ゲーム業界で慢性的に続く人材不足。背景にあるのが企業と学校のミスマッチだ。こうした中、業界志望者を対象にユニークな人材教育を行なっている企業に、サイバーコネクトツーがある。2015年12月にスタートし、丸4年を迎える同社の「スーパーゲームスクール」について、カリキュラムの内容、受講生の声などについて聞いた。

INTERVIEW&PHOTO_小野憲史 / Kenji Ono
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

企業と学校の人材のミスマッチを自ら解消する

新型ゲーム機の登場のたびに表現力が向上してきたゲーム業界。2020年の年末商戦にはPS5の発売が予定されており、業界内外からの注目度も高い。その一方で深刻な問題となっているのが人材育成だ。少子化の波もさることながら、開発に必要な技術レベルが急速に上昇した結果、現場で求められるスキルと教育内容の乖離が無視できないものになっている。結果として中小企業を筆頭に、いわゆるOJTでは回らなくなりつつあるのが現状だ。

このギャップがわかりやすいのがアート分野だ。PS2世代ではMaya3ds MaxPhotoshopIllustratorでこと足りたものが、PS3世代になってシェーダが一般的になると、ノーマルマップの作成などでZBrushの導入が広がった。これがPS4世代になると、PBR(物理ベースレンダリング)の普及でSubstance PainterDesignerの利用が増加。Houdiniによるプロシージャルなアセット制作やフォトグラメトリによる3DCG制作も進行中で、アセット制作の概念すら変わろうとしている。

これがPS5世代になると、リアルタイムレイトレーシングの波がゲーム業界にも押し寄せることが確実視されている。ストリーミング配信技術によって、スマートフォンでもコンソールと同じゲーム体験が可能になろうとする中、従来の「コンソールはハイエンド、モバイルはローエンド」といった区切りも、過去のものになるかもしれない。一方で大学や専門学校の授業年数が急に増えるわけでもなく、ますます企業と学校の乖離が広がっていくのでは......という筆者の懸念に対して、

「企業と学校のミスマッチと、それに伴う人材不足は今に始まった話じゃない。過去20年間くらい、ずっと同じですよ」。

このようにガツンと回答したのが、サイバーコネクトツー(以下、CC2)代表の松山 洋氏だ。福岡に本社を構えるゲーム開発会社で、『NARUTO-ナルト- ナルティメット』シリーズなどの開発で知られ、福岡・東京・モントリオールの3拠点で200名以上の社員を抱える。人材採用にも積極的で、全国主要都市で会社説明会を実施。松山氏自らが足を運び、全国の大学・専門学校で年間100回以上の講演会も実施中だ。ゲーム業界をめざす学生や、学校の現状を最も良く知る人物の1人だといえるだろう。

松山 洋/Hiroshi Matsuyama
サイバーコネクトツー 代表取締役社長
www.cc2.co.jp

そんな同社が2015年12月から開校したのが「スーパーゲームスクール(以下、SGS)」だ。ゲームクリエイターをめざす学生・社会人を対象にした「私塾」で、希望者は誰でも受講でき、授業料も無料。プログラマー・ゲームデザイナー・アーティスト(キャラクターアニメーター・エフェクトアーティスト)の4コースで、講師は同社の現役クリエイターが務める。全課題に合格(修了)すると、同社の作品選考で合格できるだけの水準に達するしくみだ。

もっとも、それだけに受講生に求められるレベルも高い。カリキュラムは新人研修の内容などを基にした実践的なもので、各コースで期間や内容が異なる。共通しているのは、課題をクリアできなければカリキュラムの途中で終了となる点だ。そのため、授業が進むにつれてどんどん脱落者が出ていく。開校から4期が終了したところで、全受講者90名に対して、ゲーム業界への内定者は11名に留まる(※)。この数字が多いか少ないかは別として、通常の学校とは方針が大きく異なることがわかるだろう。

※このうち7名がサイバーコネクトツーに入社

このように、SGSの特徴は学校法人ではなく、プロのゲーム開発者が直接指導するがゆえの「厳しさ」だ。松山氏は「全国の大学や専門学校を回って感じるのは、学校が学生に対してモラトリアムを提供する場になっていること。学生から授業料を徴収するビジネスモデルだけに、学生に本当のことが言えない」と指摘する。クリエイティブ職であるがゆえに、学生によって向き不向きがあるのは当然。適性がないと感じたら早めに指摘して別の可能性を示すことも、本当の教育だという。

ただし、松山氏は「ゲームクリエイターは特別な存在ではない。正しい努力を続ければ、誰でも到達できる」とも補足する。にもかかわらず、学校と企業のミスマッチが続くのは、「学生自身の熱意」と「授業内容のレベルの低さ」が原因、というのが松山氏の見立てだ。同社でSGSが始まったのも、学校巡りの過程で、育成に関する違和感がぬぐえなかったことが、理由のひとつにある。プロが直接指導する場所をつくることで、学生に本当の意味での教育を施したいというわけだ。

授業風景

もっとも、SGSはCC2に特化した教育システムではない。カリキュラムや教材に同社の知見が活かされているが、同じ福岡市内のゲーム開発スタジオ、ガンバリオンをはじめ、他社との協業や協賛なども進めている。受講中の就職活動も自由で、授業で制作した成果物を自己PRに活用するのもOKだ。松山氏も講師陣に「受講生に対する恣意的な誘導は厳禁」としている。たとえ優秀な人材であっても、ゲームづくりの価値観やビジョンなどがちがっていれば、入社後お互いに不幸になってしまうからだ。

一方、SGSを継続する中で、課題も見えてきた。人材不足が続く中、初心者や異業種からの転職組は貴重な存在だ。しかしプログラムやDCCツールなどの未経験者を対象に含めると、受講者間のレベル格差が発生する。そのため授業の開始地点を未経験者に合わせざるを得ない。そのぶんだけ受講期間が長期化してしまい、講師役の社員コストがかさむことになる。協力会社からの講師派遣についても、繁忙期やクオリティラインのちがいなどから、足並みを揃える難しさが出てきた。

そこで第4期(2018年12月開始)から新設されたのが「基礎学習カリキュラム」だ。従来の内容(SGSカリキュラム)とのちがいは、テキストや動画教材を用いて受講者が自主的に学ぶかたちをとること。毎月1回オンラインでの面談が行われ、進捗などがチェックされる。これによりSGSカリキュラムの開始時点で、受講者のレベルが揃えられ、指導コストも削減できるという。講師陣についても通常授業はCC2のみで担当し、協力企業は特別授業を担当するといった具合に明確化された。

また、隠れた問題として浮かび上がってきたのが、「受講生のモチベーション維持」だ。前述の通り、SGSではゲーム会社で内定が取れるレベルまで受講生を育成していく。カリキュラムも現場に即した実践的なものだ。PCやツールも無料で提供し、社内の技術書なども読み放題。しかし、受講生の熱意については如何ともしがたい。SGSでも応募者に対して面接を行い、その結果をふまえて受け入れているが、途中で心が折れてしまう受講者も多いという。

「もっとも、これには時代の変化もあります。弊社が起業した2000年前後は、学生がゲームクリエイターになりたいという夢を、まっすぐにもっていました。子どもの頃、ゲームに夢中になった世代だったからです。しかし、今はゲームが数ある娯楽のひとつになっていて、ゲームクリエイターも憧れの職業のひとつでしかありません。その結果、SGSに限らず全国の学校現場でゲーム開発の実態を知り、心が折れる学生が増えているのです」。そのため教える側も時代に即した対応が求められるという。

現在、SGSでは第5期の開始準備(※)が進められている。授業は福岡本社で行われるが、東京スタジオや自宅からでもオンラインで受講でき、実際に第4期では2名の受講生が自宅から参加した。ただし、初日は受講生全員が福岡本社に集まり、開会式に参加する。SGSの受講生として決意を新たにしてもらうためだ。「SGSを業界に入るための足がかりに利用してほしい。その上で業界の活性化につなげたい」という松山氏の思いを、受講生がどのように受け止めるか、期待したいところだ。

※申込締切は11月4日(月・祝)、開始は12月2日(月)予定

新人研修の内容などをベースとしたカリキュラム

それでは実際にどのようなカリキュラムが組まれているのか、紹介していこう。前述の通り、各コースでは基礎学習カリキュラムとSGSカリキュラムに内容が分かれている。受講者の入校時点のスキルや入校後の習熟度によって、カリキュラム修了までの期間が変わるしくみだ。基礎学習カリキュラムは受講生が自宅で進めるもので、直接指導は行われない。その上で基礎学習カリキュラム修了時に、SGSカリキュラムに進められるか否かが、講師陣によって判断されることになる(※)。

※内容は第5期に準拠。公式サイトも参照 

プログラムコース

宇佐見公介氏

担当講師:テクニカルサポートマネージャー 宇佐見公介氏
目標:3Dゲームを制作するうえで必要となる技術を、プロの現場で求められる基準で習得する

【基礎学習カリキュラム】約3ヶ月
Unreal Engine 4(以下、UE4)を使用し、3Dのアクションゲームを作成する(内容やテーマは自由)
【SGSカリキュラム】約6~9ヶ月
『スーパーマリオ64』を参考に、Unity上でキャラクターの移動と、それに伴うカメラシステムを、下記のステップでつくり上げる

①ステージをつくり、キャラクターを配置して、移動できるようにする(固定カメラ)
②キャラクターの移動で細部を調整する
③キャラクターのジャンプアクションをつくる
④キャラクターの移動にあわせてカメラを追随させる

プログラムコース 課題作例

ゲームデザイナーコース

西川裕貴氏

担当講師:取締役・制作プロデューサー/ディレクター 西川裕貴氏
目標:ゲームのアイディアを形にし、企画として具体化させ、仕様書に落とし込むまでを、実務で必要な水準で習得する

【基礎学習カリキュラム】約3ヶ月
A4のアイディア書を3点作成する(内容やテーマは自由)
【SGSカリキュラム】約6~12ヶ月
・ゲームのアイデアを考案し、それをもとに企画書と仕様書を作成する
・仕様書は遊びの核となる部分(コアゲームメカニクス)を抽出し、その内容をもとに作成する
・使用ツールはExcelで、CC2社内フォーマットに基づいて作成する

ゲームデザイナーコース アイディア書課題作例

キャラクターアニメーターコース

担当講師:シニアキャラクターアニメーター 藤井理恵氏、石井久美氏
目標:段階的な課題制作を通して、ゲームのアニメーション制作に求められる技術を習得する

【基礎学習カリキュラム】約5ヶ月
DCCツール(Maya、3ds Max、Blenderなど)を用いて任意の3Dキャラクターを作成し、簡単なリギングを行なって、基礎的なアニメーションをつくる
【SGSカリキュラム】約3~6ヶ月
CC2の研修内容をベースに、8~10段階のステップでアニメーションを作成する。主な内容は下記の通り
①ボールがバウンドするアニメーション
②キャラクターの待機アニメーション
③キャラクターが歩き、走り、ジャンプするまでの一連のアニメーション
④バレーボールで選手がジャンプし、スパイクするまでの一連のアニメーション

キャラクターアニメーターコース 課題作例

ビジュアルエフェクツアーティストコース

鬼橋 潤氏

担当講師:シニアビジュアルエフェクツアーティスト 鬼橋 潤氏
目標:段階的な課題制作を通して、ゲームエフェクトの制作に求められる技術を習得する

【基礎学習カリキュラム】約5ヶ月
DCCツール(Maya、3ds Max、Blenderなど)の使い方を習得する
【SGSカリキュラム】約3~6ヶ月
①爆発エフェクト(ツールのチュートリアル)
用意された素材を使用し、UE4上でマニュアルに沿って爆発をつくる
②焚火エフェクト(観察力を身につける)
実写動画を参照し、焚き火を作成する上で必要な要素(炎・火の粉・煙・空気のゆらぎなど)を考え、構築するスキルを身につける。木の組み方で炎の動きが変化するなど、物理的な考え方も習得する
③落雷エフェクト(イメージ力を身につける)
自然現象の中でも比較的イメージしやすい落雷をテーマに、エフェクトをゼロから作成する。これ以降の課題では素材も全て作成していく
④氷攻撃(構成力を身につける)
ゲームの攻撃エフェクトを題材に、起承転結を意識したエフェクトを作成することで、構成力を身につける
⑤炎の竜巻(実践力を身につける)
難易度の高い炎の竜巻というテーマに対して、これまでの課題で学んだことを全て生かして創り上げる

ビジュアルエフェクツアーティストコース課題作品「炎の竜巻」(上)、焚き火(左下)、氷攻撃(右下)(松本一輝氏)

なお、アート分野で学生に人気のキャラクターモデリングと背景モデリングはコースが設置されていない。これは志望者が非常に多い反面、実際の求人数が少なく、今後も拡大が見込みにくいことが理由だという(CC2でもモデリング業務を海外企業との協業で進めている)。これに対してキャラクターアニメーションとエフェクトは慢性的に人材が不足しており、就職につながりやすい。特にエフェクトはこの傾向が顕著で、エフェクトアーティストが学生に対して、専門職として知られていない現状もある。

担当講師を務める鬼橋氏も「求めるクオリティが高いため、合格(修了)者は少ないが、弊社が求めるクオリティラインを下げるわけにはいかないので、そこを変えるつもりはない。しかし、実態を知ってエフェクトをつくりたいという人が少ないため、まずは興味をもってもらうことが先決。入口を広げて分母を増やし、その中から数人でもいいので光るものがある人や、情熱がある人をサポートし、合格につなげていきたい」とコメントを寄せた。

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SGSの修了生が語る受講メリット

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SGSの修了生が語る受講メリット

続いてSGSを経てCC2で働いているクリエイターに、当時の想い出などについて語ってもらった。

村上哲哉氏

プログラマーコース1期生の村上哲哉氏はITエンジニアからの転職組だ。子どもの頃からゲームが好きで、就職後も夢を捨てきれず、悶々としていた。SGSのニュースを雑誌『ファミ通』で知り、30歳になるのを機に最後のチャンスと考えて挑戦。会社を退職して退路を断ち、C++の基礎を独学で学んだ上で受講に臨んだ。業務でCとJava言語を使用しており、Redmineなどのツールも活用していたため、前職の知識や経験が活かせたという。

むしろ大変だったのは、ゲーム特有の「心地良さ」の追求だ。『スーパーマリオ64』のカメラ動作をプログラムする際、何が心地良い動きなのかわからず、苦労したという。「講師に尋ねても答えを教えてくれるわけでもなく、ただリテイクがくり返されるばかり。自分が過去に遊んだゲームを引き合いに出して質問を続け、やっと合格が出ました」。ここから学んだのはゲームプログラマーならではのコミュニケーション力や、質問力の重要さだ。「独学では絶対に身につかないスキルだと思います」。

吉村修平氏

ゲームデザイナーコース2期生の吉村修平氏もWebデザイナーからの転職組だ。前職ではCSSやPHPなどを用いてWebのアニメーション設定などを行なっており、学生時代にゲーム制作の経験もあった。そんな吉村氏にとっても、プロの現場で求められる企画書の書き方には戸惑ったという。ゲームの内容や、ルールの説明もさることながら、そのゲームにおける気持ち良さや、操作の触り心地まで書面に盛り込むことが求められたからだ。「気持ちの良い動きの言語化に苦労しました」。

企画書演習ではMOBA(マルチプレイヤーオンラインバトルアリーナ)を小学生向けにアレンジしたものを作成。仕様書演習ではステルスアクションのゲームを基に80ページもの分量を作成し、講師陣を驚かせた。「社内でもかなり受けが良かったと聞いています」。Webデザイナーとゲームデザイナーでは、同じデザインでも内容が異なり、前職の経験があまり活かせないのも事実。「それでも食らいつけば、なんとかなりました。業界へのチケットを得る良い機会なので、挑戦してほしいですね」。

松本一輝氏

ビジュアルエフェクツアーティストコース1期生の松本一輝氏は、九州産業大学芸術学部の在学中にSGSを受講した。「もともとゲーム業界志望で、3DCGも触っていましたが、就活に際して武器がほしいと思い、挑戦しました」。苦労したのは氷の破壊エフェクトの制作で、UE4のカスケードを使用したが、なかなか氷らしい見た目にならず、時間がかかったという。「エフェクトについてはまったくの初心者でしたが、要素を分解して書き出す方法など、丁寧に指導していただきました」。

松本 萌氏

キャラクターアニメーターコース2期生の松本 萌氏も同じ九州産業大学芸術学部の卒業生で、在学中に受講し、新卒でCC2に入社した。アニメ作品が好きで、「神作画」を観るのが好きだった萌さん。DCCツールを使用するのが初めてで、なかなか思うような動きがつくれなかったが、必死についていった。「学校の演習では、どこまでいっても『自分が好きなもの』になってしまいます。それとはちがうリアルな世界で、厳しさをもって勉強ができました」。

4名の話を聞きながら改めて感じたのは、全員が「覚悟をもって」受講に臨み、自己研鑽に励んだことだ。素材が良かった、と言ってしまえばそれまでだが、そうした人材が通常の就活ルートでは弾かれる可能性があるのが、今の就活制度の限界だとも言える(実際に村上氏と吉村氏は転職組だ)。そうした「隠れた逸材」や「可能性を秘めた新人」に巡り会うためには、できるだけ受講時の敷居を低くすることが重要で、無償化はそのための施策のひとつだと言える。

一方で育成の「歩留まり」を上げるためには、育成する側のスキルも求められる。「名選手、名監督にあらず」のたとえ通り、ゲームクリエイターはつくるプロであっても、教えるプロではない。プロの側が無意識のうちにマウントをとり、受講生の熱意をくじいてしまう恐れもある(筆者も非常勤講師を行う上で、常に心がけている点だ)。鬼橋氏も「受け身になりがちな受講生が多い中で、いかに自主性を引き出していけるかが課題」とした。CC2の担当講師陣もまた、少しずつ手探りで学んでいるようだった。

現役受講生はこのように感じている

入校説明会

これまでSGSの卒業生に話を聞いてきたが、ここで第4期の受講生にも話を聞いてみよう。登場してもらうのはエフェクトアーティストコースのAさんと、プログラマーコースのBさんだ。両名とも自宅からオンラインで受講していたため、メールで回答を寄せてもらった上で、再構成した。また、就業前のため、氏名・学校名などは伏せている。なおBさんは、すでにSGSを修了(合格)しているが、いまだ専門学校に在学中だ。このことからも、課題が難しすぎるわけではないことがわかる。

――簡単な自己紹介をお願いします。

A:エフェクトアーティストコースを受講している30代の女性です。会社で一般事務をしています。

B:プログラマーコースを受講している20代の男性です。ゲーム専門学校で学んでいます。

――SGSを知ったきっかけと、応募動機について教えてください。

A松山さんのTwitterをよく閲覧させてもらっており、その中でこのようなプログラムがあることを知りました。ゲーム開発に興味はありましたが、興味をもち始めたのが社会人になってからで、とっかかりがありませんでした。こちらのプログラムは社会人で未経験からでも可能ということで、飛びつきました。

B:公式サイトで知りました。ゲーム制作の現場で求められる技術力を身につけられると考え、応募いたしました。

――課題内容とこれまでの感想を教えてください。

A:UE4上で炎や雷のエフェクト制作をしています。試されているのは本気度、身につくのが実力、そう感じています。

B:『スーパーマリオ64』を参考に、Unity上で基本アクションとカメラの実装を行いました。市販されているゲームを基に再現するため、アクション1つ1つがとても丁寧につくられており、課題をクリアできるだけのクオリティを満たすのが大変でしたが、それだけに勉強になりました。課題をクリアしたことで、ただプレイヤーが歩いたり走ったり、ジャンプするだけでなく、操作したときに面白い、気持ち良いと感じてもらえるようなプログラムが書けるようになったと思います。

――課題の難易度は自分に合っていますか?

A:はっきり言って無茶苦茶大変です(笑)。

B:適正だったと思います。

――オンラインでの授業ということで、メリットやデメリットは感じますか?

A:距離はもちろんですが、聞きたいことを聞きたいタイミングで聞けます。担当の方からも空き時間に返答をいただけます。非常にありがたいです。デメリットは表現方法が限られるため、わからないことを文字などで正確に伝えなければならないのですが、それが苦手で時々相手を混乱させてしまうときがあります。

B:自宅で好きな時間に課題の制作を行うことができたので、学校との両立ができて助かりました。

――ゲーム業界で将来どのようなキャリアを重ねていきたいと思いますか?

A:エフェクトはもちろん、エフェクトをつくる上でモデリングやアニメーションなどもできる方が良いと思っています。なのでそちらの方面にも力を伸ばしていけたらと考えています。

B:プログラマーとして、ゲームのプレイヤーの制御に関わる部分のプログラムを極めたいと思っています。

――その他、SGSについて感想などがあれば教えてください。

A:私はゼロからのスタートで、何もわからない状態ではじめました。自宅での講習では、通学がないぶん実感が湧きにくい部分はありますが、継続して勉強していけば必ず力になるので、興味がある方はぜひ参加していただければと思います。

B:課題の内容が3Dアクションゲームの開発が中心であるため、ある程度プログラムが書けて、自分でちょっとしたアクションゲームがつくれるけど、どうすればさらに良くなるのかがわからない人にオススメだと感じました。実際にプロとして活躍されている方に指導していただける点でも、非常に勉強になりました。やる気のある人にどんどんチャレンジしてほしいです。

企業主導の寺子屋形式は拡大するか?

以上、代表の松山氏をはじめ、SGSの関係者に幅広く話を聞くことができた。改めて感じたのは、SGSのような企業による寺子屋形式の人材育成が、現状の大学や専門学校による学びと、入社後の新人研修やOJTを補完する存在として、間違いなく求められているということだ。裏を返せば、教育機関で基礎力を身につけ、就職後に応用力や実践力を鍛えるという従来の直線的な人材育成では、限界があることを示している。次世代機を前に、技術の高度化がさらに進む中、対策は待ったなしだと言えるだろう。

特に日本の雇用環境では、正社員の解雇が良くも悪くも難しい。そのうえゲーム業界は「面白さという定量化できない価値を創り出すことを生業にする」、「技術の進化が産業を牽引するため、就業者の絶え間ない自己研鑽が求められる」という、ユニークな特性をもつ。そのため企業の採用が他業界よりも保守的にならざるを得ない。一方で学校側もビジネス面から、学生を「お客様」扱いしなければならず、教育内容も遅れがち......という松山氏の指摘も正鵠だろう。

こうした中、SGSのような寺子屋形式では、「企業の業務内容に即した指導ができる」、「各々の適性を見極め、可能性のある受講生だけを伸ばせる」、「異業種からの人材やクリエイター系以外の学生など、通常の就活ルートからこぼれた人材を呼び込める」メリットがある。講師役のクリエイターにとっても、知見の棚卸しになる、人に教えることで自分が学べる、などのメリットがあるだろう。後はどれだけ教育コストがかけられるかだが、そこは企業側が自社の判断で進めれば良い。

ゲーム業界は慢性的な人手不足だ(写真は東京ゲームショウ2019)

実際にCC2以外でも「寺子屋形式」をとる企業が現れた。受託開発と企業向けの人材紹介(正社員・契約社員・人材派遣)などを営むクリーク・アンド・リバー社の「クリエイティブアカデミー」だ。「3DCGモデラーコース」「3Dモーションデザイナークラス」「VFXアーティストクラス」「ポートフォリオブラッシュアップクラス(夜間のみ)」の4コースで、SGSと異なり週5日間、毎日通学して学べる。授業料などは完全無料で、プロによる3ヶ月間の講義がマンツーマンで受けられ、自分のペースで進めることもできる。

もっともSGSが終了後、自由な就職活動を認めているのに対して、クリエイティブアカデミーでは同社を通して就業することになる。ゲーム業界を人材面で支える強みが活かされたかたちだ(特に夜間の学生向けクラスでは大手ゲーム企業に新卒入社で送り出しており、内定率も高いという)。注意してほしいのは、SGSとクリエイティブアカデミーの双方で、優劣があるわけではないということ。ゲーム業界の志望者にとって、選択肢が増えることは良いことだからだ。むしろ既存の学校で、学生のスキルを十分引き上げられない点に問題があるとも言える。

そのうえで、今後もこうした企業主体の「寺子屋形式」は増加することと思われる。少子化の波で学生数が減少傾向にある一方、企業と学校のギャップがますます拡大していく現状を、誰かが埋めなければならないからだ。ゲーム業界でもっとも重要な資産が「人」である以上、企業がリスクを取って人材育成に乗り出すのも道理だろう。その上で企業と学校の横断的・複層的な人材教育のあり方を、今後も模索していくことが求められる。SGSはその興味深い一例と位置づけられるだろう。