人にオススメだと感じました。実際にプロとして活躍されている方に指導していただける点でも、非常に勉強になりました。やる気のある人にどんどんチャレンジしてほしいです。

企業主導の寺子屋形式は拡大するか?

以上、代表の松山氏をはじめ、SGSの関係者に幅広く話を聞くことができた。改めて感じたのは、SGSのような企業による寺子屋形式の人材育成が、現状の大学や専門学校による学びと、入社後の新人研修やOJTを補完する存在として、間違いなく求められているということだ。裏を返せば、教育機関で基礎力を身につけ、就職後に応用力や実践力を鍛えるという従来の直線的な人材育成では、限界があることを示している。次世代機を前に、技術の高度化がさらに進む中、対策は待ったなしだと言えるだろう。

特に日本の雇用環境では、正社員の解雇が良くも悪くも難しい。そのうえゲーム業界は「面白さという定量化できない価値を創り出すことを生業にする」、「技術の進化が産業を牽引するため、就業者の絶え間ない自己研鑽が求められる」という、ユニークな特性をもつ。そのため企業の採用が他業界よりも保守的にならざるを得ない。一方で学校側もビジネス面から、学生を「お客様」扱いしなければならず、教育内容も遅れがち......という松山氏の指摘も正鵠だろう。

こうした中、SGSのような寺子屋形式では、「企業の業務内容に即した指導ができる」、「各々の適性を見極め、可能性のある受講生だけを伸ばせる」、「異業種からの人材やクリエイター系以外の学生など、通常の就活ルートからこぼれた人材を呼び込める」メリットがある。講師役のクリエイターにとっても、知見の棚卸しになる、人に教えることで自分が学べる、などのメリットがあるだろう。後はどれだけ教育コストがかけられるかだが、そこは企業側が自社の判断で進めれば良い。

ゲーム業界は慢性的な人手不足だ(写真は東京ゲームショウ2019)

実際にCC2以外でも「寺子屋形式」をとる企業が現れた。受託開発と企業向けの人材紹介(正社員・契約社員・人材派遣)などを営むクリーク・アンド・リバー社の「クリエイティブアカデミー」だ。「3DCGモデラーコース」「3Dモーションデザイナークラス」「VFXアーティストクラス」「ポートフォリオブラッシュアップクラス(夜間のみ)」の4コースで、SGSと異なり週5日間、毎日通学して学べる。授業料などは完全無料で、プロによる3ヶ月間の講義がマンツーマンで受けられ、自分のペースで進めることもできる。

もっともSGSが終了後、自由な就職活動を認めているのに対して、クリエイティブアカデミーでは同社を通して就業することになる。ゲーム業界を人材面で支える強みが活かされたかたちだ(特に夜間の学生向けクラスでは大手ゲーム企業に新卒入社で送り出しており、内定率も高いという)。注意してほしいのは、SGSとクリエイティブアカデミーの双方で、優劣があるわけではないということ。ゲーム業界の志望者にとって、選択肢が増えることは良いことだからだ。むしろ既存の学校で、学生のスキルを十分引き上げられない点に問題があるとも言える。

そのうえで、今後もこうした企業主体の「寺子屋形式」は増加することと思われる。少子化の波で学生数が減少傾向にある一方、企業と学校のギャップがますます拡大していく現状を、誰かが埋めなければならないからだ。ゲーム業界でもっとも重要な資産が「人」である以上、企業がリスクを取って人材育成に乗り出すのも道理だろう。その上で企業と学校の横断的・複層的な人材教育のあり方を、今後も模索していくことが求められる。SGSはその興味深い一例と位置づけられるだろう。

Profileプロフィール

松山 洋/Hiroshi Matsuyama

松山 洋/Hiroshi Matsuyama

サイバーコネクトツー 代表取締役社長
www.cc2.co.jp

スペシャルインタビュー